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死に損ないの異世界転移

ねこまたぁ

第11話 記憶

 今後の作戦会議が終わり、一同が会議室から退出する中、名取 澪はベルゲンと和幸を呼び止めた。
「さて、話してもらおうかしら?私たち二人に隠された秘密を」
 名取の目は真剣そのものだったが、約一名状況が飲み込めてない者が居た。
「秘密ってなんだ?俺が死ななくて、名取がチートってやつか?」
「ええまさしくその通りよ」
「えっ何?!なんか理由とかあるの?!」
 和幸は興味津々にベルゲンに尋ねたがベルゲンの表情は硬く、それ以降和幸を寄せ付けなかった。
「私はその場に立ち会って無いから事実かどうかは分からない。あくまでもミーニャ様とルーナ様から聞いた話だ」
 ベルゲンがそう前置きを置くと、二人に事情を説明し始めた。
「この世界への異世界からの召喚術には対価が必要になる。それがこの世界のルールだ。つまり人を一人召喚するには、一人分の命が必要になる」
 ある程度情報が入っていた名取はともかく、その事を全く知らない和幸にとってはかなりの衝撃だった。
「おいおい…じゃあ俺たち二人を召喚するために二人の人を犠牲にしたって事か!?」
 そう言った所で和幸はふとある事に気がついた。
「いやまてよ、それだけじゃ俺が生き返る理由と、名取の異常な魔力の説明にはならない…まだ何かあるのか?」
「誰が“たった”二人だなんて言った…」
 ベルゲンの放ったその一言は、二人の思考を停止させるにはあまりにも十分過ぎた。
 そしてベルゲンは右手を開き二人に突きつけた。
「5?…それは5人って事か?」
 和幸はベルゲンを睨みながらそう聞くとベルゲンは更に衝撃の事実を突きつけた。
「500だ…」
「嘘だろ?500人も犠牲にしたのか?俺ら二人召喚するために?…」
「ミーニャ様とルーナ様をそちらの世界に送り込むの分も含めてだ…」
「だからってよ…」
 その後もベルゲンの説明は続いた。和幸が死なないのはその500人の命を代わりに消費している事。名取は500人分の魔力がある事。そして…
「もしかしてだが…その召喚の為に犠牲になった500人っていうのは全員罪人で、処刑方法は生き埋めじゃないか?」
「なっ…なぜ知ってる…」
 突然そのように言ってきた和幸に対して、ベルゲンはあまり動揺した様子を見せぬように取り繕ったが、和幸にも名取にもその動揺は見て取れていた。
「死んでる時に夢に出てくるんだ…彼らの半生が…」
「それは…辛い思いをさせてしまった…」
 ベルゲンはそう言った後、何かを思い出したように二人に提案した。
「一人、召喚術に詳しい士官を知っている。ミーニャ様とルーナも確かその士官から召喚術を授かったと言っていた…和幸殿のその夢とやらも、もしかすると改善するかもしれぬ…」
「あぁ…とりあえず紹介してくれ…」


 真っ暗の部屋の中にロウソクの火が弱々しく灯っていた。部屋にある二段ベッドの上段には主人が居ない。つい先日まで主人だった黒猫の娘は既にこの世から居なくなってしまった。
 一方下段の主人の白猫の娘はどこか遠くを見つめて、生きているのか死んでいるのかも分からない。
「ルーナ様…お食事を…」
 しかし食事を運んで来た兵士の呼び声にも全く返事をせず、ルーナはただひたすら姉の名前を繰り返すだけだった。
「こ、こちらに置いておきます…」
 兵士は横の机に夕食を置くと、不安そうに部屋から退出した。

 兵士が退出してから数分後、部屋の一角に突如黒い円ができ、そこから傷だらけの魔族が出て来た。
「おいテメェ…チッ…姉貴の仇を目の前にしても無反応とは…」
 そう言って出て来たのは魔王軍の師団長イフリートだった。彼もまた先の戦いで両腕を失っていたが既に再生していた。しかしまだその腕も万全といった状態ではなかった。
「この再生した腕の感触を確かめる為に、わざわざオメェさんの所に来てやったんだが…この感じじゃダメだな…死んだも同然か…」
 するとイフリートはルーナの頭を鷲掴みにし、ルーナに問いかけた。
「お前にとって姉貴はなんなんだ?ってまぁ聞いても答えるわけねぇよな。悪いが見させてもらうぜ?」
 するとイフリートは意識をルーナに集中させ、ルーナの記憶に潜入していった。


 澄み渡った青空に、心地よい風が吹いていた、風は野原をかけ、草花を揺らしている。そんな少し小高い丘の上に少女達はいた。
「おねぇちゃん今日もお昼寝?」
 白い髪の猫耳の少女はそう尋ねると、黒髪の方の猫耳の少女は既にまぶたを閉じ、寝転びながら答えた。
「いーい?ルーナ、私たちくらいの子どもはね、寝るのが仕事なの。いっぱい寝ていっぱい遊んで、そうやっておかあさんとおとおさんみたいな立派な大人になるの」
「でもお勉強とかは?」
「もちろんお勉強もするけど、勉強した事をちゃんと覚える為にはやっぱり寝るのが一番!…っておとうさんが言ってた!」
 そんなミーニャの隣で、気付けば一緒になって寝転んでいたルーナは、ミーニャよりも先に眠りについていた。しかしミーニャは眠りにつく事はなく、ただその寝顔をひたすら眺めていた。

「起きてルーナ、もう日が暮れちゃう」
「おねぇちゃん…おはよう…あ!もうこんな時間?!早く帰らないと!」
 気付けば既に夕暮れ時になっており、二人は急いで別荘に帰ると、同じタイミングで右脚を引きずりながら杖をついてくる影が見えた。
「あ!おとうさん!」
 二人の父フリューゲルは軍人だが足が悪い。彼は三年前の魔王軍との会戦で魔人族の裏切りにあい、友軍を庇いながら奮戦を続けていたが、その途中足を負傷してしまった。以来彼にとって杖は必需品である。
「やあ、おまたせ二人とも。せっかくの休暇だと言うのに仕事が入ってしまってね」
「大丈夫だよ!おとうさん!」
 本当は甘えたい二人だが、足が悪い父を困らせる事は出来ないと幼い二人は理解していた。
 三人が別荘に入ると、夕食の匂いが家中に充満していた。
「この匂いは、私の好物のシチューの匂いだなぁ」
「あら、お帰り三人とも。シチューできてるわよ」
 そう言いながらキッチンからシチューの鍋を持って出て来たのは双子の母にしてフリューゲルの妻アンナだった。
「やっぱりだ。アンナのつくるシチューは格別だからな。二人とも腰を抜かさないように」
 実はアンナも魔導将官という、一等魔道士官よりも更に上の地位にある軍人である。普段は仕事に明け暮れ、家事や二人の育児等をメイド達に任せているので、料理などをする機会も少ないが、フリューゲルと同じ時期に長期休暇が取れたため、今は家族四人少し離れた農村にある別荘に来ている。
 そんな彼女の作ったシチューは、普段料理をしないにも関わらず、家族全員を笑顔にした。
 だが、一家の団欒だんらんはその日の夜、全て崩れ去った。

 その日の夜。ルーナはからすの鳴き声で目が覚めた。
「う〜ん…こんな夜遅くにうるさいなぁ…」
「あれ?ルーナも起きたの?」
 ルーナの隣のベッドでは一足先にミーニャが起きていた。ミーニャもこのカラスどもの騒音に起こされた内の一人だった。
「少し山の中だからかな?」
 ミーニャが少し考えながらそう言うと、ルーナは不服そうに
「寝たいのに!」
 と言ったが、それで鳴き止んでくれるほどカラス達も優しくはなかった。

 しばらくすると鳴き声が泣き止み始めた。音の原因が居なくなったのを確認する為に二人がふと窓を見ると、何故か外は赤く燃えていた。
「えっ…なんで…」
 二人が困惑していると、誰かが廊下を走る音が聞こえ、次の瞬間扉が蹴破られた。
 見ると母アンナが血相を変えて飛び込んで来た。
「二人とも何もない?!村が盗賊に襲撃されてるの!二人は先に逃げて!」
「えっ…?おかあさんは…?」
「おかあさんとおとうさんは軍人よ?大丈夫。後から貴方達を追いかけるわ」
「いや…いやだ…おかあさんとおとうさんも一緒に逃げるの!」
 ミーニャは涙ながらにそう言ったがアンナは認めようとはしなかった。一方ルーナは未だに状況が飲み込めてない様子で、アンナの足にくっついて離れようとしなかった。
 最終的に三人の押し問答を解決したのは父フリューゲルだった。
「アンナ。君は二人とこの村の子供達を連れて逃げなさい。私がここで殿を務める。幸いにも村の男たちが何人か集まって来てくれた。彼らがいれば一時間は稼げるさ」
「やめて…あなた…そんなここで死ぬみたいな言い方するのは…」
「君だってこの子達の前で同じ様な言い方をしただろう!」
 フリューゲルは声を荒げてそう言った。
「それに私はこの足だ…もう逃げられない。さぁみんな。早く逃げなさい。動かずの智将とまで呼ばれたこの私の用兵で、君たちには指一本触れさせはしないよ」
 フリューゲルがそう言うと、アンナは覚悟を決め、泣き喚くミーニャと、放心状態のルーナを抱き抱え、別荘の外へと繰り出した。
「いやぁぁぁ!おとうさん!」
 ミーニャの叫び声が別荘の中にこだましたが、フリューゲルはそそくさと振り返り、その動きの悪い右脚を引きずりながら、別荘の奥へと消えていった。

「さぁ皆さん!森の中へ!」
 アンナの誘導の下、村の女、子供約二十名が森の中へと入っていった。フリューゲルが盗賊の大半を引き付けていたが、やはり五、六人の盗賊が動向に気付いて追いかけて来た。
「女、子供は高く売れる!絶対に逃すな!」
 盗賊の一人が言い放ったその一言は逃げる人々を動揺させるには十分過ぎた。そもそもその盗賊は動揺を誘う為に言った訳ではなかったが、結果的にはそれが決め手になった。
「痛っ!待ってママ!待ってよ!置いてかないで!」
 恐怖のあまり体を強張らせた一人の少女が木の根っこに足を取られ転んでしまったのだ。みな必死で少女の存在に気付かず誰も助けてはくれない。
 だがその少女はさらに絶望する事になる。その少女の母親は少女を見捨て
「ごめんなさい」
 と小さく言うと、少女を置いて逃亡を続けたのだ。
「あららぁ〜見捨てられちゃったのぉ〜」
 追いついた盗賊の一人が顔をにやけさせながらその言うと、髪を掴んで顔を見つめて吟味し始めた。
「コイツは高値が付くなぁ〜持って帰るか」
「い…いやっ…」
 抵抗も虚しく少女は縄で縛られ、そのままどこかへと連れ去られた。


「いいか、我々はここで少しでも時間を稼ぎ、愛する家族を守る。安心しろ。君達の家族は私の妻が必ず守ってみせるさ」
「フリューゲル様とアンナ様がいらっしゃるなら家族も無事脱出出来る。みんな、ここで少しでも長く引き止めるぞ!」
 別荘に集まったのはわずかに十五名。全員戦闘系は無く、まさに烏合の衆と言ったところだった。
 ここまできてしまえばもはや士気を上げる程度の事しか出来ない。謀略も何も存在しない。それがフリューゲルの本音だったが、一分一秒でも敵を引きつける。今はその事だけに集中する事にした。
「奴らは必ずここを落としに来る。それだけは言っておく」
 フリューゲルがそう言うと空気が少しピリッとした。
「なんでです?」
 村人の一人が聴くと、フリューゲルは慎重に答えた。
「ここは私たちの別荘だ、こう言ってしまうのは私も君達もあまり気分が良くないのだが、実際君達の家よりもはるかに金目のものがある」
「た、確かに…」
「奴らの目的は金目の物と女と子供。奴らにとって手っ取り早く目的を果たすには、この別荘をあさることが一番なはずだ。それにさっき逃した家族もこの家の中に逃げ込んだように見せかけてる。なら奴らは間違いなく全力でここを落としに来るさ」
 数秒の間の後。
「なら俺らも全力で守れば、その分家族も守れる訳だな。頑張らないと」
「覚悟は決まってるみたいですね。なら作戦を説明しましょう」
 フリューゲルはそう言うと、おもむろに紙とペンを取り出し、机の上に線を引き始めた。


 村で一番の場所は?その村の村人達に聞くと、ほぼ全員が答えるのはその別荘だった。
 持ち主は六都市同盟軍の中将にして、自らが動く事なく、敵を欺き粉砕する用兵の天才フリューゲルと、妻にして六都市同盟軍の中でも抜きん出た魔法の使い手にしかその地位が授けられないとされる魔導将官の位を、最年少で拝命した魔導の天才アンナだった。
 そんな天才夫婦は年に一度その別荘を訪れていたが、ここ数年途絶えていた。夫婦が来なくなってからも、有志による家の手入れが続けられていた事は二人の人格のおかげだろう。
 そして再び二人が別荘に訪れた時にはすでに、二人ではなく三人になっていた。アンナと双子の姉妹である。村人は子供達の誕生を祝福しようとしたが、アンナは村の負担になるからと辞退した。
 村が襲撃されたのはそんな矢先だったのだ。

 フリューゲルによる作戦の説明が済むと同時に、一通り村を荒らし終わった盗賊達が別荘へと到着した。
「メインはこれからだぜ!」
 盗賊の一人が威勢よくそう言うと、他の盗賊達も笑いながら別荘へと乗り込み始めた。
 盗賊達が別荘内に侵入すると、強い違和感を感じた。
「なんもねぇ…二階にお宝を引き上げたな?この期に及んで命よりもお宝が大事なのか?へっ笑わせる」
 突入した盗賊の中でもリーダー格の男はそう言うと、何人かに命令し、二階の偵察に向かわせた。
 しかししばらくしても偵察隊は帰還せず、その男は自ら状況を確認しに行く事にした。だが、それを見た瞬間、リーダー格の男は驚愕した。階段の踊り場には強固なバリケードと、偵察に向かわせた仲間の死体が転がっていた。更にもう一方の階段もバリケードが置かれ、村人達が臨戦状態で構えていたのだ。
「チッ!これはまずいなぁ…おい!一旦戻ってお頭に報告だ!」
 その男が指示を飛ばすと、全員別荘から逃げ出していった。
 一方状況が分からぬ村人達は、撃退したと喜んでいたが、フリューゲルはそれを鎮めると
「本番はこれからだ、奴らはこれから全力でかかってくる」
 と言い、再び緊張感が別荘内に流れた。

 しばらくすると、フリューゲルの言った通り、先程よりも多い人数の盗賊と、おそらくその頭領と思われる服の上から黒いマントを羽織り、顔の下半分を覆い隠す黒い布をつけた男が別荘の前に現れた。
 よく見るとマントの男の肩にはカラスがとまっており、上空にも十羽ほどのカラスが旋回している。
「さぁ気合を入れて。アイツらも本気で来るよ。アイツは諦めの悪い奴なんだ。私はアイツのことをよく知ってる…」
 フリューゲルが何か意味深な事を言うと同時に盗賊達が再び乗り込んで来た。
「アイザック・フェルナンド…元士官候補生。昔から心底諦めの悪い奴でね…」
 フリューゲルは横で補佐役をしてくれている村人にそう言うと、少し寂しそうに語り始めた。
「私と彼は同期になるはずだった。昔からいろんな動物達と心を交わす穏やかな少年だったんだ…だが彼には欠点があったんだ。それが負けず嫌いで、なおかつ諦めが悪い。そして彼は超えてはいけぬ一線を超えてしまった。私に勝ちたいというその一心で…」
 フリューゲルはそれ以上詳しくは語ろうとしなかった。

『東側に敵が集中しています!』
『西側未だに敵が現れません!』
 魔石を通してその報告が入ったのは戦闘開始から数十分ほどが経過した時だった。階段の攻防戦はフリューゲル側が優勢ではあったものの、盗賊達は少し妙な動きをしていた。
 なぜか東側の階段のみに集中し、西側には一人も攻撃に向かわないのだ。村人達は不信感を募らせつつ、防衛を続けた。
「西側の部隊を割いて東側に向かわせるのはどうですか?」
 補佐役の村人がそう進言すると、フリューゲルは即答した。
「だめだ」
「なぜですか?抑えてるとは言え、東側に援軍を送らなければ持ちませんよ?」
「それこそが敵の狙いだがらだ。片方を圧迫し、もう片方から援軍を向かわせ手薄にする事で、一気にたたみかけるつもりなんだ。よく見てごらん?東側を攻めてる敵の顔ぶれが一定時間ごとに全く変わっている。おそらく何個かに部隊を分けて運用しているんだ。残りの者は下でゆっくり休憩してることだろう。これは士気が下がるから誰にも言っちゃダメだよ?」
 私にはお見通しだが、実際に戦ってるのが戦いを知らない村人である事、そして彼らがその事実を知れば浮き足立って戦線崩壊する。そのことを計算に入れている…さすがは元次席と言った所か…フリューゲルはそう思うと、同時に立ち上がり、東側の応援に向かった。
「こんな足だが、やらねばならぬだろう」
 西側の部隊を動かせない以上、動かせる戦力はフリューゲルと補佐役の老人数名のみ。少しでも時間を稼ぐ。その時だった。
「こんなの見てらんねぇぜ!」
 そこに居たのは西側の防衛をしていた三名だった。
「今すぐ持ち場に戻れ!」
「ちゃんと何人か残してますからきっと大丈夫ですよ」
「ダメだ!今に突破される!」
 フリューゲルはすぐさま彼らを戻そうとしたが遅かった。
『西側突破されっ!くそっ!やめっ!グハッ!』
 手に持っていた連絡魔石から流れてきた西階段突破の報告に、さすがのフリューゲルも動揺が隠せなかった。
「なにっ!き、切り替えが早すぎる…」
 全てを見透かされているような敵の切り替えの速さに、もどかしさを覚えながらも、フリューゲルは次の指示を飛ばした。
「全員、私の部屋まで下がるんだ。最後の最後まで、一分一秒でも時間を稼ぐぞ」
 最初から盗賊達を殲滅することがフリューゲル達の目的ではない。少しでも時間を稼ぐ。それだけが彼らの戦う理由だった。命を落としてでも…

つづく


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