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死に損ないの異世界転移

ねこまたぁ

第14話 叛逆

 同盟軍出撃の報を受け、現在、自称獣人族の王ハーブの下、城の一室に軍務関係者が一堂に集い、対策を講じていた。
 だが、一同の面持ちは暗く、軍議は進展のないままであった。
 理由は至極単純である。兵力差と精鋭部隊である竜騎兵の存在。そしてそれを率いる指揮官。の二点だった。
 この二つの条件だけで、獣人族のクーデターの失敗は目に見えて明らかだった。
「その竜騎兵って兵科はそんなに強いの?」
 名取が聞くと、ベルゲンが答えた。
「一個大隊千人だけでも我々は滅ぼされるだろうな。」
「圧倒的ね…」
「それに、今回一番の厄介なのは、それらを率いてくる総司令官だ」
「ミハエルさんでしたっけ?」
 和幸が聞くと、ベルゲンはミハエルの経歴を語り始めた。
「ミハエル・フォン・アルブレヒト大将。その異名はただ『常勝』とだけ言われている。中央に召喚される前は我々獣人族領と魔界との前線で指揮していて、俺もルーナ様と一度あった事があるが、なぜ軍人になったか分からないほど自由気ままなお方だった。だが、それと同時に腹の底が読めない方たったな」
 ベルゲンが説明すると、横で聞いていた武官達は思い出したかのように再び落胆し始めた。
「ならっ!」
 しかしその刹那、声を張り上げたのは他でもない名取だった。
「それなら!そんなに強い人を出し抜くなら!この私以外に適任はいないんじゃない?!何を怖気付いてるの?!黙って私について来なさい!貴方達の常識では見当もつかないようなものを見せてあげるわ!」
 名取が声を上げると、一同に静寂が走った。だが、もう一押し足りてなかったようで、一人だけ名取に噛み付いた者がいた。
「そこまで自信があるならば、貴様の中に描く戦略をここに示して見せたらどうだ?」
 かなり無茶な要求であったが、むしろ全体の空気を変える一押しにはもってこいの機会でもあった。
「ここよ!」
 名取は卓上の地図の盤面を激しく叩いた。
 示していたのは国境から数キロ離れた場所。見るとそこは密度の高い高等線と高等線に挟まれた場所だった。
「アミッド回廊か…なかなか見る目があるじゃないか」
「ここに兵を置いて敵を誘い込み、両側面に弓兵を置いて敵を殲滅する」
 しかし名取とってこの発言はむしろ向い風となってしまう。
「残念だがここには兵を置けない。確かに魅力的な場所だが、ここに兵を連れて行く手段が我々には無い。それこそ竜騎兵が運搬するくらいしかな?」
 名取は反論した。
「貴方、私が最初に言った言葉を覚えて無いの?ならもう一度言ってあげるわ。貴方達の常識では見当もつかないようなものを見せてあげるわ」
 既に一同には微かな希望が溢れていた。この子なら出来るのではないか?…と。
 むしろ冷静に考えてみれば、他にあてにする人もいなければ、迎撃するにしても他に決戦を挑む地もない。一同の心は既に決まっていた。
「掛けてみようぜ。この子ならやってくれる。冷静に考えてみろ。この子は何も間違った事は言っちゃいねぇ。俺らは全力でそれを支えて、未来につなぐだけだろ!」
 一人の武官がそう言うと流れは完全に名取のものになっていた。
「なら集められるだけの戦力をかき集めなさい!弓兵はいればいるだけ助かるわ!それから傭兵部隊も編成するわ!」
「「「はっ!」」」
 その後、具体的な防衛案を練った後、その日は解散となった。
 唯一状況が飲み込めないのは、相変わらず和幸のみであった。

「なぁ名取。お前いつから用兵家になったんだ?」
 夜、名取の部屋を訪れた和幸はおもむろにそう聞いた。
「ついさっきよ。と言っても今日説明した作戦が確実に成功する保証なんてどこにも無いし、最悪の場合、悪戯に彼らの命を消費するだけ…でもこうなってしまった以上、やるしかない。田村くん、申し訳ないけど、貴方も手伝って」
「お…おう…」
 和幸はむしろ動揺した。名取が面と向かって弱音を吐くなんて、初めの事だった。それほど切迫した状況なのだ。
「大丈夫さ、名取なら出来るさ」
 和幸はありきたりな言葉しかかける事が出来なかったが、それでも名取は、どこか安心したような表情を浮かべていた。


「斥候部隊より伝令!反乱軍はアミッド回廊に集結している模様!」
 同盟軍総司令官ミハエルの元に伝えられたのは予想通りの情報だった。
「やはりアミッド回廊か…」
「特に問題無いのでは?我々竜騎兵隊で蹴散らしてみせますよ?」
 何故か神妙な面持ちのミハエルに対して、竜騎士エミットはそう投げかけた。
「いや、偵察部隊からの情報によると、異世界から召喚して来た人物が二人もいるらしい。この世界じゃ珍しい話でも無いが、その力は未知数で測りきれない」
「ならちょうどいいじゃないですか。それを理由に少し離れたあの丘に陣取って様子をみましょう。それなら我々の当初の予定通りです。後は彼らの頑張り次第ですが」
「一度も軍を交えずに傍観するのはあまり得策では無いのだが、致し方無いな…」
 同盟軍はエミットの思案した丘に進路を取り、陣地を築き始めた。
 しばらくするとミハエルの元に中央からの伝令が到着した。
「ミハエル様。エリウッド様より言伝を預かっております。『中央にて不穏な動きあり。その勢力と思われる人物が向かっている』との事です」
「この期に及んで中央がなんのつもりだか分からないが、しかと受け取ったと伝えてくれ。もちろん細心の注意は払う」
「御意」
 伝令はそういうと跡形もなく消えていった。
「もしかすると愚王が動いたのか?まぁいい、一応念には念をだな…エミット!」
「はっ!」
「アミッド回廊の両脇の高地を集中して探れ!伏兵が居ればすぐさま報告するように!」
「承知しました!」
 だが二時間後、彼は報告を待たずして確信した。アミッド回廊には罠が張り巡らせいると。

 突如としてアミッド回廊全体を覆い込んだ濃い霧はは敵情はおろか、味方との連携すらままならないほど濃く散布していた。
「ほ!報告します!」
 偵察から戻って来たエミットの言葉を聞くまでもなく、ミハエルは一言だけ「やられた」と虚無感をあらわにすると。全軍に陣外に出る事を禁止した。
「あからさまに伏兵を準備してますと言わんばかりの所業だな」
 竜騎兵隊副隊長のバーツが口ずさんだ。
「だが十分効果的だ。最悪の場合ここの陣が戦場になるかもしれん。一応備えはしておいてくれ」
「りょーかい」
 バーツは緊張感の無い返事をすると、更なる防衛強化に努めた。


「ひとまず、時間稼ぎと伏兵の配置も兼ねての霧は大成功ね」
 などと涼しげな顔で言い放った名取を見る目は、皆化け物を見る目と言っても相違なかった。
「有言実行とはまさにこのことか…」
 和幸がボヤくのも無理は無かった。
 名取は現地に到着すると、巨大出力の水魔法の水圧でその切り立った崖を削り取り、兵が登れる道を作り、削り取るために使った水を再利用し、霧を発生させたのだ。
 更に配置にも抜かりない。回廊内の敵歩兵を前面から受ける位置には、魔獣討伐にも参加していたブラント率いる傭兵部隊千五百名と、同じく討伐隊を率いていたベルガー一等魔導士官率いる五百名の魔導士中隊だった。
 二人共王都陥落と共にクーデター派に鞍替えをしたはずだったが、この日までに信頼を勝ち取る事は出来ず、ベルガーに至っては先日の軍議の折に名取に挑戦的な態度を取った張本人でもあった。
「あんたもぬかりないな。間違いなく一番被害がでる配置だろ?」
 若干引き気味のベルゲンが名取にそう言うと、名取は同情の余地も無いわ。と冷徹に突き放すのであった。
 そして問題の崖上には、弓兵と魔導士を中心とした一千人の部隊が配置されていた。
「だが、これだけだと少し心許ない気もするな…」
 和幸が不安げに呟くと、名取は、
「安心しなさい。彼らは時間稼ぎに過ぎない。敵を倒すのはあくまでも私の魔法よ」
 と言い放ち、さりげなく五千人の敵兵を一人で手玉に取ると宣言したのだった。

 両軍の睨み合いが始まってから、三日が過ぎようとしていたその日。戦局はいきなり動き始め、そして終結した。
 なんと、先に動いたのは同盟軍側だった。しかし、その指揮を行っていたのはミハエルではなく、白い神官のような衣装をまとった人物だった…


 つづく


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