死神さんは隣にいる。

歯車

3.ルーヴァスさんとステータス

 強制転移の先は、始まりの街アイルヘル……ではなく、チュートリアルエリアと呼ばれる場所。最初に行われるのはチュートリアルであり、ここで自分の職業の説明を受けるので、適当に流すことはできない。まして、派生が大量にあるこのゲームではなおさら。


 というか、聞き逃せない。なんだよ鎌士って。職業が独特なのはたまにほかのゲームでも見られるけど、鎌士なんて言葉初めて聞いた。いやまあ、確かに間違ってはないけども……。


 少しずつ落ち着いてきて、この先の展開を思い出す。たしか、このあとはチュートリアルとして、ステータスの確認や装備、スキルポイントの振り方などから、パーティの組み方、フレンド申請の仕方とかに、街の説明、そして雑魚モブを倒して、最後にボス倒せば終了だったような?


 そして、それの説明係が……


「おぉーきたきた。君が鎌士の、シキメだな?」


 後ろから声がしたので振り向く。そこにいたのは褐色美人という風体の女性だった。健康的な褐色の肌に、完璧なまでのプロポーション。山のような二つの膨らみは、男の子ならまず真っ先に注目してしまうだろう。輝く銀髪を靡かせて、ワイルドに犬歯をギラつかせている。豪放磊落といった風情のお姉さんだ。


「んじゃま、自己紹介と洒落こもうや。俺の名前はルーヴァス。初心者用のチュートリアル担当だ。よろしくな」
「あ、はい。よろしくお願いします」
「かっかっか、そんな緊張しなさんな。所詮は訓練、余裕を持って励むとしようぜ」


 そう言って豪快に笑うルーヴァスさん。やっぱり快活とした人だ。なんというか、うん。話していて嫌にならないというか。これが人徳ってやつなのかな? NPCだけど。


 NPCとは、自動で動くプレイヤーじゃないキャラクターのことだ。ただ、このゲームは尋常じゃないプログラムをされているためか、どんな話を振っても基本的には全て返してくれる。アホなプレイヤーがどれだけ話せるか試そうとして、語彙力で圧倒されて泣かされたという愉快な事件もあったけれど、それだけ凄いということだろう。


 まあ、そんなことはさておき。


「そんじゃ、早速、チュートリアルを始めんぞ。まずは目の前に出てる緑色と青色のゲージのことからだ」
「HPバーとMPバーですよね?」
「そうだ。HPバーが切れると戦闘不能で、蘇生アイテムや蘇生スキル、蘇生魔法、後は十秒立つと自動的に最後に立ち寄った街の協会で目が覚める。MPバーはスキルや魔法を使うと減っていく。こっちはHPと違って、敵を通常攻撃すれば回復する。わかったか?」
「はい」


 HPバーは重要だ。死んだら先ほどの説明に加えてデスペナルティというのがつく。通称デスペナは、ゾンビアタックという、死んで蘇って捨て身突撃して死んでを繰り返す正しくゾンビな攻撃、攻略法を禁じるためだと思われる。


 デスペナは、付けば付くほど酷くなっていくが、基本的には全ステータスの低下と経験値取得率の低下だ。序盤に死ぬと、結構取り残されてしまうため、頑張って死なないようにしなくてはならない。


「次はステータスの確認からだ。やり方はわかるか?」
「あ、はい。大丈夫です」
「そうか。まあ見てみろ。一応注意しておくが、メニュー操作の内容は他人に見られはしない。俺はちょいと特別なんでな。許してくれい」
「はい」
「気にならんのかいな……」


 簡潔に返事を言って、僕は頭の中でメニューと念じる。すると、空中にアイコンが現れる。メニューの開き方はどのゲームもほとんど共通していて、基本念じると出る。いちいちスタートボタンを押すレトロゲーもそれはそれでいいものだけど、オンラインに中断なんてものはないので、早くメニューを開けるなら開けるだけ楽でいい。


 そして、僕はメニューの上から二番目にあったアイコンに触れる。すると、僕の模型みたいなものとその他数種のアイコンが現れる。その中から、ステータスと書かれたアイコンをタップし、中身を確認した。


――――――――――――――――――――――――――――――
シキメ
レベル 1
職業  鎌士
《ステータス》
HP   50
MP   100
SP   50
STR  130
VIT  1
AGI  1
INT  1
MND  1
DEX  120
STM  50
LUK  10
――――――――――――――――――――――――――――――


 これらが基礎ステータス。一から説明していくと、STRは物理攻撃力、筋力に影響していて、VITは物理防御力、耐久力に影響している。AGIは俊敏性や、回避判定率に影響を及ぼし、INTは魔法攻撃力、魔力に関係していて、MNDは魔法防御力、状態以上発生率に影響する。DEXは器用さ、つまるところ、生産系や、クリティカル発生率に関係する。STMはスタミナ、体力だ。LUKは運の良さ。ボスモンスターを倒した際のレアドロップ率に関係するね。一応クリティカルにも関係するにはするけど、このゲームは珍しく技量でクリティカルが発生する仕組みで、発生する確率をあげるなら、DEXをあげるほうがいい。


 HP、MPは先程説明してもらった通りとして、SPはステータス割り振りポイント。レベルが上がるごとに5ポイントもらえる。ただ、調整用に最初は50ポイント用意されている。この基礎ステータスに追加できるってことなんだけど、う~ん。これは、なんというか……。


「これがお前のステータスか? ……おいおい、ずいぶんとかたよってるなぁこりゃあ」


 そう、なぜか知らないけど超偏ってる。これ、さっきの考え方でいくと、ひたすら攻撃射程内に入るまで近づいて、クリティカルで一撃必殺! って感じなんだろうけど、致命的に防御力と速さが足りない。なんだよ1って。酷すぎるよ。ベータ版だったらこんなひどい初期職業なかったはずだけど……。


「ま、まあ、落ち込みなさんなって。ほれ、まだスキルとか見てないだろ? 一回見てみればいろいろ変わるかも知れないし、見てみようぜ?」
「はい……」


 ルーヴァスさんは慰めてくれるが、気持ちが一向に回復しない。あまりにもひど過ぎるステータスに愕然としつつ、それでも前に進むしかないと、ポジティブに生きたいところだが、あの結果はひどすぎた。


 なにせ、ほとんど歩くような速度で近づいて、少し大きいとは言え近距離であの大鎌を当てないといけないんだよ? 遠くに離れながら遠距離攻撃されたら死ぬから。まず間違いなく死ぬから。


 最悪なのは、他が全て1であるせいで、ボーナスのSPを全てひとつに降っても、漸く普通より少し早いくらいにしかならない。大事なボーナスをそんな無意味なことに使いたくないし、見た感じ、使ってもあまり意味はないだろう。少し速くなっただけでは高速の魔法とかは避けようがないし、防御力を上げても、連続攻撃には耐え切れず相手の前につく前に死ぬ。バランスを取るにも両方の危険性が増えるだけだ。ほかの人はちゃんとボーナスをふれるだろうからバランスを取れているはず。むしろ、魔法使いや大剣使いとかは僕よりバランスが取れてる上に攻撃力を上げているかもしれない。そう考えてみると、攻撃特化どころか攻撃極致の僕はちょっとまずいかも知れない。


 何よりこのゲーム、PKがありなのだ。PKとは、プレイヤーキラーの略だ。プレイヤーがほかのプレイヤーを殺すことを、推奨してこそいないが、認めてはいる。となると、僕は絶好の的だ。のろのろと移動する一撃でも喰らえば即死の道端のアリ。それこそが僕だ。しかも、このゲームで殺されると、所持アイテムの中の、装備品以外のアイテムが一部相手に譲渡される。つまり、僕は外に出るだけでネギ背負ったかも扱いである。泣きそう。


 一応街の中はPK禁止ということになってはいたが、それは外に出た瞬間消える。つまり、外では無防備にならざるを得ないということだ。モンスターを倒しにくくなる、それはつまり、レベルが上がらないということである。当然、それだけ突き放される。


 もういっそ、家に引きこもって無駄に高いDEXを利用して生産職でもしようかとも思ったが、それをするとSTRが異常に邪魔だ。そんなにSTRがあるのなら、そっちを使いたい。モンスターをすかっと一撃で倒したい。生産職に決定したのならそっちをやっても良かったのだが、残念ながらそっちには恵まれなかったようであるし。諦めるしかない。


 でも、これでどうやって戦っていくべきか、相当やり方が制限されたように思える。他プレイヤーを警戒しつつモンスターを倒すとなると尚更だ。いっそ一撃離脱戦法でPKやってやろうかな、とも思ったが、それはさすがに難しい。先程も言ったが、相性が悪い職業が多すぎる。下手をすればモンスターよりも人に負けることのほうが多そうだ。それほどまでに今の自分は不遇であるのだと再認識してさらに落ち込む。うう。辛い、辛いよ……。


 やはり打開策は次のスキルと魔法欄にかかっている。一体どういうスキルやら魔法やらがあるのかは知らないが、できれば、いや、来なきゃ最悪別のアカウントを作ってそっちを進めるつもりで、相性がいいものがあることを願う。というか、来なきゃマジで詰んでしまう。


 さすがにステータスで積むのは早すぎる。ポイントのふり間違えで積むのはよくあることだが、いかんせんそれはまだ、少なくともレベルをもっと上げてからだ。レベル1でステータスに問題ありとか、悪夢でしかない。


「ま、まあ、きっといいのあるって。な?」
「う、ぅぅ」


 励ましてくれるルーヴァスさんの気持ちが痛い。気遣いは時に人を傷つける。泣きたい。


 僕は、六割自棄気味に、三割嘆願気味に、そしてこんな時でもまだ残っている一割の好奇心やらワクワクやらに押されつつ、やや乱暴にメニュー画面を操作する。先程と同じアイコンのとなりにあるスキル/魔法アイコンをタップし、ウィンドウを表示させた瞬間、目を閉じる。


(頼む、いいのあってくれよ……。これがなかったら詰むから。マジ詰んじゃうから……)


 そうして頭の中で、流れ星に祈るように何度か「来てくれ」と反復し、決意してかっと目を見開く。そして焼き付けるようにそのウィンドウの中身を見ていく。
そこにあったものは……



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