死神さんは隣にいる。

歯車

64.高速連打

 巨躯の悪魔が、握りしめた拳を振るう。


 それだけで凄まじい質量攻撃となる一撃は、ギリギリ発動した劣化コピー……《ダーク・スローター》によって紙一重で僕たちの身体には当たらなかった。


 僕たちを全力で投げ飛ばして、その拳に直撃した劣化コピーはいとも容易く粉砕され、後には何も残らなかった。


 僕はその叩き潰される一瞬を見極め、隠蔽系のスキルを全て発動。


「姉さん、頑張ってね?」
「へ?」


 空中でひとまず完全に気配を消しきった僕は、反対にヘイトの集まった姉さんの腕をつかみ、身体を捻った。


「ちょっ、まっ――――」
「待てない」


 そのまま全力投下。投げた先には当然あの悪魔がいる。


 しかし、流石に姉さん。空中で態勢を整え、ナイフを構えて悪魔に突撃。勢いそのままに、手に持つナイフが悪魔の肩に深々と突き刺さった。


 しかし、深く刺さり過ぎたようで、肩に乗った姉さんは抜けなかったナイフを少し躊躇して、その刺さった傷に銃弾を撃ち込んだ。


 追撃とばかりに撃ち込まれた銃弾は悪魔の傷穴を広げ、姉さんは強引にナイフを引っ張り出した。そしてすぐさま退却。AGI特化は速度が違う。


 そして、空中から劣化コピーを使って衝撃を流させ、静かに着地した僕は、姉さんが飛び退く瞬間を狙って《ブラインド・ジャック》を発動。一瞬視界が閉じた時には、もう姉さんはそこにはいない。


 そして、姉さんから目を離した瞬間こそ、奴の眼に何もなくなる瞬間。


 僕は更なる混乱を招くために、あまり使ってこなかった《ライト・スモーク》を奴の顔面に叩き付けた。
咳き込む悪魔、その咳で飛んでしまうような小さな煙幕だが、その間にできることはたくさんある。それは、僕だけでなく、姉さんも同じだ。


 姉さんが拳銃を構え、アーツを発動した。


「『ペネトレート・エア』!」


 ――――放たれた銃弾は、悪魔の喉元にぶち当たった。


 ズガンッ! と轟音を立て、喉に刺さった銃弾は、その喉を抉りながら貫通――――はせず、その場に魔法陣を残した・・・・・・・


 次の瞬間、えずく悪魔の喉に発生した魔法陣から、風の槍が射出。そのまま首を貫通し、弾け飛んだ。


「ガッ、グッゥ……」


 たまらず首を抑え唸り声をあげる悪魔。そこに姉さんが連撃を仕掛けようとする。右手にナイフ、左手に拳銃を持ち、近接戦闘で畳みかける気のようだ。


 しかし、今までなされるがままに成っていた悪魔が、ついに動き出した。


 近づく姉さんを、驚くほどの速さで薙いだ。ギリギリ気づいた姉さんが飛び退くも、続いた悪魔のタックルが目の前に。


 これをまたもや紙一重で避けたが、避けた先には悪魔の拳。


 巨腕から放たれる暴力に、姉さんは咄嗟にナイフを振り上げた――――が。


「そんな簡単にやれると思うなよ?」
「ガッ!?」


 後ろに回り込んで、全力で膝裏を蹴り飛ばす。続いて左脛を『尖撃』付きの拳で抉り、右足裏に《タール・パニック》を使って強引に転倒させる。


 強制膝カックンからコケた悪魔の顔面に再度《ライト・スモーク》。その煙を払っている間に劣化コピーの腕を踏んで上へ、上空にて地面に向けて再度射出。


「『尖撃』!」


 そして、再度尖撃。僕の渾身の右ストレートが悪魔のどてっぱらに突き刺さる。ぐしゃっという音と共に悪魔の身体がくの字に折れ曲がった。


 そして、まだ終わらぬと追撃。呻く悪魔の首を踏みつけ、流れるように顎を回し蹴り。そろそろ起き上がるかというところで、再度劣化コピーによる射出。全力で後退した。


 その際薙ぎ払われた劣化コピーが派手に吹き飛ぶのを見計らい、再度隠蔽系スキル全開放。もう一度闇に隠れ、姉さんと交代する。


「《エアリアル・ジャベリン》! 『旋廉連牙』!」


 いつの間にやら魔法まで習得し、オールラウンダーとなった姉さんの魔法が炸裂した。先程のような風の槍が悪魔の背中に突き刺さったが、浅い。悪魔が姉さんの方を向いた。


 しかし、その時にはもうすでに、姉さんはそこにはいないのだ。


「ハァァァアアア!」
「ガァッ!?」


 激しい連打。ナイフが舞い、銃弾が飛ぶ。次々と巨躯の悪魔に傷をつけていく姉さん。滝のように激しい連撃を放ち、そのたびに姉さんの武器に付いたライトグリーンのエフェクトが強烈になっていく。


 そして、ついに最高速に達した姉さんが、光の軌跡だけを残して悪魔にインファイトを仕掛ける。


 緑色の光が鮮やかに線を引き、残光が閃く。嵐のように攻め続ける姉さんは、熾烈で、苛烈で、しかして幻想的で。まるで舞い踊るかのようで、非常に優雅だった。


 光が閃く度に、銃声が響く度に、そして時折放たれる風の魔法が散るたびに。緑色の光が鮮烈に、凄絶に、激しく煌めき、輝く。悪魔はそれに翻弄されていた。


 しかし、悪魔は、これで終わりではなかった。


「ガァァァアアアアアアアア!!」
「ッ!?」


 雄叫びを上げ、悪魔が動く。


 踏み込んだ瞬間、地面が陥没し、黒いオーラが悪魔の脚を包んだ。先程の隠蔽スキルからだろうか。そして発動したのは先ほどの、部位を一つ増やす・・・・・・・・魔法だろうか。空気が重くなった感じがして、空間が軋みを上げる。


 悪魔が笑う様に口を歪め、腕を構えた。その工程がひどくゆっくり見える。そして、次の瞬間、悪魔は全力で駆け出した――――と、思った時には、その腕は姉さんの身体へと伸びていた。


 あまりにも一瞬。あまりにも唐突。


 その圧倒的暴力は、虚を突いて放たれた。


 伸ばされた巨腕。


 弓を引くように放たれた剛撃――――


 ――――それを、放つ前から・・・・・、知っていた。


 僕は、すぐさま魔法を発動させる。


「《ダーク・スローター》!」


 そして、姉さんと悪魔の巨腕に挟まるように出現した劣化コピーに、伸びた拳を殴り返すように命じた。


 小柄な体躯の僕のコピーと、巨大で絶大な悪魔。比べるべくもなくサイズに差がある両者は、しかし真っ向からぶつかり合い、そして相殺された・・・・・


 巨大な鉄塊がぶつかり合ったような轟音を響かせて、その一撃は止まった。その隙に姉さんが全力後退し、僕は《ブラインド・ジャック》を使ってそれを支援。


 しかし、もうすでに劣化コピーは消え失せ、止められた怒りそのままに悪魔が姉さんへと突進を仕掛けていた。流石に行動が早い。だが、先ほどの実験・・で理解した。


 はっはー、こいつさては僕より筋肉STR足りてないな?


「なら、余裕だな」


 僕は、インベントリから装備を変更。素手から大鎌に持ち替える。


 手元に僕の身体を軽く超える巨大な鎌が出現。これを両手で持ち、肩に担ぐようにして構える。淡い光を発する『精霊樹の大鎌』の幻想的な刃が辺りを仄かに照らした。


 それから、魔法を連続で発動。粘着質な液体で邪魔したり、一瞬視界を閉ざして邪魔したり、咳き込む程度の煙幕で邪魔したり、劣化コピーに殴らせて邪魔したり……と、そうしている間にヘイトがこちらを向いた。




 と、同時に、こちらも準備が完了した。


 さぁ、楽しもうか。


「《フォールン・ブラックアウト》!」



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