シルバーブラスト Rewrite Edition
1-2 猛獣美女の大暴れ 13
一番最初に犠牲となったのは、六番艦アルベルトだった。
アルベルトの船員達は何が起こったのかまるで理解していなかった。
ただ、凄まじい衝撃が襲いかかってきて、船の機能がほぼ麻痺してしまったことだけは理解した。
「何がどうなっているっ!?」
「あ、あんなの無茶苦茶だっ!!」
周りでそれを見ていたエミリオン連合の軍人達も唖然としている。
銀翼の船がいきなりアルベルトに突撃し、そして体当たりを行ったのだ。
普通、そんなことをすれば船が無事では済まない。
敵の船はもちろんのこと、自分達の船も無事では済まない筈なのだ。
それなのにそんなことをしてきたシルバーブラストが信じられなかった。
しかしアルベルトは行動不能、そしてマーシャ達のシルバーブラストは無傷だった。
そして次の船へと襲いかかる。
どうして無事なのかは分からない。
しかしこのままではアルベルトの二の舞だということは理解していたので、他の船は必死で逃げようとした。
既にレヴィへの集中攻撃は止んでいる。
それどころではないからだ。
しかしシルバーブラストは最新鋭の宇宙船であり、現行のものよりも遙かに優れた性能を持っている。
急加速で迫るシルバーブラストの特攻を、他の船は避けられなかった。
砲撃を行い牽制しようとするが、防御システムに阻まれる。
エネルギー防御が硬すぎて、本体にまでダメージが通らないのだ。
そして、ようやくレヴィにもマーシャが何をしたのか理解出来た。
対物防御を展開したまま、体当たりをかましたのだ。
それもただの対物防御ではない。
恐らく、攻撃用に強化した硬化防御とも言える代物になっている筈だ。
最初からそういう操縦を想定していたとしか思えない仕様だった。
硬化防御から急加速までの流れが恐ろしいほどに滑らかで、狙いが正確すぎて分かりづらいが、これは凄まじい操縦技術だった。
いくら硬化防御を行っていても、当てどころを間違えばただでは済まない筈だ。
シルバーブラストの両翼で攻撃しているので、そこ以外では船に不具合が生じてしまうだろう。
宇宙船は精密部品だらけであり、ある程度無茶な操縦には耐えられても、非常識すぎる操縦には耐えられない。
耐えられる部分を限定して、ああいった攻撃を行っているに違いない。
「……俺に憧れる必要、無いと思うけどな」
憧れるのは、その相手が目指す位置にいるからだ。
しかし戦闘機はともかくとして、マーシャの宇宙船操縦技術は超一流だった。
あんな無茶な操縦は他の誰にも出来ない。
出来たとしても、船の性能が追いつかない。
端翼であれほどまでに正確な攻撃を行うには、勘どころと目測が必要になる。
加速中にも微調整が必要だろう。
それらを何の苦もなく行っているあたり、とんでもない操縦技術だと思う。
「恐らくシオンがサポートしているんだろうが、それにしたって凄いな」
レヴィはマーシャの操縦を惚れ惚れする思いで見つめていた。
次々と軍艦を行動不能にしていくシルバーブラスト。
その追い打ちとして天弓システムが襲いかかる。
マーシャとシオンは息がぴったり合っていて、数の差をものともしない。
二人の操縦技術が凄まじいというのもあるが、船の性能も凄まじい。
グレアスが欲しがるのも理解出来た。
あっという間に七隻の戦闘艦が潰された。
レヴィは惚れ惚れしながらそれを見ている。
『おい、いつまで私達だけに働かせるつもりだ? いい加減、攻撃に加われ』
そしてのんびりと見物していたら、マーシャから不機嫌そうな通信が入ってきた。
確かにマーシャ達だけに働かせすぎだった。
「悪い悪い。あまりにも見事な操縦だからしばらく見ていたかったんだ」
レヴィは悪びれずにそう言った。
本心だったので、心からの賞賛でもあった。
『むぅ……。そう言って貰えるのは嬉しいが、半分はシオンのサポートがあってのものだ』
「だろうな。でも凄いな」
『うぅ……。まあ、褒め言葉として受け取っておく』
どうやら照れているらしい。
可愛いところもあるな、とレヴィの口元が緩む。
あの小さなマティルダがこんなにも変わってしまったのは複雑だが、嬉しい気持ちの方が大きい。
照れている表情すらも想像出来てしまう。
『そ、それよりも残りは旗艦のライオットだけだぞ。私が独り占めしてもいいなら、潰してしまうけど、どうする?』
「いや。俺がやる」
『だったらサボるな』
「悪いな」
惚れ惚れしてしまったからこそサボっていた、というのは言い訳でしかないが、事実でもあった。
見惚れるような操縦だったのは確かなのだから。
他人の操縦に見惚れるのは珍しい。
自分の腕に確固たる自負があるからこそ、他人にそこまでのものを感じることが少ないのだ。
しかしマーシャは間違いなくその一人だった。
それが自分を目指した結果だとすれば、なんだか誇らしい気持ちにもなるのだ。
「行ってくる」
『うん』
グレアスは撤退しようとしている。
最後の旗艦ライオットは進路を変えて遠ざかっている。
しかし逃がすつもりはない。
ここで逃がしてしまえば、レヴィの生存がエミリオン連合に知られてしまう。
そうなると今後の身の安全が確保出来ない。
それは困るのだ。
レヴィはスターウィンドを加速させてライオットへと迫る。
砲撃が襲いかかってきたが全て避ける。
エネルギー防御も展開出来るが、そうなると攻撃が出来なくなるので、全て舵だけで避けた。
このスターウィンドはレヴィにとっても扱いやすい機体だった。
操縦桿やコンソールがなじみ深いものというだけではなく、過去のレヴィが物足りないと思っていた部分のほとんどを満たしてくれている。
レヴィの腕に対して、機体の性能が追いつかないのが普通だった。
もっと加速したい。
もっと無茶な操縦が出来る。
そういった気持ちがあるのに、機体が応えてくれない。
そんなもどかしさがあった。
しかしこのスターウィンドは違う。
レヴィの求める性能を満たしてくれているのだ。
だからこそ、思う存分無茶が出来る。
レヴィ自身は無茶だとは思っていない、当然の操縦が可能になるのだ。
「さあて、決着を付けようか、グレアス・ファルコン」
通信は行わない。
必要な言葉は既に告げた。
こちらの意志は変わらないので、言葉を交わす必要は無い。
ライオットからは通信が入ってきているが、無視し続けている。
恐らくは命乞いだろうが、そんなものを聞き届けてやるつもりはなかった。
無残に殺された命達を思い出す。
自分が守り切れなかった部下達の死体を思い出す。
決して忘れられない、苦い思い出。
殺したからと言って、それは消えないだろう。
だけど、区切りは付けられる。
だからレヴィは攻撃を続けた。
スターウィンド最大の武器である五十センチ砲を次々と撃っていき、ライオットを追い詰めていく。
戦闘機の砲撃では一撃必殺とはいかないが、それでも着実にダメージは与えられる。
レヴィのスターウィンドは通常の戦闘機と違い、砲撃の口径が倍以上もある。
戦艦並の口径なので、戦艦を沈めることも容易なのだ。
もちろん、本人の操縦技術と砲撃技術が優れていることが前提だが。
レヴィはその両方を満たしている。
「なぶり殺しは趣味じゃないけど、まあ仕方ないか」
絶望を与えて殺す。
レヴィはそう決めていた。
自分達が味わった絶望に等しいだけのものを与えたいのだ。
死ぬまでに、少しでも多くの絶望を。
その為に敢えてちまちまと攻撃しているのだ。
本来ならば一撃で決められる。
艦橋を狙って『バスターブレード』を一閃させれば、それでお終いなのだ。
散々砲撃を行い、相手の砲台を潰し、そして行動不能にしてから『バスターブレード』を一閃させた。
爆発する戦艦を、レヴィはなんとも言えない表情で見ていた。
爽快な気分には全くならない。
むしろどこまでも苦々しい。
しかし、これで守れなかった部下達に少しだけ報いてやることが出来たような気持ちになった。
ほんの少しだけ、自分を許せるようになった。
だから、最後は笑った。
これでいいのだと、自分を納得させた。
そして残骸を徹底的に破壊してから、レヴィはシルバーブラストへと戻るのだった。
アルベルトの船員達は何が起こったのかまるで理解していなかった。
ただ、凄まじい衝撃が襲いかかってきて、船の機能がほぼ麻痺してしまったことだけは理解した。
「何がどうなっているっ!?」
「あ、あんなの無茶苦茶だっ!!」
周りでそれを見ていたエミリオン連合の軍人達も唖然としている。
銀翼の船がいきなりアルベルトに突撃し、そして体当たりを行ったのだ。
普通、そんなことをすれば船が無事では済まない。
敵の船はもちろんのこと、自分達の船も無事では済まない筈なのだ。
それなのにそんなことをしてきたシルバーブラストが信じられなかった。
しかしアルベルトは行動不能、そしてマーシャ達のシルバーブラストは無傷だった。
そして次の船へと襲いかかる。
どうして無事なのかは分からない。
しかしこのままではアルベルトの二の舞だということは理解していたので、他の船は必死で逃げようとした。
既にレヴィへの集中攻撃は止んでいる。
それどころではないからだ。
しかしシルバーブラストは最新鋭の宇宙船であり、現行のものよりも遙かに優れた性能を持っている。
急加速で迫るシルバーブラストの特攻を、他の船は避けられなかった。
砲撃を行い牽制しようとするが、防御システムに阻まれる。
エネルギー防御が硬すぎて、本体にまでダメージが通らないのだ。
そして、ようやくレヴィにもマーシャが何をしたのか理解出来た。
対物防御を展開したまま、体当たりをかましたのだ。
それもただの対物防御ではない。
恐らく、攻撃用に強化した硬化防御とも言える代物になっている筈だ。
最初からそういう操縦を想定していたとしか思えない仕様だった。
硬化防御から急加速までの流れが恐ろしいほどに滑らかで、狙いが正確すぎて分かりづらいが、これは凄まじい操縦技術だった。
いくら硬化防御を行っていても、当てどころを間違えばただでは済まない筈だ。
シルバーブラストの両翼で攻撃しているので、そこ以外では船に不具合が生じてしまうだろう。
宇宙船は精密部品だらけであり、ある程度無茶な操縦には耐えられても、非常識すぎる操縦には耐えられない。
耐えられる部分を限定して、ああいった攻撃を行っているに違いない。
「……俺に憧れる必要、無いと思うけどな」
憧れるのは、その相手が目指す位置にいるからだ。
しかし戦闘機はともかくとして、マーシャの宇宙船操縦技術は超一流だった。
あんな無茶な操縦は他の誰にも出来ない。
出来たとしても、船の性能が追いつかない。
端翼であれほどまでに正確な攻撃を行うには、勘どころと目測が必要になる。
加速中にも微調整が必要だろう。
それらを何の苦もなく行っているあたり、とんでもない操縦技術だと思う。
「恐らくシオンがサポートしているんだろうが、それにしたって凄いな」
レヴィはマーシャの操縦を惚れ惚れする思いで見つめていた。
次々と軍艦を行動不能にしていくシルバーブラスト。
その追い打ちとして天弓システムが襲いかかる。
マーシャとシオンは息がぴったり合っていて、数の差をものともしない。
二人の操縦技術が凄まじいというのもあるが、船の性能も凄まじい。
グレアスが欲しがるのも理解出来た。
あっという間に七隻の戦闘艦が潰された。
レヴィは惚れ惚れしながらそれを見ている。
『おい、いつまで私達だけに働かせるつもりだ? いい加減、攻撃に加われ』
そしてのんびりと見物していたら、マーシャから不機嫌そうな通信が入ってきた。
確かにマーシャ達だけに働かせすぎだった。
「悪い悪い。あまりにも見事な操縦だからしばらく見ていたかったんだ」
レヴィは悪びれずにそう言った。
本心だったので、心からの賞賛でもあった。
『むぅ……。そう言って貰えるのは嬉しいが、半分はシオンのサポートがあってのものだ』
「だろうな。でも凄いな」
『うぅ……。まあ、褒め言葉として受け取っておく』
どうやら照れているらしい。
可愛いところもあるな、とレヴィの口元が緩む。
あの小さなマティルダがこんなにも変わってしまったのは複雑だが、嬉しい気持ちの方が大きい。
照れている表情すらも想像出来てしまう。
『そ、それよりも残りは旗艦のライオットだけだぞ。私が独り占めしてもいいなら、潰してしまうけど、どうする?』
「いや。俺がやる」
『だったらサボるな』
「悪いな」
惚れ惚れしてしまったからこそサボっていた、というのは言い訳でしかないが、事実でもあった。
見惚れるような操縦だったのは確かなのだから。
他人の操縦に見惚れるのは珍しい。
自分の腕に確固たる自負があるからこそ、他人にそこまでのものを感じることが少ないのだ。
しかしマーシャは間違いなくその一人だった。
それが自分を目指した結果だとすれば、なんだか誇らしい気持ちにもなるのだ。
「行ってくる」
『うん』
グレアスは撤退しようとしている。
最後の旗艦ライオットは進路を変えて遠ざかっている。
しかし逃がすつもりはない。
ここで逃がしてしまえば、レヴィの生存がエミリオン連合に知られてしまう。
そうなると今後の身の安全が確保出来ない。
それは困るのだ。
レヴィはスターウィンドを加速させてライオットへと迫る。
砲撃が襲いかかってきたが全て避ける。
エネルギー防御も展開出来るが、そうなると攻撃が出来なくなるので、全て舵だけで避けた。
このスターウィンドはレヴィにとっても扱いやすい機体だった。
操縦桿やコンソールがなじみ深いものというだけではなく、過去のレヴィが物足りないと思っていた部分のほとんどを満たしてくれている。
レヴィの腕に対して、機体の性能が追いつかないのが普通だった。
もっと加速したい。
もっと無茶な操縦が出来る。
そういった気持ちがあるのに、機体が応えてくれない。
そんなもどかしさがあった。
しかしこのスターウィンドは違う。
レヴィの求める性能を満たしてくれているのだ。
だからこそ、思う存分無茶が出来る。
レヴィ自身は無茶だとは思っていない、当然の操縦が可能になるのだ。
「さあて、決着を付けようか、グレアス・ファルコン」
通信は行わない。
必要な言葉は既に告げた。
こちらの意志は変わらないので、言葉を交わす必要は無い。
ライオットからは通信が入ってきているが、無視し続けている。
恐らくは命乞いだろうが、そんなものを聞き届けてやるつもりはなかった。
無残に殺された命達を思い出す。
自分が守り切れなかった部下達の死体を思い出す。
決して忘れられない、苦い思い出。
殺したからと言って、それは消えないだろう。
だけど、区切りは付けられる。
だからレヴィは攻撃を続けた。
スターウィンド最大の武器である五十センチ砲を次々と撃っていき、ライオットを追い詰めていく。
戦闘機の砲撃では一撃必殺とはいかないが、それでも着実にダメージは与えられる。
レヴィのスターウィンドは通常の戦闘機と違い、砲撃の口径が倍以上もある。
戦艦並の口径なので、戦艦を沈めることも容易なのだ。
もちろん、本人の操縦技術と砲撃技術が優れていることが前提だが。
レヴィはその両方を満たしている。
「なぶり殺しは趣味じゃないけど、まあ仕方ないか」
絶望を与えて殺す。
レヴィはそう決めていた。
自分達が味わった絶望に等しいだけのものを与えたいのだ。
死ぬまでに、少しでも多くの絶望を。
その為に敢えてちまちまと攻撃しているのだ。
本来ならば一撃で決められる。
艦橋を狙って『バスターブレード』を一閃させれば、それでお終いなのだ。
散々砲撃を行い、相手の砲台を潰し、そして行動不能にしてから『バスターブレード』を一閃させた。
爆発する戦艦を、レヴィはなんとも言えない表情で見ていた。
爽快な気分には全くならない。
むしろどこまでも苦々しい。
しかし、これで守れなかった部下達に少しだけ報いてやることが出来たような気持ちになった。
ほんの少しだけ、自分を許せるようになった。
だから、最後は笑った。
これでいいのだと、自分を納得させた。
そして残骸を徹底的に破壊してから、レヴィはシルバーブラストへと戻るのだった。
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