死神さんは隣にいる。

歯車

48.茶番は始まり、終わっていく

 そうはいったものの、まずはどうなることがこの状況をクリアするのにつながるのかを考えるとしよう。


 まず、この状況について。新規プレイヤーが軒並みあっち、つまりPKの方へ行ってしまい、ゲームの進行を妨げる要因となってしまった。懸念事項は今後のモンスターを相手にするときにかなり支障が出てしまうこととこちら側の新規勢をカモにベータ勢や現時点上位勢が圧力をかけること、PK共の数が多くて囲まれる危険性があること、報酬の分配、対応を間違えればゲーム全体のプレイヤー数が落ち込むこと。


 それらを懸念事項、すなわち解決すべき問題として据えて、それについて考えていくとしよう。


 まず一つ目、モンスターを相手にするときに支障がという問題だが、これについては今から方向を変えれば何とかなる。確かに色々時間はかかるが、方向性自体は何とか修正できる段階にはある。つまり、早期解決がクリア条件。


 そして二つ目、こちら側の問題。つまり少ない新規勢に対し、それなりにいる上位陣が圧力をかけ、略奪行為や悪質なアイテムトレード、その他諸々の便宜を図らせること。これは、まあ、僕たちが徹底的に狙うと、シオンが審判・・で是としたことで、僕たちが見張っていると宣言できたし、問題はないだろう。つまり、なにかすればその場だけでなく、今後潰し続けると確定した。


 三つ目、これこそが一番面倒だが、数の問題。いくら僕とシオンがいるからとはいえ、そこだけ守ればいいという問題ではない。確かに僕もシオンも殲滅戦は得意だが、防衛線は数がある方が有利で、こちらには新規勢という守るべき対象がいる。これについては案があるのでさて置く。


 四つ目、報酬の分配。これも案があるのでまた後程。


 五つ目、知ったこっちゃねえ(笑)。


 というわけで、現時点で問題なのは三つ目と四つ目、解決してないだけなのは一つ目って感じになる。これに加え、サレッジのわがままの新規勢にはできるだけリターンを、というリクエストを加え、解決すべきは四つだ。


 そして、一つ目、数の問題についての答えは、サレッジのリクエストにもつながる。


 故に、一番初めに解決すべき事柄だ。


「というわけで、サレッジ、見張りと護衛はシオンがやってくれるから、黄金林檎は全員、そっちの護衛の手助けをしろ」
「え、報酬は」
「文句があるなら一人残らずリスキルするけど?」
「すんませんやらせていただきます」


 ってな具合で、新規勢のサポート及び護衛、つまるところの建前はクリア。新規勢に花を持たせたい、なんて我儘はとりあえずこれでクリアだ。黄金林檎とシオンがそっちに行くなら、多分大丈夫だろう。本音を言うなら僕も行きたいが、それは戦力過多である。


 次に、殲滅戦のメンバー。とはいえ、これは、「みんなで・たおせば・おわり」という小学生でもすぐわかる適当理論で何とかなる。所詮は新規の数が増えたところで、上位陣には及ばない。ぶっちゃけ有象無象が相手ならいるもいないも同等だ。


 故に、作戦などなく、ただ潰しにかかる。拠点の場所はシオンが知っていた。何故知っている。聞けば、


「念のためです」


 だそうです。多分知り合いでも紛れ込ませたのでしょう。ぼくわかんない。


 そして、その他数々の情報(ほぼシオン持ち)から、それっぽい作戦を作っていく。どこから攻めるか、どうやって攻めるか、どう動くべきか。そんなことを話し合っているのだが、正直どこからどう攻めてどう動こうが興味もない僕はその会議を右から左へ聞き流していた。


 そうして、ある程度の作戦が出来上がったらしく、次の指示をとこちらを向くサレッジ。てめえ自分で考えろや。


 主導権を握っているのはこちらなのでそうとも言えず、僕は口を開く。


「報酬について。これは、どう頑張っても活躍する上位陣が多くもらえてしまうだろうけど、その差をできるだけ減らしたいのがサレッジだよね?」
「ああ」
「なら、話は簡単だ。上位陣は新規プレイヤーを勧誘する資格の代わりに、全報酬を新規勢に明け渡してもらう。クラン設立ができるようになった時、唾を付けておく権利の代わりに、今は新規勢のために大盤振る舞いしてもらおうか」


 その声を聴いた上位陣が口元を引き攣らせる。が、僕は気にしない。


 そもそも、僕を呼び出し、シオンの審判に是とされたのは、あくまでサレッジだ。故に僕たちはサレッジをこそ優先するが、来てすらいないふんぞり返っている上位陣なんてどうでもいい。何なら全員を参加させた後、上位陣の首を残らず刈り取って装備を新規勢に流布しても構わない。


「新規、と呼べるものたちの基準はサレッジとシオンに任せる。他の者たちは関わるな。上位陣の基準は、とりあえず現時点で、新規じゃない者たちだけど、ソロプレイヤーもいるだろうから、そっちには別途報酬を用意しよう。それで構わない?」
「そ、そんなの横暴」
「知るか。悪いのはきっちり新規勢を縫い留めなかった貴様らだし、そもそも今回の報酬は新規勢の懐から出るようなものだ。盗られたアイテムや金を取り返すようなものだし。それで? 盗られてもいないのに返せ、なんてのはおかしいよね?」
「だったら俺たちは参加なんてしなくても」
「いいよ? ただ、その場合新規勢はだれも君たちのクランに入らないよ? 今いるプレイヤーだけで何とかなる、と思ってるなら、参加しなくても構わないよ。このゲームの内容を理解している奴なら、そんな愚行はしないがね」


 と、そんな感じで、結構多くの上位プレイヤーが去ったが、まあ別に気にしない。正直、戦いじゃなくて殲滅なら、味方は少なくても十分だし、今回負けるような奴は、それこそ新規勢か、戦闘職じゃないか、馬鹿しかありえない。


 そりゃ向こうにも強い、幹部とかボスとかはいるだろうけど、元黄金林檎はみんなこっちにいるらしいし、僕のクランにいたやつらは声をかければ集合する。なら、そこまで面倒な奴はいないだろう。


 ……さて。


 状況は、なんともうれしいことに、「潰せば終わり」で、「後処理は任せる」ことが出来て、その上「自由に暴れてもいい」らしい。


 まさに据え膳。これはつまり、そういうわけである。


「……ストレス、発散。いいね」
「? なにかいいましたか?」
「いいや、なんでも?」


 それでは、終わらせるとしようか。この下らない茶番と、素晴らしい喜劇を。


………………………………………………


 さて、皆様は我が主、陛下たりしシキメ様のご活躍を心待ちにしていることでございましょうが、お楽しみは取っておくのが私、シオンなのでございます。故に、もう少しの間、私たちにお付き合いくださいませ。


 ただいま、私たちが居りますのは、PK達の拠点のある東のフォルト荒野。そのとある小山にて、彼らはアジトともいうべき場所を構築したらしいのですが、まあ、囲むのに最適、と思っていただければ。


 そして、その小山の正面に構えているのが私たち、新規・上位混成隊であり、陛下は私たちから見て左の、警備が手薄な方へ、奇襲部隊として参加しております。私は確かに防衛でも行けますが、殲滅の方が向いています。にもかかわらず陛下がご下命なさったのは待機と防衛、そしてサポートでした。陛下曰く、そっちの方が楽しいから、らしいです。私は暇なのですがね。


 私たちは、正面突破を目指しつつ、正攻法での攻略を目的とした部隊です。故に、作戦が分かりやすく、危険を大量に孕んでいます。故に、新規勢と一緒くたに上位陣が配置され、また私がここに置かれたのでしょう。まあ、別に構わないのですが。


 そして、私はちょうど中央、何かあったらすぐに駆け付けることが可能な場所にて待機をしています。作戦開始の合図が出されればすぐにでも目の前の小山に向けて走り出すことでしょう。


 しかし、いくら何でもこんな大軍団で押し寄せたら向こう側だってとっくに気づいているのでしょう。既に敵側も配置についているはず。であれば、早くに行動するに越したことはないでしょうに。


 今この場には新規勢、上位陣合わせ、大体千人ほどのプレイヤーが集結しています。昔のゲームだと百人ほどが限界だったこともあったらしいのですが、最新の技術というのは本当に恐ろしいものです。それはさておき、相手さんの人数は恐らく数万。一つのアジトにこれほどの人数を抱え込むのはすさまじいとは思いますが、正直脅威にもなりえませんね。数を頼りにすることなど個としてはあまりに愚か。そしてゲームというのは、往々にして協力よりも競うことの方が多かったというのに。


 おっと、最前列のプレイヤーが動き出しましたね。漸く開始ですか。随分とかかりました。


 上位プレイヤー達が警戒の声を上げ、新規勢がそれに倣い抜刀。周囲を油断せず見張り、一歩一歩、しっかりと踏みしめて歩いていきます。ただ、あまりにも拙い・・


「……『侵食』『崩壊・霊』」


 私の職業は、死霊術士。霊を束ね、戦うもの。


 そして、このスキルは、前者が空間を霊が載っとるもの、後者は霊自体が崩壊の概念を背負うもの。


 私の周りが黒く、恐ろしく染まっていき、段々と私のテリトリーを広げていきます。
黒は私の領土。侵すものには制裁を。


 私は霊に命じ、味方を守るよう指示します。多くの霊が集い、囲み、新規勢をサポートします。そう、そう、その調子。私が指示したとおりに動く霊たちは、手も足もまだなくただ顔だけが浮遊するような見た目ですが、攻撃力はとても高い。いや、破壊力の方が正しいですね。


 霊に触れたPKの剣が、一瞬で黒く染まり、ボロボロと崩れ去っていく。その様子を見て、私はやはり、装備も整っていないらしいと推測します。準備もまだしている途中のようで、私のスキルが十分に発揮できることを確認すると、自然と口角が吊り上がってしまうのです。


 霊はとめどなく増え続け、戦場全体にその存在が溢れ返りそうになっても止まらず生成されます。異常な量で増えていく霊たちを見て腰を抜かす愚か者も少なくありませんが、しかしある程度戦線は保てているようで、このようなら私が腰を上げるまでもなく、余裕をもって勝利できそうですね。


 すると、正面の方から、大量のPK達が出てきました。お、少しやる気になりましたかね。わらわらとゴミが増えていき、戦場を覆い尽くしていきます。リイラ湿地林だと泥が邪魔になりますし、キーク森林だとそもそもモンスターに勝てないでしょう。もう一つの南にあるフェライト森林も木々が邪魔でしょうし、ここを選んだのは妥当な判断ですね。数で押すのに障害物は邪魔です。


 そして、大勢のプレイヤー達が、それを上回るPKに囲まれました。やれやれ、これでは流石に難しくなってきましたかね?


「怯むな! 一人残らず、殲滅しろ!」


 そう叫んだのは黄金林檎「全能の悪魔ディモンズ・ルシファー」フォーリン。暴威的な力強い瞳とショートカットの金髪、そして武器を持っていないところが目を引く、可愛らしい女性です。普段は凛としているのですが、お気に入りの彼がいらっしゃるようで……。ふふっ、その仮面の下は、どれだけ愉快なのでしょうね?


 さて、大分黄金林檎の方々が奮戦しているようですね。中にはサレッジさんもいらっしゃいます。


 ああ、でも、やっぱり数には押されてしまいますね。雪崩のように突っ込まれては流石に難しいですか。仕方ありませんね。


 ――――ちょっと、本気出しますか。


「『侵食』『黒金冥府』『統制』」


 三つのスキルを発動。周囲に檻のように、黒い棒が聳え立っていきます。数十本とも知れぬ黒土塊の長剣は、次々を生成され、新規勢を内側に抑え込みました。


 次に二つ目のスキルで霊を強化し、すこしちゃんと、しっかりとした命令を下します。全てを見通すように、完璧に、徹底的に、逃すことなく、終わりなく、永遠に。


「A隊、B隊は10メートル下がって、左のパーティを保護、後に三メートル左に現れるPKを殲滅後、1メートル後方にて襲われる・・・・パーティを助けなさい。D隊、E隊は二メートル上空に上がり、飛んでくる矢を片っ端から叩き落しなさい。それ以上上がると対処に時間がかかり過ぎるから上がらないこと。F隊は……」


 指示の下、次々と、そして淡々と任務をこなしていく霊たち。非常に有能。とてもいい。こんなに完璧に言うことを聞いてくれるものなんて、現実にはいない。ああ、素晴らしい。


 そして、計算通り・・・・に動いてくれる敵たちも単純でやりやすくて、とてもいい。いいストレスの発散になる。特に考えずとも勝手に動いて勝手にしくじってくれる様はいい笑い種ですね。まるで踊っているようだ。


 ああ、この戦場、前に出れないのは残念ですが、駒がいることを考えると、一人より敵を御しやすくて、これはこれで楽しいのですね。


 さあ、さあ、さあさあさあ、楽しい茶番・・を始めましょう?



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