最弱職がリーダーのパーティー編成は間違ってる

なちょす

第5話『王都』


「ねぇ、あなたいつまで休んでるの?」

フレイアはそう言って、俺を見ながら呆れたようにため息をつく。

「…うるせぇ。…くっそ、なんでこんなに遠いんだよ…」

俺は現在、王都の門を抜けたすぐ側に置かれている、木製のベンチに腰かけて休憩していた。

つい数分前、王都をゴールに徒競走をしていた俺たち。最初は俺が圧倒的にリードしていたのだが、考えが浅はかだった。

──王都までの距離が、思ったより遠かったのだ。

短期戦に強い俺の体力は、もちろん序盤こそ力を発揮したものの、中盤から徐々に失われ、最終的には走れなくなってしまった。結果的に、俺が自爆してフレイアの勝利となった。

そしてなんとか王都まで歩き、入口付近にあったベンチで休憩をすること約10分、現在に至る。

「……ふぅ。そんじゃ、そろそろ行きますか」

俺はある程度疲労が回復したので、フレイアに出発を促した。
フレイアは目を細めながら俺を見ていたが、やがて諦めたように項垂れると、街の方へ歩き出した。

「ちょっと待ってフレイア!俺迷子になっちゃうから!せめて地図を!」

黙って先に行ってしまったフレイアに焦りを感じた俺は、急いでベンチから跳ね起き、人混みに紛れていくフレイアを必死に追った。


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「ここが街役場よ」

「へぇ〜。でっけえな」

俺の目の前にあるのは、巨大な茶色い建物だ。外装はとても鮮やかで、所々にガラスが貼られており、中の様子が見えるようになっている。

「ほら、早く入りましょう」

「おう」

俺はフレイアに連れられるまま、建物の中に入った。

役場に入って一番最初に目に入ったのは、天井に吊るされている大きなシャンデリアだった。日本でも、テレビなどでよく目にしていた物だ。

ただ、俺がよく知るシャンデリアとは少し違っていて、ここのシャンデリアには、蛍光灯の代わりに光る石のようなものがいくつも取りつけられていた。

俺はそれが気になったので、フレイアに聞いてみることにした。

「なぁフレイア、あの天井に吊るされているやつって何だ?」

俺の質問を受けて天井を見上げたフレイアは、対象を見つけて納得したように「あー」
と言うと、俺の顔に視線を移した。

「あれは魔光硝子って言って、硝子でできた彫刻に、光の魔導石をはめて光源代わりに使ってるの。とても綺麗よね」

…なるほど、この世界に『蛍光灯』という概念は存在しないのか。なんでもかんでも科学の力で生活していた前世あっちの世界とは違って、こっちの世界の生活基盤は、基本魔法頼りってわけだ。

「なるほどね。教えてくれてサンキューな。…それじゃあさっさと用事済ませるか」

「うん?さんきゅー?」

「ありがとうって意味」

「あ、そうなんだ」

手っ取り早くフレイアの困惑を解いてやってから、入ってすぐの端側にある窓口らしき場所へ歩いていく。

窓口の前に着くと、カウンターを挟んで向かいに立っている、若い金髪の女性に声をかけた。

「あの、すみません」

女性は俺の声に気づくと、見ていた書類から目を離し、着用していた赤いメガネを片手で抑えながら顔を上げた。

「はい、どのようなご用件でしょうか?」

「えっと、なんだっけ……あぁ!そうそう、『役職適性検査』っていうのを受けたいんですけど」

俺は、森でフレイアに言われたことを思い出す。ミッション内容は、まずこの街役場で、自分に合った役職を見つけるというものだ。

女性は少し困ったような顔で俺を見ると、急に視線を俺の隣に向けて話し始めた。

「あの、こちらの方はお連れ様でしょうか?」

「…そうです」

女性の質問に返答した聞き覚えのある声に、俺は思わず隣を見る。

そこには、黒いトンガリ帽子を脱いだフレイアが立っていた。

というか、なんでこの女性は俺ではなくフレイアに質問したのだろうか。

「お、おいフレイア。なんで来たんだよ。手続きぐらい、一人でできるぞ?」

俺の言葉を聞いて目を細めたフレイアは、明らかに困っているような顔で俺を見た。

「…んと。まぁ、それは分かってるんだけど…」

「ん?」

何か言いづらそうに口を結んでいるフレイア。そして役員の女性は、先程から変な視線を俺に送っている。…まるで、何か変なものを見ているかのような……って、ん?

そこで俺は気づいた。そういえばさっきから、街中ですれ違う人々から同じような視線を向けられている気がする。

……なんだろう。彼らには、俺が異世界人であることが分かるのだろうか。…いや、そんなはずはない。現に、この世界の住人であるフレイアには、何ひとつ信じてもらえなかったではないか。

他には何がある?俺が周囲の人間から変な目で見られる理由。顔か?髪か?肌か?目の色か?それとも…。

そして、気づいた。他者と対面する際、最も個人の個性が表現されるモノに。


ずばりそれは───俺の服装だ。

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