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死に損ないの異世界転移

ねこまたぁ

第16話 そして中央へ

 前方から飛来する火の魔法。上空から降り注ぐ矢と油の入った壺。回廊内にこだまする悲鳴と混乱の音。それを地獄と呼ばすして何と呼ぶのか?同盟軍の先鋒を任されたエルヴィン少佐は、目の前で起きている現象に天を仰いだ。
 しかし仰いだそらに見えたのは黒焦げに焼かれた飛竜と、それを操っていた者だった。
 次の瞬間には、火攻めに遭い混乱する同盟軍歩兵の元に、上空から丸焦げに焼かれた竜騎兵隊の遺体が無数に降り注いだ。
「退け!」
 しかし、大声で叫びながら回廊の入口を指すエルヴィンが見た光景は、それ以降エルヴィンの思考を停止させるには充分な光景だった。
 エルヴィンが指差す先では新たに火の手が上がり、味方の後方部隊を焼き払っていたのだ。
 そして思考停止した彼にもまた、死という名の矢と飛竜が降り注ぐのであった。

 先鋒と後衛の崩壊のしわ寄せが、中衛の中継ぎにある部隊に寄せられるのは謀らずとも必然だった。
 前からも後ろからも逃げ延びてくる兵卒の波に押し寄せられ、場所によっては同士討ちすら始まる始末であった。
 そんな光景を崖上から見つめる射手マインツの目はただ一点だけを見つめていた。
 深呼吸をし、いつものように矢筒から矢を取り出し、いつものように弓を張り、その一瞬に全集中力を注ぎ込むと矢を放つ。
 そしてその矢は吸い寄せられるかのように指示を飛ばしていた一人の将校に命中し、その命を奪った。
「次…」
 マインツは一言だけ言うと、再び矢を放ち、指示を出している将校達を次々と射殺ろしていった。
 マインツ率いる弓兵部隊に加え、更なる手が同盟軍を襲う。
「おい!飛べ!しっかりしろ!もう地面がそこまでっ……」
 次々と指示役が射殺され、機能不全を起こし始めた同盟軍に襲いかかったのは味方の竜騎兵隊だった。
 暴風により翼を折られた飛竜は、背中に乗せた主人と同盟軍歩兵数人を下敷きにすると痛みにもがき苦しみ、理性無く暴れ、同盟軍の被害を更に増大させた。

 上空の竜騎兵隊に続き歩兵部隊も壊滅的な打撃を受け、混乱の最中、未だ活路を見出せない同盟軍を救ったのは、竜騎兵隊副隊長のバーツだった。
『反乱軍に告ぐ!こちらは同盟軍竜騎兵隊副隊長バーツ・クルーガーだ!反乱軍司令官に停戦を申し立てる!直ちに戦闘行為を中止せよ!これ以上の戦闘は無益だ!』
 魔石を通して戦場全体に響き渡った声に反応したのは名取だった。
『停戦を申し受けるわ!全軍直ちに戦闘を中止せよ!また所属に関係無く負傷者は手厚く保護しなさい!』
 その瞬間戦場に起きていた風や雨や炎は全て消え去り、回廊にはまるで何事も無かったかのように平穏な瞬間が訪れたのだった。ただ一つ無数の死体と血の海を除いて…


 バーツとエミット、そしてアルブレヒトと、その他数名の竜騎士に身柄を拘束されながら反乱軍の陣中に引きずり出されたのは、元老院副院長にして、同盟軍総司令官のミデェール・フォン・ライムントだった。
 撤退した際、バーツがエミットに出していた指示はライムントの拘束だった。
 ライムントを拘束し、アルブレヒトを救出した竜騎兵隊は停戦の交渉材料にと反乱軍にライムントを受け渡したのだ。
「手土産だ受け取れ」
 多くの部下と隊長のオルミスを失った怒りをそのまなこに宿れせながら、バーツはライムントを名取と、実は前線で酷使され、ものの数時間で十数回ほど生き死にを繰り返した故にボロボロの鎧を来た和幸の前に投げ捨てた。
 しかし、
「こんな小物が交渉材料になるとでも?」
 バーツ達の思惑とライムントの性質を瞬時に見極めた名取は凛とした態度で返した。
「そんな事より真相を語りなさい。貴方達がここに来るまでとその後では明らかに動きが違ったわ。話はそれからよ」
 その何もかもを見透かしていた名取を前にアルブレヒトとバーツは面をくらってしまった。そして最初の司令官がアルブレヒトだった事。途中アルブレヒトが拘束され、ライムントが指揮を担ったことなど、全てを名取達に明かした。
「やはり…と言うべきね。こちらからの条件は…」
 名取がそう言いかけた時だった。
「貴様ら…何勝手に話を進めてるのですか…」
 それまで沈黙の中に居たライムントが突如不敵な笑みを浮かべ動いた。
「私はやるべき事をやっただけ…」
 その言葉に怒りをぶちまけたのは他でもないバーツだった。
「ふざけんなよテメェ!あんだけ無駄死にさせておいて、やるべき事をやったってどういう事だ!テメェが居なきゃオルミスだって死ぬ事は無かったんだ!」
「無駄死になんかではない…1人たりとも無駄なんかではない…ふふふ…」
 狂ってるのかとバーツが言おうとすると、ライムントは突如発狂した。
「ふははは!万歳!邪神様万歳!」
 ライムントは謎の万歳を唱えると、口の中に含んでいた何かを噛み砕いた。
「吐き出させろ!」
 何かを察した和幸がそう言いながら口の中に手を突っ込んだが時既に遅く、その時にはライムントは泡を吹きながら絶命していた。

 『邪神』という単語を前に、この世界の住人達はまるで新しい言語を聞いたかのような疑問符を掲げていた。
「ジャシン?私も聞いた事のない言葉だ」
 アルブレヒトは名取にそう伝えた。残りの面子も皆横に首を振った。
 アルブレヒトが知らないのであれば、その場に居るほぼ全員が知らなくても特におかしい事ではない。
「とりあえず今は目の前の事に集中しましょう。その邪神教については帰ってユーリにでも聞きましょう。それで…」
 一旦区切ると、名取は同盟軍の処遇を伝えた。
「こちらから貴方達に求めるのは我々の回廊通過と、そこの…」
 すると名取は飛竜を指差して言い放った。
「貴方達竜騎兵隊の戦力を私たちに貸して」
「それなら問題ない。それとは別になのだが名取殿…」
 アルブレヒトは名取に何かを耳打ちした。

 次の日、名取と和幸、その他百名ほどの精鋭が五十の飛竜に跨り中央を目指した。しかしその中にアルブレヒトの姿は無く、彼は回廊に残された双方の戦力を所属に関係なく三つの区分に陣頭指揮にあたっていた。
 一つ目の区分は負傷兵、二つ目は負傷兵の介護や兵站などの支援、そして三つ目は回廊の要塞化を進める工作部隊だった…

つづく








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