朝起きたら妹が魔王になってました

猫撫こえ

プロローグ

 俺の名前は弓形ゆみなり 燈矢とうや
この世に生を受け、のびのびとした環境で育ち、順風満帆な高校生活を送っている…はずだった。


 今日は火曜日、現在の時刻は午前九時三十二分。
ごくごく普通な高校生ならば既に授業を受けている時刻に俺は自室に篭り、一人パソコンのモニターの前に顔を突っ伏し、換気されることのない空気を吸っては吐いている。


 こんな意味のないことを続けているのには理由がある。
 順調に一年生の課程を終了し、二年生に進級。この間にはこれからの生活を左右する《クラス替え》が存在する。当然の如く、知らないヤツも多い中行われた自己紹介で見事に俺は砕け散った。


 「じゃあ、名簿1番のキミからね〜」


 先生のかるぅ〜い進行により淡々と進む自己紹介、俺は全力で思考を自己紹介へと回し、考える。
 元々コミュニケーションがあまり得意ではない自分は考えている間に順番が回ってきた。


(あ、詰んだ)


 心の中で死を悟る、この一秒か二秒の間で自分がキョドる姿が容易に想像できる、てかした。


 前の席のヤツが座ると同時に俺は勢い良く立ち上がった。
 瞬間、着いた両手にぶつかった筆箱は飛び跳ね、ペンやら何やら全部撒き散らした。
 周りから笑われ、恥ずかしさで死にたいレベルだった。
 普段ですら豆腐ほどの硬さしかないメンタルがこれでもかと言わんばかりに傷ついた。神様は俺になんの恨みがあるのだろう。
 拾ってくれた隣の席の女子に引きつった笑いとうわずった声で


 「ありがとね、ヒヒッ」


 とこの上なく気持ち悪い第一印象を残した。


 俺は早退し、そこから学校には行っていない。


 筆箱一つ、自己紹介一つ如きで、と思うかもしれないがこれから上手くいく未来が見えない。圧倒的に臆病者だ。きっと笑ってネタにしてくれるだろうとは思うが、勇気とやる気が一気に削がれた。
 家族は行きたくなったら行けばいいよと放任気味だが正直何もする気になれない。


 こんな生活の中にも癒しになるものが存在する。


 《妹》だ。


 妹の名前は弓形ゆみなり 鍵乃かぎの。思春期真っ盛りの中学二年生だ。
 俺は極度のシスコンで毎朝元気に支度をする鍵乃を見るのが日課である。
 これだけは譲れない、妹がもしいなくなったらプチ家出するレベルで妹大好きなのだ。


 まぁ、こんな風に自堕落な生活を送っている俺があんなことになるなんて誰も、もしかしたら神様だって想像できなかったかもしれない。




 ーーお兄ちゃん……死んでも、ずっと一緒だよ

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