話題のラノベや投稿小説を無料で読むならノベルバ

死に損ないの異世界転移

ねこまたぁ

第6話 王都

 昨晩と違い、俺らの野営地は少し賑わっていた。今朝俺が寝ているうちに到着した本物の増援部隊十数名が居たからである。
 しかしそんな彼らの内、まともに作業にあたれているのは、三分の二程度しか居ない。残りの三分の一の人は、すでに解除してある結界の外側に沿って重なっている、元戦友のあまりにも酷い亡骸を見て、精神的参ってしまっている。
 一方名取は昨晩はずっと寝ていた。ミーニャとフランクリンの判断で、この惨状を見せないようにする事になったのだ。したがって名取は今も寝ている。

 昨日魔物に殺された最初の仲間の騎士の人たちと、中央からの命令によって俺らを殺そうとし、返り討ちにあった獣人族の部隊の人達の遺体の埋葬が終わったところで、ちょうど名取が起きた。
「あら田村くんおはよう」
 そう言うと名取はキョロキョロと周りを見て、すぐさま状況を把握したらしい。
「もしかして私、寝過ごしてしまったの?」
「いや!そ、そんな事はない!その〜あれだ!救援に来てくれた人達が案外早く着いただけだ!そのおかげでもうほとんど準備は出来てるらしい!ほら行こう!」
「そうだったのね。行きましょう」
 焦った…

 王都までは近いようで遠く感じた。約三十分から一時間程度の道のりだったのだが、いかんせん沈黙の重みが異常なものであったからだ。名取は相変わらずずっと外の風景を眺めていたが、さすがにこの前日とは打って変わって重い空気感に、何かを察している様子だった。

 王都に入る直前に俺と名取は黒いコートのような物を羽織ってから王都に入った。身元がバレない様にするためだ。そのためコートに猫耳が生えている。
 王都はどこもかしこも色々な意味で賑わっていた。市場で買い物をする一般市民の声と、兵士達が慌ただしく動き回っているのが、交わり合っていたからだ。
 兵士達がこんなにも急いで慌てるのも無理はない。なにせ近くの森に魔獣が出没したと言う情報が、フランクリンによって伝わっていたからだ。

 あたりを見まわしていると、フランクリンに強制的に裏路地に連れていかれた。
「あまり目立った行動はするな」
「す、すみません…」
 頭を掻きながら首根っこを掴まれ、路地裏の中間辺りに連れて行かれると、ミーニャが壁に手を当てた。よく見ると昨晩の結界を張った札と似たような物が壁に貼ってある。
 しばらくすると、壁に穴があいた。首根っこを掴まれたまま穴の中に連れて行かれると、中には大きな部屋があった。そして部屋の真ん中には白い髪の少女がポツリと座っていた。
「ただいまだにゃー!」
「おかえりなさい姉さん」
 そう言いながら立ち上がった白髪の少女は、俺とフランクリンを見るなりシャーっと威嚇すると、名取の方に向かって挨拶を始めた。一連の動作に俺とフランクリンはお互いを見つめ合う事しか出来なかった。
「あっ、貴方が召喚者の方ですね。はじめましてミーニャの妹のルーナですよろしくお願いします」
「よろしくね、私の名前は名取 澪。お姉様に似て貴方も可愛いわね」
「ありがとうございます」
 さて、気を取り直して…
「お、俺は…」
「シャーッ!!!」
「ごめんなさい!」
 なんで謝ってんだ俺は?!
「そういえば言うの忘れてたけど、ルーニャは男が苦手だにゃ」
「そういうのは早めに言ってもらえませんか?!」
「悪かったにゃ」
 というか一つ気になる点がある。
「もう一回自己紹介しろミーニャ…
「ええっと…私がミーニャでこっちが妹のルーニャだにゃ」
「待て!そこだ!さっきルーニャは、自分達の名前をミーニャとルーナって言ってたぞ!どっちが正解なんだ!?」
「姉さんの口癖がまた悪影響を…正しくはルーナです」
 ええ…

 そんなこんなでひと通り自己紹介を済ませると、ミーニャとフランクリンはさっきとは逆の出入り口から出て行った。ルーナいわく、この場所は王国軍の詰所の一角に魔法で作られた空間で、二人が出て行った方は詰所内に出るらしい。まるで青い猫型ロボットのポケットみたいだ。
 しばらくすると、ルーナが水晶玉のようなものを持ってきた。
「なんだそ…」
「シャーッ!」
「ごめんなさい!」
「こちらこそすみません…反射的に…」
 とりあえずこれからこの子に話しかける時は名取を仲介する事にしよう…
「それでこれは何?」
 俺の脳内を読み取ってくれたのか名取は…
「これは魔力属性を判別する装置です。姉さんから頼まれてまして」
「どうすればいいの?」
「手を触れるだけで大丈夫です。さぁミオさんからどうぞ」
「それじゃあ…」
 名取が装置に手を触れると、装置が光り輝きはじめた。
「これは!」
「どうしたの?」
「もう手を離して下さい!」
「え、ええ」
 名取は戸惑いながら急いで手を離したが、一足遅かったようで、装置にヒビが入ってしまった。
「素晴らしい…素晴らしいです!」
 ルーナは目をキラキラと輝かせながらそう言うと興奮気味に続けた。
「ミオさん、貴方の魔法の素質は計り知れません!天井知らずです!全属性の魔法を使え、さらに全ての最上位魔法まで使えます!更に魔力の備蓄量も常人の数倍です!
普通の人は最上位魔法を使うとそれ以降他の魔法がほとんど使えなくなってしまいますが、ミオさんは十回は使えましょう!」
 ある意味キャラ崩壊を起こしてるルーナにドン引きしている名取だが、つまり言ってしまえばチート級である。
「なんかめちゃくちゃ強そうだな」
「そ、そうなのかしら…」
 どうやら本人はあまり自覚は無いようだ…

 新しい装置を持ってきたところで、俺の診断が始まった。
「それでは装置に触れて下さい」
「さーて俺は何属性かなぁ〜」
「魔力ナシですね。はい終わりです」
「あっえっ…?」
「あっ、全くの無能力者です。正直びっくりするくらい。あと、魔力の備蓄量もゼロです。普通魔法が使えない人でもちょびっとはあるものなんですけどね」
 この世界に来てすぐに、お前はただのクサビだと言われ、すでに二回も死に、おまけに魔法のある世界で魔法が使えなければ魔力も無い…
「あれっ、これって俺、完全にお荷物じゃね?」
「お荷物ですね」
「やかましいわ!」
 そう言ってニヤニヤしてるルーナの顔はミーニャとそっくりだった。まぁ双子だから当たり前か。

 俺のことをからかって満足気なルーナは、いきなり突拍子もない事を言い始めた。
「まぁまぁ落ち着いて下さい。実は無能力者でも魔法が使えるようになる手段も無くは無いのですよ」
「本当か?」
「ええ、まぁ85%の確率で死ぬのでほとんど誰もやりませんが」
 本人はまたからかったつもりだったのだろう。だか、相手が悪かった。そう俺は死なない。この世界で俺は死ぬ事は無いのだ。まぁ死ぬっちゃ死ぬけど。
「ふっ、ちょっとやってみろよ俺死ぬけど死なないから」
「なっ、じょ冗談は死んでから言ってください」
 するとそこに。
「その辺にするにゃ。カズユキは本当に死なないにゃ」
「ね、姉さん?!いつの間に…」
「ちょうど今帰ってきたにゃ。いいかいルーニャ?いくら男の人が苦手だからと言って、そうやってからかっちゃダメだにゃ」
「わ、わかりました…カ、カズユキさんさっきはその…ご、ごめんなさい…」
 えっ、何その上目遣い。萌えるんだけど。そんな可愛い子を目の前に俺はめちゃくちゃ気合いを入れてしまった。
「ふっ、いいんだよルーナ気にしないでくれ」
 我ながらめちゃくちゃ意識してしまった。こんなイケボ二度と出ないだろう。しかし、それまで黙っていたあの方から当然のご指摘が入った。
「田村くん悪いけど今のは二度としないで夢に出てきそうだわ」
「あっ、はい」

 本題の魔力の件は、意外と簡単に始められる事が分かった。死亡率が85%なのには変わりないがやってみる価値はある。
 方法は簡単だ、なんと昨晩一行を守っていた結界を使って応用するだけである。そう、あの例の札を体に貼るだけである。そして外部から魔力を注入する事によって、体内に強引に魔力を貯め、強引に魔力適性をつけるという方法だ。
 しかし何故この方法で死亡率が高いのか?その原理も簡単である。さて、アレルギー治療の方法にこれと似たようなものがあるのはご存知だろうか?アレルギー患者の人が、あえてアレルギー物質に触れ、体に慣れさせて克服するという治療法があるのだ。もちろんその治療法にはそれなりのリスクが生じる。それの魔力版だと思ってもらえばいい。
 元々魔力がない無能力者が魔力を無理矢理貯めようとすると、ショックが起きるのだ。そしてそのほとんどが死に至る。
「さぁやってくれ。殺してもらっても構わない」
「ほ、本当に大丈夫なのですか?姉さん」
「大丈夫にゃミーニャを信じるにゃ」

 気がついたら夜だった。ミーニャの声を最後に記憶がない。
「あーもしかしてまた死んだのか?って誰も居ない」
 あたりを見渡すと真っ暗な部屋に、たった一本のロウソクの火がわずかに俺のベットの周りを照らしている。
「おーい!」
 軽く叫ぶと、扉が開いた。
「おっ生き返ったか」
 来てくれたのはフランクリンだった。
「やっぱり俺死んでたのか?」
「ああ、二人が魔力を注入した瞬間爆散した」
「えっ?」
「ミーニャは大丈夫だったが、ルーナ隣の部屋で寝込んでる。ツレのお嬢ちゃんもトイレを何回か往復してるぞ。ほら今も」
 フランクリンがそう言うと近くからガラガラと水の流れる音がした。
「なんかこう、すみません…」
「いや、大丈夫だ、あんなの想定外だったからな。普通は魔力に耐えられなくなると、発狂して、のたうちまわりながら死ぬからな。まさか爆散するとは思わなかった。というか初の事例だ」
「もう魔法とか魔力とか言いません」
「たしかにもうやめといた方が良いかもな」

 全員が復活し、今後の事についての会議が始まった。未だにルーナは顔色が良くないが、今は時間が惜しいらしい。
 参加してるのは、俺、名取、双子、フランクリン、その他に数名の将校が居る。
「さて、実は緊急事態なんだにゃ。急遽明日魔獣の討伐が決まったにゃ」
「それの何が問題なんだ?むしろ守りが薄くなって王都を占拠出来るんじゃ無いのか?」
「逆だにゃ。おそらくミーニャ達の作戦が思いのほか上にバレてるにゃ。その証拠に昨晩の襲撃に引き続き、今回の討伐隊の編成の中に、ミーニャ達の味方になるはずだった部隊が多く含まれてるにゃ」
 そう言って出してきた紙を見ると、討伐隊の編成のおよそ六割がミーニャ達の息のかかった部隊で編成されていた。
「これはやられましたな」
 そう言ったのはおそらく最年長の老兵で、犬の様な耳の将校だった。
「おおっと失敬失敬、自己紹介をしてませんでしたの。ワシの名前はバルドゥルじゃよろしくのう」
「よ、よろしくお願いします…」
「しかし…ミーニャ殿、意見具申してもよろしくかのう?」
「ん?なんだにゃ?」
「ワシはむしろこれは好機だと思うのじゃ」
「何故だにゃ?」
「逆に考えれば、むしろ王都に残る戦力は奴らにバレてないという事じゃ、つまり魔獣の討伐に出ている間、王城にいる連中はきっと鷹をくくっているに違いない。その証拠に、ほれ、編成をよく見ろ、お主らの元に最近合流したワシや隣に居るブルーノは討伐隊の編成に含まれてないじゃろ。おそらくまだ不確定な連中が全く動員されてないのじゃ。身内で動員されてるのはここの反乱部隊の古参メンバーばかりじゃ」
「なるほど…その作戦でいくにゃ。指揮はバルドゥルに任せてもいいかにゃ?」
「拝命いたしまする」
 その直後だった
「よし!じゃあルーナ!やれにゃ」
 ミーニャが命ずるとルーナは突然フランクリンを近くにあった槍で串刺しにした。
「グハッ…な何故…」
「な!何やってんだ!おい!大丈夫かフランクリン!おい!」
 しかしフランクリンはすでに生き絶えていた。
「な、なんて事してんだよ!」
 そう周りに叫んだが、どうやら状況を理解出来てないのは俺だけだったようだ。




「死に損ないの異世界転移」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く