朝起きたら妹が魔王になってました

猫撫こえ

第29話「ネグラフィリア」

 おはよう世界、クレーターの上で一夜を過ごすという貴重な体験をした俺らは自然族の国、ネグラフィリアに向かって竜車を走らせていた。


「食料もバッグと一緒に溶かしてきちまったからな、今日中に何としてでも到着するぞ」


「ミクは神様なので食べなくても大丈夫なのです」


「あっ、フトウが転がってる!!」


「どこどこ!? どこなのですか!?」


「あるわけねーだろバーカ」


「末代まで呪ってやるです」


 今日も平和に頭の悪い会話をしている。ネグラフィリアまでの道のりで目立った障害になるのは迷いの森だけだ。それ以外は交通量も多く、他の竜車も見かける。


「なかなか活気づいてきたわね」


 すぐ近くに美しく輝く大樹が見える。


「お~、あれがネグラフィリアか」


「きれーっ!!」


「最も美しい国ともいわれているのですよ」


 門をくぐると、そこには別世界が広がっていた。透き通った水、美しい花々、中でもガラス細工の様な植物がキラキラと日の光を跳ね返していた。


「すげーな、ザ・ファンタジーって感じだな」


「お兄ちゃん♡ これ買って!」


「なんだこれ、アクセサリーか?」


 せがまれた品は淡い水色がかった宝石があしらわれた指輪だった。


「へー綺麗じゃん。いくらなんだ?」


 値札には頭のおかしい金額が書かれていた。全財産使っても足りない。


「ん~、また今度にしような」


「えぇ~」


「さて、遊ぶのはこれくらいにしといて賢者サマでも探すかね……ん?」


 突然後ろから肩を叩かれる。


「君! これ落としたよ」


「あ、どうも」


 渡されたのはユミスが付けていた腕輪だった。


「おい、ユミス……ってあれ?」


 辺りを見回すもユミスの姿は無く、それどころかミクと鍵乃までがいなくなっていた。


「あの! すみません、金髪と白髪と紺髪の可愛い三人組見ませんでしたか?」


「ん、さっきあっちのほうに引っ張られていった子かな?」


「くそっ、何やってんだよ……」


 男が指差した方へ走り出す。鍵乃の匂いをたどって行けると思ったが、獣人族の匂いに打ち消される。己のシスコンパワーにがっかりする。


「僕も行こう」


「あなたは?」


「僕はティノア、賢者さ」


「あんたが賢者なのか!? やったぜ、探す手間が省けた。俺は燈矢、勇者だ」


 いきなり目的の賢者を見つけるも、仲間を探さなくてはならなくなった。


「? あれって……。おぉーいっ!! とーうーやーっ!!」


「リューズ!? お前何してんだよ!?」


 久しぶりに見た猫耳。俺のこっちに来てから初めての友達が居た。


「燈矢こそ、なんでそんなに急いでるの?」


「あいつらが誰かに連れてかれたらしい。コイツによると」


「あ、どうも。リューズといいます。燈矢の友達です」


「ご丁寧にどうも。ティノアです」


 前方に特徴的な白髪ツインテールが見えた。フード付きマントの怪しい男に担がれている。


「あれだ! 待てこの野郎!!」


流星弾アルカナ・バースト


 リューズの魔法が怪しい男に当たった、かと思われたが、マントに防護魔法が施されているのか効いていないようだ。


「お前物騒だなぁ、もっと話し合いからスタートしようぜ」


「なんで燈矢がビビってるんだよ」


「ふむ……水晶牢シグニティア


「「おーっ」」


 男を水晶の壁が包む。流石は賢者といったところか。


「ミク! 大丈夫か!?」


「んぅ……ふわぁ、おはようなのです? ってキャアアアアッッ!!! 誰ですかお前触るなです!!」


 今にも男を殺してしまいそうな勢いで襲い掛かる。


「ミク、殺しちゃだめだぞ。聞きたいことがあるからな」


「君たちはいったい何が目的なんだ?」


「……魔王の為だ」


「なっ」


 そう言うと、黒い煙を残して、消えた。


「なんだったんだ…? てか、鍵乃とユミス探さねーと!!」


 【魔王の為】という響きがずっと頭にしがみついて離れなかった。

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