After-eve 〈完全版〉

本宮 秋

bench time

                  bench time 第1章

盆が過ぎ、朝晩の空気が冷たく感じてきたこの頃。しかし残暑のせいか昼間はまだ暑い日が続いた。これから秋にかけ、また仕事が忙しくなる。ただこの小さな街は、そんな昼の暑さも仕事の忙しさも関係ない様に静かで、落ち着いていて何時もの風景だった。
そんな中、ただ漠然と日々を過ごすだけ。
気分が高揚する事も無く、ただ時間が過ぎるだけ。それは自分だけでは無く……

あの日。

アキさんが倒れた日。
もうあの日から4日程経つ。

何事も無かった様にアキさんは、今日から店を開けた。ユウさんも割と普通に過ごしている。
自分とカオリさんだけが、あの夜から時間が止まった感覚。

あの夜、アキさんとユウさんが居ない店[After-eve] の中で自分とカオリさんは、ただただ待っていた。
ユウさんからの連絡を。

カオリさんは俯きその場で、しゃがみ込んでいた。
自分も訳が分からない状態で、呆然と立ち尽くすだけ。
お互い会話も無かった。
パンの香りもアキさんの好きなコーヒーの香りも無い店内は、革の匂いだけが漂っていた。

2時間後位にユウさんから連絡が来た。
正直、そんなに時間が過ぎていたのかと……
カオリさんと居た店内での、時間の感覚がまるで無かった。
車で1時間程の街の病院へ。自分は場所が分からないし、カオリさんも行くと譲らなかったので一緒に行く事に。
車の中でも何も語らず病院へ急いだ。

小高い丘の上にある大きめの病院。夜中近い時間なので、当然の様に暗い。救急搬送用の入口だけが明るくなってた。
夜間用の入口から入る。
すぐユウさんが居た。
「悪いね、遅い時間に此処まで」

「アキさんは? 」カオリさんが、いの一番に訊いた。
「大丈夫。もう遅いから会えないけど大丈夫だから帰るぞ」
ユウさんがカオリさんの腕を引っ張りながら……
それでもカオリさんは何とか奥に行こうとし、自分と二人掛かりでカオリさんを止め病院を出た。

真っ暗な街灯も疎らな国道を進む。
その景色と同じ様に車内も暗く沈んだ雰囲気だった。
しばらくして、小さな声で後ろの席に座っていたカオリさんが言った。

「ユウさん何か知ってるの? 」

ユウさんは黙って外を見ていたが、重い口を開いた。
「別に…… 命に関わることでは無いのは確かだから…… そんなに心配する事じゃないよ」

「だって…… あんなアキさん……どう見ても何かあるでしょ! 心配するに決まってるでしょ! 」
気持ちが抑えられなくなったカオリさん。

また、沈黙が続いた。

「前にもあったんですか? ……ユウさん何か、落ち着いていた感じがしたんで…… 」
前を見ながら、小さな声でユウさんに訊いてみた。

「はぁ〜〜 さすがに駄目か。バッチリ見ちゃったもんねーー 、二人共。
……アキがね、コッチに戻って来て直ぐにね、一度あった。そん時は俺もビビったけど、まだアキの意識があったから何をすればいいかアキが言ってくれたから良かったけど」
「一応ね、それ以来アキに何かあったらあの病院に連れて行く事を言われていてね。
ただ、その後は大丈夫だったし元気になったから俺も安心してたんだけど」
  
ユウさんが結構話してくれた。

「何の病気なの? 」カオリさんが訊いた。

「うーーん詳しい事は分からん。ただ病気っていうのかな? いわゆる自律神経の方? 肉体的よりかは精神的な? だから貧血みたい感じかな、違うか。分からんけど呼吸を整えてあげて安静にすれば割と直ぐに落ち着くらしいぞ、アキに言わせれば。だから大丈夫なの! わかった? カオリ! 」

カオリさんは、それでもツラそうな顔で涙を堪えた感じだった。

その後は、何も言えず、何も聞けず静かに夜の道を走った。

次の日

カオリさんは朝イチで病院へ行ったらしい。自分も気になったがあえてそっとしておく事にした。カオリさんが行った事だし、任せようと思った。
カオリさんは帰って来てからも静かだった。アキさんの様子が知りたかったが、とても聞ける感じではなかった。ユウさんも普通にしてたので前日に言っていた通り、大丈夫なんだと思い込むようにした。

その次の日にはアキさんからメールが来た。
 (ゴメンね。心配かけちゃって。驚かしちゃったね。でも大した事から気にしないでね。)
大した内容の返事も、する事が出来なかった。
その次の日には店を開けたので、本当に大丈夫かな? ユウさんの言う通りそんなに心配する事では無いのかな? と、複雑な思いだった。
仕事も忙しく中々、アキさんの所に行けなかった。行けない事もないのだが、面と向かってアキさんに会ったら何て言ったらいいのか分からないと言うのが本音だった。

静かな日々。昼間の暑さが嘘の様な夜の冷たさ。秋に季節が変わり始めている事を実感する。ただ自分自身は相変わらず時が止まっている様。周りだけがゆっくりと季節を進めていた。

何日かした頃。夜に、アキさんが訪ねてきた。「迷惑掛けたお礼」と言って小袋を渡された。ちょっと照れくさそうなアキさんは他に何も言わず帰ってしまった。

小袋の中にはパンの様な物と包み紙に包まれた小さな何かだった。
包み紙を開けると、革で作られたキーホルダーだった。フクロウが彫られたアキさん手製のレザークラフト。裏には、自分の名前  [makoto] と刻印されてた。
パンの様な物は [プレッツェル] だった。
アキさん大丈夫なんだ、と改めて思った。

革のキーホルダーを眺めながら早速、プレッツェルを一口。
薄い表面がパリッとして、中がふわっと。
塩味が効いた美味しいパン。
はぁ〜〜 アキさんだ。アキさんの美味しいパンだ。

そのプレッツェルを食べたと同時に、止まっていた時間が動きだした気がした。
ホッとした。思わずカオリさんにメールで教えた。

「コラッ! マコ! アンタの所にアキさんが行ってたら、とっくにコッチにも来てるの! 当ったり前でしょ!        …… でも ……
良かった…… ね」

メールしたのに電話で返して来たカオリさん。

カオリさんも嬉しいんだな。良かった。

夏の季節が終わりを告げる様に、満月の月明かりが、静かな街を照らしていた。

                     第1章      終

              bench time 第2章

アキさんから頂いたキーホルダーは、車のキーにつけた。
フクロウが、彫られていたので意味があるのかと自分で調べてみた。
フクロウは福にかけて、幸運を運ぶとか そういう意味があるらしいがアキさんの意図は、分からない。
革自体に彫刻の様に模様をつけるカービングと言う技法で細かな仕事だなと思った。わざわざ自分の名前まで刻印してくれた事も、嬉しかった。

一緒に入ってたパンも、アキさんの店には普段置いてないパンの種類。だが知っていた。
[プレッツェル]
そのパンも意味があるのかなと思い調べたら、色んな意味があって困った。
自分に都合の良い、意味合いを勝手に思うことにした。
形が、ハート型にも見えるので 『愛情』。

「もう! アキさんたらっ! 」

ともあれ、また楽しい日々が始まろうとしていた。

そんないい感じの日に、割とよく会ってしまう人…… そう [信金さん] です。
それも、まさかの病院で。
会社の健康診断で病院に行ったら、信金さんが座っていた。直ぐに気づかれ声を掛けられる。

「健康診断でしたか、御苦労様です。私はね、ちょっと風邪ひきましてね。朝晩スッカリ寒くなりましたからねーー もう最悪ですわ! 」

とても風邪をひいてるとは思えない流暢な話し方。信金勤めとはいえ 一回り以上 、歳下の自分に低姿勢で敬語を使われると、より胡散臭い。
まぁ信金さんは悪気はなく、その様な態度や話し方が染み付いてしまっているのだと思う。確かに軽い感じの人で酒癖も良いとは言えないが、金融機関に勤めてるのだから大変な事も多々あるだろうし。

健康診断と言っても軽めの検査ばかりだった。すんなり終わらし会社に戻る。戻る途中、コンビニに寄った時。コンビニの駐車場の端っこで、おばあちゃんが座ってた。
よく見ると辛そう。声を掛ける。やっぱり辛そう。アキさんの時を思い出し救急車を呼ぼうと…… でも、おばあちゃんは呼ばなくていいと。どうしようかと思ってたら……

「おばあちゃん! 大丈夫? ツライの? 」
大きな声で…… 信金さんだった。
信金さんは慣れた感じで、おばあちゃんに色々聞いてた。
「わかった! 一緒に病院行こ! ほれ、背中に乗って! 」
信金さんは、そう言っておばあちゃんを背負い駆け足で病院の方へ。幸い、病院は近くなので自分も付いて行った。おばあちゃんと信金さんの置いて行った荷物を抱えて。

病院に着き、おばあちゃんを診察室へ。
年齢が年齢だけに心配したけど大丈夫そうだった。

はぁはぁ言ってる、信金さん。
ただ信金さんは、おばあちゃんが大丈夫そうと聞き笑顔だった。

風邪ひいてるんだよな〜〜 信金さん。
自分の方が若いし元気なのに、おばあちゃんを背負う事すら出来なかった。
病院の待合室の椅子に座り、疲れた感じの信金さんに申し訳ない気持ちになった自分は、自販機で水を買って手渡した。
「ありゃ、すいませんね。嬉しいなーー 有り難く遠慮なく頂きますわ」

と、信金さんが水をゴクッと。

「いやねーー 自分は、おばあちゃんっ子だったんですよーー だからね少し嬉しいと言うかね。少しでもお手伝い出来て」
そう言った信金さん。

ちょっと意外だったな〜〜
良い人なんだな〜〜
何も出来なかった自分より、よっぽど偉いですし。見かけだけで決めつけたら駄目だな、やっぱり大人ですね信金さん。

「お水ご馳走になったから、今度パァーっと飲みに行きましょうよ、おね〜ちゃん沢山いる所に! 」

信金さん。折角、いま信金さんの株上がったとこなのに、一気に大暴落っすよ!

一言多いんだな〜〜 まぁそれが信金さんらしいのかな。

風邪をひいてる割には、相変わらずフットワークが軽い信金さんだが少しだけ良い面を知り見方が変わった。……多少。
ただ、おばあちゃんが苦しそうに座っていた姿が、あの日のアキさんを思い出し なんとも言えない気持ちになった。

そんな時、ユウさんから電話。
「今、大丈夫? 大した用事じゃ無いけど夜、ひま? 」
こんな時間にユウさんから電話で、一瞬ピリっとしたが深刻な話ではない様。

「暇です。今日は仕事も早く上がれるし」

「いやねー。隣で工事してるんだけど、やらかしたみたいで 水 使えないのよ今日。水道管やっちゃったのかな? 」

「ユウさん所、水使えないんですか?大変じゃないすか」

「今晩中に何とかするって言ってたから、明日には直ってると思うけど。で、水使えんからさーー 何処かで一緒に飯でも食べない? アキもカオリも一緒だけど」
ユウさんからの食事のお誘い。アキさん達も一緒。勿論!
「大丈夫っす。行きたいっす! 」 即答。

「じゃ後で、また連絡するわ」

ユウさん何か元気だな。水出ないのに。
…… 水商売なのに…… ハッと辺りを見回す。
こんな面白くない事、カオリさんにでも聞かれたら永遠に馬鹿にされ続ける。

仕事が終わり、待ち合わせ場所にしたアキさんの店 [After-eve ] へ。
珍しく他の街のお店に行く為、アキさんの車でアキさん運転で行く事に。アキさんは飲まないのか…… ユウさんは何故か飲む気満々。店、休みになって喜んでません?

「奥さん達は、いいんすか? 」ユウさんに聞く。
「あ、うん。実家に行ってるから」

あれ? ヤバイのかな? そう言う意味の実家では、ないですよね。

「実家って別居? とうとう」
カオリさんが、容赦なく訊く。
「とうとうって。コラコラ! 違うよ。大丈夫よ大丈夫! 何とか」

ホッとしたけど、『何とか』って気になりますよ! ユウさん!
お店に着いた。ちょっと立派な中華料理屋だった。この辺りでは有名な店らしく、料理も美味しかった。ワイワイ料理を取り分け食べるのも中華らしく楽しかった。
ほぼ自分が、カオリさんの召使いの様に料理を取り分けていたが……
折角なので、アキさんに革のキーホルダーとプレッツェルについて訊いてみた。
「フクロウは幸福を運ぶから掘ってあるんですか? 」そうだよ、という答えを期待する自分。

「違うよっ! ……フクロウは森の哲学者と言われるから勉強しようねっていう意味」

エビチリを食べながらアキさん。

「プレッツェルは形がハート型だから愛情とかの意味ですよね? 」そうだよって期待

「違うよっ! ……腕組みが語源で神に感謝の祈りをしようねって意味。パンの様なソフトプレッツェルも塩味が効いているからビールに合うんだよ。ドイツの物だから」

山椒がガッツリ掛かった麻婆豆腐を食べながらアキさん。

  ……

「マコちゃん 撃沈!  所詮、適当に調べた知識でしょ? 駄目だな〜〜 マコは。成長してない! ペラッペラよ! 人としてペラッペラ」
カオリさんが、ここぞとばかりに……

「よく言うよ。カオリちゃんだってさ〜〜 
フク…… うっ」
アキさんが言いかけた言葉をカオリさんが力づくで止めた。

どうでもいいけど、カオリさん! 首絞めちゃってますよ、アキさんの首を…… !


                        第2章    終

              bench time 第3章

やっぱり楽しかった。この4人が集まると。
平日の夜の1、2時間。夕食を共に過ごしただけの時間だったが、ずっと記憶に残る様な気がした。
ユウさんとカオリさんは、お酒も飲みながらだったが自分とアキさんは飲まずに。
でも充分楽しいひと時だった。

中華料理屋からの帰り道、雨がポツポツ降り出した。この時期の雨は、季節を進める。一雨毎に気温が下がり、秋に近づく。
車の後部座席に座ってる2人には、雨など御構い無しにお喋りに花が咲いていた。
自分は、助手席に乗り運転しているアキさんと共に後ろの酔っ払い2人を傍観していた。

「アキさんは、やっぱり秋が好きとか? 」
自分が後ろの2人に構う事なく、静かにアキさんに訊いてみた。
「苗字についてるからって、強引だなー マコちゃん。でも嫌いじゃないよ。春から夏にかけてが一番かな! 」

「確かに初夏とか良いっすよね〜〜 」

「もう秋になるね〜〜 あっと言う間に」
秋本さん (アキさん) が言った。

「それこそこれからは温泉の時期じゃないすか? 紅葉見ながら」遊ぶ事しか頭にない自分。
「だねーー でもマコちゃん仕事忙しくなるんじゃない? 収穫期だよ? 」

「うっ、ですね。何か大変そうだな、大丈夫かな」収穫期と言う言葉に急にビビる自分。
「マコちゃんは大丈夫だろ。農家さんが大変だろーに」冷静なアキさん。

「です。……農家さんに迷惑かけない様にしなきゃ」自分がやらかしたミスを思い出す。
「そうだぞマコ! またやらかしたらクビになるぞ! 」
いつのまにかカオリさんが、相変わらずキツイ言葉で……

「そうだねーー 仕事少し落ち着いて紅葉が見頃になったら温泉ですかね? 」
アキさんが素敵な提案を。

「宿泊しよ〜〜よ! 温泉宿で! ユックリした〜い」前のめりになりながらカオリさんが言った。

何かまた楽しそうな感じになってきた。
カオリさんが言った事は、大体行われてきたし。決断力 (我を押し通す力) が、素晴らしいカオリさんならでは……

「良いけど女っ気、少なくない? 」
ユウさんが、ヤバイ所を突っ込む。

「え! 何? 私じゃ物足りないの? 若い子が良いの? 若けりゃ良いの? 大体ユウさん奥さんとグダグダなのに、どうしてそんな事言うかな〜〜? だから揉めるだよ! 奥さんと」
あ〜〜 、カオリさんまで余計な事を言い出した。だから酔っ払いは面倒です! ねっ、アキさん!
再び、後ろの席2人が賑やかに言い合いを始めた。
そんな中でもアキさんは、和かな感じで見守っていた。

雨は、朝方まで降り季節が確実に一つ進んだ。

まだ本格的な秋では無いが、農家さんの方々は既に忙しい時期に入っていた。
日中は暑いくらいになる事もあるが、朝は冷える。霜が、おりる前に収穫が始まる。
それにつれ自分の会社も徐々に忙しくなっていった。
大量の農作物の収穫。畑だけでなく普通の道路までそれを感じさせる光景。大きな農作業機、農作物を運ぶ大きなトラックが頻繁に行き交う毎日。自分もそれに同調する様に駆け回っていた。

マコちゃんが仕事で駆け回っている時期、私 (カオリ) はボンヤリした日々を過ごしていた。
あの日からずっと……
今は、割と普通にしているけど何処か心の奥底で不安が付き纏う。
心なしかお酒の量も増えた。
酔っては、マコちゃんやユウさんに強めにあたる。直接ぶつければ良いものを怖くてそれが出来ない。アキさんに言えない、何も。全てが壊れそうで……

アキさんが倒れた夜。ほぼ私が、何をしたのか何を言ったのか記憶が無い。
ただ 『アキさん! 』 と何度も呼び掛けた様な……
次の日、朝一で病院に行ったけどアキさんは普通だった。病院のベッドで寝てる以外は。いつもの様に優しい顔で声を掛けてくれた。昨晩の事が嘘の様に……

少しアキさんが話してくれた。ユウさんが言っていた様に、身体自体が何かの病気では無かった。自立神経が少しバランスを崩し一時的に体をコントロールできないだけ。と、アキさんは言ってた。
少し…… って。意識がほぼ無い感じだったのに……
以前は、こんな事が結構あったらしい。薬を飲んで、たまに病院に通い検査してたが地元に帰って来てからは大分良くなりアキさん自体も安心してたらしい。

アキさんは、ずっと「ゴメンね〜〜 」と「迷惑かけちゃったね〜〜 」を繰り返し言うだけ。
私は、それ以上何も言えなくなった。
本当は、いつからなり始めたのか?とか 何か原因があるのか? 訊きたかった。
ただ、何故かそれを訊くのが怖かった。
私もアキさんの家にある仏壇は、知っている。そこに飾られてる女性の写真も……
大切な人を失ったという事。
その過去さえ訊けない。いつかアキさんが話してくれる日が来ると信じて。

ただ余りにも知らない事が多過ぎて……

正直、今アキさんと2人きりだと戸惑う。
2人きりだと、私が…… アキさんに答えを求めすぎる気がして。

でも…… 好き。

好きだから知りたい! 好きだからチカラになりたい! 好きだから私だけを見てほしい!

それを言えるには、まだ無理なのかな? そう言う事をボンヤリ考えてしまう毎日。
みんな一生懸命働いているのに。
私もまだ幼い、いい歳なのに。マコちゃんの事、悪く言えないな〜〜
ん〜〜 恋は盲目⁈ さて仕事、仕事!

カオリが、色々考えている頃。
俺 (ユウ) は、考えるだけじゃなく悩んでいた。夫婦の事だが。
別に何かあった訳では無く、嫌いになった訳では無く。難しい時期なのかな、夫婦として。何となく上手くいかない。何となくぶつかる。子供が自立し、家から出た事も多少影響あるのかな?
もう、そんなに時が経ったのか。結婚した時、子供は小学入学。もう大学生。あっと言う間だった。あっと言う間だから奥さんと、ぶつかる暇が無かった? でも子供の事で揉めた時期もあったけどなあ。
子供が家に居ないだけで、上手くまとまらないのか…… カオリやマコには大丈夫! と言ってはみたもの、流石にアキには見破られる。ん〜〜 迎えに行くか。アキが奥さんに、と渡してくれた  "モンキーブレッド"  とか言うパンを持って。
何か、変な形のパンだが意味あるのかな? 
アキは無意味な物作らんし。マコやカオリに渡した物も本当は、ちゃんと意味あるんだろう。いい加減に説明してたけど。
そういう奴だから、アキは。

それぞれが悩み、考え 、秋めく時に重なる様に。

「温泉! 温泉! いきたいなぁ〜〜 」
今の所、悩みなし!  田辺 誠 (マコ)


                         第3章    終

                bench time 第4章

夏の終わりが来たとおもったら一気に秋が駆け込んで来た。仕事に追われ忙しい日々を過ごしていたが、ふと立ち止まると秋風が当たり前の様に吹く季節に変わっていた。山の景色も緑が減り、周りの畑も黄金色の小麦畑が揺らめいていた。

一度やってしまったミスを再び繰り返さない様、一生懸命に丁寧に仕事をした。仕事に集中してたせいで周りの景色が、秋色に変わった後に秋がきた事を実感した。
日が沈むのも早くなり、日の傾きも低くなり秋の季節特有の穏やかで感傷的な気分になった。
そんなセンチメンタルな気分も悪くはないが、秋だからこそ楽しめる事。

紅葉を見ながらの温泉!

風が冷たくなってより温泉が恋しくなる季節。以前、アキさんが提案した事が、早く実現しないかと待ち遠しい日々。
すっかりこの自然溢れる街で自然の楽しみ方、自然と共に生活する贅沢さに魅力された自分だった。

  (今晩、ユウさんの店 [ピッグペン] に集合! 用事があっても来る事! )

カオリさんからメール。
「強引だな〜〜 何だろ?」
仕事も落ち着いて来たし用事もないので、
当たり前の様にユウさんの店へ。

カオリさんが、カウンターではなくテーブル席に座り待ち構えていた。
アキさんも店を終え合流。ユウさんは他にお客様がいたので仕事。アキさんとカオリさんと自分でテーブルを囲んだ。

カオリさんがド〜〜ンとテーブルの中央に雑誌やらチラシやらを置いた。

「どこに泊まろうかね〜〜? 」

カオリさんがガイドブックをパラパラとしながら言った。

「泊まりが前提なのかな? 普通に紅葉狩りと温泉だけじゃなく」

アキさんが柔らかめに…… 訊く。

「いやいや、泊まるのが普通だから! 何、言っちゃってるかな〜〜 パン屋さんは」

だから〜〜 好きな人をパン屋と言うのはやめなさいってカオリさん。

「でも泊まりだと日程調整しなきゃね。ユウちゃん店あるし、マコちゃんだってねー
それに宿が取れるかどうかもあるしさ」

パン屋と言われても冷静なアキさん。

「休みにすれば良いじゃん! キャンプの時みたいに。マコちゃんは暇でしょ?
ど〜せ」

出ました! カオリさんお得意の決断力 (我を押し通す力) !
ん? どさくさに紛れて貶されました? 

ユウさんがやって来て
「俺は別にいいぞ! いつでも。泊まりでも」

あら意外な感じ。泊まりでもいいんすか?奥さんは? 一緒? 大丈夫かな。
ちょっと不安げな顔をしてたらアキさんが

「あらあら奥さんと仲直りしたと思ったら自由に遊ばせてくれるなんて心の広い奥さんだね〜〜 」

仲直りってやっぱ仲悪かったんすか?
でも遊ばせてくれるなんて、何て出来た奥さんだ事。大事にして下さいよユウさん!

「マコちゃんは大丈夫だから〜〜 アキさんは? 大丈夫? 」ユウさんの一言でドンドンすすめるカオリさん。
でも、一応自分にも予定とか聞いてくれ…… ないみたいですね。勿論大丈夫ですよ! (涙目)

「マコちゃん行きたい所ある? 」
うぉーー カオリさんがそんな事言ってくれるなんて。早速、雑誌を見て良さげな温泉宿を見つけ、
「ここなんて良さげじゃないすか? 」
と、提案!

「却下! 」

え? 早っ!

「じゃ〜こっち。露天風呂からの景色良さそうですよ! 」

「却下!」

何か嫌な予感……
「他、何処か良さげな所あるんすか? 」
仕方無く、聞いてみる。

「あるのよ〜〜 ! コレコレ! どう? 」

……、出来レースですか? カオリさん!
始めから言えば良いものを。自分は、かませ犬っすか? 変だと思ったら。はぁ〜〜

結局、沢山の雑誌やらチラシなんて無意味
で既に決めていたのだろうが、

『カオリ女王には何人たりとも逆らえない』

そう言うことです。
まぁお陰で、すんなり場所や日程も決まり秋の楽しみな行事が増えた。
アキさん曰く
「カオリちゃんは、ワガママで強引に見えるけどウチらだけだと何も決められないからね。ある意味助かるよ。ある意味…… 」

アキさん何か少し本音出ちゃってますよ!
ワガママなんすね? 強引なんすね?
お察しします。

「あの〜〜 ちなみにそこの宿、泊まるとして4人部屋ですかね? 」なんとなく、ただ何と無く聞いてみた。

「エロマコ!  なんで男どもの中で私の様な可憐で健気で、かよわい女性が寝床を共にしなきゃいけないの? はだけた浴衣とか想像しちゃってるの? 欲求不満野郎がっ! 」

なんか…… いろんな意味で、すごいっす!
カオリさん……

「勿論! 2部屋。アキさんは、私と一緒でも いいよ〜〜 他はダメ〜〜! 」

何か最近、またアキさんへのグイグイ感が増した様な。焦っているのか?

「じゃ予約しちゃうからね〜〜 後で文句言わないでよね〜〜 」
言えません! 文句なんて。女王様には、逆らえませんよ。下僕ですから……
アキさんやユウさんすら静かに受け入れているのに。

「でもさ〜〜 ここの露天風呂。混浴もあるね」
アキさんが、何か素晴らしい事を言った様な……

「えっ、そうなの? 普通の露天風呂もあるよね? 別に混浴でも良いけど…… アキさんなら。他はダメ〜〜! 」
部屋割のデジャヴの様にカオリさんが言った。
「普通の露天風呂もあるね。でも混浴と言っても湯浴み着、着用だね。じゃいいんじゃない? 」混浴と言う言葉にも動じないアキさん。

「湯浴み着か〜〜 そんなの着て入った事ないな〜ちょっと楽しみ」
女王が新たな楽しみを見つけた様だ。

「俺は、風呂はどうでもいいぞ! 美味い物、食わせて貰えば」
花より団子のユウさん。

「でも、ちょっと遠いね〜〜 運転疲れそうだから一台で行って交代で、運転しようか」
色々考えてくれるアキさん、助かります。

秋の温泉一泊旅行! の作戦会議が、終わった。

帰り道。温泉…… 混浴…… カオリさんの湯浴み姿

うっ! ヤバい。マジで仕事ばかりしてたから欲求不満かな。
ともあれ色んな意味で楽しみな温泉旅行!

その頃
カオリを送っていくアキ。

「温泉宿なら浴衣だよね〜〜 酔って、はだけちゃったらマコには刺激強いかな? アキさんは? そういうのは好き? 色気とか感じる? 」

「大丈夫! マコちゃんも俺も大丈夫! 色気どころか、ん〜〜 大変そーー かな」

「えっ何? 聞こえなかった。ムラムラするって? 」

ムラムラどころか…… カオリちゃん! 酔ったアナタは、私でも止められないのよ!
お酒の飲み方考えようね。女王様! (笑)


                      第4章     終

               bench time 第5章

 朝晩の冷え込みが紅葉を彩る。麓は、まだ緑が多いが上に行く程、様々な樹木が葉を色付ける。夏は暑さで冬は寒さで季節を感じ、春は新緑、秋は紅葉と 目で季節を感じる。
山あいの渓谷。道沿いに真っ赤な楓の葉が、せり出している。
真っ黄色なイチョウの葉が道に散らばり素敵な色の共演。そんな優雅でもあり侘び寂びをも感じさせる景色。
そんな景色は二の次の車内の面々。いつものメンバーなのに飽きずに、たわいも無い話が尽きない。
仕事が忙しいのは、変わらないが合間を縫って素敵な温泉一泊旅行。
考えてみたらキャンプの時は、農協の女の子2人が一緒だったので、この4人だけでの旅行は初めてかも。
もはや、遠慮も歳の差も関係無い間柄。

ユウさんの大きな車でゆったり4人旅。少し遠出になる為、休憩を挟みつつ運転手も変わりつつ。ただ、後ろの席に陣取っているカオリさんはアキさんを手放そうとせず。
アキさんが運転しようとしても駄目、ずっと後ろの席で軟禁されたアキさんが少し気の毒だった。
カオリさん、とうとう力技っすか?

ユウさんやアキさんでもあまり行かない所だったので、休憩の度に皆んなで記念撮影をした。何処で撮っても綺麗な紅葉が写りこんでいた。
小さめな温泉街。3、4軒の渋めの温泉宿が固まっていたが、目的の宿はそこから離れた一軒宿。とはいえ新しい宿で、シンプルだか高級感のある宿だった。
広い敷地で川もあり、せせらぎが聞こえていた。宿と言ってもホテルの様なシックで高級感漂う館内。デザイン性が高いソファや椅子が置かれ大きな一枚窓からは、かなり色付いた山々と広い庭に植えられたモミジが絵画の様だった。

部屋もお洒落。勿論それなりの料金がするが、カオリさんの希望 100%!の宿なので
我々は何も言えない。贅沢に2部屋取り、とりあえず部屋で一服。静かな山の中で紅葉を見ながらお茶を啜る。

まだ部屋でゆっくりするのも早いので、皆んなで庭を散歩。少し夕陽に染まりだした空の下、綺麗に整備された庭の散策路を歩く。
赤、黄、橙、緑とちょうど紅葉が揃った木々の前で皆んなで写真を撮る。木々のコントラストと皆の表情がとても良い一枚になった。
夕陽が沈むのが早く冷たい空気が漂う。

宿に戻り、夕食前にお風呂へ。
無論お風呂も綺麗。ゆったり浸かり微かに残る夕映えと紅葉を見ながら、この旅行の本分を全うした。
何気なく言った 『この時期は紅葉見ながらの温泉』 の言葉が、実現でき感無量だった。仕事が忙しかった中での温泉旅行! より疲れが取れリフレッシュするには最高だった。混浴露天風呂も覗いてみる…… 男の人だけ…… ちっ。

風呂上がり早めではあるが夕食。食事をする場所は、別の所。でも個室の様になっていてゆっくり食事が出来そうな感じ。
既に夕食が、並べられていて…… 豪華です。
流石、それなりの料金がする宿。

早速座る。腹減った〜〜
ん? カオリさんが、まだか〜〜 お預け状態!

「お待たせ〜〜 」カオリさんが来た。

う! ヤバい。浴衣を着て髪をまとめ、ほぼすっぴん (すっぴんでは無いと思うが) 。
今迄、見たことない感じでキュンとした。

「カオリすっぴん? 」ユウさんが訊く。

「な訳ないでしょ。この歳で。限りなく薄いスーパーナチュラルメイク⁈ 」
カオリさんが何故かポーズをとりながら言った。
「カオリちゃん、すっぴんでも綺麗だと思うからメイクしなくても大丈夫だよ」
アキさんが、サラっと言った。

「きゃ〜〜 ねぇ聞いた? 今の言葉? 愛の言葉だよね! ん? プロポーズに聞こえたかも」絶頂状態のカオリさん。

いやいや、愛の言葉じゃ無いし、どう考えてもプロポーズじゃないっす。
しっかりしてください? カオリさん!
のぼせましたか? カオリさん!

ここからはユウさんとカオリさんの本分。
食とお酒!
見た目だけでなく美味しい料理、風呂上がりでお酒も美味しい。大人4人が、はしゃぎながら楽しい夕食をとった。
食事の時、楽しすぎてテンションが上がったせいか、後で皆んなで混浴露天風呂に行く事に。カオリさんも。

少しマッタリした時間を過ごし、露天風呂へ。混浴露天風呂は広めに作られていた。
ちょっとドキドキしながら……
既にカップルが入っていたが、夜で暗く湯気が立ち昇っていたので余り気にならなかった。山の中の一軒宿、流石に夜は冷たい空気だった。おかげで湯気が…… くそっ!

なんとなく女風呂の方から誰か来る感じ。
「アキさん〜〜 アキさんどこ? 」
心細い声でカオリさんが、湯気で見づらい湯船を浸かりながらやって来た。
「ここ! こっち! 」アキさんが優しくエスコート。
カオリさんはアキさんを見つけるとアキさんの背中に隠れる様に……
「えろマコ! 見んなよ! エロい目で! 」

いきなり牽制ですか? 大丈夫です。湯気で見えません、うっすらしか。
ただ、湯浴みを着ていたが肩まで出てた姿と一緒のお風呂と言う事で…… う〜ん。
始めは恥ずかしがってたカオリさんも自分達も次第に慣れ、意外に普通に温泉をみんなで楽しんだ。
まぁ、あの夜空を見てたら恥ずかしさも変な欲望も忘れてしまう位、綺麗な星空だった。顔には冷たい空気が当たり、いつまでも入っていられる感じだった。

その後は、部屋に戻り二次会的な飲み直し。ユウさんとカオリさんが本領発揮!
露天風呂では、お淑やかだったカオリさんは、いつものカオリさんに。
ユウさんも下ネタ満載のオヤジモードに。
アキさんもカオリさんに常に寄り添われながらも、久々にお酒が進んでた。
そういえば最近、余りアキさん飲んでなかったな。体の事考えて抑えていたんだろうな。そんな事を少し考えていたが、女王様からお酒を賜わる。

すっかりユウさんとカオリさんは、べろべろで寝てしまった。2人とも浴衣が、はだけて…… そういえばカオリさん、私の はだけた浴衣想像してとか言ってたけど…… ごめんなさい。あまり興奮しないっす。それまでの過程を見てるんで。ただの酔っ払いにしか見えません!
アキさんはそんなカオリさんを抱え布団に入れ、はだけた浴衣を整えてあげていた。
ユウさんは、重そうなので自分が布団を掛けてあげた。

アキさんと2人、そっと部屋を出て本来 カオリさんとアキさんが寝る部屋に行った。

結構自分もアキさんもお酒飲んだのに意外と、しっかりしていた。
そのせいかアキさんが少し話を始めた。
アキさんの過去の事を……


                       第5章     終

                 bench time 第6章


酔いが少し残る中、アキさんが暗い外を見ながら話し出した。
「昔は、温泉なんて余り行かなかったんだよ。ただね、若い頃ちょっと辛い事があって何もかもイヤになって、自暴自棄になって誰にも会いたくなくなって…… それから暫くして、ふと気づくと本当に一人になってて」

「その時は一人でも寂しくなかったけど。ただあまり出かけなくなるでしょ? 一人だとドライブくらいしか。でもそのうちドライブがてら温泉とか行く様になってね。結構何処に行っても、ひとつ位温泉あるしね。温泉だと一人でも平気でしょ? それからかな〜〜 あちこち行き出したの」

辛い事が気になった自分……
思い切って訊いてみた。

「あの〜〜 アキさんの家でつい見ちゃったんですけど。仏壇みたいの…… すいません。それが関係しているんすか? 辛い事って? 」

「ん〜〜 それも辛い事だけど今、話した事は若い頃で二十代の時。その時の彼女を病気で亡くしてね、若かったからショックで立ち直れなかった」

「重い病気だったんですか? そんな若さで…… 」

「急性白血病。ビックリしたよ、まさか白血病とは。やっぱり…… 大変だったよ。彼女も辛かったろうし悔しかっただろうし。ずっとその姿を見てたから余計ね、辛さから立ち直れなかったかな」

 (と言うと、あれはまた別の人? )

アキさんが続けた。
「二十代半ばの一番良い時期は、ずっと一人だったかな。自ら孤独を選んでた気もするけど。前にマコちゃんと温泉行って、また今日皆んなで温泉浸かってたら、やっぱり良いなーー 楽しいなーー と思ったよ、この歳で」
「だからマコちゃん! まだ若いんだからドンドン楽しみなよ人生! 何があるか、わからないんだから人生は」

酔いと楽しかった一日のせいで余計な事を話しちゃった、と頭を掻きながらアキさん。

「その話は、カオリさんには? 」

「こんなに詳しくは話してない。真っ直ぐだからねカオリちゃん、意外と 」 (笑)

「さぁ寝ますか。明日、朝風呂入りたいし」
「うぉ! いいっすね。 あの〜〜 出来れば起こして欲しいんですけど…… 」
図々しくお願いする自分。

「さぁーー どうかな? 」
ニヤリとアキさん。

少し過去を話してくれたアキさん。
まだ色々気になる事も有るけど、少しだけアキさんに近づけた気がした。

流石に、布団に入った途端…… 爆睡!

なんか寒い…… 布団が…… ん? どこだ布団?

「おーーい! どうするんだ〜〜? 寝るのかな? 朝風呂いくのかな? マコちゃ〜〜ん! 」
アキさんが自分の掛け布団を取り上げながら訊いてきた。

「あぅ、もう朝っすか? なんか…… はやいな〜〜 朝になるのが」
目が半分開かない自分がヨロヨロしながら起き上がる。

「寝てたら? 眠そうだよ、すごく」

「大丈夫れす! 朝風呂行きたいんです〜〜 」

ボサボサの髪とヨレヨレの浴衣姿のまま、ただアキさんの後ろをついて行った。
あくびを止めどなくしながら。
浴場に入ると、朝日が綺麗に射し込んでいて目が開けられないほど。
うっすら湯気の立ち昇る浴槽をアキさんと二人だけ。貸切状態。眠気もとれる程、気持ち良くゆったりと朝風呂を満喫。
「良かった〜〜 眠い中、朝風呂入れて」

「すっごく眠そうだったね。寝てた方が気持ち良かったんじゃない? 」

「いやいや、起こして貰って よかったっす! 最高ですね朝風呂! 」

「だね。夜はあまり景色見えなかったからね。朝日も綺麗だし」

二人で顔近くまで浸かりながら、朝日に照らされた景色を見てた。

風呂上がり、酔っ払い二人の様子を見に。

何故か、二人とも昨晩の時とは全く違う感じで寝てた。何があったんだと思う位、布団がめちゃくちゃ。恐らく朝方寒くて布団の取り合いをしてたのかな? ユウさんに至ってはシーツにくるまって寝てた。

カオリさんに布団取られたのか? ぷぷっ。

すんごい顔をしながらカオリさんが目を覚ました。
「え、もう…… あさ? ん? 何でユウさん寝てるの? アキさんは何処で寝たの? 」

「マコちゃんと隣の部屋で寝たよ。で、今二人で朝風呂行って来たとこ」

「え〜〜! 何でマコなの! コラっ! マコ、アキさん取るな〜〜 」

いや! 取ってませんよ。あなたが此処で寝ちゃったから仕方無く、隣行ったんすよ!まぁお陰で朝風呂連れて行って貰ったけど。
「アキさん〜〜 朝風呂、超気持ち良かったすね〜〜 」
カオリさんに、自慢する様に大袈裟に言ってみた。

「…… 朝風呂。あ〜〜ん行きたい〜〜 アキさん行こ? 」
「今、行ったばかりだし。朝から混浴は開いてないよ時間決まってるから」
朝イチの色々と凄いカオリさん相手にも冷静なアキさん。
「え〜〜 ヤダ! 行きたい! 」
朝から女王モード全開のカオリさん。

「その前にさっ! 顔洗おうね! 浴衣も直して。かなり凄いよ! 色々と」
アキさん! 言えるんですね。自分は言えませんでした。
カオリさんは、その一言で完全に眠気が覚めたらしく無言で洗面所に駆け込んだ。

思わず、アキさんと目が合い互いにクスクスと笑ってしまった。
イビキをかいて寝てたユウさんも、ムクッと起き
「腹減ったな! 」と一言。

なんか…… さすがユウさんって感じ。 (笑) 

恥ずかしそうにカオリさんが戻って来て、自分に軽くケリを入れ、アキさんに寄り添う。
「も〜〜 こんな女じゃアキさんも嫌だよね? もうお酒やめる! 」

誰もその言葉を信用しないのは確か。

「コラっマコ! 突っ込まないの? ホントにお酒やめるよ! 」
何で、自分に振ってくるかな? 勝手に言い出した事なのに…。

「どうぞ、ご自由に」
弱っている女王相手に強気で攻めてみる。

「あ〜〜ん、マコが酷い事言う〜〜 アキさ〜〜ん! 」アキさんの背中に頭を付けながら。

女王もまだ反撃するチカラが残っていたか〜〜 もう一押ししてみる? こんなチャンス滅多にないし……

「カオリちゃん、ほら朝ご飯食べに行くよ! 」カオリさんの髪を整え、軽く頭をポンポンしながらアキさんが言った。

うっヤバイ! アキさんそんな事したら女王が体力回復しちゃうじゃないすか!

『女王復活! 』

カオリさんはアキさんを優しい眼差しで見つめてた。

「うっ! 」

アキさんを見つめながらカオリさんの足が自分の腹めがけて! 復活した女王の見事な蹴り!

「じゃあ、着替えてくるね! 」
カオリさんが出て行った。

結局、女王を仕留めきれなかった。
チャンスだったのに!

四人で朝食。スッカリご機嫌になったカオリさんが、アキさんに寄り添う。たまに見下した目で自分を見る。
うーむ、また下僕になりさがりましたか!

「水飲みたい〜〜 しもべ! 水っ! 」
パワーアップした女王!

しもべですか、そうですか。
 (今日の寝起きの顔、ヒドかったですよ女王様! )

                           第6章    終

                 bench time 第7章


あっという間だった。
楽しい時間は、本当に過ぎるのが早い。
秋の温泉旅行。温泉に入りまくり、美味しい物を食べ、楽しいお酒を飲み、紅葉を見て語り合い、人を見て罵り合い。 (笑)
名残惜しむ様に、素敵な宿とそこでの時間を後にした。

何故か、帰りの車中は後部座席に自分とカオリさん。アキさんが運転で、帰りの準備に手間取ったカオリさんが助手席に座れず、ブーブー文句を言いながら後部座席に座る。ただ走り出したらいつもの楽しい車内に。
話題は、珍しくカオリさんの恋愛話に。
本人曰く、良い恋愛をしてないから話したく無いと言っていたカオリさんだが少し話してくれた。
意外と言ったら怒られそうだが、汐らしい
話。普段はちょっとキツめで強引でわがままな面もあるけど……
『ちょっとですよ〜〜 』
恋愛となると汐らしいカオリさんになるみたい。まぁアキさんには、そんな感じで接してるのでわからなくもないけど。

時折、ぶっ込んでくるモテモテ話は 若干ウザかったが、正直カオリさんが綺麗である事は認めざるを得ないのでしょうがない。
それでもアキさんが居る手前、大分控えめに話をしてる感じ。

「カオリさん不倫は経験ないんですか〜〜 ? 」

すぐさま、横っ腹にパンチが……

「最低〜〜 無いよ! 不倫は! 見える? 不倫してオヤジたぶらかしてる様に見える? 」

オヤジたぶらかしてる、とは言ってないけど。

「私はね。恋には真面目なの! 純情なの! すぐエロい事、考えるアンタとはちがうのよ! 」

軽い感じで聞いてみただけなのに、結果ヒドい言われ様です。

「純情か〜〜 、ふ〜〜ん」アキさんが何か意味深な事を……
「えっ、何すか? 」面白そうなのでアキさんに訊いてみた。

「いや〜〜ね、カオリちゃん初めの頃、結構ね〜〜 。グイグイというか肉食系というか色気責めしてた様な、してなかった様な」
アキさんが珍しく大開放。
言っちゃいますか! 大丈夫っすか?

「してません! 色気なんて出してません! 
アキさんが、私に色気を感じただけじゃない? ヤダ〜〜アキさん! エロい目で見てたの? 別にいいけどっ! どうしよ〜〜 マコちゃん、女として魅力たっぷりだってアキさん」

…… ポジティブ過ぎる。

どうみても純情と、結びつかないっすよ! 
カオリさん。

いい歳をしたオヤジ二人と、三十過ぎた二人。中身が無い話で盛り上がり、時間を過ごす。

長めの移動距離だったが、あっという間に帰って来てしまった。
「あーー、また明日から仕事か〜〜。」
楽しかった日に、後ろ髪引かれまくり。

「マコちゃんだけじゃないよ! みんな仕事! 遊んだ後は、仕事! 」
ビシッとユウさんが言った。

「そうだぞ! いつまでも遊び気分引きずってたら、またポカやらかすぞ! ポカマコ」
まだ言うんですね。言わずには、いられないんすねカオリさん! 忘れたいのに……

家に帰る。…… あーー 淋しい。

また、忙しい日々が始まる。勿論自分だけでは無いが。特にこの時期、10月。人の出入りも活発な時。色んな所で10月の人事移動などがある。その秋の移動でこの街に戻って来た人が……

何処かで見た顔。

「カオリ? カオリじゃん」
声を掛けられ、思い出した。

「まさ…… ゆき?  嘘っ! 政幸 (マサユキ)だ〜〜        
うわっ、懐かし〜〜 」カオリ。

政幸 (マサユキ) は、この街の出身。私 (カオリ) と家が近くて、仲が良かった。親同士も仲良く家族ぐるみの付き合い、中学の時お父さんを亡くし引っ越した。一度大学生の時に、バッタリ会った事があるけど。それ以来としても14年程経っている。すっかり落ち着いた雰囲気になり、わからなかった。

「何で? 何しに此処へ? 」

「何しにって、移動で。俺、先生やってんだよ。意外? 産休の先生の代理で来たんだよ。ここの学校に移動の希望出してたし。まさか来れるとは思ってなかったけど」

「先生? はぁ? 小学? 中学? 」

「小学校の先生です!」マサユキ。

「知らなかった、先生やってるなんて」

「いや〜〜 昔、会った時覚えてる? そん時、教育大行ってるって言わなかった? 」

「会った事は、覚えてるよ。大学の時」

「カオリがこの街に居るなんてビックリ。結婚は? 」

「それはノーコメントで。あんたは? 」

「独身。忙しくてね。言い訳だけど。なら今度ゆっくり話そうよ」

懐かしく、変わった様な変わらない様なマサユキを見て少し嬉しかった。
幼馴染という程では無いが、中学の途中まで一緒だったマサユキ。初恋? ん〜〜 まあそういう時もあったかな。頭が良い印象は無かったけど、勉強して奨学金もらい教育大に行ったらしい。なんか懐かしくて頻繁に会う事に。無論、恋愛って感じでは無く。

久々に自分 (マコ) は、ユウさんの店に。
ホント久々な感じ。ユウさんに会うのも温泉旅行以来。ピッグペンのドアを開ける、久々に。

カウンターに男性と…… カオリさん?
誰? 見たことない人。

「あ、マコちゃん久しぶり! 」

普通の挨拶に逆に戸惑う自分。
なんかその男性と仲良さそうな感じがし、少し席を離れ座る。

「カオリの幼馴染なんだと。学校の先生で今月から赴任して来たみたい」
ユウさんが、ボソっと教えてくれた。

先生か……
幼馴染とは言え仲良さげな雰囲気に、少し嫉妬の様な……
久々に来たユウさんの店なのに、テンションが少し下がった様な。
耳に入ってくる話声が、親しい仲を感じさせる雰囲気。なぜか気を使う感じになる自分。
うーーむ、つまらない。つまんない!
店に、団体のお客が来たタイミングで早々と帰る事にした。

「マコちゃん、もう帰るの? 何かあった? 」

「……あーー、何か久々にお酒飲んだら眠くなったんで、お先に…… 」と言って店を出た。
勿論、眠くは無い。嫉妬なのかな〜〜

てくてく歩いて帰るついでにアキさんの店の横を通る。ん? まだ明かりがついてる。
そうか、まだそんな遅い時間じゃないのか。ちょっとだけ寄ってみた。

「あら、どした? こんな時間に」
アキさんが片付けをしながら言った。
「すいませんこんな時間に」

別にアキさんに話す気は無かったが優しい対応してくれるアキさんに甘え、なんとなく話してみた。
「ありゃ嫉妬かな? 」アキさん。

「ですかね〜〜 あっすいません、アキさんにそんな事言って。でもそういう嫉妬とは少し違う気もする様な…… 」

「だから気は使わない約束でしょ!
そうねーー 少しわかるかな、マコちゃんの感じ。楽しかったからね、この間。楽しすぎたせいかな? 仲間意識が強くなり過ぎたかな? 」やはりいつでも冷静なアキさん。

アキさん以外の人に、あんな楽しそうでフレンドリーなカオリさんを見たくなかった、と言うのが本音の気がした。

「これはここだけの話だけど、カオリちゃんは良い女だと思う。中身も素敵だと思う。だからモテるし。マコちゃんもそう思ってるから気になるんだと思うし。ただね、自由にさせてあげなきゃ。周りが決めつけたり縛ったら駄目だよね。カオリちゃんが全て自分で選んで決める事、だと思う」
「ここだけの話だからね! あっパン持って行く? 残り物だけど夕方焼いた物だから大丈夫だよ」

「頂きます。嬉しい、久々だからアキさんのパン」

やっぱりアキさんは一回りも二回りも大人だった。こんな男になりたいな〜〜
カオリさんが一番喜びそうなフレーズを自分が聞き、アキさんと内緒事を共有できた感じがした。

先生か…… よし、仕事がんばろっ!
アキさんのパンは、元気と希望を与えてくれる。

                         第7章      終

                bench time 第8章

自分は、仕事が相変わらず忙しく中々飲みに行くこともできず。収穫時期なので忙しいのは当たり前だが、最近仕事の面白さがわかってきて大変さは感じなかった。色んな人達と良い関係が築けてきた事が、仕事の面白さに繋がった感じ。
仕事自体も色々任される様になり、やりがいもある。あんなミスをする様な自分なのに、有り難い気持ち。

まぁ 飲みに行くのが減ったのは、別の理由もあるのだが……

やはり何か気になって。カオリさんの事が。幼馴染の人と、すっかり仲良くなってるみたい。この前も二人でいる所をチラッと見かけたし。勿論アキさんへの想いは、変わらないみたいだけど。
その証拠に二人で、アキさんの店にも行ったらしい。

やはり嫉妬なんだろうか?
アキさんが言った通り、四人でいる事が楽し過ぎて他を拒絶してるだけなんだろうか。
カオリさんの自分に対する態度が最近、普通過ぎるのが より気になる。気になるというよりは、寂しい感じかな。

カオリさんの事、良いイメージ持ち過ぎだったのかな?
真っ直ぐにアキさんを追いかけるカオリさんが、好きだったから……

でも、考えたら自分だって若い子に傾きかけた事も、あったし。
ん〜〜 幼馴染って所が気になるのかな?
流石に、そこは勝てないというか入っていけない所だしな〜〜。
 
仕事が順調だからこそ、プライベートがつまらなく感じてしまう。

休みの日。

珍しくユウさんが、遊びに誘ってくれた。
これから近場で釣りでもしないかと。
勿論、了解し出掛けた。

「もう、朝は寒いからね。この時間の釣りだけど。仕込みあるから昼過ぎまでね」
ユウさんが、静かに竿を振る。

「この時間でも、釣れるんすか? 」

「釣れない事も無いけど、まあ釣れないだろうね。ふふふ」

何故に、釣れない時間にわざわざ?
と、思ってたらユウさんが言った。

「別にさーー 釣るのが目的じゃないし。何かボーっとしたくてさーー、あぁゴメンね! 誘っておいて」
「いえ。自分もそんな気分だったから」

「何かあった? 例えばカオリと喧嘩したとか? 最近マコちゃんらしくなかった気がしてさーー。考え過ぎなら、別にいいけど」

「いえ、何も無いっすよ! 大体カオリさんには、会ってもいないですし」

「そか。ならいいや」ユウさんは、深くは聞かない。そこがユウさんの良い所。

本当にボーっとした時間を過ごしただけだった。早めに竿を置き、川辺の石に腰掛ける。
「カオリさん、ユウさんの店に行ってるんすか? 」

「たまにね。あの幼馴染の先生と仲良いな〜〜 近頃。アキから乗り換えたか? カオリ」

「それは…… 無いでしょ。二人でアキさんの店、行ったらしいし」

「ふふ、わからんぞーー あの先生とは子供の頃、好きだった時もあったみたいだし。初恋か〜〜? ふふふ」

「え! ……そうなんすか? そういう間柄なんすか? 」

「ん? ショック? 嫉妬しちゃう? 」
ユウさんが少し、からかいながら。

「どうでしょう。幼馴染だけでもアレなのに初恋相手なら余計…… 」

「アレか〜〜、だな。でもカオリも、いい加減な奴では無いと思うけど。俺もカオリの事は、そんなに知らんからなーー。元々ただの客だし。アキが帰って来てからカオリともよく話す様になったぐらいだからな」

「アキさんは、やっぱりカオリさんの事は……
温泉行った時、少し話してくれたんですけど若い頃病気で亡くした彼女の事…… 」

「へーー。マコちゃん信用されてんだアキに。滅多に話さんぞ自分の事」

「でも、アキさんの家にある…… 」
この続きが、言えなかった。ユウさん相手でも、自分の口からは。

「知ってたの? あれは、また別。アキは大事な人、二人も失ってる。流石に二度目は、自分を責め続けて鬱になって、それ以来たまに体の調子を崩す。過呼吸になって酷い動悸がして、倒れる。前の様に。
アキがマコちゃんの事信用してるから、俺も喋るんだからそこは分かってくれよ! 」

何と無く想像してたが、ユウさんの口から聞き…… 何も言えなかった。自分からすれば壮絶としか言えないアキさんの人生。そんな辛い人生、自分は耐えられるのだろうか。

なのにアキさんは今 あんな美味しいパンを作り、自分達に優しく接してくれて…。

ユウさん自身もそれ以上の事は、深く知らないらしい。アキさんにとって意味がある毎月15日と16日の事も、詳しくはわからないらしい。ユウさんも、そこまで踏み込まない様にしてるみたい。
色々考えさせられる時間だったが、ユウさんが気を利かせて昼食を一緒に取る事に。

最近出来た、新しいお店。
小洒落た感じの小さな洋食屋。

入ってみると奥の席に…… カオリさん……と幼馴染の先生。むぅ!

「あらあら、仲良い事」ユウさんが、どストレートに言った。
「何言ってるんだか。そんなんじゃ無いけど。マコちゃんも一緒だったの? 一緒にどう? 」
カオリさんが相席を促す。

自分は、流石に相席とは…… と思ってたが。

「じゃ遠慮なく、一緒に食べますか! 」
ユウさんが…… 座っちゃうんですか? 
えっ〜〜。

ユウさんが先生の隣、自分は…… カオリさんの隣。何だろ、この気まずい感じ! 自分だけ? そう感じてるのは。

「マコちゃん最近付き合い悪くない? そんなに仕事忙しいの? 」
「えー、まぁ忙しいです」

「カオリが先生と仲良いから、気を遣ってるんじゃない? 」
ユウさんが言っちゃった。言っちゃうの?

「何なの貴方達! 勘違いしないでよ〜〜 私には、アキさんがいるのに」
ちょっと、イラっとするカオリさん。

それ以上は何も言えない感じになり、ユウさんがサラッと話題を変えた。
流石に、そういう雰囲気を変える事が上手いユウさん。心の中では何か煮え切らない感じだったが、それを抑え普通に振舞った。
美味しそうなハンバーグのランチだったが味が分からないランチになった。

カオリさんも自分の態度が気になったのか、夜に電話をくれた。

「なんかヘン! マコちゃん。私のせい? 」

「そんなんじゃ無いっすよ。ただ…… 」

「ただ? ……アレっ? もしかしてマサユキ?
マサユキと居たから? ん〜〜? ジェラシー? 」

「少し違うけど。最近のカオリさん…… らしくないなぁーと思って」

「らしいって? 別にマサユキは小さい頃の友達だし。変な想像してる? 」

「でも、彼はどう思ってるかは…… それに周りから見れば…… 仲良すぎって感じだし」

「周りって。どうでも良くない? つまんない事言わないで! 」
自分の歯切れの悪い内容と言い方で、少し怒りだすカオリさん。

「わかりました。もういいです。ただ自分は、アキさんに真っ直ぐなカオリさんが…… 好…… き…… というか。ごめんなさい変な事、言って。じゃ」
勝手に自分から電話を切った。

その電話以降、暫くカオリさんと会う事は無かった。

こんな小さな街なのに……


                   第8章      終

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