死に損ないの異世界転移
第17話 首都強襲
その日、中央都市の上空に五十機ほどの飛竜が突如として現れ、都市の正面には一個小隊程の兵士達が押し寄せた。彼らの兵装は皆ボロボロになっており、傷を負っていた。
彼らは中央都市の中心にそびえ立つ城に次々と入城すると、皆が口を揃えてミハエルからの伝令だと主張し、ギークへの謁見を希望した。
遡る事数時間前、中央都市から少し離れた森の中で竜騎兵隊を率いる名取は呆気に取られていた。
「抜かりないわね…ミハエル・フォン・アルブレヒト…自らが拘束されてる間に百人分の伝令文を用意しておくなんて…まともに戦いあってたら間違いなく勝てなかったわ…」
じつはミハエルは自らが拘束されるとすぐに偽の伝令文を用意し、敵の司令官もとい名取に持たせ、首都強襲をさせる為、その足掛かりを用意していたのである。
「内容は大まかに言えば増援の要請と言ったところか…これで敵の目が外に向いてる隙に一気に敵の大将の首をとる…って感じかな?」
「珍しく冴えてるわね田村くん」
「珍しくってところが余計です名取さん」
「さんは付けなくていいって以前言わなかったかしら?」
「…もう…いいです…僕が悪かったです…」
うなだれる和幸をよそに名取の口から首都強襲作戦の説明が行われた。
「いい?今日のところはこの伝令文を渡して終わり。決行は明日の正午私と田村くんそして貴方達一班はギークの殺害。残りの者は撹乱に専念しなさい」
「「「はっ!」」」
名取から作戦が伝えられたところで皆が一斉に動きだし、バラバラに中央都市へ向かった。
無事王の間に通された一向の中から名取が代表してギークに報告した。
「私達伝令部隊は皆アルブレヒト様よりこの書をギーク様に渡すように指示を受け、参りました」
「ほう、これは…救援要請か。分かったすぐに増援部隊を編成させて向かわせよう。しかしなぜ一人や二人ではなく、百人も伝令をよこしたのだ?」
「はっ、現在我々同盟軍は反乱軍に包囲されており、アルブレヒト様はこの書を確実にギーク様に届く様に二百人の伝令部隊を編成し、託しました。そしてここに来るまでにその半数が討たれ、我々がここまでたどり着いたという訳であります」
「そうか、あのアルブレヒトが危機的状況に陥ってるのか…」
少し間を空けてギークから出た言葉は名取達一向に衝撃を与えた。
「娘。我がそう簡単に騙されると思うなよ?」
その瞬間衛兵の槍が一向に向けられ、名取の頭は真っ白になりかけたがあと少しのところで気を取り戻し、ギークに返答した。
「騙すとはいったいどういった事でしょう?!この国の命運がかかっております!詮索はおやめください!」
「この私に指図するのか?まぁいい、詰めが甘かった様だな。残念ながら元老院の指示で奴はすでに討伐軍の任を解いてる。そうだよな?フルスト」
ギークはそう言うと脇の補佐官フルストに視線をやった。
「ギ、ギーク様…そ、その件なのですが…数日前より定時連絡が途絶えておりまして…最後に連絡があったのはアルブレヒト様の陣地に着く直前でして…」
「なんだと!なぜそれを早く言わん!」
「いえ…途絶えてすぐお伺いに上がったのですが…」
名取は正直訳が分からなかったが、この機を逃す訳もなく後に続いた。
「ギーク様!私達にはギーク様が何をおっしゃているのか分かりませんがしかし、今間違いないのはアルブレヒト様が危機的状況にある事です。一刻も早く救援部隊をお願い致します!」
ギークは事態を飲み込めず、少し悩んだが結果的に名取達を信用し、その夜には救援部隊が嘘の目標地点を目指し出発した。
「しかし危なかったな…」
名取達の為に用意された部屋の中で和幸は安堵すると、名取は無言で一枚の紙を和幸に見せた。
「なんだこれは?」
紙にはアルブレヒトから名取に向けて書かれた注意事項が書いてあった。
そこには『ギークの補佐官フルストと私の副官エリウッドは味方なので殺さないように』と書かれていた。
「この紙はこのタイミングで開けるように言われてたもの…もしかしたら私達試されてたのかしら…いえ、間違い無くそう。そもそもこの作戦の立案はアルブレヒトさん…私達あの人の手の上で踊らされてるのね…私がここに乗り込むと主張することも全て予見してすでに先手を打ってあったのね…」
アルブレヒトの超人的な戦略性を身をもって思い知らされた二人は明日の作戦決行に向けて早く寝る事にした。
夜が明け、各々与えられた役割の為に準備を始めた。
例外なく和幸と名取も準備をしていると、思わぬ客人が部屋を訪れた。
「失礼します」
「だれだ!」
「そう殺気を立てていてはギークに悟られてしまいますよ。それにあの方から預かってる手紙には私を殺さない様に書かれている筈です」
「って事は、もしかしてエリウッドさん?」
「ええいかにも」
そこに現れたのはアルブレヒトの副官エリウッドだった。
「作戦決行の前にお二人に伝えておきたい事がございまして」
エリウッドは間を置くと深妙な面持ちで続けた。
「ギークの事ですが、この国を乗っ取って以来、不定期ではありますが異常なほどの魔力を帯びている時があります」
「それがどうしたんだ?」
「それがどうした?ですか…では、彼が元々魔力の適正が殆ど無かった。と言えばお二人にも事の重大さがお分かりになりますか?」
和幸は未だにパッとしない様子だったが、名取は全てを理解した。
「つまりギークは第三者に操られてる可能性が高いということね…ここに来てすぐに魔力適正の有無については田村くんの一件でどうなるかは分かってる。となると、ギークはすでにこの世の物で無い可能性も充分にありえる…」
「左様でございます」
エリウッドからもたらされた“可能性”に名取は息を飲んだ。その先にある魔族という“可能性”を視野に入れて。
つづく
彼らは中央都市の中心にそびえ立つ城に次々と入城すると、皆が口を揃えてミハエルからの伝令だと主張し、ギークへの謁見を希望した。
遡る事数時間前、中央都市から少し離れた森の中で竜騎兵隊を率いる名取は呆気に取られていた。
「抜かりないわね…ミハエル・フォン・アルブレヒト…自らが拘束されてる間に百人分の伝令文を用意しておくなんて…まともに戦いあってたら間違いなく勝てなかったわ…」
じつはミハエルは自らが拘束されるとすぐに偽の伝令文を用意し、敵の司令官もとい名取に持たせ、首都強襲をさせる為、その足掛かりを用意していたのである。
「内容は大まかに言えば増援の要請と言ったところか…これで敵の目が外に向いてる隙に一気に敵の大将の首をとる…って感じかな?」
「珍しく冴えてるわね田村くん」
「珍しくってところが余計です名取さん」
「さんは付けなくていいって以前言わなかったかしら?」
「…もう…いいです…僕が悪かったです…」
うなだれる和幸をよそに名取の口から首都強襲作戦の説明が行われた。
「いい?今日のところはこの伝令文を渡して終わり。決行は明日の正午私と田村くんそして貴方達一班はギークの殺害。残りの者は撹乱に専念しなさい」
「「「はっ!」」」
名取から作戦が伝えられたところで皆が一斉に動きだし、バラバラに中央都市へ向かった。
無事王の間に通された一向の中から名取が代表してギークに報告した。
「私達伝令部隊は皆アルブレヒト様よりこの書をギーク様に渡すように指示を受け、参りました」
「ほう、これは…救援要請か。分かったすぐに増援部隊を編成させて向かわせよう。しかしなぜ一人や二人ではなく、百人も伝令をよこしたのだ?」
「はっ、現在我々同盟軍は反乱軍に包囲されており、アルブレヒト様はこの書を確実にギーク様に届く様に二百人の伝令部隊を編成し、託しました。そしてここに来るまでにその半数が討たれ、我々がここまでたどり着いたという訳であります」
「そうか、あのアルブレヒトが危機的状況に陥ってるのか…」
少し間を空けてギークから出た言葉は名取達一向に衝撃を与えた。
「娘。我がそう簡単に騙されると思うなよ?」
その瞬間衛兵の槍が一向に向けられ、名取の頭は真っ白になりかけたがあと少しのところで気を取り戻し、ギークに返答した。
「騙すとはいったいどういった事でしょう?!この国の命運がかかっております!詮索はおやめください!」
「この私に指図するのか?まぁいい、詰めが甘かった様だな。残念ながら元老院の指示で奴はすでに討伐軍の任を解いてる。そうだよな?フルスト」
ギークはそう言うと脇の補佐官フルストに視線をやった。
「ギ、ギーク様…そ、その件なのですが…数日前より定時連絡が途絶えておりまして…最後に連絡があったのはアルブレヒト様の陣地に着く直前でして…」
「なんだと!なぜそれを早く言わん!」
「いえ…途絶えてすぐお伺いに上がったのですが…」
名取は正直訳が分からなかったが、この機を逃す訳もなく後に続いた。
「ギーク様!私達にはギーク様が何をおっしゃているのか分かりませんがしかし、今間違いないのはアルブレヒト様が危機的状況にある事です。一刻も早く救援部隊をお願い致します!」
ギークは事態を飲み込めず、少し悩んだが結果的に名取達を信用し、その夜には救援部隊が嘘の目標地点を目指し出発した。
「しかし危なかったな…」
名取達の為に用意された部屋の中で和幸は安堵すると、名取は無言で一枚の紙を和幸に見せた。
「なんだこれは?」
紙にはアルブレヒトから名取に向けて書かれた注意事項が書いてあった。
そこには『ギークの補佐官フルストと私の副官エリウッドは味方なので殺さないように』と書かれていた。
「この紙はこのタイミングで開けるように言われてたもの…もしかしたら私達試されてたのかしら…いえ、間違い無くそう。そもそもこの作戦の立案はアルブレヒトさん…私達あの人の手の上で踊らされてるのね…私がここに乗り込むと主張することも全て予見してすでに先手を打ってあったのね…」
アルブレヒトの超人的な戦略性を身をもって思い知らされた二人は明日の作戦決行に向けて早く寝る事にした。
夜が明け、各々与えられた役割の為に準備を始めた。
例外なく和幸と名取も準備をしていると、思わぬ客人が部屋を訪れた。
「失礼します」
「だれだ!」
「そう殺気を立てていてはギークに悟られてしまいますよ。それにあの方から預かってる手紙には私を殺さない様に書かれている筈です」
「って事は、もしかしてエリウッドさん?」
「ええいかにも」
そこに現れたのはアルブレヒトの副官エリウッドだった。
「作戦決行の前にお二人に伝えておきたい事がございまして」
エリウッドは間を置くと深妙な面持ちで続けた。
「ギークの事ですが、この国を乗っ取って以来、不定期ではありますが異常なほどの魔力を帯びている時があります」
「それがどうしたんだ?」
「それがどうした?ですか…では、彼が元々魔力の適正が殆ど無かった。と言えばお二人にも事の重大さがお分かりになりますか?」
和幸は未だにパッとしない様子だったが、名取は全てを理解した。
「つまりギークは第三者に操られてる可能性が高いということね…ここに来てすぐに魔力適正の有無については田村くんの一件でどうなるかは分かってる。となると、ギークはすでにこの世の物で無い可能性も充分にありえる…」
「左様でございます」
エリウッドからもたらされた“可能性”に名取は息を飲んだ。その先にある魔族という“可能性”を視野に入れて。
つづく
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