死神さんは隣にいる。

歯車

54.惨憺たる処刑②

「『ダブル・ブロック』! ごはぁーっ!」
「『イリュージョン・スラッシュ』! ぐはぁーっ!」
「おお、雑魚PK、しんでしまうとはなさけなーい!」
「コノヤロー!」


 大盾を構え、その後ろからどこか輪郭がはっきりしなくなった剣士が出てきたので、問答無用で真正面から盾ごと、『サイレント・チェリッシュ』でぶった切ってやった。パカンと割れた盾の後ろで、首が刎ね飛んだ二人が並んで崩れ落ちた。


「『スーパー・ストーム』!」
「『スペル・フレアピラー』!」
「『ブラッド・ショット』!」
「『ディストリクト・フォース』!」


 次いで連続の魔法が僕を襲うが、一つ目は範囲魔法なので破壊。二つ目は足元に魔法陣が来るので破壊。三つめは見て避けられるし、最後のはよくわからないので使用者ごと殺した。魔法名だけだとよくわからないのとかあるからなぁ。


 そして、劣化コピー射出システムを使って吹っ飛び、魔法使いたちのところで着地……はせずに、劣化コピーによって足首をつかませ、グルンッとその場で回転。大鎌も一緒に振るわれ、周囲の雑魚の首を刎ねた。


 そしてそのまま更に投げ飛ばされ、吹っ飛ぶ先には剣士と槍兵、重戦士と拳士に弓兵最後に魔法使いと随分バランスの取れたパーティが。重戦士が迷わず前に出て手にした大盾を構え、どっしりと踏ん張る。


 すかさず『ブラッディ・ショック』を発動。魔法属性の乗った一撃が大盾に突き刺さる。轟音の後、砕け散る大盾。大鎌を構えなおし、重戦士の鎧に引っ掛け、自身は地面に着地。重戦士は腰あたりから両断された。


「よくもっ! 『シャイン・スラスト』!」
「『疾駆』『突撃体勢』『エアリアル・ペネトレイト』!」


 近場の剣士が即座にアーツを発動し、少し遠かった槍兵が一気に距離を詰めてきた。剣士のアーツを軽く往なして地面へ、槍兵の突きは大鎌に引っ掛けて得物ごと取り上げる。そしてその槍を遠くに離れた弓兵へ投擲し、剣士を回転斬りで仕留める。残った拳士は大鎌でさっくり刎ね、次へ。


「《ヘビーロック・バースト》!」
「『トリプルトリック』『スローイング・アップ』!」
「……『サイレント・チェリッシュ』《カース・フェンス》」


 巨大な岩塊がぶち込まれてきたので、無音の斬撃によって両断。その大岩に隠れていたナイフを《カース・フェンス》で弾き、二人の首を刎ねにかかった。


 しかし、上の方から嫌な予感がし、振り返る間もなく迎撃。《ブラッディ・ショック》を上に放つと、いつの間に発動していたのか、頭上の炎球を叩き切っていた。それを意識に留めることもせず、止まらず彼らの方へ走り抜ける。


「《グロウアップ・トレント》!」
サモン:ロックウルフ! 『獣性狂歌』!」


 すると、彼らを守るように、大きめの木が立ちふさがり、さらにその後ろから硬そうな毛並みの狼が迫ってきた。恐らく最後のスキルで強化しているのだろう、黒いオーラが漂っている。しかし、いちいち気にしていると一斉に襲い掛かられてやられる。


 止まることはできない。動き続けるしかない。


 トレントを一刀の元両断し、続く黒狼にスキル・・・拳術・・のアーツ・・・・を発動する。


「『尖撃』!」
「グルァッ!?」


 ドリルで掘るかのように黒狼の顔面を貫通した僕の手刀。そのまま黒狼を振り払い、サモナーらしきPKにぶつけ、斬撃を飛ばして首を刎ねる。そして射出。


「うぉっ、こっちきた!」
「マジかよ!」


 悲鳴を上げるPK。死神さんがやってきたぞ!


 すかさず大鎌を構え、剣士らしい風貌の男へ突撃。男は慣れた様子で受け流そうとしたが、僕がそれを許さない。受け流しきれないほどの一撃でもって捻じ伏せる。圧潰した相棒を見て、警戒心を上げた隣の魔法使いらしきPKは全力で後退し、魔法を放った。


「《ライト・カーテン》《ルクス・ピアス・レイン》!」


 一つ目は結界、もう一つは範囲魔法。空中に魔法陣が生まれ、そこから夥しい数の光線が迫る。


 それをみて、僕は《カース・フェンス》を発動。一瞬の停滞の後、柵は破られるが、その一瞬こそ、僕の欲しかった溜めの時間だ。


「『ドレッド・デストロイヤー』!」


 僕は大鎌を振り下ろした。


 肥大化した大鎌は容易く範囲魔法をブチ砕き、振り下ろした勢いで目の前の魔法使いを両断。勢いあまって少し奥のパーティを全滅させた。レイドボスのHPバーを丸々一本消し飛ばして尚進化した威力は伊達ではない。


「『アイアン・クラッシャー』!」「『ハイパー・スマッシュ』!」
「……『クライシス・スラッシュ』!」


 すると、今度は野太い声と共に、大男二人組がハンマーと棍棒を振り下ろしていた。それを一泊遅れて発動したアーツで弾き返し、ちゃっかりSTRを吸収しつつ、捻じ込むように『尖撃』を二連続。邪魔なので蹴り飛ばして目くらましに。


 大男の死体に沿うように走り、死体がぶつかったパーティに奇襲をかける。火力が上がっているので『ドレッド・デストロイヤー』を選択。吹き飛ぶPK、圧潰するPK等、色々だ。


 ひと段落、というのも変だが、猛攻がそれで一時的に止んだので、僕は大鎌の構えを解き、警戒は崩さないながらも辺りを見渡した。


 皆、随分とボロボロだ。攻撃を受けた者は一人残らずキルされているし、そうでない者も余波を受けてか、装備が所々壊れていたり、傷ついている。ドレッド系は当たらなくても余波がデカいから、それに掠ったか、もしくはそれで吹き飛んだ岩塊にぶち当たったかは知らないが、傷を負っていない者はほとんどいない。後衛ですらそんなありさまで、前衛の被害は圧倒的だ。


 にもかかわらず、リーダー的存在はいまだに撤退を仄めかしすらしない。このままいたずらに味方を、戦力を減らして、一体全体何が楽しいというのか。それとも、その程度すら頭の回らない単なるバカか。後者ならば、付き合わされる相手さんが哀れだ。


 ああ、もしかして、もうほぼほぼ諦めて、自棄気味に特攻を仕掛けているだけなのだろうか。それなら残念だ。つまらん。


 僕は、何やら呆然としている、敵陣のリーダーらしき、黒装束に身を隠した、これまた真っ黒な長剣と短剣を両手に構える双剣士の元へ歩み寄り、嘲笑してやった。


「真正面から、馬鹿正直に突っ込んでやって、この程度か。せっかく手加減を重ねて、お前らに合わせてやっているというのに」
「ぐ……舐めやがって……」
「舐めているのはお前らの方じゃない? もともとこっちは仕方なく力を制限しているのに、それに甘んじて、戦っていれば・・・・・・いつか勝てる・・・・・・などと思い込んで、無謀な挑戦を繰り返し、アホみたいに死んで、馬鹿みたいに失敗して、下らないほどに殺されて……目も当てられんな」
「…………」
「それ以前に、数集めれば物量で勝てる? それは連携、統率が取れていればの話だ。わかるか? 指揮官がお前だから、誰もが足を引っ張り合って、死んだ。少しは考えろよ。リスクとリターンと、最低限の戦略を」
「っ……」


 いくらなんでも、今回は無謀すぎる。狙撃兵の配置も安直で、戦い方は雑、乱暴、適当と、止めには無能なリーダー。論外だ。こんな雑魚、数もいなけりゃ強くもない、ストレス発散にもならない。シオンのところの真っ向勝負の方が楽しそうだったな。


(魔法職からの一斉攻撃を容易に流し、パーティ戦をいとも簡単にこなし、そこからの連携を真正面から突破? 死角からの狙撃に対応されて、筋力特化の重戦士二人の一撃を軽々弾き返し、あまつさえそれを利用して殲滅だと? ……ふざけるな! なんだそれは!)
「……怪物、いや、死神め。地獄に落ちるがいい」
「はっ、なんだその下らない遺言は。地獄に落ちるのはお前らの方だ。地獄というのは罪人が落ちるのだろう? であれば、刃向かったお前らこそ、反逆の罪で落ちるべきだろう」


 言うことは言った。なら、もう終わりだ。話すことはない。


 僕は大鎌を再度構え、今度こそ止まることなく、殲滅を、蹂躙を、処刑を再開した。統率の執れていない連中の相手は極めて容易く、最早何を語るまでもなく、屍の山が築かれた。


 援軍も来た。残さず余さず殺し尽くして、徹底的に剥いでやったけど。骨があるやつもいないわけではなかったが、全体の一割にも満たないほどに、彼らは弱かった。どうしようもなく、どうするわけもなく、彼らは弱者だった。


 嘆きと叫びが木霊した荒野には、いつしか断末魔が間断なく響き渡り、いつしかそれも静まり返って、完全に無音となった。


 それは僕が、最後に残った剣士の首を刎ねた時だった。


「ふう。さて、こんなものかな」
「お、鬼……悪魔……」
「こ、これが、覇王様……? 強すぎ、でしょ……」
「ぜぇ、ぜぇ……なんで、疲れてないの……?」
「くっそ……はぁはぁ、ありえ、ねぇ……」


 失敬な。僕をそんな低俗な連中と一緒にするんじゃない。


 因みに、槍兵部隊は割と頑張っていたらしい。キルスコアは平均十一だそうで、援軍を含めた実に二割・・もの敵兵を倒している。残りの八割? 僕だよ文句あるか。


 さて、大分時間も経ってきて、多分そろそろあっちの方も、そろそろ本陣が戻ってくる頃合いだと思うけれど。流石に倒したってことはないだろうし。となれば、合流をすべきかね。


 ――――なんて、安易にそう考えていた、その時だった。


 ――――僕の背中を、悪寒が走った。


「シオンの馬鹿ッ!」
「え?」
「ちょ、覇王様!?」
「《ダーク・スローター》!」


 ああああああ、どうして、どうして。


 僕の方は、奇襲班だし、槍兵部隊は上位陣から選出された者達だから、僕が出しゃばっても問題はなかった。それを見越して、遠慮なくやれるからとこっちに来たわけだし、僕だって自分のやる気を制御できるか不安だったからシオンに任せたんだ。


 シオンは自制が利くし、多少本気を出しても、僕のような殲滅じゃなくて、指揮統率という形で暴れると思っていたから。特に自尊心が高いというわけでもないし、挑発に乗って暴れるということもない。とても利口だから、あっちに行かせたのに。


 なのに、なんで、なんで。


 あっちの荒野は、あんなにも黒い・・



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