朝起きたら妹が魔王になってました

猫撫こえ

第25話「むかしむかし」

 アリセルトラ武具店を発ち、ギルドへと向かっている。俺たちのギルドカードの更新と、ユミスの冒険者登録のためだ。


「ねぇねぇお兄ちゃん、さっきの女の子と知り合いなの?」


「いや、全然知らない」


 そもそもいきなりボクは君の親友だぞーキャハッ♡とか言われても全く身に覚えがない。でも猫耳っ娘なんて今んとこリューズのお母さんしか知らないから結構ドキッとしたけど…あの人は娘って歳でもないか。


「燈矢くん、いきなりキャハッ♡とか言わないでください気持ち悪いのです」


「えっ、俺言ってた?」


「「「言ってた」」」


「マジか、結構恥ずかしい」


 とか話してるうちにギルドに到着した。早速ユミスの冒険者登録をする。


 氏名
【ユミス】


 魔法
【治癒系魔法全般】


「ほいっ、おねーさん、これお願いね」


「はぁ……弓形さん、またあなたの仲間ですか。何ですかこの治癒系魔法全般って、私のことを馬鹿にするのもたいがいにしてください」


「だって使えるんだもんな」
「うん」


「はぁ……これがギルドカードになります。女神リシアの加護がありますように、よい冒険を」


 ジト目でマニュアル通りの定型文を言い捨てる。


「あのー、お姉さん? お名前お聞きしてもよろしいでしょうか?」


「ティナと申します。突然名前なんて聞いてどうしたんですか?」


「いや、これから長い付き合いになりそうだなって思って。俺のことも燈矢って呼んでください、弓形さんだと紛らわしいんで」


「お兄ちゃんナンパ?」


「おいおい妹よ、お兄ちゃんが綺麗なお姉さん全員に声をかけるド変態だと思っているのかい?」


「綺麗だなんてそんな……///」


「えっ、違うの?」


「えっ」


 少しの間沈黙が流れる。お兄ちゃんショックだよ、妹にド変態のレッテルを貼られていたなんて。


「イチャイチャしてないで、ほらっ、ギルドカードの更新するんでしょ」


 ユミスがふくれっ面で急かす。どこがイチャイチャしているように見えたんだろう。


「そうだった、お願いします」


「燈矢さん、また固有魔法を手に入れたんですか!? もうバケモノですね」


「バケモノは言い過ぎじゃないかな」


「あ、そうだティナさん。この国から出るためにはどのくらいクエストをクリアしないといけないんですか?」


「そうですね……高難度クエストを十個達成しないと出られませんね」


「例えば?」


「屍王の墓参りとか毒龍三十匹の討伐とかたくさんありますよ♡」


 聞くだけで背筋がフローズンしそうな単語は心のうちにサッとしまっておくとして、結構やることが多そうだ。


「分かりました。じゃあまたよろしくお願いしますね」


 ドンッ


「あぁ!? またお前かクソボウズ。あ? お前メスがもう一人増えてんじゃねぇかぁ、俺にも一人くれよ! ギャハハッ!!」


 またコイツか、なんで俺がギルドに来る時いっつもいるんだよ。


「その言葉、取り消すなら今のうちだ。俺の大切な仲間をメス呼ばわりする罪は重いぞ?」


「オラァッ!!」


 拳が炎を纏っている。おそらく、炎属性の魔道具を手に入れたのだろう。だが、


守護バルゴブラッド


 真紅に輝いた光の壁が男の拳を灼く。


「うあぁっ……お前なんなんだよぉっ!?」


ぬるすぎ」


 俺の人生で一番の噛ませ役に背を向け、ギルドを後にする。


「んはぁ……決まったっ……」


「何も言わなきゃカッコよかったのに」
「同意なのです」


「えっ、また漏れてたのかよ。俺の口もそろそろ故障してきたかな?」


 来た道を戻り、アリセルトラ武具店に着くと猫の姿になり店先でくつろいでいる店主がいた。


「戻ったぞー」


「あ、入って入って〜」


 中に入るとそこには武器が四つ置かれていた。


 片手剣、両手剣、大鎌、杖だ。


「アリセルトラ……お前、これ一人で作ったのか!?」


「へへーん、スゴイでしょ。あと、アリセルトラって長いでしょ、アルでいいよ」


「俺、猫はアルって呼びたくないんだ」


「ふ、ふーん。そうなんだ。っとと、武器の説明しなきゃねっ。片手剣は燈矢のだよ」


「盾と一緒に使えるし、いいかもな」


「しかもただの剣じゃないんだぜ〜、なんと! 全属性武器なのです!」


「うおおおお!!! カッケェ!!!」


「両手剣は鍵乃ちゃん、大鎌はミクちゃん、杖はユミスちゃんのだよ。どれもみんなが使いやすいように作っておいたから大事に使ってね」


「アリセルトラ、ありがとな。俺、お前のことただのうさんくさいヤツだと思ってた」


「にゃーーっ!? それは心外だなぁ、これでもボクは君の親友だぞっ」


「そういう所がうさんくさいんだよなぁ」


 すると、アリセルトラが椅子に座り、こっちをまっすぐに見つめてきた。


「親友のよしみで君に昔話をしてあげよう」


「えっ、いらない」


「聞いてよぉっ!!」


「ぷっ……」


 ミクが笑いをこらえている音が聞こえる。


「むかしむかし、ある所に親に捨てられた子猫がいました。食べるものも無く、死にかけていた子猫は彷徨い、フラフラと道に飛び出していきました。すると向こうからやってくる車に轢かれそうになってしまうのです」


「コイツ無理やり始めやがった」


「すると突然、ある一人の男の子が飛び出し、子猫を抱え、助けたのです。子猫はその男の子の家に迎え入れられました。一人と一匹はまるで親友のように遊び、どこに行くにしてもずっと一緒にいました」


「……」


「男の子が学校に行くようになると、子猫は一人でいる時間が増えました。ある日子猫は一人で外に遊びに行きました。そして、車に轢かれ命を落としてしまいました。男の子は泣きました。涙が枯れ、声が出なくなるほどに。子猫は天国でこう言いました、ごめんね、と」


「うぅ……子猫かわいそうだよぉ……」
「鍵乃ちゃん……お祈りしてあげようぅ……」
「なかなかいい話だったのです。ぐすっ」


「はぁ……」


「燈矢、どうしたの?」


「どうしたのじゃねぇよ、アル」


 涙をこらえ、その名を呼ぶ。その悲しい、子猫の名を。


「うぅ……あれっ、どうして……涙が止まらないんだろうっ……」


 少女の瞳からは大粒の涙が溢れ、無理やり作り笑いをしている顔はくしゃくしゃでどうしようもなかった。


「ったく、回りくどいんだよバカ」


「だってぇ……怖かったんだもん。燈矢がボクのことを忘れていたらどうしようって思うと……言い出せなかったんだよぉーっ……」


「忘れるわけないだろ。俺は、お前の親友なんだから」


「ほら、こっちおいで」


「うんっ!!」


 猫の姿で飛びついてくる親友はとても可愛く思えた。もう二度と失いたくないと、心が叫んでいた。


「案外俺らもあっちの世界で死んでるのかもしれないな」


「二人は生きてるままこっちに来たはずだよ」


「誰から聞いたんだ?」


「リシア様だよ、この世界の全能神」


 さすがは通貨になるくらいのご身分だ。異世界から魂引っ張ってこれるなんて、学者が泡吹いて倒れちまうぜ。


「じゃあリシア様には感謝しないとな。こうしてまた会えたのもそいつのお陰だ」


「そうだ、俺たちと一緒に暮らさないか?」


「ううん、ボクは店もあるし、ここに残るよ」


「そっか、じゃあ定期的に遊びに来るよ」


「うん、待ってるよ。あ、そうだ燈矢今日はココに泊まっていきなよ」


 ちょうど宿も取っていなかったし、丁度いい。俺も話したいことが沢山あるし。


「じゃあお言葉に甘えて」


 その夜は食べて、飲んで、遊んで、話して、騒がしい時間を過ごした。気づくと三人は寝息を立てて寝ていた。


「なぁ、アルぅ〜抱きついてもいいか?」


「いくら燈矢くんでもセクハラはダメだよ。まったくもう」


「猫になればいいじゃん」


「それはそれで恥ずかしいんだよ」


「そうなのか、もう二度とアルを可愛がることは出来ないんだな。はぁ……」


「あーもうっ、ほらっ、好きなだけ抱きしめるといいよっ」


「やったね」


「うわっ、人の姿のまま抱きつかれるのはさすがに恥ずかしいよぉ……って燈矢?」


「すぴーっ」


 親友を起こさないように優しく抱きしめ返す。長い空白を埋めるように目を閉じる。


 きっとボクは今、世界で一番幸せだ。

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