死神さんは隣にいる。

歯車

2.ログイン

 そして、いろいろとすべきことや行くべき場所、効率重視に行くならどこがいいかとかを考えていると、時間は予想よりも早く過ぎた。というか、ぶっちゃけ急がなきゃいけないくらいだった。


 βテスターはβ版のデータを職業だけ引き継ぐことができるらしいのだが、生憎僕は新鮮な気持ちでやりたいので、一から始めるつもりだ。け、決してβ版で何かをやらかしたからというわけじゃないぞ! ……いや、やらかしはしたけど。


 まあ、そんなわけで、どの職業に当たるのか、当たった職業がどういうものかによっての効率のいい狩場はどこかとか、その他もろもろ考えているとすっかり時間が経ってしまい、急いでIDの入力等を済ませ、いつでもログインできるような状態にして、ベッドの上に寝転がる。


 ベッドの上に寝転がるのは、人体が最もリラックスできる姿勢でないと体にいらぬ負担をかけてしまうことがあるらしい。酷い時は腰が曲がったりしてしまうのだとか。さすがにこの年でおじいちゃんにはなりたくないので、しっかりとベッドの上に仰向けに寝転がり、体が冷えるのを防ぐため、布団を上からかけて準備完了!


 そして待つこと数分。ついに――――


………………………………………………


「ようこそ、オリジン・オブ・イグジスタンスの世界へ。私は妖精アユ。神樹の女神より遣わされたあなたの案内役です。どうぞ、気軽にアユ、とお呼びください」
「あ、どうも」


 ゲームを開いて、目の前が真っ暗になった瞬間、出てきた場所は森の中。仮想空間とは思えないほどに精巧に作られた木々などを見て、やはりクオリティが高いと実感する。地面の土の感触も、現実のそれと大差ない。


 当然裸でほっぽり出されるわけではなく、ちゃんとTシャツと長ズボンを着ていて、下着もあるみたいだった。しかし、この長ズボンはGパンなのだが、いつも動きやすさをとってスポーツ用のズボンをはいてる僕にとっては動きにくくてやりにくい。


 たしか、このズボンは変更可能だったか。あとでやっとこ。


 まあそんなことはさておき、大地を踏みしめたあと、まっさきに目に映ったのは、羽を生やして空中を自在に飛び回る、金色の長い髪を靡かせた小さな少女だった。彼女は別名チュートリアルピクシー。名前はアユちゃんというらしい。魚?


「まず、早速ですが、あなたの名前を教えてくださいますか?」
「あ、はい。シキメです」
「シキメさん。確認しました。次に、キャラクタークリエイトに移ります。シキメさんは元の容姿をそのまま使いますか? それとも変更なさいますか?」
「あ~、ちょっと変更で」


 別に自身の容姿に自信があるわけじゃないが、一応、身バレの危険性をそいでおくためである。とは言っても、もともとの顔を大幅に変えたりするわけじゃなくて、髪型とか、髪の色とかを変えるだけだ。


「了解しました。では、こちらの部屋で、存分にどうぞ」
「わかりました」


 アユちゃんが手を翳すと、その先にドアが現れた。どうやら、プライベートということを配慮してのことらしい。芸能人の楽屋みたいなものだろうか。


 中に入って、手元に出現したコンソールを操って、自身の体に変更を加えていく。髪の毛を白く染め、腰辺りまで長くする。戦闘の邪魔になるかも? そんなこと気にしていたらはげます。


 身長はあまり高い方でもないが、というより結構小さい方ではあるが、特に気にしていないし、何よりここで変更を加えた方が負けた気がするのでスルー。体も、あまり太っているわけでもないし、変更点はない。


 特にこれ以上弄るべき点がないことを確認し、部屋を出る。正直に言うと、自分の評価は出来ているつもりだ。卑屈になるほど醜くはないつもりだし、格好いいと言われれば微妙な顔にならざるを得ない。というか、なぜなのかは知らないが、僕、女の子みたいな顔をしてるから、男らしくはしても気持ち悪いだけなのだ。下手にいじると、むしろひどくなりかねない。


 この身長であることも相まって、キャラクリの際に、似合うように作るのであればむしろ女性型をイメージしたほうがうまくいくほどである。初対面の時に「お前のそれはよくできたアバターじゃないのか?」なんて聞かれることなどしょっちゅうである。


 そんななりであるから、変にいじると逆効果であることは百も承知であるし、だからこそ、髪の毛は長いほうが自分に似合うというか、せめてそれぐらいいじらないとリアバレしそうで怖いというか。
まあそんなわけで、ひとまずのキャラクリを終えて部屋を出ると、アユちゃんが何らかのウィンドウを操作しながら待っていた。


「おかえりなさいませ。アバターの編集は以上でよろしいですか?」
「はい。大丈夫です」
「わかりました。それでは、次に職業を決定します」


 そう言って、アユちゃんは手元に有るウィンドウの他にもう一つ別のウィンドウを呼び出した。そして、それをこちらに向ける。


「βテスト時のデータが残っています。レベルや職業は初期に戻りますが、当時のデータをご利用なさいますか? それとも新しく職業をお決めになりますか?」
「新しく職業を決めます」
「かしこまりました。では、これから行う質問に、答えていってください。その返答によってあなたの適正職業を決め直します。前回と同じ職業になってしまう可能性がありますが、当時のデータに変更することはできません。よろしいですか?」
「大丈夫です」
「それでは、まずは……」


 そうして、一つ一つ質問に答えていく。これによってどんな職業かが決まるので、結構大事なことなのだが、正直、ここでどんな対策をしてもあまり意味はない。


 なぜなら、毎度毎度の質問が個人によってほとんど違うからである。これはβ版の時と同じ仕様らしく、β版でされた質問と今の質問がほとんど違う。なので、ほかの人とどれだけパターンを掻き集めても、「それ関係あるの?」みたいな質問も普通に出てくるため、心理テストなんて比じゃないくらいの量を完全に予想するなんて無理以前に無駄だ。そのため、出てくるものにバカ正直に答えたほうがびっくりするほど適した職業を選んでくれるので、それに任せたほうがいいのである。


 ちなみに、友人がやる暇も惜しいと適当に答えた結果、戦闘職ですらない花屋というとんでも職になり、しかもこのゲーム、職業の変更は上位職に上がるレベル20になってからでないとできないし、変えた職業も派生でなければレベルが1からやり直しになるため、レベリング付き合ってと泣きつかれたことがあった。あれはなかなか大変だった……。


 なにせ、完全な非戦闘職であるために戦闘でのレベル上げができない。しかも花屋という職業故に花を育てることでレベルを上げるのだが、経験値を得るのに時間がかかるかかる。さらに花が咲いて漸く経験値が入るため、最初期は全くと言っていいほどに経験値が入らない。当然、パーティ狩りでの経験値等分を使うのは嫌だ。そんなもったいない以前に面倒なことしたくはない。


 花束を作ったり、生花を行ったりすることでも経験値は入るが、それらも花を採取しなければどうしようもない。そして、花がある場所は当然のこととしてモンスターのいる平原である。非戦闘職の友達は戦うことが難しく、初期の敵ならともかく、レベル10を超えると全く歯が立たなくなるのだ。そして花が手に入る場所はそのほとんどが適正戦闘職レベル10を超える。なので、肝心の花が手に入らない。結果、経験値が手に入らない。


 まあ、そんなこともあったので、できる限り、ちゃんと正しく答えていくべきというのが持論だ。なので、正直に地道に、たまに長考しつつ、答えていく。


 ちなみに、その友達はレベルを花屋のまま頑張って上げ続けて、ちょっとした有名プレイヤーとして掲示板やらに取り上げられたりしていたみたい。ちゃんと適した職業であったみたいで、終盤はこれでよかったと告げていた。だが、その頃の掲示板でちょっと泣きそうなくらいの出来事があったため、その時の掲示板は見ていなかった。何があったのかは……悶え死にそうになった、とだけ。


「……確認致しました。これで質問は終了です。お疲れ様でした。職業を決定するため、少しお待ちください」


 最後の質問に答え、アユちゃんは一つ目のウィンドウに結果をコピーし、どこかへ送信したみたいだ。大元の神樹の女神とやらのところだろうか。多分その女神さんが高性能なAIさんのことだろう。


 適正職業が決まるまでの間、その辺をキョロキョロと見回してみる。こうして見てみると、そんじょそこらのVRゲームとは比べ物にならないくらいオブジェクトが精緻で、かつ風の心地よさを感じるところや、視界がクリアで、ぼやけているようなこともないところも素晴らしい。ひどいものはラグが起きた際に頭がふらつくときもあるし、ここまで快適にプレイできるのはさすがだなぁと改めて感心する。


 そうだ、今のうちにズボン変えておこう。そう思ってメニューを開くと、防具非装備時のデザインという項目があったのでそれをポチリ。すると、ズボンの種類がわんさか出てきた。どうやら其の辺はネットから調達してもいいらしく、上に「Webで検索」という項目があったので、それを使ってお気に入りのスポーツウェア専門店を検索する。


 そこにいつも履いている黒の少しダボっとした短パンがあったので、それを押すと、いきなり腰のあたりに変化が現れた。感触が一瞬で変わり、ちょっと戸惑う。けれど、その質感がいつものだと確認できると、少しホッとした。


「? 何をしてるのですか?」
「……い、いえ、なんでも」


 いきなり声をかけられたのでビクッとしつつ、よく考えたら彼女にも見られていたのかということを認識し、少し頬が熱くなった。いやまあ、着替えは一瞬だったけど、そのあとビクッとしちゃったからさ。ちょっと恥ずかしいというかなんというか。


 ついでにTシャツの方も黒くて動きやすいスポーツウェアに変える。別に誤魔化したわけじゃないんだからねッ! ……って思ってたらまたビクッとしてしまい、さらに頬を赤らめる次第となってしまった。うぅ、恥ずかしい……。


 そうして、少し時間が経って、アユちゃんと雑談を繰り返していると、アユちゃんのもとにウィンドウが飛んできた。すぐにウィンドウの内容を確認し、少し目を見開いたあと、すぐに顔を引き締めると、キーボードを呼び出して打ち込んだ。なんというか、森の妖精さんみたいなアユちゃんがSFみたいな画面操作しているのを見るとシュールだなぁ。今更だけど。本当に今更だけど。


「それでは、シキメさんの職業が確定したので、発表したいと思います」
「おぉー」
「シキメさんの適正職業は……」


 ジャカジャカジャカジャカ、じゃーん。


「ずばり、鎌士です!」
「……へ?」


 今、なんて?


「二度は言いません。では、これが初期装備の〈初心者の大鎌〉です。そしてこれが所持金、最後にこれが初期装備の防具交換用チケットです。色などは交換時に決めてください。最後に、職業についての疑問、戦い方、ステータス等についてはチュートリアル時に説明されます。派生等についてもそこで説明されますので、受けておくことをおすすめします。それでは、武運を祈っています」
「え、ちょ、いやまっ――――」


 いつになく早い口調。そのまま地面にクオリティの高い魔法陣のエフェクトが現れる。そこから凄まじい光が目を焼く前に反射的に目を覆う。


 待ってよ待って鎌士ってなんですかあぁぁぁあああ!


 そんな僕の気持ちは知ったことではないと、強制的に僕は始まりの街へ転移させられた。



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