朝起きたら妹が魔王になってました

猫撫こえ

第16話「死の刻」

「あああぁっっ!!! …なんてな」


「嘘…! なんで、腕が!」


 鍵乃は確かにイルの腕を一つ落としたはずだ。だが、目の前のイルにはきちんと両腕が付いていた。


「言っただろう? 妾は変幻の悪魔だと、腕の一本や二本創ることなど造作もない」


「なら、戻せなくなるくらいに壊す!」


「ふっ…来るが良い、哀れな魔王よ」


 鍵乃が魔法を使い、一気に勝負を終わらせようと腕を前に突き出す。


 鍵乃ほどの力があれば高位の魔法ですら魔法名を唱えるだけで放つことが出来る。


「我は変幻の化身、イル。我が名をもって、全てを歪めろ。 幻歪ディストーション


「鍵乃ちゃん!! 撃っちゃだめ!!」


「えっ…?」


 ミクの声も虚しく、その声が鍵乃に届いた頃には既に闇色の魔法がイルに向かって放たれていた。


「あはははははっっ!! 死ねぇっ!!」


 鍵乃により放たれた魔法はイルに触れる直前、向きを変え、鍵乃に返ってきた。
 今の鍵乃は燈矢のお陰で防御力が上がっているとはいえ、一般人レベルだ。あんなものを喰らったらひとたまりもない。戦闘経験なんてものはあるはずも無く、相殺することすら頭に浮かばない。


「また、私のせいで…ごめんね、お兄ちゃん」


 目を閉じる。全てを受け入れるように。何者も拒まず、立っていた。


「私が…私が、守るんだっ!」


 ミクが鍵乃を突き飛ばす。そして、魔法全てをその体に受ける。


「馬鹿か? お前が食らってどうする」


「うぅっ…あっ…」


「ミクちゃん!! どうして!? 私なら死なないのに!」


「燈矢くんが…っ! 守らなきゃって、言ってた…から…っ」


「あぁ…可哀想に醜い神よ。妾が息の根を止めてやろう」


 鍵乃から魔力が漏れている。それは限りなく濃く、視認できるほどだった。


「イル。もう、黙って」


「なら早く決着をつければいいだろう」


「…デスガルド


 風が止まる。人の動きも、光すら捉え、離さない。時を止める禁呪。古の呪い。


「これ使ったら、どうなっちゃうんだろ。イル、さようなら」


 闇を纏った剣がイルの身体を切り刻む。限りなく、塵に近づくように。


「はぁっ、はぁ…っ」


 時が動く。残されたのはただの肉片と化したイル。鍵乃にはもう立っているほどの力も無く、その場に倒れ込んだ。


「うっ…ん? 鍵乃っ!! ミクまで…アイツにやられたのか!?」


「お兄ちゃん…うぅっ!?」


 鍵乃の背中に一筋の黒いアザが出来る。


「これって…」


「私の、魔法のせいだと思う」


「そっか、ミクは!? 何でこんなことに…アイギス、治癒の光を」


 ミクの治療を行いつつ、寝てる間の状況を整理する。


「ミクちゃんは、私のせいで…私の魔法が跳ね返されて私に当たりそうなところを助けて、それで…」


「そっか…頑張ったんだな。ありがとう、ミク」


 純白の美しい髪を愛おしさを持って撫でる。これでもかというくらいに。


「あと、アレは…悪魔なのか?」


「うん」


「貫け、聖煌矢レイストラヴァル


「なんで?」


「いや、悪魔だし一応浄化しといた方がいいと思ってさ」


 血みどろの肉片が光に照らされ消える。天に還った悪魔は一体どうなるんだろう。


「んっ…なっ、と、燈矢くん!? あの、これは、えっと…」


 今の体制は胡座あぐらをかいている俺の上に座るようにしてミクがいる。


「とりあえず落ち着け、ありがとな、ミク」


「頑張ったのですよ。とっても。だからもっと褒めてくれると嬉しいのです」


「はいはい、頑張ったね。立てるか?」


「燈矢くんの匂いと温もりで全回復しました」


「鍵乃も大丈夫か?」


「うん、歩けるくらいには大丈夫だよ」


「じゃあとりあえず街の宿屋まで行こう」 


 城に行くためには絶対に街を通る必要がある。物資なども調達したい。回復薬とかあんのかな。


ーーーーー


 宿屋に着くと、ミクと鍵乃が一斉にベッドに飛び込む。こういうところはまだまだ子供だと思う。


「ほら、燈矢くん」


「お、お兄ちゃん…」


 ミクと鍵乃の間は人一人分開いていて、二人とも手招きをしている。


「あ、なるほど。ボーナスタイムか」


 俺も疲れていたし、心細かったこともあって二人と一緒に寝ることを拒むことはしなかった。


 明かりを消し、天井を見上げながら、今までずっと言いたかったことがあった。


「鍵乃、さっきの格好、すごくえっちだったな」


「お兄ちゃん、言っていいことと悪いことがあるんだよ」


 声色が冷たい。恥ずかしがってくれると可愛げがあって良かったのに。


「本当にすみませんでしたごめんなさいもう言いません」


 明日こそ城に到達したい。そのためにもしっかり寝ておかなければいけない。


「ミク、耳に息かけないで、くすぐったいから」


「たまたまなのですよ、燈矢くんこそさっきから太ももを触ってるのですよ。いや、別にそのままでいいんですよ」


「お兄ちゃん…?」


「いや…っ、たまたまだから! 偶然だから!」


 この調子で寝られるのかという不安を抱えながら、俺は無事に明日、目の下にクマをつけて宿屋を出るのだった。

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