話題のラノベや投稿小説を無料で読むならノベルバ

死に損ないの異世界転移

ねこまたぁ

第13話 逆賊

「おい、ユーリ入るぞ」
 ベルゲンは再三のノックの後にそう言うと、ドアノブに手を掛けた。
「まだダメ!」
 扉の向こう側からそう聞こえた時には、既にドアは完全に開かれていた。

 扉を開けた事により発生した積み本の雪崩の犠牲者はベルゲンと、中に居たと思われる水色の毛並みのネコ科の獣人族だった。
「あいたたたた……まったく!何度も言ってるじゃないか!僕の書庫に入る時にはまずはエアシールドを張ってからってからって!」
 まるでこちらが悪いかのような言い分の猫をよそに、死に損ないこと田村和幸と、大賢者顔負けの新米魔法使い名取澪は、本の雪崩に生き埋めにされたベルゲンを救出するのであった。

 お互い軽く挨拶を済ませたところでネコ科の獣人族ユーリは和幸達に投げかけた。
「それで?わざわざ昼寝中に起こしてなんのよう?僕らネコ科の獣人族は一日二十四時間以上寝ないと死んじゃ…あいタタタタ!」
 戯れ言を言うその猫に以前にも発動した梅干しという名の鉄拳制裁を加えると、和幸は本題に入った。
「実は召喚術について聞きたい事があってだな。ベルゲンに相談したらここに連れて来られたんだ」
 呆れ顔で本の上にあぐらをかくベルゲンを指差しながらそう言うと、猫は答えた。
「まぁこの国…いやこの世界で一番博識なのはどう考えても僕だからね。ベルゲンの判断も当然かな?」
 やけに自信に満ち溢れてるその猫は崩れた本の中から召喚術に関する物と思われる本を一冊取り出すと、なんでも来いと言わんばかりの笑顔で見つめてきた。
「それじゃあさっそくなんだがユーリ、まず俺と名取、はただの転移者じゃないらしいんだ。まず俺は死んでも死なない。絶命した次瞬間には何事もなかったかのように生き返る。名取は…」
 名取についての説明を始めようとした瞬間、これまでとは全く違う口調でユーリがそれを遮った。
「あの双子…いや、今はルーナ二等だけか。アイツはどこにいる。今すぐ僕をそこに案内しろ。話はそれからだ」
「お、おう…だがルーナは今満身創痍の状態で、おそらく受け答えもままならないがそれでも大丈夫か?」
「なんでもいいから案内するんだ!」
 少し焦っているような様子のユーリの目的がわからぬまま、和幸達はとにかくルーナの寝ている部屋に向かった。
「ここの部屋だ…っておい!ノックぐらい…」
 その部屋と分かった瞬間蹴破るこのように突入したユーリとその後に続いた和幸達は唖然とせざるを得なかった。
「もぬけの殻…?」
 つい先程まで居たはずのルーナの姿はどこにも無く、そばに居た衛兵も部屋から出る姿は見てないというではないか。
「窓も鍵がかかっていて開いた形跡もない…」
 一同が部屋中を調べていると、ユーリと名取が同じ所で立ち止まった。
「君も感じるのかい?」
「そう言うあなたこそ」
 妙に意気投合する二人に対して、全く状況を飲み込めない和幸が尋ねた。
「一体何がだよ!」
「そうね、この場所この世界に来てまだ感じ取ったことの無い魔力を感じるわ…なんというか…禍々しい感じね…」
「そりゃあそうさ。この魔力の形態は間違いなく魔王に近しい者の魔力。幹部クラスの奴がいた証拠だ」
 結局割って入ったのに全く状況の飲み込めない和幸だった。
「それでルーナはどこに行ったんだ?」
「憶測に過ぎないけど、僕の見立てだと高確率で魔界だね。まぁ魔界って言っても国境の向かい側に過ぎないんだけど」
「魔界ってあれか?ミーニャが言ってた魔族領ってやつか?」
「そうとも言うね僕は面倒だから魔界って呼んじゃってるけど」
 和幸と名取はお互いに見つめ合うと、ほぼ同時に大きなため息をついた。
「どうしたんだい?」
「いやなんでもないさ」
 そう言いつつも二人の決意はその瞬間固まったのであった。


 時を同じくして六種族の中心、交易同盟都市は、クーデターの話で持ちきりだった。
 そんな中、軍務省の執務室で書類を見ては投げ捨てる作業を繰り返していた人間族のミハエルは、同じく人間族の副官エリウッドからのクーデターの話を聞き、内心歓喜していた。
「やっとまともな連中が立ち上がったのか…まぁ私は飯が食えればそれで良いのだが…」
「そんな事おっしゃられますな。かく言う私も貴方様がいらっしゃればそれで良いのですが。それと、このクーデター他人事では収まらなそうですぞ」
 そう言うと副官エリウッドは大首長の印が押してある封筒をミハエルの前に差し出した。
「これだから嫌なんだよ軍隊は…はぁエリウッド…この書類の山なんだが…」
「お任せください。少なくともミハエル様よりかは格段に早く終わらせますので」
「お前の減らず口は嫌いじゃないさ。むしろ久しぶりにそう言うのが聞けて嬉しいくらいさ」
 そう言うとミハエルはその重い腰を上げ、逆賊討伐のための準備に向かった。
「上層部は全く理解してない…あの方にとってはこんな物ただのサボりの口実でしかないと言うのに…」
 ミハエルのいなくなった執務室でエリウッドは小さくそうぼやいた。


「さあ久しぶりのお仕事の時間だ…と言っても今回はただ外に出て駐屯するだけの簡単なお仕事なのだが…」
 ミハエルは数ヶ月ぶりに会う直属の部下達の前でそう言うと再び一から書簡の内容を伝えた。
「獣人族領にてクーデターあり。すでに王城は彼らの手に落ちた。急ぎ奪還せよ。との事だ」
「それで?ミハエル大将。あんたの意見は?」
 眠たげな表情でそう聞いたのは竜騎兵隊副隊長のバーツだった。
「そう答えを急がなくてもいいじゃないか。とにかく今の国の状況を考えればどちらに着くべきかは自明だ」
 ミハエルは一度そこで区切り強調した。
「だが我々はあくまでも軍人。上の人間がそう言うのであれば従わなければならない。そこは履き違えてはいけない」
「ふわぁぁぁ〜そんじゃあクーデター派を潰すのですか?出来ればハンモックでもぶら下げて昼寝でもしたいのですが…獣人族領はとても良い気候で、昼寝には適しています」
「安心したまえバーツ。最初に言った通り今回の任務は駐屯するだけさ。せっかく芽吹いたんだ。私の手で摘み取るにはあまりにも惜しい」
「なるほど、命令には従うが、適当な都合をつけてそれ以上は攻め入らないと…さすがだよあんたは」
「まぁそう言う事だ。各自糧食とハンモックの準備を怠らないように。以上解散!」
 ミハエルが解散を告げ、皆が会議室から退席
する中、バーツは一人ミハエルの元に駆け寄った。
「多分全部筒抜けだぞ?」
「もちろん分かってるさ。私もこの国の内部がどれほど腐り落ちたのかが気になってね?」
「ふっ…悪い人だ」
 バーツ一言そう言うと会議室を後にした。

「えっ…副長…もしかして本当に持っていくつもりなんですか?そのハンモック…」
 戦いの準備中、半ば呆れ顔でバーツに問いかけたのは竜騎兵隊の女竜騎士エミットだった。
「何がおかしい。大将からの命令だぞ?」
 さも当然かのように振る舞うバーツにエミットはため息をつくしかなかった。
「まぁ別にバーツは日頃からそんなもんだからいいんだ」
 そう言ってエミットの肩を叩いたのは竜騎兵隊隊長のオルミスだった。
「お前もひとつ持っていった方がいいぞ。どうせ遠足みたいなもんだからな」
 隊長からの一言で調子づくバーツだったが、数日後、自分達が地獄の渦中に居る事になるとは彼も全く予想していなかった。


「禁忌?」
 和幸達はユーリに聞き返した。
「そう、彼女達は召喚術で絶対にやってはいけない禁忌を犯したんだ」
 そう言って渡された召喚術の本を手に取って読むと以下のような事が記載されていた。
 多重召喚。異世界から召喚する際。人一人を生贄として捧げなければならない。それは召喚術の基本である。故に召喚術それ自体を禁忌とする場所もあるのが現状だ。
 召喚術での召喚後。召喚された異世界の人間には、生贄にされた人の能力が何かしら付与される場合がある。魔力に秀でた者を生贄にすれば召喚者に魔力の才能が受け継がれたりなどするのである。そしてそれは生贄にした人数に比例する。それが多重召喚である。
 しかし生贄の人数が多くなりすぎると、召喚された人間に何が起きるか分からない。そして術を施した人間の運命を変える。そう、それはより不幸な運命へと…
「生贄となる人が必要になるのはベルゲンさんから聞いてはいたが、つまりどういう事なんだ?」
「この書き方だと少し勘違いしやすいんだけど、召喚するためには必ず一人は生贄にしなくちゃいけない。それで召喚した後に稀に能力付与が起きる事があるんだ。だけど最初から…例えば二人を生贄にすれば、召喚の代償で一人、残りの一人、は全て召喚者の能力付与に充てられる」
「厳密に言えばそう言う事になるのか…それで本題なんだがユーリ。俺は死ぬとまれにその生贄達の記憶が流れ込んでくる時があるんだ…これってなんとかならないか?」
 ユーリは即答した。
「無理だね。多重召喚の文献に、きみみたいな蘇りがあるとは記録されてる。もちろん記憶の事もだ。だけどその対処法は今のところ解明されてないんだ。まぁ死なないのが一番の対処法かな?」
「そうか…」
 その時だった、俯く和幸達の元に急報が知らされる。
「ベルゲン殿!報告します!先程交易同盟都市より討伐軍が出撃した模様!あと三日程で国境付近にまで到着する見込みです!」
「討伐軍だと!?まさかギークの方から先手を打ってきたのか?!」
「そ、そのようです…」
「規模は?」
「歩兵3千と竜騎兵が2千、総数5千との事です!」
 兵士の報告に対し、疑問符を浮かべたのは和幸と名取だった。
「「竜騎兵?」」
 しかし同時に2人が思い浮かべたのは「ドラグーン」の文字だった。
「って事はこの世界にも銃火器のようなものがあるのか?」
 和幸の質問に対し、この世界の者たちは逆に疑問符を浮かべると、ベルゲンが説明した。
「竜騎兵というのはその名の通り、飛竜に乗った兵士達の事だ。空を飛ぶ魔王軍に対抗するために作られた兵科だが、今となっては同盟軍の主戦力とも言える」
「なるほど、ならこちらからもその竜騎兵を…」
 遮ったのはユーリだった。
「残念だったね。竜騎兵は人間族にしかない兵科だ。付け加えると、我々獣人軍に航空戦力は存在しない。地道に矢か魔法で対抗するしか方法は無い」
 いきなりのアウェー宣告に動揺する和幸だったが、横にいた名取はまだ諦めては無さそうだった。
「至急迎撃の作戦会議を行うわ。全員集めて!」
「そうか、名取の魔法力があればまだ道はあるかもしれないぞ!」
 二人の号令の下、王城の中で忙しなく軍議が始まるのであった。


つづく

「死に損ないの異世界転移」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く