死神さんは隣にいる。

歯車

49.残酷な女王

「くっそ、まだ出てきやがるのか!?」
「どんだけ湧いてくりゃ気が済む!?」
「まだ、まだ終わらないのか!?」
「なんだよ、これ、なんなんだよぉっ!?」


 戦場は混乱真っただ中。転げまわるPK達は随分と滑稽で、それに群がる新規勢の必死さときたら。まるで死ぬ直前のカメムシに群がるアリのようで、同じ人間とは思えませんね。こんなくだらないことにそう必死になるなんて、愚かしいことこの上ない。こんなことをしている暇があるなら、自身を研鑽すべきです。


 まだ開戦してたったの数分だというのに、まだ私の霊たちを相手に奮闘しているようで、プレイヤーに気が回っていないご様子。いや、統率が取れていないのでしょう。明らかにチームプレイとは無縁の動きだ。


 おっと。


「がっ、こっのぉ!」
「はッはァ! その程度か!」


 ……どうやら、程度の低い争いを考慮していなかったようです。このままでは、あの戦闘中の二人が横の二人組新規勢とぶつかって混乱を招きかねませんね。そうなればそのまま前の四人パーティ、次に左の五人パーティと続けて面倒な連鎖を呼びそうです。それは困る。実に困る。


 故に、増え続けて予備戦力として手元に置いていた数体の霊を向かわせます。前からぶつけては味方の混乱をも招きかねないので、地面から。ついでに前方の上位プレイヤー陣の加勢をしていたG隊を呼び戻し、O、P、Q隊の中から数体をその補助に回します。


 ああ、前に出れないのがもどかしい。しかし、前に出てはここで周囲を補助している意味がない。あくまでこれは彼らの戦場・・・・・。本来交わることの無かった部外者わたしは活躍すべきではない。するのならば活躍するのではなく、活躍させなくては・・・・・・


 二匹の霊が悍ましい口を大きく、顎など無いかのように開き、低レベルな雑魚を飲み込まんと前進。


「うおっ!? こいつは、まさか【怪物ジ・モンスター】か!?」
「なに!? ってことは、まさかあの覇王様が味方してんのか!?」
「おいおい嘘だろ!? あの人たちは興味もないんじゃないのかよ!?」


 ……モンスター、などと呼ばれて、喜ぶ女性がいると、本当にお思いなのでしょうか。不愉快、実に不愉快です。許しがたい。


 嗚呼、これは流石に看過できません。前線には出ませんが、あくまで邪魔者の排除。敵ですらないムシケラ風情にキルスコアも何もありません。


「集え」


 一言。二十匹、ですか。まあ十分でしょう。これだけあれば簡単に片付きます。


 まずは、拘束。


「『侵食』」
「うおっ? あ、あしがっ!?」
「なんだよ、離せコラッ!」
「クソッタレ! 何だってんだ!」


 もうお分かりかと思いますが、霊を用いて領土を広げ自由に操るのが『侵食』。地面を黒く染め、足枷のように彼らの足を固定。がっちりと固められた黒土塊の足枷は、今はまだ、あなた方が私と同じレベルなら容易に壊せる程度の物です。無駄なことをするからそうなる。未熟者。


 次に、粉砕。


「『侵食』。……『壊絶・砲』、三連!!」


 黒土塊の長剣を生み出し、それを破壊しながら三連撃。


 『壊絶・砲』は装備している武器の耐久力を完全に消費して、一撃で塵にする代わりに、その武器の耐久力分のダメージと範囲を与えるもの。今はまだ数メートル範囲が限界ですが、前は狙撃のようなことをやったりもしましたね。


 ともあれ、これは長剣術のアーツです。故に長剣でしか行えない。そこが残念といえば残念ですね。盾ならばもっと効率的にできたでしょうに。ああ、とても残念です。


 しかし、今ならまだ、この程度でも凄まじい威力になるでしょう。所詮、相手はあの拘束すら解けなかったのですから。


 ああ、そういえば、陛下はそんなものなくとも斬撃を飛ばせましたね。もっとも、あれはそんな、脳筋思考で再現できるほど、現実味のあるもの・・・・・・・・じゃないのですが・・・・・・・・……。いえ、このことはきっと、陛下が魔法でも使えば・・・・・・・お分かりになる・・・・・・・ことでしょうけど……。


 予想通り、一瞬で塵となる彼ら。ああ、なるほど。「そっちの方が面白い」、確かにストレス発散には持ってこいでしょうね。さらに言えば、身バレのせいで大分アレ・・だったでしょうし。


 さて、そろそろ私情を挟むのも止めることにしましょう。あの異名は不愉快なれど、今この場には関係なし。ならば今くらいはそう呼ぶことを許して差し上げましょう。


 先程から、霊との戦闘で疲弊し、こっちに逃げてくる・・・・・雑魚たちを、新規勢を誘導して引き合わせ、横殴りに奇襲させて、と。おっと、そろそろ時間・・ですね。次はあちらです。行っておいで。


 霊たちをあっちこっちに遣って、戦況をコントロール。とはいえ、ここまで馬鹿が掌で踊ってくれることもないでしょう。未熟で、追い詰めやすい新規勢、それを喜んで追いかけてくれるウサギPKたち。そしてさらにそれを叩き潰せるこちら側の戦力。


 良い。凄く良い。これはもう踊らせるためにあるようなものでしょう。ほら、また、またまた、引っかかる阿呆がでましたよ。


「オオラァ! 死ねヤァ!」
「う、うわぁぁぁぁあああああ! ……ってあれ?」
「あ?……な、なんだと!?」


 先程からの様子を見ていなかったのでしょうか? 剣先からやがて柄まで、ボロボロと崩れ去る装備を見て、呆然とするPK。踊る阿呆と見る阿呆、同じ阿呆なら踊らな損損という言葉がありましたが、しかして踊らされる阿呆にはなりたくないものです。とりわけ、あんな感じの阿呆には。


 そのまま霊たちに突撃させてあの阿呆は終了。やはり無能は最後まで無能のままですね。


 すると、つい先ほどまで狙撃を行おうとして霊に食べられていた狙撃班ともいうべき者たちが、恐怖を湛えた目でこちらを見ています。あらあら。そんなに怯えて、一体どうしたというのでしょうか?


 あの者たちは割ときっちり仕事をしていましたね。数秒に一度は狙撃の場所を変える、矢は一本外しても攪乱用にもう一本持ち、魔法の場合は即座に発動できる小規模の魔法に留め、実際の処理は別の連中にやってもらう、など。


 しかし、応用が足りていませんね。この魔法を撃っても霊に阻まれる環境において、小規模魔法の連打はMPの無駄です。矢ならば貫通する可能性はあったかもしれませんが、もう少しレベルを上げてから出直すべきですね。次があったら、ですが。


「なんで、なんで死角からの一撃すら防がれる……?」
「霊の視線にも気を付けて発動したのに、どうやって……?」
「速度はリアルの銃弾とそう変わらないはずなのに、なんで反応した……?」
「は、ははは、こんなのありえねえ……」


 まあ、この程度で折れるなら、PKなどせずさっさと普通のプレイスタイルに戻った方がいいですね。それだけ律義に基本ができるのならば、ちゃんと自己を研鑽すべきです。PK、それも数に頼り、楽をしようなど愚の骨頂。無為、無駄、不要極まりない悪性です。


「お前さえ仕留めればァッ!」


 ああ、このうるさい者は決して不意を突かれたわけではありません。私は陛下のクランのナンバーツー。こんな下らない輩に後れを取るほど落ちぶれてはいません。ここまで来させたのは愚か者・・・の排除です。


「なっ、まだっ!?」
「クソッタレ!」


 こんな戦況に在って尚、新規勢とのんびり駄弁っているとはいい度胸ですね。怠けていたいなら仕事を早めに終わらせられるように負担を多くしてあげましょう。ほら、これで五人目ですよ? まだたったの五人です。それくらい受け止められないなんて、それでも男なんですか?


 あの二人組もいつまでもつのでしょうか。まあよくて二分、最悪三十秒も持たないかもしれませんね。五秒に一人追加してますし。まあ、死ねば死ぬほど彼らの手柄が減って後始末が楽になるので、特に何も思いはしませんが。


 おっと、脅されていた新規勢がこちらを見ていますね。あの口の動かし方は……「ありがとう」、ですかね。まあ、別にお礼されるようなことは何もしておりませんが、受け取っておきましょう。


 あら、サレッジさん、随分と張り切っていますね。彼だけで数十人を倒しています。ただ、今彼に張り切られるとPKそっち寄りのスキルになってしまいますし、援軍を出しましょうか。E班、前へ……おっと?


 あれは、フォーリンさん? 先程まで別の敵を相手にしていたはずですが。まあ、予想の範囲内・・・・・・です。ふふっ、意中の男は助けてあげたいものですものね。あら、「気を付けろ」だなんて、随分と気を使ってあげてるのですね、とても興味深いです。


 フォーリンさんが抜けてしまった穴を霊たちでカバー。最早数十体の霊からなる襲撃隊が八、防衛隊が八、新規組の補助を担当する補助隊が八、保険用の部隊が二の、合計二十六構成で形成した霊隊はとてもよく働いてくれています。割と入れ替わったりするので元の班は何処なのかは覚えていませんが、襲撃隊以上に防衛隊を優先して指揮し、補助隊はある程度霊の自律性に任せています。


 戦況把握はある程度計算で何とかなりますし、状況的にまあ、悪くはないんじゃないでしょうか。面倒な敵もまだ出てきておりませんし、出てきても対処は簡単ですし。あまり考えることもありませんね。


 私自身のMPも、うん。まだまだ余裕・・・・・・ですね。


「『バレット・フレア』!」
「『剣影・羅刹』」


 相手さんが小規模の炎魔法を大量に放り込んできたので、アーツでお返し。効果はまあ、剣を振るう速度の向上といったところでしょうか。ただ、その場の霊の数で効果が向上したりするので、魔法使いならざる速度になっていますが。


 このゲームの炎魔法は炎の熱に触れる前に切ればたいてい消失します。ただ、そうでないもの、とりわけ爆発するものはどうしたって触れた時点でダメージを負うのであまり進められるものではありません。しかし、私はあまりこの場を動けないので、迎撃することが一番良いのです。霊に迎撃させてもよかったのですが、少しは自分でやらないと、鈍りますから。


 ただ、やられっぱなしは性に合いません。ですので、霊を使ってちょちょいっと誘導。はいこっちきてー。ほら、そこにいる新規勢使って誘き出して。ああ、そうそれ。そいつをこう、こんな感じに。


 っていう感じでPKを誘き出し、そのPKを霊に襲わせて、こっちの方に来てもらいました。さて、どうですか? いともたやすく誘いに乗って、死が確定した気分は?


「ひ、ひぃっ、た、たすけて、助げでぐだざい!!」
「汚いです。来るな」


 『壊絶・砲』を発動。すさまじい威力と共に、黒土塊の長剣が弾ける。莫大なエネルギーとともに、PKごと辺りを塵と変え、砕け散る。ふぅ、すっきり。


 跡形もない、というのは、とても気持ちがいい。少なくとも、ごちゃごちゃしたこの戦闘風景よりはマシです。今すぐにでもこの荒野全体のプレイヤーを殲滅したいところですが、それは流石に秩序も何もないのでやめることにいたします。


 さて、まあもうそろそろ戦闘風景の描写にも飽きてきたでしょう。少なくとも一方的な蹂躙には飽きてきた頃合いでしょう。そろそろ来ます・・・ので、どうかもうしばし、お付き合いくださいませ。


 って、あら?


「まだ、まだ出てくるっていうのか。その霊共は。どれほどのMPがあるというのだ……!」
「嘘だ、こんな長時間、あれほどの使い魔を量産し続けるなんて……」
「だって、こんな、こんなにも、おかしいだろっ!?」
「ははっ、これで何度目だ……まだ空が見えねえ」


 ああ、私としたことが、まだはっきりと私自身のステータスはお見せしておりませんでしたね。
 こちらが私の現在のステータスです。
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シオン
レベル 22
職業  剣霊術士
《ステータス》
HP   50(-90%)
MP   1235(+200)
SP   0
STR  10(+500)
VIT  10(-90%)
AGI  10(+500)
INT  100
MND  80
DEX  10
STM  50
LUK  10
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スキル/魔法
  呪法強化   レベル16
  長剣術    レベル18
  死霊術    レベル16
  侵食     レベル21
  黒金冥府   レベル3
  霊操共感   レベル10
  統制     レベル6
  極限魔力回復 レベル5
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 ……と、まあ、こんな感じの極端なものですが、要は使いようですよね。私的には結構気に入っているのですが。



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