最弱職がリーダーのパーティー編成は間違ってる

なちょす

第3話『役職』


「えっと…まずは、これからあなたが受けることになる役職適性検査のことから説明するわね」

道を進みながら、フレイアは説明を始めた。俺はフレイアの話を聞き逃さないように、しっかりと身構えてから相槌を打つ。

「OK」

一瞬、聞いたことのない言葉に困惑したような表情を浮かべて俺を見たフレイアだったが、「まぁいいわ」と言ってから、言葉を続けた。

「この世界にはね、四つの大陸が存在するの。それでその四つの大陸には、全てに共通して『役職』っていう、人間個々の役割みたいなものがあるの」

「人間個々の役割?」

俺が反復するように言うと、フレイアは「ええ」と相槌を打ってから話した。

「その『役職』っていうのは全部で四つあって、下位職から順に『市民』『狩人』『騎士』『魔道士』となっているわ。まぁ、役職の数は地方ごとに多少違ったりはするんだけど、基本的にはこの四つ」

「んで、俺がこれから受けるっていう『役職適性検査』ってのは、その四つの役職の中で俺が最も向いてる役職を調べる検査ってわけか」

俺がフレイアの言葉を繋いだように言うと、彼女は少し口角を上げながら俺を見て、「端的に言えばそうね」と言ってさらに話を続けた。

「役職適性検査はね、十五歳を超えて成人した男女に限り、その役職にあった『職業』と『職場』を、その場で全て紹介してもらえるの。必要なら、居住先なんかもね」

この世界では15歳で成人を迎えるのか。

「へぇ〜、随分良心的なハローワークなんだな」

俺が感心していると、フレイアは再び困惑した顔を向けてきた。

「はろーわーく?あんまり聞いたことのない言葉だけど…」

「ごめんごめん、こっちの話」

そうだった、俺が日本に住んでいた時に使われていた外来語の全般は、この世界ではまったく通じないんだよな…。

フレイアは、頭の上に『?マーク』を浮かべたように首をかしげると、納得のいかないような顔で俺を見ながら、少し頬を膨らませて睨んできた。…可愛いけど。

「え…なに」

恥ずかしくてあまり直視できないので、視線を逸らしながら俺が問うと、フレイアはサッと前に向き直り、「別に」と言った。

…いったいなんなんだ。

俺がフレイアの行動の意図を理解できないままでいると、しばらくしてから再びフレイアが話し始めた。

「それで、私の役職は最上位職である『魔道士』なんだけど、今はこうして放浪者として活動しているの。…記憶喪失じゃないって点だけを抜けば、あなたと同じね」

そう言って、ふふ…と小さく笑いながら、被っている黒いトンガリ帽子のつばをキュッと掴むフレイア。
その横顔は笑っているようで、どこか悲しんでいるようにも思えた。

そして俺は、先程のフレイアの言葉を思い出してあることに気づいた。

「俺と同じ放浪者ってことはつまり、フレイアも無職ってことだよな」

すると、それまでどこか遠くを見ていたフレイアの顔が、急に沸騰したように赤くなった。

「ち、違うわ?!ちゃんとお仕事はしてるの!……仕事というか、半分お手伝いみたいなものかもしれないけど、それでもちゃんとお金は稼いでるし!」

フレイアはそう言って必死に訴えてくるが、ここまで必死になっているということは、少なくとも半分以上は図星だったのだろう。

「なぁ、さっき役職は魔道士って言ってたけど、この世界の魔法使いはどいつもこいつも放浪して世界中を旅してるのか?あんま詳しくは分からないけど、その役職ってのは、実際ただの肩書きみたいなものなんだろ?それなら、重要なのはその中身なんじゃないか?」

「わあああぁーーー!!たしかに、たしかにそうだけど!」

うん、今度は完全に図星だったらしい。

俺は、叫び声をあげながらキーキーしているフレイアを見てそう確信すると、役職の『中身』を知るために、各役職ごとの『職業』について質問してみることにした。

「なぁフレイア、役職についてはだいたい分かったから、それぞれの役職ごとに行う職業について知りたいんだけど」

俺が質問すると、フレイアは赤くなった顔を見られたくないのか、再び帽子のつばを引っ張って顔を隠し、一度コホンッ!と大きな咳払いをしてから言った。

「…えっと、役職ごとの職業よね?…そうね…じゃあまずは、最下位職の『市民』からだけど、主な職業は『商業』と『農業』ね。その他にもいくつかあるけど、市民の職業はその二つが主流ってとこかしら」

「ふむふむ、やっぱ平民のジョブは王道だな。奴隷徴兵制度とかなくて安心したぜ」

「…え?なんだかよく分からないけど、世界中の約八割の人は『市民』だから、適性検査で最下位職になっても落ち込むことはないから安心して」

俺は、フレイアのその言葉に何か違和感を感じた。

「ちょい待って、今なんて?」

俺はその違和感を突き止めるため、フレイアにリピートを促す。

「え?世界中の約八割は市民だから…」

「その後!」

「えぇっと…最下位職でも落ち込まないでって…」

「それだっ!!」

「えっ!?」

違和感の正体を掴み、俺はつい大声で叫んでしまった。突然の叫び声に、フレイアが驚いたように肩をビクつかせる。…これは失礼しました。

「あ、ごめん。いきなり大声出して」

「大丈夫よ。それより、いきなりどうしたの?何か思い出した?」

…ちょ、顔が近い!

心配そうに顔を近づけてくるフレイアに、俺は心臓をドキンと跳ね上げながらも、正気を取り戻すため拳に力を入れる。

「い、違和感を感じたんだよ」

どぎまぎした俺の言葉に、フレイアは首をかしげながら、「違和感?」と呟いた。
俺はそれを肯定するように頷いた後、先程のフレイアの説明の中で感じた『違和感』の正体を、ゆっくりと話し始めた。

「あれだ、えっと。…なんで役職が『市民』に決定したら落ち込むんだ?」

そう、フレイアは先程、最下位職になっても落ち込むなと言ったのだ。
これはつまり、自身の役職が最下位職である『市民』に決定すると、一般的には気をへこませる者が多いということを意味する。俺はそこに違和感を覚えた。

そもそも、最下位職とはいったいなんだ。まるで、最初から相手にされない最下層の労働者みたいな扱いじゃないか。彼らだって懸命に働いているだろうに。

「そもそもなんで役職に優劣が存在するんだ?」

純粋な疑問を抱き、その解を求めて問う。それを受けてフレイアは、少々戸惑ったように考え込んだ後、真剣な表情で俺を見て言った。

「…あんまり深く考えたことないけど、その二つに共通して言えることは、王への貢献度が関係してるってことね」

そのあまりにも些細な理由に、俺は思わず腑抜けた声を漏らしてしまった。

「なんじゃそりゃ」

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