シルバーブラスト Rewrite Edition

水月さなぎ

03-3 悪夢を越えて 3


 しかしそれは間違いだった。

 そう思い込んでいたことが、致命的な間違いだったのだ。

 オッドも眠りについてから二時間ほど経過して、呻き声が聞こえた。

「……?」

 オッドが目を覚ます。

 そしてレヴィアースの様子を窺った。

「やめ……ろ……」

「レヴィ?」

「俺たちが、一体何をした!? 命令に従って、任務をこなして、ただ、それだけだったじゃないかっ! それなのにどうしてこんなことになるっ!?」

「レヴィ!!」

 オッドは痛む身体を引き摺って起き上がる。

 そしてレヴィアースのところへと移動する。

「止めろ! 止めろ! 俺の仲間を、部下を、そんな簡単に殺すなっ! 俺にあんなものを見せるなっ! もう、止めてくれっ!!」

「レヴィっ!!」

「っ!?」

 オッドが怒鳴りつけるように呼びかけると、レヴィアースははっと目を覚ます。

 金色の瞳が涙で滲んでいる。

「オッド……?」

「大丈夫ですか? 魘されているどころではない状態でしたが……」

「……そんなに酷かったか?」

「かなり」

「そうか……」

 夢の中で、過去に魘される。

 いや、ほんの数日前の光景が、頭から離れないのだろう。

 その絶望が常につきまとう。

 乗り切ったのだと思っていた。

 吹っ切れて、未来を見ているのだと思っていた。

 そんな強さを心から尊敬していたのだが、そうではなかった。

 そんな簡単なことではなかったのだ。

「悪いな。起きている時は、なるべく吹っ切るようにしてるんだが、眠ると、どうしても蘇ってくる。忌々しいことに」

「……それは、当然です。まだ、割り切れることではないでしょう」

 途中で意識を失った自分とは違い、レヴィアースは全てを見ていた筈だ。

 軍から切り捨てられることも、その後、ミサイルを撃ち込まれて、部下を皆殺しにされた光景も、全てを認識していた筈だ。

「そりゃそうだ。でも、今はそんなことを考えてる余裕なんてないんだよ。生き延びる為に、過去に囚われている暇なんてない」

「それも分かります。ですが、辛い時には弱音を吐いていいと思います」

「オッド?」

「俺たちは二人で生き残りました。だから、片方が辛い時は、片方が支えます。俺が死にかけた時に、貴方が支えてくれたように。だから、無理はしないで下さい。辛いなら、俺も一緒にその荷物を背負いますから」

「……ははは。出来れば可愛い女の子に言われたい台詞だなぁ」

「男ですみませんね。ですが軽口が言えるようになったのはいいことです」

「だなぁ。まあ女の子は当分余裕がないだろうから、相棒で我慢しとくか」

「相棒?」

「違うのか? 片方が辛い時は、片方が支える。支え合って生きていく。夫婦や恋人じゃないなら、関係は相棒が妥当だと思うけど?」

「そう……ですね……」

 言われてみればその通りだった。

「俺が相棒でもいいですか?」

「今更だろ。戦闘機で戦ってる時は、常にバディだったじゃねえか」

「まあ、そうですね」

「お前は俺のことをよく分かってくれている。だから、これからも相棒で居てくれるなら頼もしいよ」

「もちろんそのつもりです。貴方が俺を必要としなくなる時まで、相棒でいることにしましょう」

「いやいや。そんな寂しいこと言うなよ。ここまで来たら生涯の相棒でいいだろうが」

「未来は分かりませんからね。俺よりももっと相応しい相棒に巡り会えるかもしれませんよ」

「そういうものか? だからってお前を蔑ろにするのは違うと思うぞ」

「そういうことをするとは思っていませんよ。ですが新たな相棒との出会いが、俺との別れを意味するとは限らないでしょう。新たな門出を意味するかもしれない。俺にとっても、今後そういう出会いはあるかもしれない。その時は、お互いに笑って相手を見送れるといいなと、そう思うだけです」

「ああ、それもいいな」

 そんな未来を考えられる程度には、レヴィアースも平静を取り戻した。

 絶望からは目を逸らせない。

 しかしその上で、明るい未来に思いを馳せることぐらいは許されるだろう。

「落ちついたなら、まだ眠って下さい」

「そうだな。悪い。動くの辛かっただろ?」

「いいえ。大丈夫です」

 確かに身体の痛みはかなり酷いことになっているが、レヴィアースの方が心配だったので我慢出来るレベルだった。

 オッドは多少ふらつきながらも自分のベッドに戻った。

「また魘されるかもしれないけど、もう気にせず眠ってていいからな」

「はい」

 無意識で見る夢は制御出来ない。

 だからまた魘されないという保証は無い。

 しかしレヴィアースが大丈夫だというのなら、それを信じることにした。

「おやすみ」

「ええ。おやすみなさい」

 再び眠りにつく。

 今度こそ、安らかな眠りであるように。



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