シルバーブラスト Rewrite Edition
1-2 猛獣美女の大暴れ 4
『シルバーブラスト』の船内はかなり広かった。
十万トンクラスの船なだけあって、スペースにはかなり余裕がある。
客室なども多いのだろうと思ったが、どうやらほとんどが船の機能維持に費やされているらしく、居住スペースはほんのわずからしい。
これだけの大きさの船に対して、居住スペースは五人分だという。
もちろん、居間や客間、娯楽スペースなどは別にあるらしい。
案内された操縦室は、それなりの広さだったが、不思議なものもあった。
主操縦席、副操縦席、オペレーター席などは分かるが、その中心には筒のようなものがあったのだ。
強化ガラスの筒は人一人がゆったりと入れるほどの大きさだった。
その筒を不思議そうに眺めるレヴィ。
何やら興味を抱いているらしい。
「なんだこりゃ?」
「何だと思う?」
「さっぱりだ。俺もいろんな軍艦に乗ってきたが、こんなものは初めて見るぞ」
「それはそうだろう。これはニューラルリンクという装置だ」
「?」
「まあ、最後のパーツを組み込む為の場所だな」
「最後のパーツって、俺たちが運んできたやつか?」
「その通り」
マーシャはその場でトランクケースを開こうとした。
周りに集まったレヴィ達が注目する。
軍に狙われるほどのパーツだ。
どんなものなのか興味があった。
しかし、それは予想外の代物……いや、姿だった。
「………………」
「………………」
「………………」
中に入っていたのは女の子だった。
年齢はよく分からない。
十二歳ぐらいにも、十五歳ぐらいにも見える。
あどけない寝顔は酷く幼いのに、大人びた感じもする。
青い髪は長く、トランクケースの中身の大半をその色に染めていた。
真っ白なワンピース姿の少女は、大きなトランクケースの中ですやすやと、気持ちよさそうに眠っていた。
「……パーツ?」
レヴィが辛うじて言葉を発した。
自分が運んでいたのがまさか人間の、しかも少女だとは思わなかったのだ。
それ以上に、マーシャが少女をパーツ扱いしたことも不思議だった。
人間を道具扱いするようなタイプには見えなかったのだ。
マーシャはそんなレヴィ達の視線を正面から受け止めた。
しかし全く悪びれていない。
「言いたいことは分かる。でも、この子は正真正銘、このシルバーブラスト最後のパーツなんだ」
「人間を道具扱いしているのか?」
レヴィの声は険しかった。
彼はこういったことを許せないタイプの人間だ。
返答次第ではマーシャとの決裂も有り得る。
「そんなに怒るな。言いたいことは分かるが、パーツ扱いはしても、道具扱いをするつもりはないぞ。それにこの子は人間じゃない」
「え?」
「んにゅ……」
そんなことを言っている間に少女が目を覚ました。
翠緑の瞳がきょろきょろと辺りを見渡している。
「あれ? もうシルバーブラストに到着したですか?」
見た目通りにあどけない声だった。
幼くて可愛らしい、純真な少女のそれに聞こえる。
「おはよう、シオン」
「おはようです、マーシャ。運んでくれてありがとうですです」
「どういたしまして。私としても眠っていてくれた方が助かったからな」
「私は荒事にはまだ対処出来ないですしね~」
「対処出来るようになっても困るけどな」
「そうですか? マーシャの役に立てるなら頑張ってみるのもいいと思ってるですよ?」
「無理だ。そもそも、そういう機能は備わっていない筈だし」
「それもそうですね~。まあ人間に近いように造ってくれたのはありがたいと思ってますけど。特に美味しいものを食べられるのはモチベーションが段違いですです~」
「分かったから、仕事に移ってくれ。この船を発進させる。その後はすぐに戦闘だ。天弓システムを起動しろ」
「いえっさ~」
びしっとしたものではなく、へにゃっとした敬礼で応えるシオン。
全く様になっていない。
しかし可愛らしいので、気分が和むことは確かだった。
しかし仕草もしゃべり方も、もちろん姿形も、人間にしか見えない。
人間でなければロボットだろうか。
いや、それはあり得ない。
どこからどう見ても人間だった。
「……人間にしか見えないぞ」
「まあ、人間に見えるようにしてあるからな。強いて言うなら有機アンドロイドといったところか。厳密には違うんだが」
「アンドロイド?」
「ですです~。あたしは人間じゃないですよ~」
シオンはいそいそと起き上がってから準備を整える。
しかしその前にマーシャの違和感に気付いた。
「どうした?」
「マーシャ。どうして隠してるんですか?」
「まあ、人間の前では隠しておいた方がいいものだからな。前にも言っただろう」
「そういえばそうですね~。あ、そういえばこの人達は誰です?」
「………………」
「………………」
「………………」
今更すぎる反応だった。
たった今気付いたというよりは、マーシャ以外には関心が無かったのかもしれない。
マーシャにだけ意識が向いている。
彼女がアンドロイドならば、マーシャは創造主であり、主人でもあるということだから、それも当然の反応なのかもしれないが、無視されていたのは少しばかり寂しい。
「今回のごたごたに協力してもらうことになったんだ。時間は無いけど、自己紹介だけでもしておけ」
「はーい。シオンです。よろしくですです」
ぺこりと頭を下げるシオン。
シンプルすぎる自己紹介だった。
「それじゃあ準備に入るです~。……ふにゅっ!?」
「危ないっ!」
トランクケースから出ようとしたシオンは、そのまま足を引っかけて転びそうになる。
マーシャが慌てて支えたが、少しばかり遅かった。
間に合わずに一緒に倒れ込む。
「う……」
「あう~。マーシャ、ありがとうですです~」
「それは構わないが……いや、結構痛いな……」
ちょっぴり涙目になるマーシャ。
床で頭をぶつけたので、かなり痛そうだった。
「あ……」
「………………」
「嘘ぉ……」
しかしレヴィ達三人の反応はマーシャを案じるそれではなかった。
ぎょっとしている。
三人とも驚愕を隠せない。
隠していたものが晒されてしまったのだ。
倒れた拍子にカツラがズレてしまい、マーシャ本来の頭部が露わになる。
髪の色は今までと同じ黒だが、頭部には可愛らしい三角の耳がぴょこんと生えていた。
代わりに人間の耳があるべき場所には何も無い。
今までは長い黒髪で隠れていたが、そこには人間の耳など無かったのだ。
あったのは獣の耳。
そして緩んだ腰巻きからも黒々とした立派な尻尾が見え隠れしていた。
「む……。バレてしまったか……」
隠しておくつもりだったマーシャは気まずそうに頭を掻いた。
バレてしまったものは仕方がないと諦めているが、それよりもレヴィ達の反応が気になった。
人間とよく似た種族に亜人というものが存在する。
姿形は人間とほとんど変わらないのだが、頭部と臀部のみに違いがある。
頭部には獣の耳が生えていて、臀部には獣の尻尾が生えている。
人間であり、人間ではないもの。
それが亜人だった。
そして亜人はかつて人間から迫害されて、故郷を壊滅させられた過去を持つ。
一時期は戦争にもなったことがあるのだが、その結果は無残なものだった。
亜人はほぼ全滅させられ、戦争は人間の勝利。
故郷を奪われた亜人の生き残りは、現在ほとんど居ないだろう。
他の惑星に逃れた亜人も、自分の素性を隠して人間に紛れている。
マーシャもその一人だった。
マーシャはレヴィが亜人を差別したりしないことを知っている。
期待しているのではなく、事実として知っている。
レヴィがマーシャの知っている頃と変わっていないのならば、絶対に差別はしない。
十万トンクラスの船なだけあって、スペースにはかなり余裕がある。
客室なども多いのだろうと思ったが、どうやらほとんどが船の機能維持に費やされているらしく、居住スペースはほんのわずからしい。
これだけの大きさの船に対して、居住スペースは五人分だという。
もちろん、居間や客間、娯楽スペースなどは別にあるらしい。
案内された操縦室は、それなりの広さだったが、不思議なものもあった。
主操縦席、副操縦席、オペレーター席などは分かるが、その中心には筒のようなものがあったのだ。
強化ガラスの筒は人一人がゆったりと入れるほどの大きさだった。
その筒を不思議そうに眺めるレヴィ。
何やら興味を抱いているらしい。
「なんだこりゃ?」
「何だと思う?」
「さっぱりだ。俺もいろんな軍艦に乗ってきたが、こんなものは初めて見るぞ」
「それはそうだろう。これはニューラルリンクという装置だ」
「?」
「まあ、最後のパーツを組み込む為の場所だな」
「最後のパーツって、俺たちが運んできたやつか?」
「その通り」
マーシャはその場でトランクケースを開こうとした。
周りに集まったレヴィ達が注目する。
軍に狙われるほどのパーツだ。
どんなものなのか興味があった。
しかし、それは予想外の代物……いや、姿だった。
「………………」
「………………」
「………………」
中に入っていたのは女の子だった。
年齢はよく分からない。
十二歳ぐらいにも、十五歳ぐらいにも見える。
あどけない寝顔は酷く幼いのに、大人びた感じもする。
青い髪は長く、トランクケースの中身の大半をその色に染めていた。
真っ白なワンピース姿の少女は、大きなトランクケースの中ですやすやと、気持ちよさそうに眠っていた。
「……パーツ?」
レヴィが辛うじて言葉を発した。
自分が運んでいたのがまさか人間の、しかも少女だとは思わなかったのだ。
それ以上に、マーシャが少女をパーツ扱いしたことも不思議だった。
人間を道具扱いするようなタイプには見えなかったのだ。
マーシャはそんなレヴィ達の視線を正面から受け止めた。
しかし全く悪びれていない。
「言いたいことは分かる。でも、この子は正真正銘、このシルバーブラスト最後のパーツなんだ」
「人間を道具扱いしているのか?」
レヴィの声は険しかった。
彼はこういったことを許せないタイプの人間だ。
返答次第ではマーシャとの決裂も有り得る。
「そんなに怒るな。言いたいことは分かるが、パーツ扱いはしても、道具扱いをするつもりはないぞ。それにこの子は人間じゃない」
「え?」
「んにゅ……」
そんなことを言っている間に少女が目を覚ました。
翠緑の瞳がきょろきょろと辺りを見渡している。
「あれ? もうシルバーブラストに到着したですか?」
見た目通りにあどけない声だった。
幼くて可愛らしい、純真な少女のそれに聞こえる。
「おはよう、シオン」
「おはようです、マーシャ。運んでくれてありがとうですです」
「どういたしまして。私としても眠っていてくれた方が助かったからな」
「私は荒事にはまだ対処出来ないですしね~」
「対処出来るようになっても困るけどな」
「そうですか? マーシャの役に立てるなら頑張ってみるのもいいと思ってるですよ?」
「無理だ。そもそも、そういう機能は備わっていない筈だし」
「それもそうですね~。まあ人間に近いように造ってくれたのはありがたいと思ってますけど。特に美味しいものを食べられるのはモチベーションが段違いですです~」
「分かったから、仕事に移ってくれ。この船を発進させる。その後はすぐに戦闘だ。天弓システムを起動しろ」
「いえっさ~」
びしっとしたものではなく、へにゃっとした敬礼で応えるシオン。
全く様になっていない。
しかし可愛らしいので、気分が和むことは確かだった。
しかし仕草もしゃべり方も、もちろん姿形も、人間にしか見えない。
人間でなければロボットだろうか。
いや、それはあり得ない。
どこからどう見ても人間だった。
「……人間にしか見えないぞ」
「まあ、人間に見えるようにしてあるからな。強いて言うなら有機アンドロイドといったところか。厳密には違うんだが」
「アンドロイド?」
「ですです~。あたしは人間じゃないですよ~」
シオンはいそいそと起き上がってから準備を整える。
しかしその前にマーシャの違和感に気付いた。
「どうした?」
「マーシャ。どうして隠してるんですか?」
「まあ、人間の前では隠しておいた方がいいものだからな。前にも言っただろう」
「そういえばそうですね~。あ、そういえばこの人達は誰です?」
「………………」
「………………」
「………………」
今更すぎる反応だった。
たった今気付いたというよりは、マーシャ以外には関心が無かったのかもしれない。
マーシャにだけ意識が向いている。
彼女がアンドロイドならば、マーシャは創造主であり、主人でもあるということだから、それも当然の反応なのかもしれないが、無視されていたのは少しばかり寂しい。
「今回のごたごたに協力してもらうことになったんだ。時間は無いけど、自己紹介だけでもしておけ」
「はーい。シオンです。よろしくですです」
ぺこりと頭を下げるシオン。
シンプルすぎる自己紹介だった。
「それじゃあ準備に入るです~。……ふにゅっ!?」
「危ないっ!」
トランクケースから出ようとしたシオンは、そのまま足を引っかけて転びそうになる。
マーシャが慌てて支えたが、少しばかり遅かった。
間に合わずに一緒に倒れ込む。
「う……」
「あう~。マーシャ、ありがとうですです~」
「それは構わないが……いや、結構痛いな……」
ちょっぴり涙目になるマーシャ。
床で頭をぶつけたので、かなり痛そうだった。
「あ……」
「………………」
「嘘ぉ……」
しかしレヴィ達三人の反応はマーシャを案じるそれではなかった。
ぎょっとしている。
三人とも驚愕を隠せない。
隠していたものが晒されてしまったのだ。
倒れた拍子にカツラがズレてしまい、マーシャ本来の頭部が露わになる。
髪の色は今までと同じ黒だが、頭部には可愛らしい三角の耳がぴょこんと生えていた。
代わりに人間の耳があるべき場所には何も無い。
今までは長い黒髪で隠れていたが、そこには人間の耳など無かったのだ。
あったのは獣の耳。
そして緩んだ腰巻きからも黒々とした立派な尻尾が見え隠れしていた。
「む……。バレてしまったか……」
隠しておくつもりだったマーシャは気まずそうに頭を掻いた。
バレてしまったものは仕方がないと諦めているが、それよりもレヴィ達の反応が気になった。
人間とよく似た種族に亜人というものが存在する。
姿形は人間とほとんど変わらないのだが、頭部と臀部のみに違いがある。
頭部には獣の耳が生えていて、臀部には獣の尻尾が生えている。
人間であり、人間ではないもの。
それが亜人だった。
そして亜人はかつて人間から迫害されて、故郷を壊滅させられた過去を持つ。
一時期は戦争にもなったことがあるのだが、その結果は無残なものだった。
亜人はほぼ全滅させられ、戦争は人間の勝利。
故郷を奪われた亜人の生き残りは、現在ほとんど居ないだろう。
他の惑星に逃れた亜人も、自分の素性を隠して人間に紛れている。
マーシャもその一人だった。
マーシャはレヴィが亜人を差別したりしないことを知っている。
期待しているのではなく、事実として知っている。
レヴィがマーシャの知っている頃と変わっていないのならば、絶対に差別はしない。
「ファンタジー」の人気作品
書籍化作品
-
-
59
-
-
361
-
-
516
-
-
221
-
-
381
-
-
841
-
-
4112
-
-
549
-
-
23252
コメント