朝起きたら妹が魔王になってました
第10話「流星と輝く矢」
俺は今、過去最高に疲れている。その上今日はベリーハードなお仕事が待っている。
「なぁ、そろそろどいてくれないか?」
「すぅ…」
「むにゃむにゃ…」
「すぴー…」
「うん、寝てる。お前らのせいで眠れなかったのに」
俺は身体を起こし三人を引き剥がした後綺麗に寝かせ、部屋を出た。
「朝メシなんて作ったことないしなぁ…料理経験も調理実習位だし」
「弓形さーん、いらっしゃいますかー?」
扉の向こうには華奢な猫男リンド・リューズがいた。
「あれ? リューズ君、お父さんは?」
「父は今日の朝突然熱を出してしまって… 行きたい行きたいうるさかったので部屋にぶち込んでおきました」
「お父さんの扱いそれでいいのかよ」
「そうだ燈矢君、朝ごはんは食べた?」
「まだ、それと呼び捨てでいいよ」
「なら僕もリューズって呼んでよ、これから朝ごはんだから一緒にどう?」
「マジか! 行く行く!」
朝ごはんのピンチを乗り切ることが出来そうだが、ラウニさんがダウンとなると俺はリューズと一緒に行くのか?
俺が言うのもなんだがちょっと頼りない。筋肉だって俺の方がある気がするし。
「お、おじゃましまーす」
家の中に入ると野太い泣き声が聞こえてくる。ラウニさんだろうか。
「あら、いらっしゃい燈矢くん」
「あの… ラウニさんってどこにいるんですか?」
「そこの部屋の中に閉じ込めておいたわよ。一緒に行きたがってたし声かけてみたらどうかしら」
俺は泣き声の聞こえる部屋の前に立った。ドアには鎖が付けられ、厳重にロックがかけられている。
「あ、あの〜ラウニさん?」
「その声は、燈矢くんか!? 本当に申し訳ない! 私がもっとしっかりしていれば良かったのに…ゴホッ…グスッ」
「あの、そのことなんですが僕はリューズと一緒に行けばいいんですか?」
「えぇ、リューズはああ見えて結構頼りになりますから安心してください。」
「あっ、はい」
「燈矢ー! 早く食べようよー」
リューズに呼ばれ、俺はテーブルに座った。パンとジャム、スープが置かれていてどれも美味しそうだった。
「じゃあ、燈矢。今日の説明なんだけど…」
「このスープうまっ。あ、悪い、なんだって?」
「今日僕達が狩りに行くのはデビルウルフとマンドラゴラ。これはユミス様の豊穣祭で使うものなんだよ。」
「そのデビルウルフってのはなんなんだよ」
「デビルウルフは小型の狼だけど、どの個体も悪魔の力を受けているんだよ。アイツらは悪魔との契約魔法が使えるから注意しないと大怪我することになるよ」
なにそれデビルウルフ怖い。俺、生きて帰ってこれるのかな。
「デビルウルフは遠くから僕が射撃で倒そう。あぁそれと、燈矢は自分の力を見たことがあるかい?」
「ステータス的な?」
「そのステータス? が何かは分からないけど僕なら君が何に優れているかを見ることができるよ」
「え! なにそれすげぇ! 見てくれよ!」
「じゃあいくよっ! 視覚化」
右目に青い魔法陣が現れる。どんな感じで見えているんだろう。
「えーっと…」
(ん? 攻撃力がたったの五十しかないじゃないか… あまり期待は出来ないな。魔法力は百五十か。防御は…見えないな。おかしい、こんなこと今まで無かったのに)
「ど、どうだった?」
「なんだか今日は調子悪いみたい。多分当てにならないけど聞く?」
「聞かせてくれよ」
「まず、君の攻撃力は五十だ。これははっきり言って弱すぎる。運動とかしてないでしょ」
「はうっ」
「魔法力は通常の人より高いけど、攻撃魔法が弱いね。これじゃ攻撃も反撃もできないね」
「うっ…」
さすがに自分のポンコツっぷりに落ち込む。しかもなんかリューズの言葉が心に刺さる。
「あと、君の防御力は…ごめん。見えなかったんだ。この魔法は獣人族しか使えない固有魔法だから誰でもすべて綺麗に見えるようになってるはずなんだ」
「俺の体がおかしいってこと?」
「分からない。念のために母さんにも見てもらおう」
防御力って大事じゃん。ほら、攻撃出来なくても最悪死ななきゃいいんだから。でも勇者の攻撃力が低くてどうするんだよ。
「母さん、燈矢のこと見てもらっていいかな?」
「どうかしたの? 別にいいけど」
ティアードさんの目が光る。なんかしかめっ面なんだけどやっぱりなんかおかしいのかな。
「なんだか、昨日の夜お楽しみだったみたいね」
「なっ、あっ、えっ、そ、そんなところまで見えるんですか!?」
スキャン恐るべし。こりゃ下手なことできねぇな。
「母さん! ふざけてないでちゃんと見てよ!」
お前も見たのか…
「防御力にもやがかかって何も見えないわ。にしても攻撃力ひっくいわねぇ…」
「ふぐぅっ…」
「あー、もう僕のことはいいですから! そろそろ時間だろ? 行こうぜ」
「そ、そうだね。じゃあ行こっか」
俺達は家を出て、裏に見える森の中を進む。動物も結構いるみたいだ。
「なぁ、先にどっちを獲りに行くんだ?」
「マンドラゴラが先だよ。あの植物は面倒くさいからね」
「引き抜いた時に声聞いたら死ぬとかある?」
「なにそれ、何の話?」
「マンドラゴラは木になっている実なんだけど、その木がとてつもなく高い木なんだ。だから撃ち落とさないと手に入れることが出来ないんだよ」
俺ってもしかしてただの足でまといじゃね。
「マンドラゴラはとっても甘い果物だし好きな人も多いけど、食べすぎると味覚を失うんだよ。だから魔女の果実っても呼ばれたりするね」
「それも怖い話だな。味が感じられなくなるのは正直辛いしな」
獣道を進んでいると、日本の御神木なんて目じゃないくらいの大樹が見えてきた。
「あれがマンドラゴラの木だよ!」
「リューズ。俺、てっぺん見えないんだけど」
「うん、僕も見えてない」
「どーやって採るんだよ」
「あの上には数え切れないくらいに実がなってるから、適当に石を投げるだけでもたくさん落ちてくるんだよ」
その石が届かない気がするんですけどそこはどうするんだろう。
「うーん… これにしよっかな」
リューズは手頃な石を持って魔法を唱え始めた。
「天高く撃ち抜け! 流星弾!!!」
石は目にも留まらぬ速さで空に向かって行った。
しばらくするとメタリックレッドの皮を持つ綺麗な果実がふわりふわりとゆっくり落ちてきた。
「へぇ、不思議な木があるもんだな。どれ位持って帰るんだ?」
「使うのは二つだよ。マンドラゴラはお供えだからね」
食べたいから三つ持って帰ろう。食べすぎなきゃ、大丈夫。
「あとはデビルウルフだっけ、どこにいるか分かったりするのか?」
「後ろに一匹。さっきから着いてきてたね」
「うおぃ!? もっと早く言えよ!」
「アハハ、ごめんごめん。ほら、来るよ。」
「アレが…デビルウルフ…ってちっさ!!」
俺達の目の前には、例えるならチワワくらいの真っ黒な小狼が居た。
「こんなの一瞬で蹴散らしてやるぜ!!!」
「あ、ちょっと燈矢!!」
駆け出した俺にリューズが声をかけるが全く聞こえない。今の俺は役に立ちたくてしょうがないのだ。
「オラァァ!!」
狼に蹴りを入れる。刹那、狼の体躯はみるみるうちに大きくなり、大狼と呼んで差し支えないレベルまで大きくなった。
「あ、すみませんでした。すっごく足がかゆくて…なんちゃって…ア、アハハ」
「もう! だから待ってって言ったのに!」
「助けてぇぇぇええ!!!」
リューズが弓を放つ。が、狼には全く効いていないみたいだ。
「物理攻撃が効かない!? なら…」
リューズが腕を天に掲げる。幾重にも重なった綺麗な蒼い魔法陣が生まれた。素人の俺でも分かるくらいに大きな力だ。
「夜闇に煌めく星よ、蒼炎をもって群青を焼き尽くせ!! 蒼龍星!!!」
空から青く輝く星が流れてくる。それは狼の体を焼き尽くした…かのように思えたが
「ハァッ…ハァ…魔術結界…! くそっ…」
リューズが力尽き、倒れる。狼がリューズ目掛けて飛びかかる。
俺のせいで、こんなことになった。落ち着いていれば、今頃終わって帰ってるはずだ。
悪魔の嗤い声が聞こえる。
「くっそぉぉぉぉお!!!!!」
無我夢中で狼とリューズの間に飛び込む。前にもあったな、こんなこと。
「うっ…あれ?」
俺の前には巨大な盾が現れ、狼の動きを止めていた。
頭の中に呪文が流れ込んでくる。勝手に口から言葉が漏れ出す。これなら勝てると、変な自信があった。
「影よ、闇よ、我が光の輝きは命の煌きなり、幾億の運命よ、哭け 聖煌矢」
盾から光の矢が放たれる。その光は辺りを飲み込み、大狼は浄化された。
「終わった…のか? ははっ…やったぞ! 俺が…倒したんだ…」
俺は力尽き、泥のように眠った。
「やれやれ、なのです」
目を開けると隣にはミクがいた。
「おはようなのです」
「お、おはよう」
「いてて…体が重いな」
「燈矢くんは燈矢くんにしか使えない魔法を使ったのですよ。魔力を使い果たしたあげく、そのまま眠ったのですよ」
「あっ…思い出した。リューズは!?」
「あの後すぐに私が駆けつけたので大丈夫だったのです」
ありがてええええ!!
ミクちゃんの好感度爆上げなんだけど。
「ありがとな」
「そんなに見つめられると照れるのです。そんなことより、燈矢くんがいなくなってる間に鍵乃ちゃんは死にかけていました」
「え?」
「今はもう大丈夫なのです。燈矢くんが帰ってきた途端に容態が良くなったのです」
俺がいない間に一体何があったんだ?鍵乃が死にかけた?
「お兄ちゃん! もう大丈夫なの?」
「鍵乃こそ、大丈夫なのか?」
「うん、苦しんでる時の記憶はないんだけど、ミクちゃんいわく半分死んでたらしいよ」
「神様であるこの私、ミクトランテクトリがあなた達のことについて教えてあげましょう」
いつになく真面目モードだ。語尾が消えてる。
「弱点ってどういうことだ? 弱点があるのはむしろ俺だけな気がするんだけど」
「まず、燈矢くんは攻撃力が絶望的です。数値で表すと五十です」
「あ、それ聞いた」
「でも、防御力は多分世界一です。数値で表せません。昨日の詠唱があれば魔法力も大賢者クラスになります」
「うおおお!!! それってチートじゃねぇか!」
「でも魔法を使うと倒れて眠ってしまうでしょう」
「弱ぇ…」
そうなると鍵乃が気になる。今のところ鍵乃に弱点らしい弱点は見当たらない。
「鍵乃ちゃんですがさすが魔王。攻撃力、魔法力ともに世界一です。どちらも数値化出来ないほど大きな力です」
普通兄の方が攻撃力高いんじゃないのかよ…などと思いながら次の言葉が気になる。なんたって魔王の弱点だ。知られるとまずい。
「鍵乃ちゃんの防御力は0です。」
「はぇ? 0? それって、どういうこと?」
「例えば、何もしなくても病気にかかるし、ただの擦り傷も鍵乃ちゃんにとっては大怪我です。骨は脆く、転ぶだけで全身の骨は砕けます」
「じゃあ、なんで今まで大丈夫だったんだ?」
「それは燈矢くんの存在です。燈矢くんの近くにいる間は常人並の防御力まで上がります」
それって…もしかして…鍵乃は一生俺から離れられないってこと?
「やったぜ。鍵乃、結婚しよう」
「何言ってるの? 結構これ深刻なことだよ?」
「要するに離れなきゃいいんだろ? 任せとけ」
自信満々に笑ってやる。運命も全部跳ね除けてやる。
「じゃあお兄ちゃん。はやくこっちきて」
「え、どっち」
「お、お風呂」
「はぁ!? ちょちょ、無理無理無理! いきなりこれはハードル高いって!」
「離れたら私死んじゃうよ! それでもいいの?」
「ダメだ。でも一緒にお風呂とかヤバいって」
「いいから来るの!!」
聞く耳を持たない妹に引っ張られ風呂まで連れていかれる。
このシチュエーションは童貞にはキツいっす。
助けて神様。
「呼びましたか?」
「呼んでねぇよ!!!」
「なぁ、そろそろどいてくれないか?」
「すぅ…」
「むにゃむにゃ…」
「すぴー…」
「うん、寝てる。お前らのせいで眠れなかったのに」
俺は身体を起こし三人を引き剥がした後綺麗に寝かせ、部屋を出た。
「朝メシなんて作ったことないしなぁ…料理経験も調理実習位だし」
「弓形さーん、いらっしゃいますかー?」
扉の向こうには華奢な猫男リンド・リューズがいた。
「あれ? リューズ君、お父さんは?」
「父は今日の朝突然熱を出してしまって… 行きたい行きたいうるさかったので部屋にぶち込んでおきました」
「お父さんの扱いそれでいいのかよ」
「そうだ燈矢君、朝ごはんは食べた?」
「まだ、それと呼び捨てでいいよ」
「なら僕もリューズって呼んでよ、これから朝ごはんだから一緒にどう?」
「マジか! 行く行く!」
朝ごはんのピンチを乗り切ることが出来そうだが、ラウニさんがダウンとなると俺はリューズと一緒に行くのか?
俺が言うのもなんだがちょっと頼りない。筋肉だって俺の方がある気がするし。
「お、おじゃましまーす」
家の中に入ると野太い泣き声が聞こえてくる。ラウニさんだろうか。
「あら、いらっしゃい燈矢くん」
「あの… ラウニさんってどこにいるんですか?」
「そこの部屋の中に閉じ込めておいたわよ。一緒に行きたがってたし声かけてみたらどうかしら」
俺は泣き声の聞こえる部屋の前に立った。ドアには鎖が付けられ、厳重にロックがかけられている。
「あ、あの〜ラウニさん?」
「その声は、燈矢くんか!? 本当に申し訳ない! 私がもっとしっかりしていれば良かったのに…ゴホッ…グスッ」
「あの、そのことなんですが僕はリューズと一緒に行けばいいんですか?」
「えぇ、リューズはああ見えて結構頼りになりますから安心してください。」
「あっ、はい」
「燈矢ー! 早く食べようよー」
リューズに呼ばれ、俺はテーブルに座った。パンとジャム、スープが置かれていてどれも美味しそうだった。
「じゃあ、燈矢。今日の説明なんだけど…」
「このスープうまっ。あ、悪い、なんだって?」
「今日僕達が狩りに行くのはデビルウルフとマンドラゴラ。これはユミス様の豊穣祭で使うものなんだよ。」
「そのデビルウルフってのはなんなんだよ」
「デビルウルフは小型の狼だけど、どの個体も悪魔の力を受けているんだよ。アイツらは悪魔との契約魔法が使えるから注意しないと大怪我することになるよ」
なにそれデビルウルフ怖い。俺、生きて帰ってこれるのかな。
「デビルウルフは遠くから僕が射撃で倒そう。あぁそれと、燈矢は自分の力を見たことがあるかい?」
「ステータス的な?」
「そのステータス? が何かは分からないけど僕なら君が何に優れているかを見ることができるよ」
「え! なにそれすげぇ! 見てくれよ!」
「じゃあいくよっ! 視覚化」
右目に青い魔法陣が現れる。どんな感じで見えているんだろう。
「えーっと…」
(ん? 攻撃力がたったの五十しかないじゃないか… あまり期待は出来ないな。魔法力は百五十か。防御は…見えないな。おかしい、こんなこと今まで無かったのに)
「ど、どうだった?」
「なんだか今日は調子悪いみたい。多分当てにならないけど聞く?」
「聞かせてくれよ」
「まず、君の攻撃力は五十だ。これははっきり言って弱すぎる。運動とかしてないでしょ」
「はうっ」
「魔法力は通常の人より高いけど、攻撃魔法が弱いね。これじゃ攻撃も反撃もできないね」
「うっ…」
さすがに自分のポンコツっぷりに落ち込む。しかもなんかリューズの言葉が心に刺さる。
「あと、君の防御力は…ごめん。見えなかったんだ。この魔法は獣人族しか使えない固有魔法だから誰でもすべて綺麗に見えるようになってるはずなんだ」
「俺の体がおかしいってこと?」
「分からない。念のために母さんにも見てもらおう」
防御力って大事じゃん。ほら、攻撃出来なくても最悪死ななきゃいいんだから。でも勇者の攻撃力が低くてどうするんだよ。
「母さん、燈矢のこと見てもらっていいかな?」
「どうかしたの? 別にいいけど」
ティアードさんの目が光る。なんかしかめっ面なんだけどやっぱりなんかおかしいのかな。
「なんだか、昨日の夜お楽しみだったみたいね」
「なっ、あっ、えっ、そ、そんなところまで見えるんですか!?」
スキャン恐るべし。こりゃ下手なことできねぇな。
「母さん! ふざけてないでちゃんと見てよ!」
お前も見たのか…
「防御力にもやがかかって何も見えないわ。にしても攻撃力ひっくいわねぇ…」
「ふぐぅっ…」
「あー、もう僕のことはいいですから! そろそろ時間だろ? 行こうぜ」
「そ、そうだね。じゃあ行こっか」
俺達は家を出て、裏に見える森の中を進む。動物も結構いるみたいだ。
「なぁ、先にどっちを獲りに行くんだ?」
「マンドラゴラが先だよ。あの植物は面倒くさいからね」
「引き抜いた時に声聞いたら死ぬとかある?」
「なにそれ、何の話?」
「マンドラゴラは木になっている実なんだけど、その木がとてつもなく高い木なんだ。だから撃ち落とさないと手に入れることが出来ないんだよ」
俺ってもしかしてただの足でまといじゃね。
「マンドラゴラはとっても甘い果物だし好きな人も多いけど、食べすぎると味覚を失うんだよ。だから魔女の果実っても呼ばれたりするね」
「それも怖い話だな。味が感じられなくなるのは正直辛いしな」
獣道を進んでいると、日本の御神木なんて目じゃないくらいの大樹が見えてきた。
「あれがマンドラゴラの木だよ!」
「リューズ。俺、てっぺん見えないんだけど」
「うん、僕も見えてない」
「どーやって採るんだよ」
「あの上には数え切れないくらいに実がなってるから、適当に石を投げるだけでもたくさん落ちてくるんだよ」
その石が届かない気がするんですけどそこはどうするんだろう。
「うーん… これにしよっかな」
リューズは手頃な石を持って魔法を唱え始めた。
「天高く撃ち抜け! 流星弾!!!」
石は目にも留まらぬ速さで空に向かって行った。
しばらくするとメタリックレッドの皮を持つ綺麗な果実がふわりふわりとゆっくり落ちてきた。
「へぇ、不思議な木があるもんだな。どれ位持って帰るんだ?」
「使うのは二つだよ。マンドラゴラはお供えだからね」
食べたいから三つ持って帰ろう。食べすぎなきゃ、大丈夫。
「あとはデビルウルフだっけ、どこにいるか分かったりするのか?」
「後ろに一匹。さっきから着いてきてたね」
「うおぃ!? もっと早く言えよ!」
「アハハ、ごめんごめん。ほら、来るよ。」
「アレが…デビルウルフ…ってちっさ!!」
俺達の目の前には、例えるならチワワくらいの真っ黒な小狼が居た。
「こんなの一瞬で蹴散らしてやるぜ!!!」
「あ、ちょっと燈矢!!」
駆け出した俺にリューズが声をかけるが全く聞こえない。今の俺は役に立ちたくてしょうがないのだ。
「オラァァ!!」
狼に蹴りを入れる。刹那、狼の体躯はみるみるうちに大きくなり、大狼と呼んで差し支えないレベルまで大きくなった。
「あ、すみませんでした。すっごく足がかゆくて…なんちゃって…ア、アハハ」
「もう! だから待ってって言ったのに!」
「助けてぇぇぇええ!!!」
リューズが弓を放つ。が、狼には全く効いていないみたいだ。
「物理攻撃が効かない!? なら…」
リューズが腕を天に掲げる。幾重にも重なった綺麗な蒼い魔法陣が生まれた。素人の俺でも分かるくらいに大きな力だ。
「夜闇に煌めく星よ、蒼炎をもって群青を焼き尽くせ!! 蒼龍星!!!」
空から青く輝く星が流れてくる。それは狼の体を焼き尽くした…かのように思えたが
「ハァッ…ハァ…魔術結界…! くそっ…」
リューズが力尽き、倒れる。狼がリューズ目掛けて飛びかかる。
俺のせいで、こんなことになった。落ち着いていれば、今頃終わって帰ってるはずだ。
悪魔の嗤い声が聞こえる。
「くっそぉぉぉぉお!!!!!」
無我夢中で狼とリューズの間に飛び込む。前にもあったな、こんなこと。
「うっ…あれ?」
俺の前には巨大な盾が現れ、狼の動きを止めていた。
頭の中に呪文が流れ込んでくる。勝手に口から言葉が漏れ出す。これなら勝てると、変な自信があった。
「影よ、闇よ、我が光の輝きは命の煌きなり、幾億の運命よ、哭け 聖煌矢」
盾から光の矢が放たれる。その光は辺りを飲み込み、大狼は浄化された。
「終わった…のか? ははっ…やったぞ! 俺が…倒したんだ…」
俺は力尽き、泥のように眠った。
「やれやれ、なのです」
目を開けると隣にはミクがいた。
「おはようなのです」
「お、おはよう」
「いてて…体が重いな」
「燈矢くんは燈矢くんにしか使えない魔法を使ったのですよ。魔力を使い果たしたあげく、そのまま眠ったのですよ」
「あっ…思い出した。リューズは!?」
「あの後すぐに私が駆けつけたので大丈夫だったのです」
ありがてええええ!!
ミクちゃんの好感度爆上げなんだけど。
「ありがとな」
「そんなに見つめられると照れるのです。そんなことより、燈矢くんがいなくなってる間に鍵乃ちゃんは死にかけていました」
「え?」
「今はもう大丈夫なのです。燈矢くんが帰ってきた途端に容態が良くなったのです」
俺がいない間に一体何があったんだ?鍵乃が死にかけた?
「お兄ちゃん! もう大丈夫なの?」
「鍵乃こそ、大丈夫なのか?」
「うん、苦しんでる時の記憶はないんだけど、ミクちゃんいわく半分死んでたらしいよ」
「神様であるこの私、ミクトランテクトリがあなた達のことについて教えてあげましょう」
いつになく真面目モードだ。語尾が消えてる。
「弱点ってどういうことだ? 弱点があるのはむしろ俺だけな気がするんだけど」
「まず、燈矢くんは攻撃力が絶望的です。数値で表すと五十です」
「あ、それ聞いた」
「でも、防御力は多分世界一です。数値で表せません。昨日の詠唱があれば魔法力も大賢者クラスになります」
「うおおお!!! それってチートじゃねぇか!」
「でも魔法を使うと倒れて眠ってしまうでしょう」
「弱ぇ…」
そうなると鍵乃が気になる。今のところ鍵乃に弱点らしい弱点は見当たらない。
「鍵乃ちゃんですがさすが魔王。攻撃力、魔法力ともに世界一です。どちらも数値化出来ないほど大きな力です」
普通兄の方が攻撃力高いんじゃないのかよ…などと思いながら次の言葉が気になる。なんたって魔王の弱点だ。知られるとまずい。
「鍵乃ちゃんの防御力は0です。」
「はぇ? 0? それって、どういうこと?」
「例えば、何もしなくても病気にかかるし、ただの擦り傷も鍵乃ちゃんにとっては大怪我です。骨は脆く、転ぶだけで全身の骨は砕けます」
「じゃあ、なんで今まで大丈夫だったんだ?」
「それは燈矢くんの存在です。燈矢くんの近くにいる間は常人並の防御力まで上がります」
それって…もしかして…鍵乃は一生俺から離れられないってこと?
「やったぜ。鍵乃、結婚しよう」
「何言ってるの? 結構これ深刻なことだよ?」
「要するに離れなきゃいいんだろ? 任せとけ」
自信満々に笑ってやる。運命も全部跳ね除けてやる。
「じゃあお兄ちゃん。はやくこっちきて」
「え、どっち」
「お、お風呂」
「はぁ!? ちょちょ、無理無理無理! いきなりこれはハードル高いって!」
「離れたら私死んじゃうよ! それでもいいの?」
「ダメだ。でも一緒にお風呂とかヤバいって」
「いいから来るの!!」
聞く耳を持たない妹に引っ張られ風呂まで連れていかれる。
このシチュエーションは童貞にはキツいっす。
助けて神様。
「呼びましたか?」
「呼んでねぇよ!!!」
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