朝起きたら妹が魔王になってました

猫撫こえ

第19話「単純で簡単な」

「なんだよ…これ…」


「ひっ…」


「アイツに何かあったみたいなのです」


 俺達がリージュに帰ると、そこはかつての美しい風景を湛えた姿を失った、荒廃した平原が広がっていた。


「ユミスさんの所に行こう」


 何があったのか、どうしてこんなことになっているのかなど疑問は尽きない。


 俺達の屋敷からは大量の瘴気が放たれていた。


「ああっ! 燈矢、一体どこで何をしていたんだ」


「リューズ、これは?」


「ユミス様が…突然倒れて、身体中から瘴気を放ち始めたんだ。周りの人が瘴気のせいで次々と体調を崩し始めて、しょうがなくこの家に…」


「そっか、ミク」


「なんでしょう?」


「この原因とか分かる? というより分かってるだろ」


「もちろん分かりますとも、ズバリ、ユミスは風邪をひいているのです」


 この世界の風邪ってインフルエンザなんて目じゃないくらいに厄介なんですけど。


「風邪なわけないだろ!?」


「ナイスツッコミ、リューズ。これって、神様限定なの?」


「はい、神の風邪、それは天変地異の厄災です。そして私と鍵乃ちゃん、リューズ君もユミスに近づくことは出来ないのです。鍵乃ちゃんとリューズ君は病にかかり、私は悪魔堕ちしてしまうのですよ」


「あの、俺の名前が出てこなかったんですけど」


「燈矢くんははっきり言って防御力しか取り柄がありません。この程度の瘴気、問題ないでしょう? ちなみに私達はすでに具合が悪いです」


「おいおい大丈夫なのかよそれ、俺はまだ大丈夫だから、二人はリューズの家に避難してくれ。ユミスさんは、看病王子と呼ばれた俺に任せとけ」


 ユミスさん、暴れたりしないでくださいお願いします。悪魔になんてならないでくださいお願いします。
 などと心の中で祈りつつ、瘴気の濃い方へと進む。でも、ここって…


「俺の部屋じゃねぇか!! ってユミスさん! 大丈夫ですか?」


「うっ…うぅ…だめ、離れて…」


「俺なら大丈夫です。ユミスさんの看病をしに来ました」


「燈矢くん…? よいしょ、えへへ、風邪…ひい…ちゃった」


 起き上がろうとするユミスさんを慌てて寝かせる。さすがに辛そうにしている人に無理させるわけにはいかない。


「ユミスさんは寝てていいから。アイギス、治癒ヒーリングライト


 いつもながら即興の直訳クソダサネーミングがほとばしる。ヒーリングライトって、シーリングライトかよ。うわ、つまんねぇ。


「ありがとう。少し、楽になったかな。私、みんなと一緒にお祭り出来るのが嬉しくて、お祭りが盛り上がるように毎日夜遅くまでお花達に力を分けていたの」


 めちゃくちゃ健気でいい子だな…こういう子がお嫁さんになったら尽くすタイプになるんだろうか。


「その時に雨が降ってたりしたから、そのせいで風邪引いちゃったのかも。私のお祭り…私がめちゃくちゃにしちゃったね、あはは…」


 最後の笑い方はとても寂しそうで、申し訳なさそうな、苦しい音を響かせていた。


「何言ってんの? ユミスさんが回復したらお祭りやればいいじゃん。なにも今日やらなきゃいけない訳じゃないだろ?」


「えっ?」


「人間が決めた日程なんて気にしない、気にしない」


「でも、それじゃみんなが今まで頑張って準備してくれてたのに…」


「今、ユミスさんはここにいて、苦しんでる。実質リージュは死んでるも同然だ。でも、ユミスさんが元気になったら、リージュは蘇るんだ。なら復活祭にしちゃおうよ」


「そんなの、私が迷惑かけてるだけ…」


「お祭りは、多いほうが楽しいでしょ」


 ユミスさんの反論が止まる。ネガティブ過ぎるのも困りものだな。


「ユミスさん、この部屋には今俺達二人しかいません。それにここで話したことは誰にも話しません。だから、泣いても、笑っても、何をしてもいいんですよ」


「うぅっ…わあぁぁぁん…みん、なと…お祭り、したくて…ぇ、嬉しくてぇ…っ」


 堰を切ったように溢れ出した涙は、普段から元気な性格の裏に隠していた、弱い部分なのだろう。まるで子どものように泣きじゃくるその姿はいつしかの鍵乃を彷彿とさせていた。


「うんうん、ユミスさんは頑張ったよ。いい子だよ」


 それから、俺はユミスさんをなだめ、頭を撫で続けた。


「落ち着いた?」


「うん、ありがとう」


「どういたしまして」


「ねぇ、燈矢くん、君はどうして優しくしてくれるの?」


「そんなの、(地域のみんなも)心配だし、(看病するのも)好きだからだよ」


「(私のことが)心配で、(どうしようもなく)好きだから…?」


(こんなに大胆な告白なんて…ちょっとだけ、かっこよく見えちゃうかも…)


「あ、ユミスさん、そこ動かないでくださいね。熱測るから」


「わっ、わわ、ストップ! ふぅ…お、お願いします」


 額が触れ合う。まだ熱があるのか、熱く感じる。顔も赤いし、まだ安静にしてたほうが良さそうだ。この調子で治癒魔法をかけ続けていれば、早めに治るだろう。


「うーん、まだ熱があるみたいですね。布、濡らしてくるので寝ててください」


「うん、分かった…」


ーーーーーー


「あぁぁぁぁ!!! かっこよすぎるよぉぉ…」


 さっきから胸を叩く鼓動が止まらない。身体が熱い。燈矢くんを想う心が、気持ちがとめどなく溢れてくる。


「燈矢くん…すきだよ…」


ーーーーーー


「呼びました?」


「ひゃっ!? いや、呼んで…ないよ?」 


 なんか呼ばれてる気がしたんだが、気のせいだったのだろうか。


「あ、そうだ燈矢くん、君はなんで私のことをユミスさんって呼ぶの? 私の方が年下なのに」


「あーそれは…なんか、お姉さんっぽく見えちゃうのかな、ほら、身体とか確実に十四歳の代物じゃないし」


「それは私が老けてるって言いたいのかな?」


「いやいやいや、あの、なんていうか、より異性として意識してしまうというか…」


「えっ、あの、それって…その…そういうことだよね」


(異性としてってことは、好意を寄せられてるのかな?)


「まぁ、俺も年頃の男の子ですし」


「ふ、ふーん…そっか、燈矢くんのエッチ」


(やったっ、二人にはない武器が私にはあるんだ…)


「ぐはっ」


「ねぇ、燈矢くん。私のこと、ユミスって呼び捨てにして。あと、敬語も禁止。」


「えっと…ユミス…?」


「はうぅっ…ありがとうございます」


 何故か感謝され、今日のユミスはよく分からない。


「今日、燈矢くんはリューズ君の家に行くの?」


「いや、ここにいますよ。また悪化してもダメですし」


「敬語禁止」


「あっ、ごめん。というか、俺のことも燈矢って呼び捨てにしてくれよ」


「うえっ!? と、燈矢…あははっ、なんか照れちゃうね」


「はいはい、あんまりはしゃぐと悪化するぞ? 安静にしてなきゃ」


「眠れない。頭ナデナデして」


「お子様かな?」


「うるさい。ふふっ」




 この少し子供っぽい、大人びた、単純で簡単な神様は、ただひたすらに純粋で、誰よりも綺麗だった。





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