豪運と七つ星

ノベルバユーザー257653

2-3 記述『ぬるま湯には浸かれない』

プリントを見て柊は絶句する。これは何の冗談だ。心臓に悪い。
さっと後ろを振り返る。後ろのやつは両肘を机について、プリントを掲げてそれを読んでいる。前の席の柊から見れば、プリントの裏面がよく見えるような恰好で。


(やはり、裏は白紙か。となると、俺だけなのか。)


柊はプリントを裏が内側になるように丁寧に畳んだ。
朝礼が終わるとすぐに、畳んだプリントをポケットに入れて立ち上がる。
向かうは誰にも邪魔されない場所、一人で集中できる場所ーー


トイレだ。


なるべく怪しまれないよう、走りたいのを我慢して平然を装って歩く。
それでも柊の歩幅は大きく、そして速度は自然と上がってしまう。


どうなってんだ、これはーー!




   *   *   *




トイレの個室で、柊は大急ぎでプリントを取り出す。畳んだのを開くのももどかしい。


(選ばれし七人の人類よ、汝に力を授けよう。このメッセージは世界中から選ばれし七人に配られている。下に記されている七つの力から一つ好きな力を選べ。それが汝の力となろう。ただし、既に他の人が選んだ力は選択出来なくなっている。神。)




ーーは?意味わかんねぇよ!




記されている文章の一部を読み、柊は叫びたくなるのを必死に堪える。なんなんだよ、俺はこういうことに巻き込まれる運命なのか!?ーーと。いやそれよりもこれは何かのイタズラということはないだろうか。このプリントはゴリラが配ったもので、前から回ってきた。プリントを配る短い間で、前の席のやつがこんな長い文章を書けるはずが無い。となると工作できるのはゴリラーーいやそんなことはしないだろう。第一、この紙に浮かび上がるかのように刻まれた青い文字は、人間の為せる技ではない。それより続きだな、と柊はさらに下へと目を走らせる。
能力リスト…か。なるほど…




(①降臨:神との会話と一時的な憑依を行う。
②治癒:生物の治療や物体の修理を行う。
③読取:他人の思考や記憶を読み取る。
④取寄:思い描いた物体を手元へ引き寄せる。
⑤変革:言葉にした内容を現実化する。
⑥強化:自身の身体能力を調整できる。
⑦超人:物体を自由に動かせる。)




…うーん、変革には聞き覚えというか身に覚えがある。というかあの能力は上に書いてあることが全てじゃない。勿論間違ってはいないが…同一内容不可、とか人類の可能な範囲まで、とか寿命を削る、とかいう制限がついた筈だ。となると他の能力もそういった類の制限を伴っていると見るのが妥当か。どれにすればいいんだ…というか選ばなければならないのだろうか。


悩んでいると、②に書かれていた文章の青色がすっと薄くなった。そして相次いで③⑥⑦と薄くなる。柊は直感する、誰かがこれらの力を選んだのだと。自分も早く決めなければ…残された力は①④⑤。⑤はもういい、寿命を削る力などいらない。というかそもそも超能力なんて要らないんだ。選ばなかったらそれでいいんじゃ…しかし柊の望みは下の文章で砕かれる。


(選択しなかった場合はこちらで決める。)


くそ…!それなら自分で選ぶ方がいい!とりあえず“変革”はない!そしたら二択…“降臨”か“取寄”。いや“降臨”は明らかに代償がヤバそうだ。憑依させれば“変革”以上の事が出来るんだろう、“変革”以上のペナルティがあっても不思議じゃない。となると…“取寄”…?なんか他のに比べると地味な力だが、その分ペナルティも少ないだろう。それに歩かずに物が取れるならそれはそれで便利だしーー




ーー俺は④取寄を選ぼう!




そう決心した時、④の文章が赤色に光った。
これは力が自分のものになったという事だろうか。
柊はプリントを眺める。まだ読んでいない箇所があった。




(一ヶ月後、11月1日に上記の力を手にした七人で、バトルロワイヤルを開催する。こちらで会場は用意し、時間になり次第汝らを招待するので、準備しておくように。以上。)




………え。神は何を考えているんだ。
そうだ、証拠に…
柊はスマホを取り出し、カメラを起動させる。
そして神のメッセージを写真に収めようとシャッターを切る。


カシャッ。


小さな音がして、撮影した画像を確認する。しかしそこには白い紙が映っているだけで、文字など何一つ書かれていなかった。


バカな…!
柊は紙面に視線を戻す。
そこにはただ白い紙が存在しているだけだった。
青い文字など、最初から存在していなかったかのように、ただの白が横たわっていた。


柊はプリントを元のように畳むと個室を出て、トイレを後にした。
「ちゃんと流せよ」と誰かの呟きが聞こえた。

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