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死に損ないの異世界転移

ねこまたぁ

第10話 別れ

 ルーナにとってミーニャとは自分の半身だった。そしてミーニャにとってもルーナは自分の半身だった。
 彼女たちは一心同体、二人で一人そう言っても過言ではなかった。
 だが、その炎はルーナの左腕と、その大切な半身を奪っていった。
「姉さん!」
 しかし間に合わなかった。直前までそこにあったミーニャの姿はカケラも残っていなかったのだ。そして、反射的に伸ばしたルーナの左腕腕も跡形もなく消え去っていた。
 数秒の間を置いて全てを悟ったルーナの中で、何かが壊れた。
「あぁ…ああああ!うわあああ!」
 狂ったように泣き噦るルーナに対して、誰一人として何も語りかける事は出来なかった。
 壊れたルーナを尻目に、イフリートが呟いた。
「あ?なんだ今のは?お前姉貴が居たのか?まぁそんな事はどうでもいい、次は当ててやるよ!オメェの大好きな姉ちゃんの所に送ってやるぜ!」
 しかしその瞬間、イフリートに対して異様な速さで斬りかかった者が居た。
 それは二つの刀を使い、ヒョウの血を引くルーナの副官ベルゲンだった。
「んだっテメェ!」
「…」
 ベルゲンは何も答えず、ただ深呼吸すると、再び目にも留まらぬ速さで次々とイフリートに斬りかかった。だが、イフリートはその全てを避けきった。
「おうおう!なかなかやるじゃねーか!オラァ!お返しだ!くらえ!」
 対抗するかの様にイフリートも数発の火炎弾を放ったが、ベルゲンも同様にそれを全て避け切った。
 そしてベルゲンは抑揚の無い声で残酷な命令を下した。
「撤退だ…ここに来る途中エルフ側から連絡が入った。村は放棄、総員撤退しろ。これ以上の滞在は無用だ。殿しんがりは俺がやる。そこのお前。ルーナ様とマクスウェルを連れて帰るんだ…」
 その時再び兵士達の中の時間が動き始めた。
「はっ」
 呼びかけられた兵士が我に返り、そして何かを話そうとした瞬間、その首筋にベルゲンの刃が迫っていた。
「ベ、ベルゲン殿…」
「何も語るな…何も喋るな…今はただひたすら撤退し、事の全てをベルガー一等に報告するんだ…」
 そう言ったベルゲンだったが、その目からは涙が溢れ落ちていた。
 次々と我にかえった兵士達はその感情を押し殺し、その目にはみな涙を浮かべながら、ベルゲンに対して敬礼をした。そしてベルガー達の居る陣地を目指して全力で撤退を始めた。
「ほぉ!なかなかいい判断が出来るじゃねーか!だが逃がさん!追え!」
 イフリートがそう命令を下すと、手下のゴブリンやオーク達が追撃を始めた。
 ベルゲンはそれを一掃しようと動こうしたが、その瞬間、ベルゲンの背後から凛とした声が聞こえてきた。
「させない…」
 そこには長い黒髪に、見慣れない服。そう名取 澪が居たのだ。そして名取が何かを呟くと同時に、追撃に向かっていたゴブリン達は自分達の死を察する前に全て吹き飛んだ。
「ほぉ…テメェ…ただの光の種族じゃないな?」
 光の種族とは獣人族や人族の六種族の事を魔族が呼ぶ時に使う呼び方である。
「ただの異世界から来た者よ…」
 名取がそう言うと、イフリートはなぜかゲラゲラと笑い始めた。
「はははは!転移者か!おいおい!そこの神速野郎!何人生贄に差し出したんだよ!それによぉ!なぁ!そこの張本人は知ってるのか?その生贄の事をよぉ!」
 名取は全身から血の気が引いていくのを感じながら、それは本当なの?とベルゲンに尋ねたが、ベルゲンは沈黙を貫き、一言も発しなかった。
 イフリートは更に名取の精神をすみへすみへと追い詰めた。
「その膨大な魔力…一人…いや十人…いや軽く百人は行くんじゃないか?え?」
「ひゃっ…百人…ベルゲンさんそれは本当なの?…答えて!」
 名取の要求に対し、ベルゲンは全く取り合わなかった。むしろ、目の前の事に集中しろと言い、再び二刀の刀を構え直した。
「分かりました…アイツを倒したら教えてください…私たちがここに来るまでの真実を…」
「わかった。全てを話すと約束しよう…」
 二人はそう言うと、一斉にイフリートに襲いかかった。


 この世界に来て何回も死んだが、一つ気づいた事がある。死んでいる間に何か夢のようなものを見るのだ。厳密に言えば死んでいるので、夢とは言えないかもしれないが、とにかく夢のような、誰かの記憶のようなものを見る。
 しかしそれは毎回みれるものではない。夢を初めて見たのは三回目の魔力注入で死んだ時だった。

 初めて見たその夢では俺はこの異世界の戦争孤児だった。父親は魔族との戦争で死んでいて、母親は物心着く頃にはなぜか居なくなっていた。
 少年期は孤児院で過ごしていたが、街でありとあらゆる悪事をはたらいていた。そして成人する頃には俺は房の中に居た。経緯は分からない。ただ独房の中は夢の全体の半分を占めていたのは確かだった。
 そしてある日突然、目隠しをされたまま監視員に連れられて房を出た。ひたすら歩き、着いた先で目隠しを取られると、そこには大きな穴があった。
 周りには同じ姿の囚人達が無数に居た。そして偉そうな二匹の猫の獣人の号令と同時に俺たちはその穴に蹴落とされ、生き埋めにされた。
 そこで目が覚めた。その夢を見て以来何回か死んでいるが、夢を見れたのは以降今までで二回だけだった。
 三回見た夢の中で妙な共通点がある。
 一つ目はその三人はどれも罪人である事。
 二つ目は三人とも処刑方法が同じ生き埋めであった事。
 三つ目はその生き埋めにされた時間と場所は同じである事。
 つまり三人とも同時に処刑されているという事だった。
 そして三回目の夢で一つ確信した事がある。毎回号令を下す二人の獣人。あれは間違いなくミーニャとルーナ。あの双子の姉妹だ。
 なんだこの心のどこかにつっかかる感じは…とにかく、二人が帰ってきたら聞く事にするか…


「返しやがれ…俺様の腕を返しやがれってんだよォ!」
 エルフの森の中にイフリートの叫び声がこだました。
 イフリートの姿は数分前までとは大きく異なり、その両腕は跡形もなく切り落とされていた。
「安心しなさい。次は全身を吹き飛ばしてあげる…」
 名取はそう言うと両手に水を集め、数メートルはある水の塊をイフリートに向けて放った。
「へっ!この程度…」
 いや待て…あの二刀の姿が見えない…まさか!?
 イフリートが異変に気付いた時には既に大勢は決していた。イフリートが名取の攻撃を避けると、その隙をついてベルゲンがイフリートの喉元にその二本の刀を突き刺した。
「テンメェ…だが…この程度で…この俺様を…倒せるとでも…」
 イフリートは途切れ途切れにそう言うとニヤリと笑った。
「離れて!」
 名取が叫ぶと、ベルゲンは反射的にイフリートから距離を取った。
「チッ!」
 イフリートは舌打ちをすると、首に刺さっている刀をへし折った。
「あぁ!畜生がぁ!テメェら覚えとけ!」
 イフリートはそう捨て台詞を吐くと、引き上げだ!と言い、黒い闇の中に姿を消していった。


「どういう事だよ…」
 連絡魔石から流れてきた突然のミーニャの訃報に、和幸を含め王城にいた全員の思考が停止した。
「う、嘘じゃろ…嘘だと言ってはくれぬのか…」
 老将バルドゥルでさえ事の状況の飲み込む事を否定していた。
『いえ、間違いなくミーニャのさんの死亡を確認しました…』
 名取ははっきりとその事実を伝え、無言で通信を切った。

 翌日、重苦しい雰囲気の中、討伐隊は王都へと帰還した。
 討伐隊の戦死者はミーニャを含め約三百名を超え、千人以上居た討伐隊の三割を超えた。負傷者数も約二百名を超えており、魔獣討伐と魔族の襲撃の連戦だったとはいえ、あまりにも犠牲が多すぎた。
 凱旋もなく、今や王弟のハーブが実権を握っている王城に討伐隊は入城した。
「魔獣討伐隊、ただ今帰還しました」
 隊長ベルガーはハーブにこうべを垂れ、事の全てを報告した。
「ご苦労であった…」
 しかしハーブは理解していなかった。厳密に言えば今起きている状況を理解できる年齢ではなかった。彼はまだ五歳の子どもなのだ。言われた通りに言ってるだけの操り人形。それが彼の役割だった。
「なぁ名取…これから俺らはこの同盟国を作り変えて、魔王を討伐するんだよな…それだけをやれば元の世界に帰れるんだよな?」
「そう…ね…それだけやればいい…その後この世界がどうなろうとこの世界のこの人達次第…私たちには関係ないわ…」
 魔王討伐がこの世界の終着点ではない。
 この世界の先は、闇よりも暗くそして深い事を二人は察していた。

つづく

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