死神さんは隣にいる。
15.姉さんの職業
帰ってきたヤヒメを姉さんに押し付けたら、マジでのぼせかけたので冷えたちょっとお高めのアイスを冷蔵庫から取り出し、ソファに寝転がってだらけている姉さんに手渡す。ひゃっほーいと姉さんはキッチンの戸棚からスプーンをとって喜々として食べ始めた。ヤヒメが羨ましそうに見ていたのでスプーンとともに同じ味のものを渡した。こちらもまたひゃっほーいと食べ始めた。ちなみに僕の分はない。姉さんが来るって知らなかったし。
食べおえたヤヒメは、歯磨きをしたあと、なんとか頑張って起きようとしてはいたが、やはり初日とか姉さんが来たこととかではしゃぎすぎたのか、姉さんが寝かしつけた。甘え上手なヤヒメは当然のように姉さんの膝枕の上で眠った。はしゃいで疲れたから姉に甘えるとか小学生かお前は。可愛いからいいけど。
「さて、寝かせてきましょうか」
「そうだね。放っとくと風邪ひいちゃうし」
眠ってしまったヤヒメを寝室へと運び、布団に寝転がらせる。幸せそうな寝顔を見て、姉さんと顔を見合わせて笑った。かわいいは正義だ。
「あら、もうこんな時間なのね。ヤヒメちゃん早いわと思っていたけど、案外そうでもないのね」
「まあ、あれでもコスプレするときに衣装を徹夜で作ってたりするしね。結構タフな方だとは思うよ。今日はちょっとはしゃぎすぎたんだろうね」
気が付けば、時刻は十一時半過ぎくらいだった。確かに、普通なら寝ていてもおかしくない時間だろう。まあ、僕はレベリングとか深夜の緊急クエとか強化クエとか素材回収の周回とかしたりするから、いつも三時過ぎくらいに寝るのだが。
姉さんは夜勤に慣れていると言った。結構頻繁に夜の残業を任されたりするらしく、仕事が終わらない時もあるらしい。そういう時、家に持ち帰る或いは社内に泊りがけで仕事を片付けるらしい。そんな時は大抵徹夜なんだとか。社畜って怖い。
流石に時間が時間というわけで、一旦雑談を切り上げ、部屋に戻って廃レベリングに夜を費やそうとした時、姉さんが呼び止めた。こんな夜に、なんのようだろうか。
「ねえ、夜まだ起きてられる?」
「そりゃ、これからレベリングするところだし」
せっかく初日組になれたのだから、とりあえずレベルを上げていきたい。とは言っても、まだ一番最初のエリアだし、21になった今じゃもうほとんど上がらないだろうけど。それでも、少しでも多くレベルを上げておきたい。レベルというのはあればあるほどいいのだ。
しかし、僕のそれを聞いて姉さんは安堵したようにホッと息をついた。なんでだ? 明らかに僕今予定入ってますって返事だったのに。このあと用があるんじゃないのか?
「それじゃあ、私もそれに付き合っていいかな?」
僕は思わず疑問詞を頭に浮かべた。
………………………………………………
「やや、お待たせ」
「ああ、きたきた。それじゃ行こうか」
「うん! ……というか、髪伸ばしただけでここまで印象違うものね」
「女みたい?」
「ううん。女子より女子してる!」
「うるさいやい」
姉さんからの頼みを快く受諾し、例の噴水広場で待つこと数分。キャラクリを終えてこっちに出てきた姉さんは、少し髪に青みがかかっていて、目もアクアマリンのような色に変わっていた。元の色も良かったが、こっちは神秘な感じがしていい。
どうやら姉さんはOEを始めるにあたり、ヤヒメに負けたくないらしく、この夜のヤヒメが寝てしまっている間に追いつこうという腹積もりらしい。まあ、負けたくはないよね。主に姉の威厳的に。
まあ、そんなわけで、レベリングを敢行しようと思ったのだが、何分あのやり方は配慮に欠けると今さっき言われたばかりで、あれより易しめのモノを用意しなければならない。
まあ、もともとあれをやるつもりはなかった。キーク森林に行く予定ではあったが、あのやり方を取るつもりはなかった。あれはヤヒメいてこその作戦で、僕一人じゃどうしようもないのだ。一番効率的だったのだが、致し方あるまい。
となると、今日は良くても西の方向のハリア草原の奥、リイラ湿地林だろうか。あそこは夜は水音でこちらの位置がバレるから、鳥とかのモンスター相手には結構面倒なんだけど、キーク森林よりは楽なんじゃなかろうか。レベル的に。
まあ、序盤だし、あまり変わらない気がするが……と、そんなことを考えていたのだが、そういえばと姉さんに聞いた。
「そういえば、姉さんは職業なんだった?」
「私は、銃士ね。ただ、基本は近距離戦主体みたい。武器もほら、拳銃一丁とナイフっていう銃士ってより訓練兵って言った方が妥当ね」
「へえ、銃士なのに、珍しい」
このゲームは武器種が多い。それは近接武器だけでも枝分かれしていて、片手剣や長槍といった基本的なものから、斧、大槌、鎖鎌、トンファー、果てには蛇腹剣、チェーンソーなんてものまである。
そして、それは射撃武器にも言えることだ。長弓やボウガン、スリングショットなんてものから、機関銃、拳銃、猟銃に散弾銃と、さらにそれぞれ口径も違う程に細かい。しかし、それらの銃弾は全部一括して同じ、『銃弾』というアイテムだけだ。何ミリ口径用銃弾みたいに細かくはなく、専用の銃弾というのは存在しない。なので、そこまで面倒な検索等はしなくていいのだが……正直、金が掛かるのが序盤はきつい。
ちなみに、一番最初にあの妖精アユからもらえる初心者装備には、射撃武器なら弾丸、もしくは矢が入っている。でなきゃ最初の時点で詰むからね。
さて、姉さんの武器が何故珍しいのかだが、理由は単純だ。銃士なのに、使える武器に近接武器があることである。
「姉さんのステータス見せてもらってもいい?」
「いいわよ。ちょっと待ってて」
少し待っていると、姉さんが自身のステータスを公開してきた。ウィンドウが目の前に表示される。
――――――――――――――――――――――――――――――
セイ
レベル 1
職業 銃士
《ステータス》
HP 80
MP 100
SP 50
STR 35
VIT 20
AGI 70
INT 20
MND 20
DEX 65
STM 50
LUK 10
――――――――――――――――――――――――――――――
姉さんのステータスはこんな感じだった。プレイヤーネームがセイなのはおそらく名前の世美奈の一番上を音読みしただけだろう。ネーミングセンスは遺伝子か。
それはともかく、AGIが非常に高い。いや脳筋思考の僕の初期STR程じゃないにせよ、結構高い。つまり、この職業はすばやさを生かしたヒット&アウェイが得意ということだろうか。
このゲームにおいて、銃や弓といった射撃武器の威力はSTRでもINTでもなく、DEXで決まる。まあ、銃弾の威力が筋力に左右されちゃおかしいし、弓の威力が知力で決まってもおかしいだろう。そもそも、こういうファンタジーなゲームで近代的な銃とか出てくるほうがおかしいのだ。そういうところもいいとは思うけども。
ちなみに、大抵のゲームの射撃武器は物理攻撃ということでSTRで決まります。こういうこってるところ好きよ。
そのため、DEXがほかよりも高いのも頷ける。しかし、銃士として、珍しいのは、STRが高いことだろう。
もちろん、STRが高い銃士もいる。しかし、そういうのは得てして、グレネードランチャーや長大なスナイパーライフルなどを背負うためのものであって、決して今姉さんが手に持つ小型の拳銃のためではないだろう。ちなみにオートマチックらしい。マシンピストルじゃないのは取り回しが難しそうだからか。
まあ、それはともかく、そもそも銃士という職業で使える武器が拳銃とナイフというのが珍しい。普通、銃士というのは大体突撃銃とか、狙撃銃などが武器になることが多く、ナイフと拳銃だと、普通に初期職業は訓練兵とかになることが多い。最初から銃士というのは非常に珍しい例である。
しかし、このOEというゲームは何が起こるのかわからないというのがネックである。故に、こういうことが起きてもおかしくはない。奥深いのぅ。
「いや、違うわよヨル……シキメ」
「え?」
違うって何が?
「私、別に短剣術とか拳銃マスタリーとか持ってないわよ」
「へ?」
このゲームで、武器を装備するのに必要な条件はステータスと武器スキルである。それがないと、どんなに装備したくてもできない。
そして、それらの条件は一番最初、つまり初期職業の時点で決まる。この装備可能武器をAIに勝手に決められるシステムに、最初反対していたゲーマー達もいたのだが、そんな考え方は簡単に変わっていった。理由はそのAIにある。
完全AI管理型というのもあってか、このゲームのAIは全くしくじらない。なんでも、全ネットワークの情報を一挙に閲覧し、知識を蓄え、どんな時でも完璧な対応を行っているらしい。メンテナンスもAIが自身で行っているらしい。天才はすごいねぇ。
それ故に、最初の職業はやりたかったもの、なりたかったものに、よほど適正がない場合以外なれる。なので、このゲームを批判する人はほとんどおらず、しても反論されるのが大半だった。そのため、ベータテスト時には随分と評価が荒れたもんだが……おっと、話がそれてしまった。
さて、そんなことはさておき、武器スキルは武器を装備するために必要な条件の一つであるのだが、そのスキルがない? おかしい。それではなんで装備できてるんだ? いや、待てよ、確か派生でそんな感じのスキルが……まさかっ!
「姉さん、もしかして、近接格闘術ってスキルある?」
「よくわかったわね。知ってたの?」
「知ってるもなにも、それを序盤で手に入れたのはすごいアドバンテージだよ! レア中のレアスキルじゃないか!」
「え? そうなの?」
そう、近接格闘術はレアスキルだ。いや、序盤で手に入れることが希、という言い方があっている。
なにせ、近接格闘術というスキルは、それ一つで二つ以上の近接武器を装備できるのだ。つまり、二つの武器スキルを一気に上げられるのと同義だ。普通なら、使い分けなくてはいけないので二つも上げるのは難しいが、一まとめになっているのなら話は別だ。経験値がどっちの武器を使っても両方に行くのである。
補正値も二つ分あるのがベータテストで分かっていたため、このスキルを序盤、しかもスタート時に既に持っていたというのは、大きなアドバンテージである。
欲を言うと遠距離であることが望ましかったが、それは言うまい。贅沢は言うべきではない。それに、遠距離であることを祈ったのは僕の個人的感情であって、近接スキルが手に入ったということは、姉さんも前衛が良かったということだ。なら文句は言うまい。
「ほかにはどんなスキルが手に入った?」
「ああ、今から開くから待ってて」
姉さんのスキルは、こんな感じだった。
――――――――――――――――――――――――――――――
スキル/魔法
近接格闘術 レベル1
跳躍 レベル1
加速 レベル1
軌跡 レベル1
疾走 レベル1
――――――――――――――――――――――――――――――
……?
僕はそれを見た瞬間、数秒固まった。
あれ……? うちの姉さん、運良すぎ……?
食べおえたヤヒメは、歯磨きをしたあと、なんとか頑張って起きようとしてはいたが、やはり初日とか姉さんが来たこととかではしゃぎすぎたのか、姉さんが寝かしつけた。甘え上手なヤヒメは当然のように姉さんの膝枕の上で眠った。はしゃいで疲れたから姉に甘えるとか小学生かお前は。可愛いからいいけど。
「さて、寝かせてきましょうか」
「そうだね。放っとくと風邪ひいちゃうし」
眠ってしまったヤヒメを寝室へと運び、布団に寝転がらせる。幸せそうな寝顔を見て、姉さんと顔を見合わせて笑った。かわいいは正義だ。
「あら、もうこんな時間なのね。ヤヒメちゃん早いわと思っていたけど、案外そうでもないのね」
「まあ、あれでもコスプレするときに衣装を徹夜で作ってたりするしね。結構タフな方だとは思うよ。今日はちょっとはしゃぎすぎたんだろうね」
気が付けば、時刻は十一時半過ぎくらいだった。確かに、普通なら寝ていてもおかしくない時間だろう。まあ、僕はレベリングとか深夜の緊急クエとか強化クエとか素材回収の周回とかしたりするから、いつも三時過ぎくらいに寝るのだが。
姉さんは夜勤に慣れていると言った。結構頻繁に夜の残業を任されたりするらしく、仕事が終わらない時もあるらしい。そういう時、家に持ち帰る或いは社内に泊りがけで仕事を片付けるらしい。そんな時は大抵徹夜なんだとか。社畜って怖い。
流石に時間が時間というわけで、一旦雑談を切り上げ、部屋に戻って廃レベリングに夜を費やそうとした時、姉さんが呼び止めた。こんな夜に、なんのようだろうか。
「ねえ、夜まだ起きてられる?」
「そりゃ、これからレベリングするところだし」
せっかく初日組になれたのだから、とりあえずレベルを上げていきたい。とは言っても、まだ一番最初のエリアだし、21になった今じゃもうほとんど上がらないだろうけど。それでも、少しでも多くレベルを上げておきたい。レベルというのはあればあるほどいいのだ。
しかし、僕のそれを聞いて姉さんは安堵したようにホッと息をついた。なんでだ? 明らかに僕今予定入ってますって返事だったのに。このあと用があるんじゃないのか?
「それじゃあ、私もそれに付き合っていいかな?」
僕は思わず疑問詞を頭に浮かべた。
………………………………………………
「やや、お待たせ」
「ああ、きたきた。それじゃ行こうか」
「うん! ……というか、髪伸ばしただけでここまで印象違うものね」
「女みたい?」
「ううん。女子より女子してる!」
「うるさいやい」
姉さんからの頼みを快く受諾し、例の噴水広場で待つこと数分。キャラクリを終えてこっちに出てきた姉さんは、少し髪に青みがかかっていて、目もアクアマリンのような色に変わっていた。元の色も良かったが、こっちは神秘な感じがしていい。
どうやら姉さんはOEを始めるにあたり、ヤヒメに負けたくないらしく、この夜のヤヒメが寝てしまっている間に追いつこうという腹積もりらしい。まあ、負けたくはないよね。主に姉の威厳的に。
まあ、そんなわけで、レベリングを敢行しようと思ったのだが、何分あのやり方は配慮に欠けると今さっき言われたばかりで、あれより易しめのモノを用意しなければならない。
まあ、もともとあれをやるつもりはなかった。キーク森林に行く予定ではあったが、あのやり方を取るつもりはなかった。あれはヤヒメいてこその作戦で、僕一人じゃどうしようもないのだ。一番効率的だったのだが、致し方あるまい。
となると、今日は良くても西の方向のハリア草原の奥、リイラ湿地林だろうか。あそこは夜は水音でこちらの位置がバレるから、鳥とかのモンスター相手には結構面倒なんだけど、キーク森林よりは楽なんじゃなかろうか。レベル的に。
まあ、序盤だし、あまり変わらない気がするが……と、そんなことを考えていたのだが、そういえばと姉さんに聞いた。
「そういえば、姉さんは職業なんだった?」
「私は、銃士ね。ただ、基本は近距離戦主体みたい。武器もほら、拳銃一丁とナイフっていう銃士ってより訓練兵って言った方が妥当ね」
「へえ、銃士なのに、珍しい」
このゲームは武器種が多い。それは近接武器だけでも枝分かれしていて、片手剣や長槍といった基本的なものから、斧、大槌、鎖鎌、トンファー、果てには蛇腹剣、チェーンソーなんてものまである。
そして、それは射撃武器にも言えることだ。長弓やボウガン、スリングショットなんてものから、機関銃、拳銃、猟銃に散弾銃と、さらにそれぞれ口径も違う程に細かい。しかし、それらの銃弾は全部一括して同じ、『銃弾』というアイテムだけだ。何ミリ口径用銃弾みたいに細かくはなく、専用の銃弾というのは存在しない。なので、そこまで面倒な検索等はしなくていいのだが……正直、金が掛かるのが序盤はきつい。
ちなみに、一番最初にあの妖精アユからもらえる初心者装備には、射撃武器なら弾丸、もしくは矢が入っている。でなきゃ最初の時点で詰むからね。
さて、姉さんの武器が何故珍しいのかだが、理由は単純だ。銃士なのに、使える武器に近接武器があることである。
「姉さんのステータス見せてもらってもいい?」
「いいわよ。ちょっと待ってて」
少し待っていると、姉さんが自身のステータスを公開してきた。ウィンドウが目の前に表示される。
――――――――――――――――――――――――――――――
セイ
レベル 1
職業 銃士
《ステータス》
HP 80
MP 100
SP 50
STR 35
VIT 20
AGI 70
INT 20
MND 20
DEX 65
STM 50
LUK 10
――――――――――――――――――――――――――――――
姉さんのステータスはこんな感じだった。プレイヤーネームがセイなのはおそらく名前の世美奈の一番上を音読みしただけだろう。ネーミングセンスは遺伝子か。
それはともかく、AGIが非常に高い。いや脳筋思考の僕の初期STR程じゃないにせよ、結構高い。つまり、この職業はすばやさを生かしたヒット&アウェイが得意ということだろうか。
このゲームにおいて、銃や弓といった射撃武器の威力はSTRでもINTでもなく、DEXで決まる。まあ、銃弾の威力が筋力に左右されちゃおかしいし、弓の威力が知力で決まってもおかしいだろう。そもそも、こういうファンタジーなゲームで近代的な銃とか出てくるほうがおかしいのだ。そういうところもいいとは思うけども。
ちなみに、大抵のゲームの射撃武器は物理攻撃ということでSTRで決まります。こういうこってるところ好きよ。
そのため、DEXがほかよりも高いのも頷ける。しかし、銃士として、珍しいのは、STRが高いことだろう。
もちろん、STRが高い銃士もいる。しかし、そういうのは得てして、グレネードランチャーや長大なスナイパーライフルなどを背負うためのものであって、決して今姉さんが手に持つ小型の拳銃のためではないだろう。ちなみにオートマチックらしい。マシンピストルじゃないのは取り回しが難しそうだからか。
まあ、それはともかく、そもそも銃士という職業で使える武器が拳銃とナイフというのが珍しい。普通、銃士というのは大体突撃銃とか、狙撃銃などが武器になることが多く、ナイフと拳銃だと、普通に初期職業は訓練兵とかになることが多い。最初から銃士というのは非常に珍しい例である。
しかし、このOEというゲームは何が起こるのかわからないというのがネックである。故に、こういうことが起きてもおかしくはない。奥深いのぅ。
「いや、違うわよヨル……シキメ」
「え?」
違うって何が?
「私、別に短剣術とか拳銃マスタリーとか持ってないわよ」
「へ?」
このゲームで、武器を装備するのに必要な条件はステータスと武器スキルである。それがないと、どんなに装備したくてもできない。
そして、それらの条件は一番最初、つまり初期職業の時点で決まる。この装備可能武器をAIに勝手に決められるシステムに、最初反対していたゲーマー達もいたのだが、そんな考え方は簡単に変わっていった。理由はそのAIにある。
完全AI管理型というのもあってか、このゲームのAIは全くしくじらない。なんでも、全ネットワークの情報を一挙に閲覧し、知識を蓄え、どんな時でも完璧な対応を行っているらしい。メンテナンスもAIが自身で行っているらしい。天才はすごいねぇ。
それ故に、最初の職業はやりたかったもの、なりたかったものに、よほど適正がない場合以外なれる。なので、このゲームを批判する人はほとんどおらず、しても反論されるのが大半だった。そのため、ベータテスト時には随分と評価が荒れたもんだが……おっと、話がそれてしまった。
さて、そんなことはさておき、武器スキルは武器を装備するために必要な条件の一つであるのだが、そのスキルがない? おかしい。それではなんで装備できてるんだ? いや、待てよ、確か派生でそんな感じのスキルが……まさかっ!
「姉さん、もしかして、近接格闘術ってスキルある?」
「よくわかったわね。知ってたの?」
「知ってるもなにも、それを序盤で手に入れたのはすごいアドバンテージだよ! レア中のレアスキルじゃないか!」
「え? そうなの?」
そう、近接格闘術はレアスキルだ。いや、序盤で手に入れることが希、という言い方があっている。
なにせ、近接格闘術というスキルは、それ一つで二つ以上の近接武器を装備できるのだ。つまり、二つの武器スキルを一気に上げられるのと同義だ。普通なら、使い分けなくてはいけないので二つも上げるのは難しいが、一まとめになっているのなら話は別だ。経験値がどっちの武器を使っても両方に行くのである。
補正値も二つ分あるのがベータテストで分かっていたため、このスキルを序盤、しかもスタート時に既に持っていたというのは、大きなアドバンテージである。
欲を言うと遠距離であることが望ましかったが、それは言うまい。贅沢は言うべきではない。それに、遠距離であることを祈ったのは僕の個人的感情であって、近接スキルが手に入ったということは、姉さんも前衛が良かったということだ。なら文句は言うまい。
「ほかにはどんなスキルが手に入った?」
「ああ、今から開くから待ってて」
姉さんのスキルは、こんな感じだった。
――――――――――――――――――――――――――――――
スキル/魔法
近接格闘術 レベル1
跳躍 レベル1
加速 レベル1
軌跡 レベル1
疾走 レベル1
――――――――――――――――――――――――――――――
……?
僕はそれを見た瞬間、数秒固まった。
あれ……? うちの姉さん、運良すぎ……?
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