朝起きたら妹が魔王になってました

猫撫こえ

第13話「妹も可愛いけど使い魔も可愛い」

 今日は朝からギルドに竜車を返しに行くついでに、買い物と金庫に預けていた残りの金を取りに行くため、街へ来ていた。


「ミクも来ればよかったのにな」


「えっと…そ、そうだね」


 ミクは用事があるからと家に残った。今まで忙しそうにしているミクを見たことがない俺としては、用事とは何かすごく気になる。


 ギルドに着き、クエストカウンターに向かう。昨日とは違う人が対応してくれた。


「竜車の返却とクエストの処理をしたいんですけど」


「ではギルドカードの提示をお願い致します」


 ギルドカードを差し出すと受付のお姉さんが小指で紋章の様なものをなぞり始めた。一通りなぞり終わると


「こちらのクエストは採取ツアーですので報酬金は出ません」


「へ?」


「そもそも採取ツアーはダンジョンで手に入れたものを売却したり使用するなど好きに使えるのですから、報酬金以上の価値があるんですよ?」


 俺は折れた剣や様々な鉱石などが入った袋をダンジョンの中にポーイってぶん投げてきてしまった。


「あ、ハイ…それじゃ、またよろしくお願いします…」


「はい、それではまたの冒険でお会いしましょう」


 五十リシアを悔やむ。五十リシアあればドラゴンの照り焼きを二皿は食べられたのに…っ。


「ねぇねぇお兄ちゃん。先に換金所に行くの?お買い物するの?」


 今日は武器や防具を揃えようかと思っていた。値段も分からないし、所持金は多いほうがいい。


「先に換金所だ、その後武具店に行く」


「武器かぁ… やっぱりあった方がいいよね」


 昨日みたいなことがこれから先、もっとあるかもしれない。運命を呪ってもしょうがないし、それに対応していかなくちゃならない。


 換金所に着き、金庫を開けてもらう。残りの五千万リシアを受け取る。


「弓形様ですね、こちら預けられていた五千万リシアになります」


 金を大きなバッグに詰め込み、換金所を後にする。


「前も思ったけど、やっぱり重いな…」


「こんな大金盗まれたら大変だね」


「ちゃんと大事に持っていれば大丈夫だろ」


 その瞬間、手の甲に衝撃が走る。持っていたバッグを奪われた。


「くそっ…フラグ回収早すぎだろ…っ」


 すぐに後を追いかける。フードを被り、体に対して大きなコートを着ているため、後ろ姿では男か女かも分からない。


「すみません、通してください!」


 しかも、ものすごい速さで走っているのにも関わらず、通行人と一切ぶつかっていない。


「お兄ちゃん! 待ってよ~!」


 夢中で追いかけていると周りの景色が変わった。街の中を走っていたはずなのに辺りは緑に囲まれていた。


「ここは一体…」


 フードが足を止め、こちらに振り向く。白金の長髪に色素の薄い、紫がかった瞳。その容姿はどこか神秘的で儚げにも見えた。


「手荒な真似をしてすまなかったな、これは返そう」


「ありがとう…はおかしいか。まず、アンタは誰で、何のためにここまで連れてきたんだ」


「私はシャスティ。貴方達、魔王と勇者に伝えなければいけないことがある」


 やはり俺たちのことを知っている。昨日を思い出し、体が強ばる。


「王国の手先か?」


「私に戦う意思はない」


「そうか、で、話したいことってなんだよ」


「この世界についてだ」


「あぁ、それなら知ってるさ。世界樹に命を捧げなきゃいけないんだろ?」


 シャスティはどこか寂しそうに顔をしかめる。


「うむ、それともう一つ、この世界では生きる理由を失うと存在が消滅することになっている。必ず一人一つ与えられた運命がある。それを失ってしまうとこの世界からは消えてしまうんだ」


「それってどうやって見つけるんだよ」


「それは自分で見つけるものさ、でもただ一つ言えるのは今の君たちの存在理由は【勇者が魔王を殺すこと】ではないということ、そして」


 シャスティはコートの中から一枚の写真を取り出し見せてきた。


「これって…俺と鍵乃? でも、なんで…」


「この二人の存在理由は【勇者が魔王を殺すこと】だ」


 この女は何を言っているのだろうか。俺と鍵乃なら目の前にいるじゃないか。


「もっと知りたいなら城に行ってみるといいさ、そこで全て教えよう」


 気がつくと街の中にいた。シャスティの姿は消え、残されたのは一枚の写真だけ。


「なにがどうなってんだ…全く」


「お兄ちゃん、お城行くの?」


「いや、今日は行かないよ。さぁ、買い物して帰ろう」


「うん…」


 それから俺たちは武具店に入り、武器や防具を見た。


「なるべく軽いのがいいけどな…剣士って訳じゃないし」


「私はこの杖にしようかなぁ」


 鍵乃が手に取っていたのは先端が槍のようになっている杖だった。てかそれ槍じゃないのか。


「じゃあ俺は…」


 なんだか先程から目にとまる魔道具があった。


「この指輪…装飾が俺の盾に似てるな…よし、これにしよう」


 試しに嵌めてみると、龍の紋章が光った。体に魔力が満ちるのを感じる。


 この指輪、値段が書いてないんだけど非売品なのかな。


「これ買いたいんですけど…」


 店員さんを呼び、会計を済ませる。


「はーいっ! この杖、かなり高いですよ?大丈夫ですか?」


「お金のことなら大丈夫ですよ」


「なら二千万リシアになりますっ!」


 すげぇ…めっちゃ高いやん…


「じゃあこれで…」


「うわわっ! 本当にお金持ちなんですね、お買い上げありがとうございました!」


「あれ? この指輪は?」


「そんな指輪はウチに置いてなかったはずですよ? お兄さんのじゃないんですか? 魔力も感じませんし…ただの指輪なので武具店のものではないですよ」


「さっきその棚の上で見つけたんだけど… 嵌めると魔力出るし…」


「いえ、そんなはずはありません。私が言うんだから間違いありません。それはただの指輪です! 売り物じゃないですし、持って帰ってもいいと思いますよ」


「そ、そうなのか。じゃあそうさせてもらうよ」


 今日は意味の分からないことが多すぎる。何かが起こる前兆だろうか。


 ーーーーー
 ーーー
 ー


「食べ物も買ったし、帰ろっか」


「あぁ、ミクも待ってるだろうしな。今日は何を作ってくれるんだ?」


「えーっとね…ハンバーグにしよっかな」


「おっ、いいね」


 ーーーーー


 家に帰るとミクがなんだかそわそわしていた。


「ミク、どうかしたのか?」


「あ、あのっ、こっ、これ、受け取ってください! …なのです」


 ミクに手渡されたのは【なんでもいうこと聞く券】と書かれた紙だった。


「あ、あの、普段の恩返しとか…したかったのですけど、なにをしたらいいか分からなくて…鍵乃ちゃんみたいに料理も出来ないし…これじゃダメ…ですか?」


「ぷっ…あははははっ! ありがとう、ミク。大事に使わせてもらうよ」


 幼稚園児みたいな恩返しに思わず吹き出してしまったが、たまらなく嬉しかった。用事とはこのことだったのだろう。


「鍵乃ちゃんにもあげるのです」


「ありがとね、ミクちゃん」


「朝から考えて、わざわざユミスにも聞きに行ったのですけど…」


 ミクの頭を撫でる。これでもかと言うくらいに。


「わっ、あの、嬉しかったですか?」


「最高に嬉しかったよ」


「ふふっ、それは良かったのです」


「ミクちゃんズルい!! お兄ちゃん! 私も撫でて!」


「はいはい、こっち来な」




 これから何が起こるか分からない異世界で、小さな幸せを噛み締めた。

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