死神さんは隣にいる。

歯車

61.流星の姉さん

「姉さん! そっち行った!」
「りょーかい!」


 僕が《カース・フェンス》を利用して誘導したオークが、姉さんの鮮やかなヘッドショットによって絶命する。


 パァンと心地いい音が鳴り響き、そして完全に静かになった。森の魔物の最後の一匹が、今崩れ落ち、ポリゴンとなって消失したからだ。


「おつかれ~」
「うん、お疲れ!」


 はてさて、僕がなぜ後衛に転じてまで、姉さんと一緒にパーティを組んで戦っているかといえば。


 皆さんは覚えておいでだろうか、数日、というほど空いてはいないが、前に僕が言った言葉を。そう、「レベル十五以上ならパーティ組んだげる」宣言のことである。


 このことを覚えていた姉さんが、PK騒動終結から二日後の夜、すなわちゴールデンウィーク四日目の夜であり昨日の夜、ようやくレベル十五まで至ったという旨を伝えてきたのだ。


 流ちゃんことりゅーちゃんはPK騒動の翌日、僕を死んだような目で見てきたが、あれは恐らく長い間レベリングに付き合わされたせいだろう。普通のレベリングならそこまで苦でもないが、何せあの・・姉さんのアバターのレベリングである。相当動き回ったに違いない。


 因みに、当の僕はというと、特に何をするでもなく、あてもなくログインしては、適当に狩りして、そのままログアウトという形を取っていた。余りにも何もしていなさ過ぎていたのである。


 あまりにも暇すぎていたが、狩りの効率は一人のが高いし、そもそも別にまだパーティを組む必要性を感じていない。故に、シオンを誘うことも難しく、割と無駄に過ごしていたのだ。ちなみに、暇であることを姉さんに言うと、


「女の子を誘うのにわざわざ理由を付けるの、やめなさい」


 と、何やら変な誤解をされてしまった。誤解は解けなかった。というより解こうという意思を感じなかった。畜生……。


 まあ、そんな話はさておき、これで大体察することはできたと思うが、この辺の敵は僕が近接戦闘を行うと何の感慨もなくワンパンでK.Oである。パーティプレイではなく個別に蹂躙である。一緒に遊べてはいるものの、これではほとんどソロに近い。


 よって、僕が上手くサポートに回ることでパーティプレイの体裁を保とうという魂胆だ。しかし、これは僕にとって不利益かと言われれば、そういうわけでもない。


 僕は今回のPK騒動で、魔法を全く使っていなかった。そのせいか、魔法スキルのレベルがいまいち上がっていないのだ。新しい魔法も覚えてみたいし、これを機に、一気にレベルを上げていこうというわけである。


 因みに、うっかり手が出てしまったりしないよう、大鎌はインベントリの中に封印してある。まあ手が出たら『拳術』が発動するし、むしろ無駄な気もするが、暇すぎて縛りプレイをしたくなってしまったから仕方がない。


 そして、僕たちはパーティを組んでそのままキーク森林へと向かい、それからずっとレベル上げをし続けている。しかし、やはり狩りをし過ぎたせいか、リスポンが遅い。狩り尽くしてしまったようだ。


「さて、これからどうする?」
「レイドボス戦、行けちゃったり?」
「レイドボス舐めんな」
「冗談よー。流石に二桁単位で挑むボスモンスターをなめてかかったりしないわ。まあ、そのせいで素性のバレたどこかの誰かさんとは違って、ね?」
「うっ」


 う、うるさい。僕だって別にあそこまでしようと考えていたわけではないし。偵察のつもりだったんだし。


「でも、狩り尽くしちゃったのはちょっと暇ね。お姉ちゃん、シキメが私と同じ速度で付いてこれるって知って張り切っちゃった」
「……ははっ」


 僕の口から、知らず知らずのうちに乾いた笑い声が漏れた。後にため息へと変わったが。


 その理由はというと、僕が劣化コピー魔法《ダーク・スローター》を使っての射出システムを使うところを見た姉さんが、全スキルを開放して狩りにかかったのである。


 僕の劣化コピーを使ったやり方は微調整が難しく、また基本的にまっすぐにしか飛べないため、余り融通は利かないのだが、それでも自分の速度についていける存在を知った姉さんのはしゃぎようはひどかった。


 全力の劣化コピーシステムをフル稼働させて、ぎりぎりついていけなくもない(たまに見失う)というレベルで、高速機動になれた姉さんは速い。段々と視認での発見が難しくなってきているのだ。


 そのため、姉さんが次にどこへ行こうとするのか、その先を読んで劣化コピーシステムを使い続けたのだ。しかし、それでも姉さんは速かった。流石純機動特化は格が違う。


 その速度に強引についていった僕の気苦労を、どうか察してほしい。


「さあ、これからどうしましょうか」
「そうだな、今何レべ?」
「んーと、ちょっと待ってて……」


 姉さんがウィンドウを操作し、ステータスの項目を確認すると、にんまりと口の端を釣り上げた。


「やったわ、シキメ。これで私も初、職業進化よ!」
「おぉー! おめでとう!」


 ついに姉さんも、オリジナルキャラへの第一歩を踏み出したということか。これからどんどん自分専用に特化していくから、もっと楽しくなるよ。


「それで、肝心の職業は? 前は確か銃士だったよね?」
「そうそう、それで、なんか前の原形をとどめていない進化を果たしているんだけど」
「?」


 いったいどういうことだろうか。銃士からいきなりパン屋にでも鞍替えしたとでもいうのだろうか。いやいや、そんな馬鹿な。


 僕が姉さんにステータスの閲覧を許可してもらうよう頼むと、姉さんは快く了解してくれた。そこには、こう表示されていた。


――――――――――――――――――――――――――――――
セイ
レベル 20
職業  疾走者
《ステータス》
HP   300
MP   180
SP   60
STR  130
VIT  30
AGI  430
INT  120
MND  50
DEX  110
STM  50
LUK  10
――――――――――――――――――――――――――――――


 ……うん、AGIがおかしいはずなんだよね。僕らと比較してそんなとがってないって考える方がおかしいんだよね。


 それはさておき、やはり随分とAGI特化型の構成である。しかし、ちゃんとSTRにもDEXにも振られているのでだいぶバランスのいい構成ではないかと思う。


 防御も捨てていくのは悪いことではないと思うし、それに伴ってMNDまで下げるのはやり過ぎな気もするが、それでもこの構成はなかなか堅実的で、大変すばらしい、正しくお手本とすべきステータスである。
ただ、姉さんのプレイスタイルから見るに、こんなにHPは要らないのではないだろうか? 回避特化である以上HPなどあってもなくても変わらないはずだし、事実ダメージを受けているようには見えなかった。なのに何でこんなに高いんだ……?


 すると、姉さんは「気づいたか」とでも言う様にニヤリと口元をにやけさせ、ちょいちょいと別のウィンドウを見るように命じた。なんだい何だい。


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血風縮地
  自身のHPを削って、自身のAGIを一時的に増加させる。
  削る値は自由に決められる。ただしHPが1%以下の時は使えない。
  スキルレベルの上昇に伴い、増加量が上がる。
  レベル1  増加量 削ったHP×2
  レベル5  増加量 削ったHP×4
  レベル9  増加量 削ったHP×6
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 な、なんだいこりゃ!?



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