豪運と七つ星
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突き出される無数の刃は空を切る。異様に長い前髪を揺らして2は軽いステップで華麗に避ける。25番目にこの部屋を訪れた男の刃は、2に当たる気配すらない。挑戦者よりも華奢で、しかもこちらをきちんと見てもいないような相手なのに、当たらない。
「なんなんだテメェは!」
突如、視界から忽然と2の姿が消えた。どこに消えたと確認する前に、握っていたナイフが手から失われている事に気がつく。
後ろから髪が掴まれ、引っ張られる。喉元に冷たい点が当てられた事から、相手は一瞬で後ろに回り込んでナイフを奪った上、自分の喉にナイフを突き立てているのだと悟る。
「なんだよこれ!テメェ、能力者か!」
「超能力…か、残念ながら俺は能力者じゃねぇ。これは単なる肉体の動きだ。」
挑戦者は言葉を失う。これが能力じゃなく、肉体のみの動きと言うなら…勝ち目がない。勝負を挑むなどもっての外だ。突きつけられる殺意にただ怯え、震えることしかできない。
「はぁ…お前、不合格だ。」
ため息混じりに残念そうに呟く銀髪の男に、何がーーとは聞けない。
聞こうとする前に、首が切断されたからだ。
回転する視界の中で銀色がもう一度呟く。
「不合格だ。」
転がる頭に無慈悲な靴底が迫りーー
挑戦者は死んだ。赤く染まった灰色の部屋に、ゴミを見るような2と、元々は繋がっていた頭と胴体の残骸。
2は深くため息をつくと、足元の挑戦者の頭を足で弄びながら、たった一つの扉に声をかける。
「終わったぞー。」
その声を待っていたかのように扉が開いた。そこから覗くのは四つの顔。どことなく不安げに2を凝視する彼らに、2はニヤリと笑って結果を告げる。
「安心しろや。No.25は不合格だぜ。」
全員がホッと胸を撫で下ろす。そして緊張の糸が切れたかのように話し出した。
「ホント勘弁して欲しいっスよ〜次は自分の番かも〜ってヒヤッヒヤしてんスから〜。」
「別にナンバーが強さ順って訳でもねぇんだぜ?そう怖がるなよNo.7。」
「あらあら。でも7さんはやり口が汚いって有名ですからね?本当に次はあなたかもしれないわね?殺されちゃうのよ、可哀想…」
「うるさいっスよ、それならアンタも性格が汚いから気を付けた方がいいんじゃないっスかね。」
「あらあら、面白い冗談ね。」
「冗談のつもりは無いっスけど〜まあ、そういうとこ嫌いじゃないっスよ。」
「あらあら。好かれるのも困りものね。私の美貌にメロメロなのね。」
実際彼女ーーNo.4は美人だった。ボリュームのある、ウェーブがかった茶髪を腰のあたりまで伸ばし、起伏に富んだ女性らしい体躯を包んでいる。どことなく気怠げな雰囲気を纏っているものの、そこが逆に穏やかさを醸し出しており、彼女の悪戯めいた口調も相まって男は自然と彼女に目を奪われてしまう。
「でも、ここにいるってことはみんな大罪人。私も含めて正常な人はいないのよね。」
そんな彼女は物憂げな表情で呟く。その場にいる全員が納得したように静かに顎を引いた。
「信じがたい事ですがね。こうして普通に喋っているのに。」
「そうだなNo.5。お前の場合は…いや言ってもしゃーないや。今アジトにいるメンツ全員此処にいんのか。ボスと…仕事行ってるNo.3以外。」
「ボスってどこ行ってるんスか?全然ってか自分一度も見た覚えないんスけど。」
「あらあら。そういえば私も見たことないですね〜。」
「あたしは初期メンバーだから知ってるわ。」
「私もそうですね。」
「俺も初期メンだし知ってる。つか知ってるの初期メンだけっしょ。初期メンで存命なの、俺No.2と、No.5、No.6の三人だけだしよ。ボスがどこで何してんのかは俺も知らねぇが。」
「2も知らないんですか。」
「あ?知らねぇなNo.5。俺に丸投げしたっきり帰って来ねぇ。心配…はいらねぇな。ボスだし。」
「でもどんな人かは超気になるっスよー!どんな人なんスか?」
「そうだなNo.7、なんつったらいいかなぁ、って人説明すんのってムズくね?」
そうは言いつつもなんとか言語化しようと2は頭を捻る。そして再び口を開こうとしたその時、目の前の灰色の壁が大きく歪んだ。
「…!随分と間隔が短けぇじゃねぇか。そんなホイホイ送んじゃねぇよ。」
苛立ちの声を上げて壁を睨む2と、一方でぞろぞろと部屋を後にする男女四人ーー4、5、6、7。
番号は強さ順ではないが、来訪者のテストを行うのは2の役目だった。“七星”の定員は七人。これは絶対だ。つまり、来訪者が合格した場合ーー誰かが抜けなければならない。
これは死を意味する。
来訪者か、“七星”のメンバーの一人のどちらかが必ず死ぬ。
そういうルールなのだ。
先程No.25の合否を皆が気にしていたのはそういった理由からだ。
もし“七星”の誰かが来訪者と交替する場合、来訪者がそのナンバーを今後名乗る事になる。初期メンバーでまだ残っているのはボス(1)、2、5、6の四人。残りの三人は初期メンバーだった他の三人が順繰り順繰り変わってきた結果なのだ。
だからナンバーは強さ順ではない。
そもそも、“七星”は強さを求める集団では無いのだが。例え審査官の2より弱くとも、入団を許可された人もこれまでにはいる。2が「現存するメンバーより有望」と感じれば交代は成立するのだから。
2は壁に生じた紫の渦をじっと見ている。
一日、いや一週間に二人も来訪することはこれまで無かった。だからこんなに早く次ーーNo.26が来るとは予想外すぎた。
「どうもー!No.26と名乗れ、と言われました。」
渦から現れた人間は、飄々と告げる。2はその姿を見て大きく目を見開いたーー目を見開いた様子は長い前髪で誰にも見られることはないのだがーー。2はその人間を知っていた。いや、直接見た事はないーーないはずの男。それでも知っている。読んだことがある。描かれているのを見たことがある。
「お前っ…まさか…っ」
「こんにちは。僕の名前は木戸照也。もっとも僕の事は覚えてないだろうけどね。」
「…」
「どうして君が生きているのか疑問だよ、No.2。いいや、可能性としてはあるのか、でも僕の事を忘れてるって訳でも無さそうだし…どういうことだろ?」
「…」
「あーーもしかしてさ、No.6、水城姫香も生きてるのかな??」
2はその言葉を聞いて固まった。無神経だ。あまりに傲慢だ。
腹の底から湧き上がるような怒気を力に変える。
こいつは…強い。それでも、俺の全てを賭けてでもーー
「お前は挑戦者じゃねぇ!!敵として、この俺が!!!ぶっ殺す!!!!」
前髪の隙間から鋭い眼光がNo.26ーー木戸照也を射抜く。
その殺意を前にして、その来訪者は飄々としてーー嗤った。
「なんなんだテメェは!」
突如、視界から忽然と2の姿が消えた。どこに消えたと確認する前に、握っていたナイフが手から失われている事に気がつく。
後ろから髪が掴まれ、引っ張られる。喉元に冷たい点が当てられた事から、相手は一瞬で後ろに回り込んでナイフを奪った上、自分の喉にナイフを突き立てているのだと悟る。
「なんだよこれ!テメェ、能力者か!」
「超能力…か、残念ながら俺は能力者じゃねぇ。これは単なる肉体の動きだ。」
挑戦者は言葉を失う。これが能力じゃなく、肉体のみの動きと言うなら…勝ち目がない。勝負を挑むなどもっての外だ。突きつけられる殺意にただ怯え、震えることしかできない。
「はぁ…お前、不合格だ。」
ため息混じりに残念そうに呟く銀髪の男に、何がーーとは聞けない。
聞こうとする前に、首が切断されたからだ。
回転する視界の中で銀色がもう一度呟く。
「不合格だ。」
転がる頭に無慈悲な靴底が迫りーー
挑戦者は死んだ。赤く染まった灰色の部屋に、ゴミを見るような2と、元々は繋がっていた頭と胴体の残骸。
2は深くため息をつくと、足元の挑戦者の頭を足で弄びながら、たった一つの扉に声をかける。
「終わったぞー。」
その声を待っていたかのように扉が開いた。そこから覗くのは四つの顔。どことなく不安げに2を凝視する彼らに、2はニヤリと笑って結果を告げる。
「安心しろや。No.25は不合格だぜ。」
全員がホッと胸を撫で下ろす。そして緊張の糸が切れたかのように話し出した。
「ホント勘弁して欲しいっスよ〜次は自分の番かも〜ってヒヤッヒヤしてんスから〜。」
「別にナンバーが強さ順って訳でもねぇんだぜ?そう怖がるなよNo.7。」
「あらあら。でも7さんはやり口が汚いって有名ですからね?本当に次はあなたかもしれないわね?殺されちゃうのよ、可哀想…」
「うるさいっスよ、それならアンタも性格が汚いから気を付けた方がいいんじゃないっスかね。」
「あらあら、面白い冗談ね。」
「冗談のつもりは無いっスけど〜まあ、そういうとこ嫌いじゃないっスよ。」
「あらあら。好かれるのも困りものね。私の美貌にメロメロなのね。」
実際彼女ーーNo.4は美人だった。ボリュームのある、ウェーブがかった茶髪を腰のあたりまで伸ばし、起伏に富んだ女性らしい体躯を包んでいる。どことなく気怠げな雰囲気を纏っているものの、そこが逆に穏やかさを醸し出しており、彼女の悪戯めいた口調も相まって男は自然と彼女に目を奪われてしまう。
「でも、ここにいるってことはみんな大罪人。私も含めて正常な人はいないのよね。」
そんな彼女は物憂げな表情で呟く。その場にいる全員が納得したように静かに顎を引いた。
「信じがたい事ですがね。こうして普通に喋っているのに。」
「そうだなNo.5。お前の場合は…いや言ってもしゃーないや。今アジトにいるメンツ全員此処にいんのか。ボスと…仕事行ってるNo.3以外。」
「ボスってどこ行ってるんスか?全然ってか自分一度も見た覚えないんスけど。」
「あらあら。そういえば私も見たことないですね〜。」
「あたしは初期メンバーだから知ってるわ。」
「私もそうですね。」
「俺も初期メンだし知ってる。つか知ってるの初期メンだけっしょ。初期メンで存命なの、俺No.2と、No.5、No.6の三人だけだしよ。ボスがどこで何してんのかは俺も知らねぇが。」
「2も知らないんですか。」
「あ?知らねぇなNo.5。俺に丸投げしたっきり帰って来ねぇ。心配…はいらねぇな。ボスだし。」
「でもどんな人かは超気になるっスよー!どんな人なんスか?」
「そうだなNo.7、なんつったらいいかなぁ、って人説明すんのってムズくね?」
そうは言いつつもなんとか言語化しようと2は頭を捻る。そして再び口を開こうとしたその時、目の前の灰色の壁が大きく歪んだ。
「…!随分と間隔が短けぇじゃねぇか。そんなホイホイ送んじゃねぇよ。」
苛立ちの声を上げて壁を睨む2と、一方でぞろぞろと部屋を後にする男女四人ーー4、5、6、7。
番号は強さ順ではないが、来訪者のテストを行うのは2の役目だった。“七星”の定員は七人。これは絶対だ。つまり、来訪者が合格した場合ーー誰かが抜けなければならない。
これは死を意味する。
来訪者か、“七星”のメンバーの一人のどちらかが必ず死ぬ。
そういうルールなのだ。
先程No.25の合否を皆が気にしていたのはそういった理由からだ。
もし“七星”の誰かが来訪者と交替する場合、来訪者がそのナンバーを今後名乗る事になる。初期メンバーでまだ残っているのはボス(1)、2、5、6の四人。残りの三人は初期メンバーだった他の三人が順繰り順繰り変わってきた結果なのだ。
だからナンバーは強さ順ではない。
そもそも、“七星”は強さを求める集団では無いのだが。例え審査官の2より弱くとも、入団を許可された人もこれまでにはいる。2が「現存するメンバーより有望」と感じれば交代は成立するのだから。
2は壁に生じた紫の渦をじっと見ている。
一日、いや一週間に二人も来訪することはこれまで無かった。だからこんなに早く次ーーNo.26が来るとは予想外すぎた。
「どうもー!No.26と名乗れ、と言われました。」
渦から現れた人間は、飄々と告げる。2はその姿を見て大きく目を見開いたーー目を見開いた様子は長い前髪で誰にも見られることはないのだがーー。2はその人間を知っていた。いや、直接見た事はないーーないはずの男。それでも知っている。読んだことがある。描かれているのを見たことがある。
「お前っ…まさか…っ」
「こんにちは。僕の名前は木戸照也。もっとも僕の事は覚えてないだろうけどね。」
「…」
「どうして君が生きているのか疑問だよ、No.2。いいや、可能性としてはあるのか、でも僕の事を忘れてるって訳でも無さそうだし…どういうことだろ?」
「…」
「あーーもしかしてさ、No.6、水城姫香も生きてるのかな??」
2はその言葉を聞いて固まった。無神経だ。あまりに傲慢だ。
腹の底から湧き上がるような怒気を力に変える。
こいつは…強い。それでも、俺の全てを賭けてでもーー
「お前は挑戦者じゃねぇ!!敵として、この俺が!!!ぶっ殺す!!!!」
前髪の隙間から鋭い眼光がNo.26ーー木戸照也を射抜く。
その殺意を前にして、その来訪者は飄々としてーー嗤った。
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