最弱職がリーダーのパーティー編成は間違ってる

なちょす

第12話『モア村』


「ようこそモア村へ!さっき王都から伝書鳩が飛んできたけど、君がその新人さんだね」

村へ到着して早々、威勢のいい声で俺たちを出迎えてくれたのは、深緑色の短髪と、両頬にそばかすが目立つ、少し細めの青年だった。身長は俺と同じぐらいだから、だいたい170cmほどだろうか。

どうやら俺のことは事前に聞いていたようなので、話が早くて助かる。

俺は、名刺代わりにポケットからセレカを取り出すと、それを青年に向けて挨拶した。

「どうもこんにちは。僕はカミヤ・エイトという者です。歳は今年の8月で17になりました。いろいろ分からないことが多いので、迷惑をかけると思いますが、どうぞよろしくお願いします」

「あぁ、こちらこそ!僕の名前はマークだ。マーク・ルートス。生憎、今はセレカを持ち合わせてないから、口頭で説明するね。まずは役職だけど、僕の役職は『市民』で、父さんと農業を営んでるんだ。仕事場の農園は村の奥にあるから、この後紹介するよ。それと、歳は君のひとつ上で18だ。でも、あんまりギクシャクするのは苦手だから、お互いタメでいこう。よろしく、エイト!」

「はい!…じゃなくて、おう!」

マークと名乗ったその青年は、満面の笑みで俺に笑いかけると、続いて視線を横にスライドした。

「ええっと、それでそちらの方は?」

おそらく俺へ向けられたものであろうマークの質問に、俺が口を開くより先にフレイアが丁寧な言葉使いで答えた。

「私はフレイアといいます。こちらの彼とは、北のリュフーレ大森林で出会い、それから道案内も兼ねて、ここまでお供して参りました。役職は、まだまだ未熟者ですが『魔道士』を務めております」

フレイアの丁寧な挨拶を受けたマークは、一度瞼をぱちくりとさせると、驚いたように目を丸くして言った。

「…ええぇ!?こりゃあたまげた!まさか魔道士のお客さんが来るなんて!フリーダ様がこの村に来た時以来だよ!」

と、マークが一人で盛り上がっていた、そのときだった。

「あー!知らない顔の人が二人いるー!」

「ほんとだっ!おまえらだれだー!?」

「ちょっとふたりとも、待ちなさいよ〜」

「みんな、まってぇ…」

建物の奥から、突然四人の子供たちが走ってきた。

しかし、やはり少し抵抗があったのか、俺たちのところへ来るやいなや、四人ともマークの後ろに隠れてしまった。それを見たマークは、子供たちに微笑みながら声をかけた。

「ほらみんな、今日から村の仲間になるエイトお兄ちゃんと、お客様のフレイアさんだ。一人ずつちゃんと挨拶して」

そんなマークの言葉に、最初は少し戸惑った様子を見せていた子供たちだったが、しばらくしてから、ゆっくりと前に出てきた。

最初に俺と目が合ったのは、黄色い帽子を逆に被り、少し強気な顔をしている短パン小僧だった。

短パン小僧は俺の視線に気づくと、少し慌てた様子で帽子の位置を調整してから、ふんっ!と大きく鼻息をついて言った。

「オレはコウトだっ!この村では、オレが一番強いんだぜっ!このあいだ、ちょーこくかのマルコスおじさんを倒したんだっ!ほんとだからな!」

続いて、ちょっと丸っこい体型をしたぽっちゃり系坊主が出てきた。

「オイラはパウロ。夕飯が食べられなくなったときは言ってくれよ。オイラが全部食べるからな」

すると、今度はパウロの後ろから女の子が出てきた。

その子は、薄く透き通った茶髪のポニーテールで、結び目の大きな赤いリボンが目立っていた。

「わたしの名前はジェシカ! お花が好きなの!よろしくね、お兄ちゃん!」

そうして満面の笑顔をつくるジェシカ。

俺はその天使の微笑みに、一瞬でハートを鷲掴みされてしまった。

…な、なんだ!?この太陽のように眩しい笑顔は!?いくらなんでも天使すぎるだろ…。

「あのぉ…」

俺がジェシカの笑顔に気を取られていると、突然足元から声がかかり、つられて視線を下ろした。

「おわっ!?」

すると、いつの間にかそこにいた少年に驚き、俺は声をあげてしまった。

…こいつ、いつの間に!?

少年は、長い前髪の中からちょこんと目をのぞかせると、小さな声で話し始めた。

「……あ、ごめんなさい…。僕、影が薄いっていつも言われてて、こうして突然声をかけるとよく驚かれるんです…。名前はミットっていいます。…よろしくです」

「あ、あぁ。俺こそ急に声あげちまって悪かったな」

俺はそう言ってミットに謝罪すると、今度は自分の紹介を始めた。

「えぇっと、コウトにパウロにジェシカにミットだな。…よし、全員覚えたぞ。俺の名前はエイトだ。よろしくな」

と、俺が挨拶を終えた、そのときだった。

俺の視界に、目の前にいる子供たちとは別に、もう一人子供の姿が映ったのだ。

その子は女の子で、先程四人の子供たちが出てきた建物の裏に隠れながら、静かにこちらを覗いていた。

そして、俺の視線に気づいたのか、突然建物の奥に消えてしまった。

「…なぁマーク。今向こうの方に、黒い髪の女の子がいたんだが…」

俺が聞くと、マークは少し困ったように苦笑を浮かべて言った。

「…あぁ、それはアリスだよ」

「アリス?」

「ああ。この子たちと同じ、村の子供さ」

そう言ったマークの表情は、先程の明るいものとは違って、どこか悲しそうだった。

そして、それはマークだけではなく、周りにいる子供たちも同じだった。

…これは何か訳ありみたいだな。

俺はそう確信すると、子供たちに聞いてみた。

「おまえら、あの子と喧嘩でもしてるのか?」

すると、子供たちは揃って顔を俯かせ、首を横にふった。

「違うんだエイト」

そして、その様子を見ていたマークが、子供たちの代わりに話し始めた。

「…アリスは、変わってしまったんだ」

「変わった?」

「ああ。村に来たばかりの頃のアリスは、明るくてよく笑う子だったんだよ。だけど…」

言いかけて、口をつぐんだマーク。俺はアリスについて知るため、探りを入れた。

「何があったんだ?」

俺が聞くと、マークは固く閉じていた口元を緩め、先程とは打って変わったように暗い声で話し始めた。

「…2年前、アリスを女手一つで育ててきた彼女のお母さんが不治の病で倒れて、そのまま他界してしまったんだ。…当時、まだ10歳だったアリスを残してね」

「…っ」

「そんな…」

マークの言葉に、俺とフレイアは同時に声をもらした。

「…それからだ。アリスが笑わなくなってしまったのは…」

そしてマークは、そばにいたコウトの頭を優しく撫でながら、苦笑を浮かべた。

「僕やこの子たち、他の村民の人たちがいくら声をかけても、彼女は決して、昔のように笑うことはなかった。それどころか、今じゃ話しかけても時々無視されちゃうんだよ」

「…なるほど。完全に心を閉ざしてるみたいだな」

「ああ。…でも、アリスだってこの村の一員なんだ。放っておけない。…だから、彼女への気遣いも頼んだよ、エイト」

「わかった」

俺が承諾すると、マークは少し嬉しそうに微笑んでから、スイッチを切り替えたように表情を変え、今度は明るく力強い声で言った。

「さて、それじゃあエイト。今から、これから先君の仕事場になる、『モア農園』に案内するよ」

「おう。悪いな、マーク」

「いいんだよ。案内役を任されているのは僕だしね。それじゃあ行こうか」

──こうして俺は、マークに連れられて、『モア農園』へと向かうこととなった。

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