話題のラノベや投稿小説を無料で読むならノベルバ

死に損ないの異世界転移

ねこまたぁ

第15話 アミッド回廊の戦い

 同盟軍が野戦陣地から回廊に向けて出撃した前日。その陣中では異様な事態が起きていた。
「静粛に!いいですか!今この時を持って、この討伐軍の総司令官はわたくし、元老院副院長のミデェール・フォン・ライムントが引き継ぎます!」
「どういうつもりだ?いきなり来て私が総司令官だなんて。喧嘩売ってんのか?」
 バーツはその白い服の男を睨みつけたが、その男は臆することなく続けた。
「これは王からの勅命です。そして…」
 ライムントはそこで区切るとミハエルの方を向くと、決め顔で言い放った。
「ミハエル・フォン・アルブレヒト大将!貴方を国家反逆罪の容疑で拘束させていただきます!」
「なっ!…」
 しかし、ミハエルが抵抗するよりも早く、既にライムントの近衛達がミハエルを拘束していた。
 その一瞬の出来事に、流石の百戦錬磨の竜騎兵隊の面々も何一つ抵抗出来なかった。
「おいテメェ!うちの大将が一体何をしたって言うんだよ!」
 バーツが血気盛んにライムントに迫ろうとしたがエミットがそれを制止した。
「あなた方には関係の無い事です。黙って出撃準備を整えなさい。明日には反乱軍に総攻撃を掛けます」
「馬鹿げてるのか!あんな見えすいた罠にかかりに行く馬鹿がどこにいやがる!」
「あなた方は黙って命令に従っていればよいのです!軍人とはそういうものでしょう!?」
 そう言われるとバーツは歯軋りしながらも自分の天幕に戻り、出撃準備を始めた。
「本当に総攻撃をするのでしょうか?」
 エミットは不安げにバーツに問いかけた。
「やるしか無いだろ…そうやって新しい総司令官が言ってるんだ…それに、これ以上抵抗したところでミハエル大将とオルミス隊長に面目が立たん…軍人なら時には理不尽な命令にも従わざるを得ない時もある。今は最善を尽くせ。まだ負けと決まった訳じゃない」
 いつもの腑抜けた態度とは異なり真面目に受け答えするバーツにエミットは少し拍子抜けしたが、その心の中には闘志が湧き上がっていた。

 翌朝、新たな総司令官の下、同盟軍は進撃を開始した。そしてその報は名取達の元にも早急に届けられた。
「総攻撃?!何故こんな急に…」
 困惑する和幸を差し置き、名取は全てを冷静に分析し、そして正確な答えを導き出していた。
「明らかに同盟軍の動きと雰囲気が変わっているわ。こんな無謀な動き、今まで一瞬でもみせた事無かった…もしかすると、一番上の人の身に何か起きたのかも…」
「確か…ミハエルさんだっけ?」
「そうね。何となくだけど、彼はこんな無策な行動は絶対に取らない。確信は無いけどそう言い切れる気がするの。私でもしないわ」
「確かに俺も“常勝”なんて異名が付くだけの人がそんな事するとも思えない。まぁただ俺達は俺達のやるべき事をやるだけだろ」
「そうね」
 名取は短くそう答えると、全体に迎撃の指示を飛ばした。

 到着したその日からアミッド回廊全体を包んでいた霧…否、明らかな作為を持って貼られた霧という名の煙幕が、未だ動揺の中にある同盟軍を待ち構えていた。
「全軍突撃!」
 一兵卒の誰しもが今までに聞いた事のない人物からの突撃命令を皮切りに、アミッド回廊で戦闘が始まった。

 同盟軍歩兵の先頭部隊が切り立った崖と崖の間にある回廊の中腹まで来ると、案の定反乱軍の傭兵部隊と衝突した。そして先頭部隊が衝突したのと同時に回廊全体の霧がみるみる上昇し、そのまま分厚い雲のようになると、回廊全体の視界が晴れた。
 そして晴れた視界の中に入ってきた光景は崖の上に整然と並ぶ反乱軍部隊の姿であった。

「何かあったらこれを使え」
 バーツが手渡したのは何ら変哲もない連絡魔石だった。
「これを使えばお前と俺と隊長と直接連絡が取れる。軍全体で使う物とは別で渡しておく」
 バーツは鋭く遠くを見つめながらエミットにそう言った。
「他の部隊長には渡さないのですか?」
「あぁ…お前だけは失いたくないからな」
「それって…」
「おい、勘違いするな。単純に部隊長の中でお前が一番優秀だからだ。ただでさえくだらない戦争に巻き込まれてるのに優秀な部下まで失いたくない」
 エミットは内心喜びながら出撃合図を待っていると、新司令官のライムントの全軍突撃の号令がこだました。

 竜騎兵隊は回廊上空を歩兵部隊のペースに合わせるため、竜騎兵の長所である速さを捨て、最徐行で進軍した。もちろん回廊を形成する崖上は霧によって状況が分からない。
 確かに航空戦力を持たない獣人族が崖上に進軍することは不可能ではあるが、ここまであからさまに視界を遮れば策の臭いを疑うのが定石だが、残念なことに同盟軍の新しい司令官には嗅ぎ分けられないようであった。

 そして戦局は急転する。霧が明らかな人為的速度で上昇し、回廊内の視界が利くようになると、崖上には千人程度の弓兵部隊と魔導士隊が整然と並び、それと同時に上空の竜騎兵隊に大量の矢と魔法を浴びせた。
 崖上の部隊が攻撃を開始すると、地上でも戦闘が始まり、歩兵の先頭と、回廊の入口で火の手が上がった。そして上昇した霧は雲となり、その場で豪雨が降り始めた。

『おい!オルミス!おい!早く指示を飛ばせ!』
 バーツがいくら連絡を飛ばしても隊長のオルミスからの応答はなかった。
 無論彼が無能な指揮官という訳ではない。生きていれば即座に的確な指示を飛ばせたであろう。しかし死人となってしまえばいそれも不可能である。
『副長…』
 バーツの持つ事前に渡しておいた三人用の連絡魔石からエミットの涙声が聞こえて来た。
『副長…指示を…今…竜騎兵隊で一番最高位の人は…バーツ副長…貴方です…』
 オルミスは最初の攻撃こそ回避したものの、その際にバランスを崩したエミットを庇い、自らは地獄が始まったばかりの回廊下の奈落へと墜落したのだ。

『全竜騎兵隊に注ぐ!総員撤退せよ!これ以上の戦闘は不可能だ!』
 状況を理解したバーツの判断は早かった。しかし、竜騎兵隊の混乱は収まりきってはおらず、矢を逃れようと上昇した一部の兵達を次なる手が襲った。
 轟音と共に彼らを襲ったのは上空からの強力な魔力を帯びた雷だった。
「くそっ…その為の雨雲か…」
 苦い表情を浮かべるバーツは次なる指示を飛ばす。
『上昇するな!高く上がれば雷に撃たれるぞ!安心しろ!しんがりは俺が務める!エミット!お前は全軍をまとめろ!』
 安心しろ。の一言が響いたのか、それからは竜騎兵隊もある程度落ち着きを取り戻し、徐々に撤退を始めた。
「おい!エバンス!残念だったな!お前の部隊はたった今貧乏くじを引いた!この場に残って俺の支援をしろ!」
「了解!聞いてたなお前ら!俺の部隊は副長に続くぞ!」
 すぐ脇にいた部隊を共にしんがりに巻き込むと、バーツは弓兵部隊に突貫した。

 バーツは反乱軍の弓兵数名を下敷きにしながら崖上の一角に強行着陸すると、長槍で敵を薙ぎ払い、奈落の底へと突き落とした。
 その鬼神のような戦い様は反乱軍に動揺を広げると同時に殿の竜騎兵隊を鼓舞した。
 そして動揺により生まれた隙から反乱軍は雪崩のように崩れていった。
 崖上には次々と竜騎兵が着陸し、一挙に形成は逆転した。むしろそこからは竜騎兵隊側の一方的な虐殺に等しく、弓兵と魔導士隊は壊滅的な打撃を受けた。
「戦果はこれくらいで充分だ!俺らも撤退するぞ!」
 そして、バーツがそう指示を出すと、竜騎兵達は後顧の憂なく撤退していった。


 一方エミットが指示を出す中、退却を始めた竜騎兵隊を更なる魔の手が襲う。
「風…」
 エミットがその助長に気が付いた時には既に手遅れだった。突如として吹き始めた突風は、竜騎兵隊を半ば強制的に奈落の上。未だ状況が掴めず混乱する歩兵の中継ぎの部隊の真上まで誘導した。
「エミット殿…まずいです…上昇気流が…」
 脇の兵卒が言ったその瞬間、逆らえば飛竜の羽が折れるほどの上昇気流が吹き荒れ、竜騎兵隊を上空へ押し上げた。

 逆らえば羽が折れ奈落の底へ墜落。突風に身を任せれば雷の餌食になるという地獄の最中、エミットはただひたすら退却を指示してアミッド回廊からの脱出を試みた。
 死にものぐるいで回廊を抜けた頃には更に数十騎ほど撃ち減らされ、全体の損耗からすれば軽微ではあったものの、全体に満身創痍の空気感が漂っていた。
 そしてバーツからエミットへの指示が出たのは丁度その時だった。
 エミットはバーツの指示通り十名ほどの精鋭を選定すると、残りの竜騎兵隊を戦場から離れた場所に駐屯させ、少数の精鋭部隊を率いて同盟軍本陣へと一目散にその身を翻した。

つづく

「死に損ないの異世界転移」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く