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死に損ないの異世界転移

ねこまたぁ

第8話 辺境にて

 それはクーデター開始の日の朝まで時間が巻き戻る。


 獣人族のみんなからの声援を受け、姉さんが副隊長を務める魔獣討伐隊は意気揚々と魔獣討伐に向かっていた。
 編成は約一千人の正規兵と懸賞目当ての傭兵が数百名の混成部隊だ。しかし正規兵のうち、およそ600名は私たちクーデター派の者達が混じっている。
「ベルゲン、そろそろ小休止にすると、姉さんに伝えて来て」
「はっ了解しましたルーナ様」
 行軍開始からすでに二、三時間が経っていた休憩するにはちょうどいい時間だった。
「ルーナ様、ミーニャ様から召集がかかりました。急いで先頭までお願いします」
「わかったわベルゲン。一緒についていらっしゃい」
「了解しました」
「しばらく離れるわ!各々体を休ませるように!」
「「「はっ」」」

 姉さんが居る隊列の先頭の少し手前を通り過ぎようとすると、先頭から一つ後ろに居た、隊長のベルガー一等魔導士官と傭兵隊の隊長ブラントが立ちふさがるように待っていた。
「ル、ルーナ二等魔導士官です。何の…御用でしょうか…べ、ベルガー一等魔導士官殿」
「おお、ルーナ二等」
 基本的に魔導士官は上官から呼ばれる時には階級だけで呼ばれ、魔導士官は省略される。逆に上官を呼ぶ時は魔導士官殿まで呼ばなければならない。
 しかし男というのは全く慣れない。副官のベルゲンは最近になってやっと慣れて来た方だ。
「確かフランクリンから魔獣出現の連絡を受けたのはルーナ二等だったよな?」
「そ、そうであります」
「魔獣が居る地域まではあと数キロだと言うのは嘘偽りの無い正確な情報か?」
「え、ええそ、そうであります」
「そうか、なら何故まだ安全圏にいたはずの斥候部隊から緊急連絡が入り、その後連絡が取れないのだ?」
「わ、わたしには分かりかねます。で、ですが、おそらく我々の予測を上回るスピードで、も、目標が移動しているのかと、お、思われます」
「そうか、わかった」
 まさか、上層部だけではなく、一介の将校にまで情報が伝わっている?ならもしかすると、クーデター派の兵達が危険な配置につかされる可能性もあり得るかもしれない…
「で、では私は姉さんのもとに向かうので…」
「わかったぞ。もうしばらく休止の時間を取る予定だからゆっくりするといい」
「か、感謝します…」

 ベルガーのもとを離れ、さらに前方にいる姉さんのもとに到着した。
「まずいにゃ」
 どうやら姉さんも事態の深刻さに気づいている様子だった。場合によってはクーデター派は王都組も含めて撃滅されるかも知れない。そうなれば最終的には、六種族の全滅も現実味を帯びてくる。
「ベルガー一等の事ですね」
「そうだにゃ。さっきから質問攻めが激しいニャ…」
「何か対処法を…」
 姉さんと話をしていると、突如急報が入った。
「報告!報告します!隊列の中央部分に対象の魔獣が出現した模様!奇襲を受ける形となり、すでに第六魔道士隊が全滅!現在第八中隊が中心となり応戦していますが、もはや時間の問題かと!」
「「な(にゃ)んだと!」」
「ベルガー一等魔導士官殿には伝えたのかにゃ?!」
「はい!すでに一個大隊を率いて急行中です」
「分かりました。今近くにすぐ動ける魔導士隊は居ますか?」
「はい!一番近くに居たのは第三魔道士隊かと!」
 第三魔道士隊はクーデター派の部隊だ。問題ない。
「なるほど、ではそのまま第三魔道士隊に伝令に向かって下さい。現時刻を持って、私が第三魔道士隊を指揮する事とすると共に、大至急隊列中央付近に集合する事と」
「は!」
「姉さんはおそらく混乱している全討伐隊を沈静化させて下さい」
「任せとけにゃ」
 不本意な形で戦闘開始してしまったけど、王都組には迷惑はかけられない…今はとにかく平然を装って報告しておくべきか。
 とにかく連絡魔石を取り出し、カズユキにその一報を知らせた。
「こちら討伐隊のルーナです。ただ今魔獣との戦闘が始まりました。順次そちらも行動をお願いします」
 これで問題はないはず。今はとにかく被害を最小限にとどめることと、魔獣の討伐完了を急がねば。



「一体どうなってるんだ!」
「こっちだ!助けてくれ!」
 兵士達の怒号と、蹂躙じゅうりんされる兵士達の悲鳴が、森の中に響き渡っている。おそらくここから近くで何かがあったに違いねぇ。
 その影響絶大で、あまり関係のないこっちでも、混乱した兵士達があちらこちらに散らばって行っちまってる。しかもその混乱のせいで、愛弟子のオットーの行方が分からなくなっちまった。

 そんな混乱の中でオットーを探していると、ちょうどいいところに混乱に乗じて逃げて来た兵士が居た。
「おい!あんちゃん!いいところに来た!青い服で茶髪の片手剣を持った傭兵を見なかったか?」
「そんなん知るかよ!あんたら傭兵とは管轄が違うんだ!知ったこっちゃ無いね!」
「ほう、兵隊さんだからって随分と上からものを言うじゃないか。だが、この傷を見てもそんな態度でいられるかな?」
 そう言って俺は上着をめくり、胸にある忌々しい古傷をその兵士に見せてやった。
「そ、その大きな爪痕…まさか…三年前にたった三人で魔獣討伐をやってのけたという…あの、伝説の傭兵の一人ランドルフ…」
「おお…なんだ俺のこと知ってるんじゃねーか。さぁて、正解した君にはもれなく選択肢をやろう。一、このまま魔獣に殺される。二、このまま俺に殺される。三、俺の愛弟子を探すのを手伝う。さぁどれがいい?」
「も、もちろん手伝うさ!どうせ規律も統率もねぇんだ!それに隊長も魔獣に食われちまったしな!あんたのそばに居れば死ぬことはねぇ、どこまでもついてくぜ!」

 とりあえず協力者を得たところで、後ろから可愛らしい声が聞こえて来た。
「状況は!?」
 見ると魔道士隊を率いている可愛い白猫ちゃんが馬にまたがって、近くに居た他の兵士に状況を確認している様子だった。
「おやおやかわいい白猫ちゃんじゃないか。こんな所でどうしたんだい?」
「な、なんですかいきなり!こ、来ないでください!引っ掻きますよ!」
「おお、こわいこわい。そうだ、自己紹介が遅れたな。俺は傭兵のランドルフだよろしくな」
 自己紹介をすると、彼女は驚いた顔をして瞬きを繰り返していた。
「まさか!人間族最強とも言われる、あの伝説の傭兵のランドルフさんでいらっしゃいますか?!」
「確かにそんなような事も言われたことがあるような」
 実はそこまで言われた覚えは無いが、まぁ気分がいいからそういう事にしておこう。
「すみません申し遅れました。私はルーナと申します。階級は二等魔導士官です。そして私たちはこれから魔獣と戦闘中の第八中隊とベルガー隊長の支援に向かいます。しかしこの人数だけではどうしても火力が足りません。そこでランドルフさん貴方の力が必要です。お願いします。今すぐ私たちと一緒に来て頂けないでしょうか?」
 かわいいかわいい子猫ちゃんのお願い事だが、今はオットーの方が優先だ。少し申し訳ないが断ることにした。
「悪いな子猫ちゃん。俺は愛弟子の方が大切なんだ。むしろ、このあんちゃんを借りて行きたいんだが?」
「そうですか、その兵士ならどうぞ連れて行って下さい。魔獣との戦闘から逃げて来た輩には用はありません」
 あらら、見捨てられちまって可愛そうに。これでコイツも傭兵の仲間入りか。

 そんなこんなでルーナちゃんは魔獣が出たという方向に向かっていった。
「それで、本当にオットーの事は見かけてないんだな?」
「そ、それが…おそらく魔獣と戦闘中です…」
「テメェなんでそんな大事な事を最初に言わねーんだ!早くあの猫ちゃんについてくぞ!」
「は、はい!」
 急いで魔道士達を追いかけると、すぐに先頭の子猫ちゃんに追いついた。
「おや?愛弟子さんは大丈夫なのですか?」
「どうやら俺の愛弟子は魔獣と戦闘中らしい」
「では協力してくれますね?」
「もちろんだとも」
「ありがとうございます!さぁ!もうすぐ着きますよ!」
 彼女がそういうと、森の少し開けた場所に出た。


 状況を一言で表すなら『地獄』以外に思いつかなかった。一匹の魔獣と、それに連れられた魔族共が、私達の同胞を文字通りめちゃくちゃにしていたのだ。
 状況に絶句していると、足元から何やら聞こえてきた。
「ル、ルーナ様…たすけて…下さい…」
 助けを求めて来た兵士は、下半身が無かった。
「うっ…ごめんなさい。辛かったでしょう。いま楽にしてあげますね」
 そう彼の耳元に囁いて、魔法を使い楽にしてあげた。
「ありがとう…ございます…」
 最後に一言そういうと、その兵士は安らかに眠りについた。
 他にも数名の治療と見送りをしてから、目の前で戦闘中の第八中隊およびベルガー隊の支援に入った。
「第三魔道士隊ただ今到着しました!ベルガー一等殿はどこにいらっしゃいます!」
 非常事態のため省略して呼んだが、特に問題はない事になっている。
「ここに居るぞ!」
 見るとベルガー一等自ら、剣と魔法で応戦していた。
「これより支援を開始します!」
「ありがたい!だが、支援ではなく援護を頼む!一時撤退だ!」
「了解です!みんな聞いてたな!行くぞ!」
 第三魔道士隊を鼓舞すると、全員が鬨の声を作り、それに答えた。
「総員!各々が得意とする属性の最高位魔法を使え!魔獣の隙が作れればいい!」
 そう指示を出すと、全員が魔法を放つ準備段階である詠唱を始めた。
「ランドルフさん!ベルガー一等の元に行ってもらえますよね!」
「ああもちろんだとも!確かじゃねーが、俺の愛弟子っぽい奴も居たしな!そんじゃあ行ってくるぜ!」
 そう言ってランドルフさんは魔獣に突撃していった。
「よし!準備は出来てるな!打て!」
 号令をかけると、多種多様な魔法が魔獣に命中した。
「よし今だ!総員撤退!一旦下がるぞ!」
 ベルガー一等の指示が出ると、その場に居た全員が一目散に去って行った。しかし、ベルガー一等の指示に一人従わない者が居た。間違いない。ランドルフさんだ。
「な、何を!」
「おらああああ!」
 ランドルフさんは、自身と同じくらいのサイズの大剣を振りかざし、魔獣めがけて勢いよく振り下ろした。
「ウオォォォォ!!!」
 にわかには信じられない事が今目の前で起きた。今まで全く刃が通らなかったあの魔獣が真っ二つになったのだ。
「ど、どういう事…」
 その場に居た全員が唖然としていた。
 取り巻きの魔族共も魔獣が死んだのを確認すると、一目散に去っていった。
「あぁ説明が遅れて悪かったな。この剣は特殊な魔法がかかってる。だが、それだけじゃ魔獣は倒せない。タイミングと角度が大事なんだ。魔獣が怯んだそのタイミングで、絶妙な角度で切りつける。そうすれば魔獣であってもすんなり倒せるんだ。もちろん魔法、タイミング、角度、どれが抜けても奴は切れない。この角度を習得するまでどれだけの時間を有した事か」
 凄すぎる。この人が居れば魔獣なんて怖くない。それどころか、クーデターに加勢してもらえば、ギークなんて一瞬で倒せるだろう。こんな人材、手放すには惜しい。
「す、凄いです!ランドルフさん!その戦闘力は我が獣人族に是非とも欲しいです!もしよければ我々の軍隊に加入して頂きたい!」
 少々強引だがこれでいいだろう。
「悪いな。あくまでも俺は傭兵なんだ。どの国からどんなに金を積まれても、その国の軍隊には入らないと決めているんだ」
 そうですか、無理を言ってすみません。ですが、我々獣人族の窮地を救ってくれた事には違いありません。それなりの対応はさせて頂きます。
「そりゃあありがてぇ。遠慮なく頂くぜ」


「こちらルーナ。魔獣の討伐は完了しました。王都組の進捗状況は?」
『こちらは名取です。こちらもちょうど今さっき田村君を盾に、王の間を占拠しました』
「りょ、了解です。討伐隊はこのまま野営した後、明日そちらに帰還します」
『分かりました。バルドゥルさんに伝えておきます』
「よろしくお願いします。では」
 王都組への報告も済ませ、討伐隊は野営の支度に取り掛かった。しかし、準備を始めたのは、主に戦闘開始時に前方と後方にいた者のみ。中央部に居た者の大半は戦死もしくは敵前逃亡につき、一時的に身柄を拘束されていた。
「これはいったいどういう事だにゃ。戦死者259。行方不明者19。敵前逃亡につき現在拘束中の者が42。魔獣討伐で敵前逃亡者がこんなに出たのは初めてだにゃ。奇襲だったとは言え、不甲斐ないにも程があるにゃ」
 姉さんの語気を強めてそう言うと、横にいた兵士が恐る恐る進言した。
「大変申し上げにくいのですが、これからも拘束者は増えていくとの予測が出てまして…」
「はぁだそうですにゃ。ベルガー一等魔導士官殿」
 すでに姉さんは、怒りを通り越して呆れていた。
「まぁそんなにピリピリするでないミーニャ二等。今回は新兵もかなり組み込まれていたんだ。無理もないだろう」
「ですが…確かに。若い芽を潰すのは私も少し気が引けますにゃ…とりあえず、彼らの処遇は王都に戻ってからにしますかにゃ」
「それがいいだろう。さぁ、魔獣は討伐されたんだ!飲もうじゃないか!」
 ベルガー一等の言う通りだ。今は祝杯をあげた方がいい。
「そうです姉さん。今は魔獣討伐を皆で喜びましょう」
「そ、そうだにゃ…」
 こんな事もあろうかと、実はすでに策は打ってある。
「では。皆さん天幕の外に出て下さい。全軍での野外宴会の準備は出来てます」
「おおルーナ二等!やるではないか!さぁ皆外に出よう!」
 一同が外に出た事を確認し、私は次の策の準備を始めた。目的は…居た。すぐ近くで飲んでるあの人だ。
「す、すみませんランドルフさん。少しお時間よろしいですか?」
「お?なんだ?」
「実は不甲斐ない事に、今回の討伐隊の中から敵前逃亡者が続出してしまいました」
「ほう。それで?」
「このままでは軍全体に悪影響が及んでしまうでしょう。そこで、その不祥事から目をそらす為には、それよりも良いもので目を逸らすのが一番です。ランドルフさん。今回の魔獣討伐の立役者は貴方です。どうかご協力頂けないでしょうか?もちろんそれなりの報酬も用意します」
「ははは!そうでなくっちゃな!傭兵を動かすのは金だ。わかってきたみたいだな子猫ちゃん」
 よかった。協力してくれそうだ。
「では、こちらまでお願いします」
「おうよ!」
 すでにほろ酔いのランドルフさんを連れて、全体の視線が集まる場所まで来たところで、声が拡散される魔石を使い、全軍にランドルフさんの紹介を始めた。
『総員傾注!』
 そう言うと辺りが静まり返り全員がこちらを向いた。
『今回の魔獣討伐で絶大な功績を挙げた傭兵の方がここにいらっしゃる!この方は人間族最強ともうたわれるランドルフさんである!今回魔獣を倒したのは他でもないこの方だ!それでは総員!最敬礼!』
 号令をかけると、全員が深く頭を下げた。そして…
『なおれ!』
 その瞬間。とてつもなく大きな歓声が上がった。
「おお!あの人が伝説の!」
「あの方がいらっしゃらなかったら、俺たち全員死んでたかもなぁ」
 ランドルフさんを讃えるそのような声があちらこちらから聞こえる。
「ランドルフさん改めて感謝します」
「いいってことよ!その代わりそれなりの金は要求させてもらうぜ!」
「はい!」
 いつからだろう。ランドルフさんは男なのに、別に嫌な感じがしなくなっていた。
それになんだろうこの気持ち…


 夕暮れ時から始まった宴会もある程度落ち着いてきた頃だった。姉さんとゆっくり酒を交わしていると、周りがざわざわとし始めた。
「なんだにゃ?」
「ミーニャ様実はあちらの方がやけに明るくなっていて…斥候を飛ばしますか?」
「そうして欲しいにゃ」
「私が行きます。なにかこう胸騒ぎのようなものがして…」
「ルーニャのそういう直感は当たるからにゃ…分かった、後続も手配しとくにゃ」
「ありがとう姉さん。では行ってきます」

 準備を整え、明るくなっている方向へと馬を走らせた。そしてある程度進んだところで、その明かりの正体に気が付いた。
「明かりの正体は火だ!ベルゲン!貴方はここで引き返しなさい!急いで姉さんに明かりの正体を知らせること!」
「了解しました」
 ベルゲンは指示を受けるとそのまま急旋回してきた道を戻って行った。
「マクスウェル!」
「はっ」
 彼は一緒について来た姉さんの副官マクスウェル。彼はこの森の中に詳しいからと、姉さんが同伴させたのだ。
「あっちの方向って国境の先よね?」
「ええ、そうですね…待てよ…?確かあの方向は…そうだ!カズユキ殿とミオ殿を保護したエルフの村が!」
「なんだと!それは確かか!?」
「ええ!間違いありません!」
「ならマクスウェル。貴方は姉さんに連絡を入れなさい。私は王都に連絡を入れてエルフ側からの支援も要求するようにさせるから!」
「了解です!」
 急いで腰のポーチから魔石を取り出し、王都に連絡をかけた。
「緊急連絡!緊急連絡!」

つづく

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