朝起きたら妹が魔王になってました

猫撫こえ

第18話「願い」

 シャスティの言葉の意味が上手く理解できない。頭が追いつかない。システム化?


「それって…」


 幾秒かして、ようやくその言葉の意味を理解する。


「それって、ミクが鍵乃を殺すために創られたってことか…?」


「正確には勇者に死の恐怖を与え、脅し、魔王を殺させるためにいる存在だ」


「でも、今ミクは俺の使い魔だ。確かに死の呪いは掛けられているが、こいつに殺す気なんて無いはずだ」


 今まで一緒に生活して、ミクはとても優しい女の子であることは分かっている。その考えが甘えだとしても、俺はそう信じたい。


「だから最初に言っただろう、今の君がするべきことは、魔王を殺すことじゃないと」


「さっきから回りくどくて意味分かんねぇよ! もっと簡潔に言えよ!」


「分かった。君にはこの世界を救ってほしい。私が言えることはそれだけだ」


「この腐りきった世界を、妹を殺すために動いている世界を俺が救う…か」


 馬鹿馬鹿しい、こんな願いを聞き入れられるほど俺は人間が出来ちゃいない。


「一度起動した魔法は…神力じんりきは止められない。君たちはこれまで通り命を狙われ続けるだろう」


「それが嫌だって言ってるのが分かんねぇのかよ」


「君が動かないと、この世界は君たち諸共滅びることになる。世界樹、いや、龍によって」


「龍…?」


「今まで奪われてきた魔王の命は世界樹のために使われた訳じゃない。世界樹の中にいる龍に与えていたのだ」


「聞いてた話と違うな、この世界はみんな嘘つきなのか?」


「龍に力を、魔王の命を与え続けなければ、世界樹は奴に喰い潰されてしまう。それは世界の終わりを意味する」


 正直、いきなり龍だとか世界樹だとか言われても全然実感湧かねぇし、そもそもそんな奴に俺が勝てるとも思えない。


「龍はこの世界にとって存在してはいけない、創られた時に現れたイレギュラー。そして君達は決められた運命に抗う、そのための能力を持っているイレギュラーだ。そこの死神も含めて、ね」


「そんなもん神様が何とかしてくれるんじゃねぇの? なにも俺達が戦う必要も無いだろ」


「神族では倒すことはおろか、触れることすら出来ない。この龍は、神から生まれた異物だ」


「あーはいはい、俺は関係な…」


「頼む!!! お願いだから…どうか、どうか奴を倒してくれ…」


 涙を流しながら深く頭を下げているシャスティは、とても辛そうに、それはまるで運命に泣かされているように見えた。


「はぁ…一応聞いておく。 何から始めればいいんだよ」


「倒して…くれるのか? ありがとう…っ」


「一応だ、一応。 倒すとは言ってないだろ」


「いや、いいんだ、ありがとう。まず、ネグラフィリア、リソステリア、メリザネルア、シュラガレア。この四国にある楔を解放して貰いたい。それぞれ四種族が治めている国だ。そこにいる賢者に会いに行ってくれ」


 横文字が多すぎて頭が痛くなってくる。楔とか賢者とかいよいよRPG感出てきた。


「その四国に行って、そいつらに会うだけでいいのか?」


「いや、そもそも一定の功績を挙げなければ、入国すら認められないだろう」


「じゃあ、どうすればいいんだよ」


「ギルドで大きなクエストをクリアするしか道はないだろうな。少なくとも、十個はクリアしないといけないと…おも、います。」


 俺の顔が険しくなるにつれてシャスティの声が小さくなる。


「クエストを、十個…? 正直ダンジョンとかもう行きたくないんですけど。あそこトラウマの塊だし」


「私、やります。やってやります。だから、シャスティさん元気出して?」


「鍵乃…あんなに苦しい思いしたのに、大丈夫なのか?」


「大丈夫だよ、何回言わせるの? お兄ちゃんが守ってくれるんでしょ。 最近自信なくしてるよね、かっこ悪いよ」


「はぅあっ…」


 かっこ悪い…? 頭の中で鍵乃の声がグルグルとリピート再生される。これは由々しき事態だ、このままでは、妹に嫌われてしまう。


「おい、シャスティ。やってやるよ、龍退治。その代わり終わったらなんか奢ってくれ」


「ぷっ…あははっ。いいよ、好きなだけ、何でも奢ってあげよう」




「あと、いつか、本当の名前教えてくれ」




「えっ…」


「じゃあ、俺ら帰るから。着いてくるなよ、明日はユミスの豊穣祭だからな、早く帰らないと」


 城から出て、後ろを振り向くと俯いたシャスティが見えた。やっぱり、あいつは。


ーーーーーー


「アイツの祭りなんて本当は出たくないのですよ」


「まぁまぁ、一緒に楽しもうよ。 そんなに貧乳いじられるのが嫌いなの?」


 両脇腹に鉄槌が入る。二人の美少女はどちらも慎ましやかな胸を装備していて、非常に俺好みなのだが、本人が気にしている以上変なことは言わないでおこう。


「シャスティ…か」


 今度は両側からの視線が痛い。


「シャスティ、あの女がそんなに良かったのですか。確かに、多少美人で、胸も大きい…けど、それだけの女なのです」


「シャスティさんかぁ、へぇ、お兄ちゃんってああいう人がタイプなんだ」


「違う! 断じて違う! 確かに美人だし、上品で、おっぱい大きいけど、決して好きとかそんなんじゃないんだから、勘違いしないでよねっ!」


「わあ、ツンデレだあ。お兄ちゃん、それはてれかくしなのかな?」


 鍵乃さん怖い。声の調子にメリハリがないし、目が死んでる。


「だーかーらー、俺はあくまでもお前達にしか興味無いってば」


「そっか、うふふ。そっかそっか〜そうなんだ〜」


「それならいいのですよ。いずれ鍵乃ちゃんも越えてみせるのです」


 シャスティ…やっぱり、昔会ったことあるよな…でも、いまいち思い出せないんだよな。なんだろ、コレ。


「豊穣祭って何するんだろう。だって今回は本物のユミス様がいるんだし、特別なこととかやるのかな?」


「あんな牛女いてもいなくても変わらないのですよ」
 

「まぁまぁ、ミクちゃん落ち着いて」


 ミクのヘイトがヤバイ(急激な語彙力の低下)




 笑いながら、明日の話をしているこの時が、思えば一番楽しかったかもしれない。


 これから何が起きるか、今の俺達には知る由もなかった。



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