シルバーブラスト Rewrite Edition

水月さなぎ

7-5 釈放、そして反撃準備


 レヴィにとって予想外だったのは、早すぎるマーシャの行動だった。

 もう少し檻の中に居る事になるだろうと予想していたし、その覚悟もしていたのだが、入って三日後には外に出られる事になったのだ。

 看守の不機嫌そうな声は実に不本意だと言いたげであり、それでも釈放だとぶっきらぼうに告げられた時は唖然としたものだ。

 檻から出て看守について行き、ピアードル第一刑務所の外に出た時は、シャバの空気は実にいいものだなぁ、と自分で笑いたくなった。

 ほんの数日で本格的な囚人の気持ちになっていたのがおかしかったのだ。

 太陽の光が眩しくて眼を細めていると、すぐ目の前には猛獣が居た。

「………………」

 もとい、マーシャがいた。

 怒りのオーラを噴き上げながら仁王立ちでふんぞり返っている自分の恋人を見て、ちょっぴり逃げ出したくなってしまった。

 他の奴らは誰も来ていない。

 二人きりにさせてやろうという気遣いなのか、それとも今のマーシャに近付きたくなかっただけなのか。

 恐らく理由は後者なのだろうなぁ、と思いながらも二人きりになれるのは嬉しかったので、素直に感謝しておいた。

「よう。久しぶり……ってほどでもないか」

 レヴィがそんなマーシャを見て片手を挙げて挨拶をする。

 別れてから四日ほど経過しているが、たったそれだけの間でも随分と寂しかった。

 あのもふもふに触れないのがこんなにも辛いとは自分でも予想外だ。

 一週間ぐらいは我慢出来るつもりだったが、この日に出して貰えなければ禁断症状が出るところだった。

 これぞまさしく麻薬だ、と内心で呆れつつも、そんな自分に満足していた。

 しかし会えて嬉しいのは確かなのだが、その前に怒れる猛獣を宥めるという大仕事が待っている。

 怖いので逃げ出したいのだが、そういう訳にもいかない。

 やや怯んでいるレヴィにずかずかと歩み寄り、マーシャはむくれた表情で迫ってくる。

「簡単に捕まるな、馬鹿」

 怖いオーラが一転して、ふて腐れたものになる。

 寂しい気持ちを味わっていたのはマーシャも同じなのだと思うと、急に愛おしくなった。

「悪かったよ」

 ぎゅーっと抱きしめてからその頭を撫でてやる。

 残念ながらカツラで耳は隠れているが、それでも久しぶりに触れたマーシャの体温が嬉しかった。

「それにしてもどうやって俺を釈放されたんだ?」

 麻薬の事だけではない。

 スターウィンドの事もあるのだ。

 その技術を手に入れる為にも、レヴィという切り札は簡単に手放さないと思っていたのだが、しかしどんな手を使ったのか、マーシャはあっさりとレヴィを取り戻したのだ。

 そんなレヴィの質問にマーシャは得意気に返答した。

「ふふん。もちろん正面から交渉したとも」

 大胆不敵、という言葉が相応しい無敵全開態度だった。

「具体的には?」

「クロドを売った」

「売ったっ!?」

 物騒な物言いにぎょっとするレヴィ。

「あ、間違えた。警察に引き渡した、だった」

「同じだろうがっ! 何やってんだよっ!」

 せっかく助けたのにどうしてそんなことをするんだっ! と憤慨するレヴィだが、マーシャの方はびくともしなかった。

「文句を言われる筋合いは無いぞ。元々はクロドが騙されたのが原因なんだ。その所為でこっちまで巻き込まれていい迷惑なんだ。命は助けてやったんだから、これ以上庇ってやる理由も無いし、そんな義理も無い。少なくとも私には」

「それはそうだろうけど……」

 マーシャは自分達が巻き込まれた事よりも、レヴィが逮捕された事に腹を立てていた。

 その気持ちは嬉しいのだが、しかしはいそうですかと引き下がる訳にもいかない。

 レヴィは弱り切って盛大なため息をついた。

 冤罪だと分かりきっているのだから、せめてもう少し庇ってやって欲しかった、というのがレヴィの希望だった。

 しかしマーシャの気持ちも分かるので、これ以上責めるのも酷だった。

 レヴィだって巻き込まれた事自体には腹を立てているし、その面ではクロドに文句を言いたい気持ちもある。

「レヴィの気持ちも分からなくはないけど、でも私にとってはレヴィを取り戻す事の方が大事だから、他は知らない」

「………………」

 気持ちは嬉しいのだが、しかしこのままクロドを見捨てるのも目覚めが悪い。

 どうしたものかと悩んでいると、マーシャがやれやれと肩を竦めた。

「分かってる。私もこのままにしてやるつもりはない。落とし前はきっちりとつけてやる」

「……あははは。そりゃ助かる」

 物騒に唸りながらそんなことを言うので、頼もしいと思うべきか、恐ろしいとドン引きするべきか、少し悩んでしまう。

 しかしレヴィもこのままで済ませるつもりはなかった。

 どういう意図があったとしても、こんなやり方で自分達を陥れようとした相手には、きっちりと落とし前を付ける。

 それがレヴィの決意だった。

 マーシャもそんなレヴィの決意を理解してくれているからこそ、協力の意志を示してくれているのだろう。

 彼女が本気になれば鬼に極大金棒だ。

 心強いが、同時に恐ろしくもある。

「さあ、早く帰ろう。オッドが腕によりをかけて出所祝いの料理を作ってくれているぞ」

「それは楽しみだ。でももう少し待ってくれ」

「?」

 本音を言えば早く戻りたかったレヴィだが、しかし少しだけ耐えた。

 ピアードル第一刑務所の食事は『飯』というよりも『餌』と表現したくなるような有様で、腕のいい料理人のお陰で贅沢に慣れてしまったレヴィにはかなり辛かったのだ。

 正直なところ、檻の中に閉じ込められた事よりも、食事の酷さの方に心が折れそうになった。

 贅沢に慣れるとこういう時に辛いな、と涙が滲んでしまったのは内緒だ。

 悲しくなるほど侘しい餌を口にしながら、美味しいものぷりーず、と切実に焦がれていただけに、ここですぐにでも帰りたくなる気持ちと奮闘していた。

「何故だ?」

 そんなレヴィの葛藤を知らないマーシャは不思議そうに首を傾げている。

「ちょっと野暮用というか。知り合いがもうすぐ出てくると思うから、挨拶だけでもしておきたいんだよ」

「知り合い?」

「ああ。檻の中で知り合った」

「犯罪者なのか」

 レヴィのような冤罪で檻の中に入れられるのを除けば、その他は何らかの罪を犯してそこにいる犯罪者だ。

 どんな理由であっても、悪意から他人を踏みにじるような人種に対しては、心から軽蔑するマーシャだったので、レヴィに対しても少しだけ非難がましい視線を向けている。

 そんな奴に会いたいと思う理由が分からないと言いたいらしい。

「まあ一日で十二人ぐらいぶっ殺したらしいから、凶悪と言えば凶悪なんだが、一応は正当防衛だから、悪意の犯罪者とも言えないぜ」

「………………」

 どうやらちゃんとした理由があるらしいと分かって、マーシャも表情を緩める。

 人殺しに関しては他人を責める資格など無い。

 マーシャもレヴィも、沢山の人間を殺してきたのだから。

「自衛としての殺人だけど、八年も檻の中に居たらしい」

「自衛なら仕方無いな。というよりも殺すのが当然だろう。敵を生かしておいたら、その後が危険だ」

「マーシャも結構物騒な考え方してるよな」

「物騒な世界で生きてきたんだから、考え方が物騒になるのは当然だ」

「リーゼロックに行ってからは結構平和じゃなかったのか?」

「もちろん平和だったさ。でもレヴィに再会する為に、自分から危ない方に首を突っ込み続けたからな」

「………………」

 気持ちは嬉しいのだけれど、そう言われるとレヴィの所為だと言われているみたいで複雑だった。

「まあ俺も人のことは言えないけど」

 軍人として生きてきた時代だけではなく、運び屋として生きてきた時間も、それなりに物騒なことに巻き込まれ続けたのだ。

 自然と物騒な考え方になるのも当然だった。

 似たもの同士の二人なので、こういう部分は共感出来る。

「とにかく、今後の落とし前を付ける為にも、あいつとのパイプは保っておきたいんだ」

「誰なんだ?」

 マーシャが問いかけると、その目の前を黒塗り高級車が横切った。

 高級車は刑務所の門の前で止まった。

 そして車の中から出てきたのは、美少女と形容するに相応しい存在だった。

 年齢は十六歳ぐらいで、意志の強い瞳をしている。

「うわ。すげえ可愛いな」

「………………」

 レヴィは素直な感想を漏らすと、少しだけマーシャがむくれた。

 しかしその美少女を見ると、マーシャも息を呑んだ。

「本当に可愛いな」

 緋色の和装があつらえたように似合う美少女だった。

 一部を下ろして綺麗に結い上げている黒髪はとてもつややかで、揺れる黒が水の流れのように美しい。

 静謐さを感じさせる黒い瞳は宝石のような煌めきと、そして揺らめきがある。

 思わず守ってあげたくなるような儚さと、つい従ってしまいたくなるような威厳、その二つが矛盾無く同居している。

 なんとも不思議な美少女だった。

 そしてレヴィが面白そうに口元を吊り上げる。

「恐らくあの子が飼い主だな」

「飼い主?」

 意味が分からないマーシャは再び首を傾げる。

「飼い犬を迎えに来たんだろうよ」

「飼い犬?」

 さっぱり意味が分からない。

「ここには人間だけではなく犬まで収容されているのか? そもそも犬って逮捕出来るのか?」

「いや、まあ、生物学的には、一応人間なんだけどな……」

 返答に困ったように頭を掻きながらも、面白がっている様子のレヴィを見てマーシャが不思議そうにしている。

「あいつ、自分のことを『犬』って言ってたから」

「………………」

「しかも嬉しそうに」

「………………」

 マーシャは今すぐレヴィを引き摺って帰りたくなってきた。

 たとえ必要に迫られようとも、自分のことを嬉々として『犬』呼ばわりするような奴とのパイプなど持ちたくはない。

 本気で帰ろうかと考えた時、刑務所から一人の青年が出てきた。

 あの美少女ほどではないが、なかなかに整った顔立ちをしている。

 まさかアレが『犬』なのか……と内心でビクビクしていると、

「お嬢ーっ!!」

 その青年が美少女に向かって飛びかかった。

 ものすごく嬉しそうな表情だ。

 この時のマーシャは確かに見た。

 青年の頭に生える犬耳と、そして激しく振られる犬尻尾を確かに幻視したのだ。

 八年ぶりに再会する飼い主を前にして犬は大喜びし、そして飼い主は……

「ぐはっ!!」

 殴った。

 思いっきり腰の入った素晴らしいパンチを、犬青年・タツミに食らわせたのだ。

 容赦無く顔面を殴られたタツミは、一メートルほど後方に飛ばされた。

 華奢な身体なのに凄まじい威力だった。

 しかし殴られたタツミはへこたれない。

 すぐに起き上がり、再び美少女に突撃。

「お嬢、強くなったな~。でもこれからは俺が護ってやるから、あまり強くなくてもいいんだぞ~」

 美少女を抱きしめて頭をなでなでするタツミ。

 最初は容赦無く殴った美少女だが、タツミにそうされるのは嫌ではないらしく、不機嫌な表情をしながらも大人しく撫でられている。

「冗談じゃないわよ。もう二度と、タツミに大量殺人なんかさせるつもりはないんだからね」

 むくれながらもそう言う美少女。

 彼女こそが犬の飼い主……もといピアードル大陸北部の盟主であり、キサラギ一家の当主でもあるランカ・キサラギだった。

 弱冠十六歳にして数多の肩書きを持つこの少女は、幼い頃に自分を護ってくれたタツミ・ヒノミヤに対しては全幅の信頼を置いていた。

 たとえ八年間一度も会いに来なかったとしても、彼女は彼をずっと信頼していたのだ。

 自分が会いに行かなくても、必ずもう一度戻ってきてくれると、一度も疑わなかったのだ。

 そしてかつての過去を悔やんでいる。

 力が足りない所為で、弱かった所為で、タツミに人殺しをさせてしまった。

 もう二度とあんなことはさせないと、自分自身に誓っていた。

 マフィアである以上、他の組織との殺し合いは避けられない。

 しかし自分を護る為にタツミに人殺しをさせるようなことは、絶対に容認出来なかった。

 彼一人だけが手を汚して、自分が綺麗なままでいることだけは耐えられなかったのだ。

 自分は護られる立場だ。

 それは理解している。

 だけど、それだけでは嫌なのだ。

 同じように手を汚す覚悟を決めて、護られるのではなく、隣に立って、一緒に戦う立場になりたい。

 大切な人が目の前で失われようとしているのに、何も出来ない自分には耐えられなかった。

 だからこそ、強くなろうと決めたのだ。

 しかしタツミの方は八年前と変わらない、へらへらした笑顔を見せてくれる。

 軽薄に見えるが、その裏には壮絶な覚悟があることをランカは知っている。

「別に気にしなくてもいいのに。俺はもう一度同じ事になったら、やっぱり同じようにすると思う。俺はお嬢を絶対に護るって決めてるからな」

「もう、護られるほど弱くないわよ」

「確かにさっきのはいいパンチだったな~。お嬢、いつの間に格闘技なんか習ったんだ?」

「それだけじゃないし」

「へえ? 何か面白いことでもやってるのか?」

「試してみる?」

「いやいや。俺はお嬢とは戦わないし。訓練でも絶対やだ。お嬢を殴ったり蹴ったり投げたりなんて冗談じゃない。あ、でも殴られたり蹴られたり投げられたりするのは大好きだから、遠慮無くやってくれていいんだぜ」

「………………」

 ランカがものすごく嫌そうな顔になった。

 そんな変態全開な台詞を嬉々として言われたのでは無理もない。

 はあ、と盛大なため息を吐いてから、素早く手を動かした。

「え?」

 ちくっとした感覚が身体のあちこちに襲いかかった、と思った時にはもう遅かった。

 タツミはその場に倒れ込む。

「え? え? ええっ!?」

 身体に力が入らない。

 というよりも動かせない。

 喋る事は出来るが、それ以外の行動を封じられてしまっている。

 信じられない、という眼でランカを見上げると、得意気に笑う飼い主の顔があった。

「これが八年間の間に身につけた新しい力よ。『針術』っていうの。身体のあちこちにあるツボを正確に攻撃する事により、致命傷を負わせたり、こうやって動きを封じたりする事が出来るの。もちろん、殺すこともね」

 最後の方はひやりとした殺気を纏わせながら言う。

 可憐な美少女に見えていても、彼女はマフィアの当主なのだ。

 これぐらいの物騒さは標準装備である。

「お嬢……これはちょっと……強くなりすぎ……」

 身体に全く力が入らないまま、恨みがましくランカを見上げながら言うタツミ。

 殴られたり蹴られたり投げられたりはむしろ嬉しいのだが、一方的に動きを封じられるのはちょっと切ない。

 八年間は思ったよりも長かった、という事らしい。

 一度も自分に会いに来ない間、一体何をやっていたのかと思ったが、まさかこんな物騒極まりないスキルを身につけていたとは……

 しかしランカはそんなタツミを見て誇らしげに胸を張っていた。

「もう、あんな真似はさせない。絶対にね」

「お嬢……」

 これが彼女の決意なのだと悟るには、十分すぎる力だった。



「随分と強い飼い主だな、タツミ」

 二人の様子を面白おかしく眺めていたレヴィが、倒れて動けないままのタツミへと声を掛ける。

 マーシャは少しドン引きした表情になっているが、それでもレヴィの横にくっついていた。

「よお、レヴィじゃないか。そう言えば先に出所したんだったな。随分と早いけど、裏技でも使ったのか?」

「俺じゃなくて、多分マーシャが使った」

「ふふん。その通りだ」

 横に居たマーシャがニヤリと笑う。

「……クロドを引き渡しただけじゃないのかよ?」

「それだけでスターウィンドの事まで知ったあいつらがレヴィを手放す訳がないだろう。あわよくば私達まで捕まえようとしていたぞ」

「簡単に捕まるようなマーシャじゃねえだろ」

「それはそうだが」

「それで、何をしたんだよ」

「金を払っただけだ」

「………………」

「惑星リネスの裏向きの法律では、殺人や傷害、誘拐などの凶悪犯罪以外なら、罪に応じて金を払えば釈放して貰える、というものがある。地元の人間にもあまり知られていない裏の法律だがな。しかし法律を見れば確かにそう書いてあるんだ。ものすごく目立たないようにしてあるが」

「いくら払った?」

「随分とふっかけられた。三百億ぐらい」

「………………」

 ふっかけすぎだ。

 マーシャの資産を考えればそれぐらいどうってことない金額だが、一般人からすればとんでもない金額であり、不可能だと言ってもいい。

 恐らく不可能だと考えてその額を提示したのだろうが、相手が悪かった。

 経済界の女王相手に金で交渉するなど千年早い。

「あっさりと支払ってやると向こうも真っ青になっていたな」

 クスクスと楽しそうに笑うマーシャ。

 ちょっぴりどころではなく黒い笑みだった。

 ざまあみろとか思っているのだろう。

「しかしスターウィンドのことまで知って、金だけで引き下がるか?」

「そこはリーゼロックの名前を出したら引き下がったな」

「……それは引き下がるだろうな」

 クロドを引き渡し、金もしっかりと払って筋を通した。

 更にはリーゼロックの権力まで表に出してきたのだ。

 辺境惑星の警察程度で相手になる筈がない。

 先に金を払い、リーゼロックの権力を敢えて後回しに利用したマーシャの狡猾さに曖昧な笑みを浮かべておくレヴィ。

 経済力を先に見せることで、リーゼロックの権力に説得力を持たせたのだろう。

 虎の……もとい狼の尾を踏んでしまったことに気付いて、今頃は頭を抱えているのかもしれない。

「なんか黒い会話をしているけど、そっちの美人さんをそろそろ紹介してくれないか?」

 二人の黒い会話を聞いて呆れているタツミだが、ただ者ではないことは理解したようで、少しだけ興味を抱いている。

「ああ、紹介するよ。彼女はマーシャ・インヴェルク。俺の大事なもふ……げふっ! もとい、仲間だよ」

 俺の大事なもふもふ……と言おうとしてマーシャに鳩尾を殴られ、渋々訂正するレヴィだった。

「初めまして。マーシャ・インヴェルクだ。レヴィが世話になったようだから一応礼を言っておく」

 犬相手にどういう態度を取ればいいのか悩んだマーシャだが、取り敢えず普通に挨拶をしておいた。

「タツミ・ヒノミヤでーす。ちなみにこっちにいるのが俺の飼い主であるお嬢だぜ」

「飼い主って言わないで」

 頭痛を堪えるようにこめかみを押さえるランカは、傍観姿勢から一転して優雅に一礼した。

「ランカ・キサラギと申します。この度は我が家の駄犬がお世話になったようで、お礼申し上げます」

「はあ……」

「どうも……」

 飼い主扱いするなと言う割には、普通に駄犬呼ばわりしているランカに対して、曖昧な返事をする二人。

 微妙な主従だと思ったのかもしれない。

「レヴィン・テスタールだ。よろしく、ランカさん」

 レヴィだけが名乗っていなかったので、最後に自己紹介をしておく。

 それからレヴィ達はここにやってきた経緯をランカに話した。

 人体強化タイプ麻薬の密輸については、確実にラリーが関係しており、そうなればキサラギにとっても無関係では居られないと判断したからだ。

 マフィア同士の抗争など、本来は関係無いと割り切るのだが、悪意によって巻き込まれた今回だけは話が別だ。

 レヴィがラリーを潰す為にタツミとのパイプを持とうとしたように、マーシャもランカとの関係を深めようとした。

 幸い、マーシャには金という武器がある。

 ランカが敵を潰す為に金が必要だというのなら、援助もするつもりだった。

 巻き込まれた事情を聞いたランカは深々と頭を下げた。

「貴重な情報をありがとうございます。ラリーの動きには極力気をつけていたつもりなのですが、そんな危険なものを利用しようと考えていた事までは知りませんでした。この情報が無ければ対応が遅れていたところです。改めてお礼申し上げます」

 楚々とした仕草で頭を下げるランカは、人形のように美しい。

 本当にマフィアの当主には見えない美少女だった。

 しかし頭を上げた時に見せた表情でその印象が一変する。

 黒曜石の瞳には冷酷な光が宿っていた。

 こんな汚い手段で自分達に牙を剥くつもりならば、こちらも一切の容赦をするつもりは無いという、強烈な意志を感じた。

「しかしそうなると貴方達の身が危ないですね。よろしければ当家に招きたいと思うのですが、如何でしょう?」

 キサラギ本家ならばセキュリティがしっかりしているし、身を護るのにも、ラリーの情報を得るのにも好都合な環境だ。

 確かに魅力的な申し出なのだが、今回はそうもいかない。

「気持ちは嬉しいけど、そういう訳にもいかない。私達は特殊な技術を持っていて、恐らく彼らはそれを狙っている。持ち船から目を離す訳にはいかないし、それに今回の件をこのままにするつもりはない。だから一旦この星の外に出て、詳しい事情を調べるつもりだ」

「麻薬の出所について調べるつもりですか?」

「ああ。まずはクロドの依頼人から当たってみる。そこから辿って行けば、大本に辿り着ける可能性が高い。どういう手口で彼を騙したのか、それを突き止められれば、麻薬の密輸そのものが止まるかもしれないし」

 正直そこまでしてやるのもどうかと思うのだが、自分達の事情でもあるし、もののついでなら構わないと考えるマーシャ。

「それでは出発前に是非とも当家へお越し下さい。こちらが持っている限りの情報をお渡ししましょう」

 マーシャがどうするつもりなのかを理解して協力を申し出るランカ。

 彼女は疑うということを最初からしないようだ。

「気持ちはありがたいが、もう少し疑った方がいいと思うぞ。それでは簡単に騙されてしまう。……まあ、今回彼らに騙された私達が言えるような事ではないけれど」

「お気遣いありがとうございます」

 しかしランカの方は優雅に笑うだけだった。

 その笑みはとても大人びているのに、顔立ちだけが幼いので不思議な魅力があった。

 同性であるマーシャでさえもドキドキしてしまう。

「これでもきちんと考えて言っているんですよ。今回は私達と貴方達の利益が完全に一致します。ですから共通の目的を果たすまで、貴方達に私達を騙す理由はありません。それは即ち、貴方達の目的を阻害する行動ですから。貴方達が自分達の首を大喜びで絞めるような被虐趣味ではない限り、あり得ない可能性でしょう?」

「なるほど。確かに私達がドMでは無い限り、あり得ない可能性だな。降参だ」

 マーシャが身も蓋もない言い方で両手を挙げた。

 考えるところはきちんと考えているらしい。

 若くてもやはり大家の当主ということなのだろう。

「今日の所は仲間が待っているから失礼させて貰おう。後日、必ず寄らせて貰う」

「ええ。お待ちしております」

 マーシャとランカは携帯端末で連絡先を交換した。

 これでいつでもお互いに連絡を取り合う事が出来る。

 レヴィも今回の目的は果たしたので満足した。

「よし。ホテルに戻ろうか、レヴィ」

「おう。オッドの料理早く食べたい」

「後でちゃんと謝っておけよ。言葉には出さなかったが、すごく心配していたんだからな」

「あいつは俺に対して過保護なんだよ。まあ、謝るけど」

 元部下なのに、どうしてもオッドが保護者のような感じになってしまう時がある。

 彼の方が年上である所為なのかもしれない。

 しかしレヴィはそういう関係が気に入っていた。

 マーシャは携帯端末でタクシーを呼ぼうとするのだが、それに気付いたランカが新たな提案をしてきた。

「よろしければ送りましょうか? こちらの車は広いので、席に余裕がありますし」

「なら、お言葉に甘えようかな」

 断るかと思ったが、マーシャは素直に応じた。

 タクシー代をケチったのではなく、ランカともう少し話してみたいと思ったのだ。

 マーシャは後部座席に乗り込む。

 レヴィはその隣に座った。

 そして忘れ去られたタツミが哀れを誘う声で呟く。

「お嬢~。そろそろ動けるようにして欲しいんだけど……」

 倒れたまま、そんな懇願をしてきた。

「あら。すっかり忘れて居たわ」

「酷いよ、お嬢……」

 本気で忘れていたらしいランカはタツミの傍にしゃがみ込んでから、胴体と足に刺していた針をすっと抜いた。

 どういう仕組みなのか、血は流れない。

 かなり深く差し込んでいたのに、ほとんど痛みを感じない。

 恐るべき技術だった。

 ようやく動けるようになったタツミは、ランカと一緒に車へと乗り込む。

 かなり大きな車で、後部座席は六人が向かい合う形になっている。

 正面の席に二人が座り、ランカの護衛と運転手は前座席についた。

 そして車が発進する。

 マーシャは予約しているホテルの名前を告げる。

「あら、コンフォース・ホテルに泊まっているんですね」

「そうだけど、知っているのか?」

「ええ。うちが経営しています」

「わお」

「何なら料金をサービスしましょうか?」

「お金には困っていないから大丈夫」

「そういえばリーゼロックの関係者でしたね。投資家もしているようですし、無用な気遣いでしたね」

「まあな」

「投資家ってそんなに儲かるのですか?」

「お金の流れが見えていれば、いくらでも稼げると思う」

「お金の流れって、どうやったら見えるのですか?」

「勘かな」

「……参考になりませんね」

 女性二人はそれなりに盛り上がっているようだった。

 美少女と美女が和やかに話しているのは、実に微笑ましい。

 目の保養になっているのでレヴィもご機嫌だった。

「久しぶりにお嬢が嬉しそうにしているのを見たなぁ」

 そんなランカを見てタツミも嬉しそうだった。

 どこまでも主人に忠実な犬である。

 十分も走らせると車はホテルの前に到着した。

「送ってくれてありがとう。明日また会おう、ランカ」

「ええ。こちらこそ楽しい時間を過ごさせてもらいました。もしご迷惑でなければお友達になってくださいな」

「私で良ければ喜んで」

 気さくなランカのことをマーシャも気に入ったようだ。

 マーシャとレヴィは車から降りてそのまま別れようとしたのだが、そのタイミングで大型トラックが彼らの前に突っ込んでこようとしていた。

「っ!!」

 真っ先に反応したのはマーシャだった。

 懐から銃を抜いてタイヤを撃ち抜く。

 バランスを崩した大型トラックが強制的に方向転換され、そのまま路上の柱にぶつかって倒れた。

 周辺にいた人たちは慌てて避難していたので、怪我人は出たが死人は出ていない。

 あの大型トラックは間違いなくマーシャ達のいる場所へと突っ込んでくるつもりだった。

 マーシャとレヴィ、そしてランカとタツミ、運転手と護衛を含む六人を殺すつもりだった事は明らかだ。

「お嬢は中にいろっ!」

 車の中にあった棒を手にして外に出るタツミ。

 険しい表情で大型トラックを睨み付けている。

 タツミの言葉に従った訳ではないのだろうが、ランカは大人しく車の中に居た。

 携帯端末で各所に連絡を取っている。

 怪我人の保護を指示しているのだろう。

 護衛二人も車から出て銃を構える。

 あれが自分達を狙ったものならば、これで終わりの筈が無い。

 倒れた大型トラックの中身、つまりボックス部分には襲撃用の人員が詰め込まれている筈だ。

 マーシャの銃撃でトラックごと倒れた為、中の人間もそれなりのダメージを受けているだろうが、行動不能にまではなっていないだろう。

 ノーダメージではない筈なので、襲撃されても十分に対応出来ると判断したが、それでも警戒態勢は崩さない。

 しかしその予想は半分当たりで、そして半分外れていた。

 そしてその半分が致命的だったことに、彼らはまだ気付かない。

「「「「「ウオオオオオオオオオオーーーーーーーッ!!!!」」」」」

 もどかしげにトラックの背後扉を開いて出てきたのは、血走った眼をした男達だった。

 ラリーの手先なのだろうが、どこか様子がおかしい。

 人数はざっと二十人ほど。

 たった六人を襲撃するにしては大掛かりすぎる。

 全員が銃を持っているが、ほとんど飾りとしか考えていないのか、それとも使うだけの理性が残されていないのか、獣のように叫びながらこちらへと向かってくる。

「なっ!?」

「何だあの速度はっ!?」

 護衛二人がぎょっとするのも無理はない。

 彼らの突進スピードは人間の限界を遙かに超えていたからだ。

 慌てて銃を構え直して狙いを付けるが、相手の動きが速すぎて照準を合わせられない。

「ちいっ!!」

 タツミだけがいち早く気付いた。

 これがレヴィから聞いた人体強化麻薬ミアホリックの効果なのだと。

 彼らは全員それを服用している。

 つまり普通の人間と考えて対応していたのでは、こちらが壊滅する。

 手に取った棒を素早く振り回す。

 普通に攻撃したのでは効果が無い。

 恐らくは痛覚もある程度無視出来るようになっているだろうし、半端なダメージを積み重ねたところで、ゾンビのように動き続けるだろう。

 棒の攻撃は正確に敵の関節部分を狙い打った。

 いくら強化していても、痛みを感じなくても、人体の構造上、関節部分を破壊されれば動けなくなる。

 意識はあっても、動けなくなれば無力化は可能なのだ。

 タツミの棒術は圧倒的で、強化された人間が相手でも互角以上に戦えていた。

 その動きを見たレヴィが愉快そうに口笛を吹く。

 強いとは思っていたが、予想以上だ。

 レヴィもマーシャも銃で応戦している。

 敵の動きが普通ではないと悟った時点で、接近戦は控えようと判断したのだ。

 どんな人間でも頭を撃ち抜けば死ぬ。

 それだけは人体強化麻薬を使用したところで、どうにも出来ない筈だ。

 だから二人は頭を狙い撃とうとしたのだが、タツミがそれを止めた。

「殺すなっ! その銃で関節を破壊しろっ! もしくは大量に出血する部分を狙えっ!」

「何故だ? この場合は正当防衛だろう?」

 タツミの制止にマーシャが疑問をぶつける。

 タツミの方は余裕が無いらしく、振り返らないまま言う。

「正当防衛でもこの人数を殺せば逮捕は免れないっ! 八年前の俺がそうだったっ!」

「……そうか。今は警察組織はラリーに牛耳られているんだったな」

「無茶を言っているのは分かっているっ! だが殺さなければ正当防衛ということでマスコミを利用して圧力を掛けられるっ! お嬢がそうしてくれるっ! だから出来るだけ殺さずに無力化しろっ!」

「了解だ。半殺しは?」

 状況を理解したマーシャが冷静に最終確認をする。

「大歓迎だっ!」

「よしっ!」

 そこでようやくマーシャも牙を剥いた。

 そして彼らの狙いも理解した。

 この襲撃はラリーによって計画されたものであり、マーシャ達、あるいはランカ達、もしくはその両方を狙ったものだと思われる。

 全員殺せればそれでよし。

 殺せなくても、こちらに殺人容疑を掛けられればそれでよし。

 更にはミアホリックの人体実験も出来る。

 そこまで見越しての襲撃なのだ。

 ここで彼らを皆殺しにしても、逃げ出せばそれで済む。

 宇宙港を封鎖されたとしても、マーシャ達の突破力とシルバーブラストの戦力があれば強引にこの星から逃げ出す事は可能だ。

 リーゼロックの権力を使えば更に何とかなるかもしれないが、一応はその権力をちらつかせた後にこの襲撃なので、敵に回すことも厭わないという覚悟なのかもしれない。

 そうなると本格的にリーゼロックを巻き込むことになるので、それは避けたかった。

 もちろん、マーシャの為ならばリーゼロックは喜んで動いてくれるだろうが、マーシャとしてはこんなくだらないことに大切な『実家』を巻き込むつもりはなかった。

 そして何よりも、ここで逃げ出すことはマーシャの主義にとことん反するのだ。

 喧嘩を売られて逃げるのは性に合わない。

 マーシャは最大限の集中力を発揮して射撃を行う。

 あそこまで素早く動く相手に正確な射撃は難しいが、急所を外した胴体部分を撃って、僅かに動きが鈍ったところで関節を狙い撃つことなら可能だ。

 頭を撃ってしまえば手っ取り早いのだが、今回はそうもいかない。

「ちいっ! 面倒だなっ!」

 レヴィも忌々しげに吐き捨てているが、出てきたばかりでまた捕まるのは遠慮したいので、マーシャと同じように胴体からの関節狙いの二度手間で対応している。

 亜人であるマーシャは人間よりも遙かに優れた身体能力を持っているし、レヴィもそんな彼女と格闘訓練を続けてきたのだ。

 この劣悪な状況にも何とか対応出来ていた。

 対応出来なかったのは、タツミ以外の護衛二人の方だ。

「うわあっ!」

「このっ! 離せっ!!」

 ミアホリックについての情報はタツミによって知らされていたが、だからといってこの状況に即応出来るかどうかは別問題だ。

 マフィアの一員といっても、普通の人間としての身体能力しか持たないのだ。

 今回は自分達が逮捕されることになっても殺すことは止む無しと考えている二人だったが、敵と自分達では身体能力が違いすぎる。

 あっという間に懐に入り込まれて、手にしていた銃を奪い取られ、それを撃たれた。

「がっ!」

「あああああっ!!」

 その時点でランカは車から出た。

 自分の護衛がやられた以上、身動きの取れない車の中に居るのは逆に危険だ。

 しかしこの状況では外に出ても危険なことに変わりはない。

「お嬢っ!!」

 八人目を倒したタツミが叫ぶ。

 マーシャ達も奮戦しているが、ランカに襲いかかろうとしているのを含めて敵は五人も残っている。

 タツミはマーシャとレヴィの様子を見る。

 すぐに大丈夫だと判断したので、そのままランカのところへ向かおうとする。

 しかし走っても間に合わない距離だと判断して、命綱の武器である棒を投げつけようとしたのだが、しかしそれには及ばなかった。

「愚か者」

 凜とした声と共に、微かな空気を切る音が聞こえた気がした。

 ランカの両手が動き、そこからキラッと光る何かが放たれた。

「「!?」」

 ランカに襲いかかろうとした二人の男が動きを止めた。

 そしてそのまま地面に倒れ込む。

 よく見ると、二人の男には複数の針が刺さっていた。

「ああああああああーーっ!!」

「ひっ……ひぎいいいいいっ!?」

 倒れた男達が悲鳴を上げる。

 身体は動かせないのに、声だけは悲痛に満ちている。

 そんな彼らを、ランカは冷たい視線で見下す。

「動きを封じた上で、痛覚を最大限に刺激する点を突きました。痛みで意識を失うまで苦しみなさい」

「お嬢っ! 大丈夫かっ!?」

 慌てて駆け寄ってきたタツミがランカの状態を確認する。

 何処にも怪我が無いと分かってほっとしたようだ。

「見れば分かるでしょう。邪魔よ。どきなさい」

「うわぁ……」

 心配して駆けつけたのに切ない対応だった。

 しかしランカの表情は真剣だ。

 撃たれた護衛二人の身体を調べて服を脱がせて、慎重に針を刺していく。

「う……」

「ぐぅ……」

 血の気の引いた顔に僅かな赤みが戻る。

 どうやら治療をしているらしい。

「何をしたんだ?」

 治療をしているとは分かっても、どんな治療を施したのかまでは分からず、タツミはランカに問いかける。

「出血を抑えて、気の流れを活性化させているのよ。ぼけっとしていないでさっさと医者を呼びなさい」

「分かったっ!」

 その頃にはマーシャ達も残りの敵を片付けていた。

 タツミほど鮮やかに仕留めることは出来なかったが、それでも何とか無傷で撃退したのは流石だった。

 ランカは怪我人二人の容態が落ちついた事を確認すると、立ち上がってマーシャ達に振り返った。

「ご無事ですか?」

「何とかな」

「とりあえず、怪我は無いぜ」

「それは良かった。治療の心得はありますが、やはり無傷であるのが一番ですから」

 にっこりと微笑むランカは、先ほどまで冷酷に敵を仕留めた少女と同一人物には見えなかった。

 レヴィとマーシャは倒れた敵を興味深そうに見ている。

「凄いな、これ。どうやったんだ?」

「針の投擲、だよな。手裏剣みたいに投げたって事か?」

「ええ。投擲と同じ要領です。といっても、ものが針ですので、風の動きなどに注意が必要ですが」

 穏やかに答えているが、それがとんでもない技倆を必要とする境地だという事はマーシャ達にも理解出来た。

 タツミの戦闘能力だけではなく、このお嬢様もかなり戦えるらしい。

 こんな辺境惑星でここまでの手練れに出会えるとは思わなかった。

「凄いな、お嬢」

 タツミもひたすら感心していた。

 八年ぶりに再会した主人がここまで強くなっているとは思わなかったのだ。

 頼もしいと安心出来る反面、自分が護る必要がなくなってしまうのが少し寂しくなってしまう。

 だからといって、彼女の傍を離れる気は毛頭無いのだが。

「これぐらいは当然よ。八年前の事件は私にとっても苦い記憶なの。あのまま何も出来ないままでいるなんて、耐えられる訳がないでしょう」

「それは俺も同じ気持ちだけどな」

 二人の間には苦い空気が存在している。

 お互いに悔いることが山ほどあるのだ。

 そんな二人を見てマーシャ達は何かを感じたようだが、口を出したりはしなかった。

 踏み込むべきではないと思ったからだ。

 ただ、苦笑し合う二人を見守るだけだった。

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