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死に損ないの異世界転移

ねこまたぁ

第5話 初夜

 この世界で生きていく上で魔族と同レベルで危険な生物がいる。大地の魔力の異常摂取により突然変異を起こした獣『魔獣』と呼ばれる存在だ。
 そしてその魔獣とやらが、俺らの野営している近くに出没したのだという。そう、数時間前に俺の事を転移以来二度目の死に追いやり、かつ、俺の臓物を食い散らかして行ったソイツである。

 二度目の死からの覚醒時、俺のすぐそばに落ちてたぐちゃぐちゃの内臓を見て嘔吐しそうになったが、文字通り中身を食べられていたせいで、嗚咽を繰り返すだけで何も出なかった。ヤツのせいで俺は、そんななんとも言えない苦痛を味わう事になったのだ。
 ちなみに死ぬのは二回目だが、二回とも生き返ると、体は不思議と元に戻っているのだ。つまりその瞬間、俺の内臓は同時に二つあったという事になるのだ。

 そして今、ミーニャは俺が文字通り死にものぐるいで集めたマガチの実を使い、結界の強化を施している。どうやら今の現状では魔獣を跳ね返す力が足りないようだ。

 ちなみにこの魔獣とやらの強さは、ここまでくる途中で遭遇し、一度俺を殺した魔物『暗黒騎士』よりも段違いで強いらしい。魔獣の出現情報があると、その地を治める都市国家による討伐隊が編成され、その都市国家の軍隊と、時には近くの傭兵ギルドからも人が集まってくるという。
 そのため先程からフランクリンもひっきりなしに連絡魔石を使って各所へ連絡を入れている。

 ひと段落してしばらくすると、順番に仮眠をとる事になった。話し合った結果、夜明けまでのおよそ八時間を、一人二時間ごと警戒する事にした。そして最初は俺が周囲の見張りをして、残りの三人が寝る事になった。

 さて、これから二時間一人で過ごすわけだが、ここまできて俺はある一つの事実に気づいてしまう。それは反射的にスマホを探そうとした時だった。
「スマホスマホ…たしかズボンのポケットに入れて…はぁ!?なんじゃこりゃ!?」
 なんと出てきたのは、俺のスマホと同じ形サイズかつ、ほぼ同じ重さのただの石だった。
「ど、どういう事だ?じゃあ俺の財布はどうなったんだ?」
 現代人にとって今はスマホと財布さえあれば基本的に生きていける世の中だ。さらに言えばスマホ用の電子マネーなんて物も普及し始めたおかげで、財布ですら必要性が低下し始めている。
 入学してすぐの頃にあった学校の行事で電車を使う際、ほとんどのクラスメイトがスマホや専用の電子マネーを使ってピッピピッピ鳴らしながら改札に入って行ってたが、唯一俺と同士唐沢は切符を買い、何故か注目を浴びることになったりもした。
 そんな中途半端に非現代っ子の俺は、恐る恐るスマホとは逆側のポケットの中に手を突っ込んだ。
「財布…見た目は変わらないな…中身は?!」
 慌てて二つ折りの財布から出した紙はどこから見ても真っ白で、そのどこにも『日本銀行券』とは描いていなかった。
「俺の一万円が…それに、ほぼ毎日通って貯めた駅前のラーメン屋のスタンプもただの紙になってやがる…」
 失意のまま、だが心のどこかで期待をしながら、俺はその紙の束を財布の中に戻した。無事生還したらまた諭吉様に会えると信じて。

 しばらく焚き火をいじりながら暇をもて余していると、森の奥からいくつかの光が近づいて来ていることに気が付いた。
「おいミーニャ…起きろ!何か来るぞ」
「にゃぁ〜もう交代の時間かにゃぁ〜」
「まだ時間じゃないが、あれを見ろ」
「むぅ〜」
 徐々に近づいて来た光の正体は獣人族の兵士だった。
「ご無事できたかミーニャ殿!さあ馬車の準備が出来ています早くこちらへ!」
 ミーニャがおそらく隊長と思わしき人物にそう言われると、ミーニャは予想外の返答をした。
「断るにゃ」
「な、何をおっしゃっているのですか?!さぁ早く!」
「そうだミーニャせっかく助けに来てくれたのに何言ってんだ!」
 しかしよく見ると、ミーニャの顔つきはいたって真剣で、更にその表情は殺意に満ちていた。
「お前ら腕章はどうしたにゃ?」
「そっ、それは…急いで来たのでつけ忘れて…」
「腕章ってどういう事だ?」
「私とルーニャとの間で交わした約束事があるにゃ。もしも今回の任務中に非常事態が起きて援軍を求めた時は、何があっても兵士の腕に“紫色”の腕章を付けて来させるように約束したにゃ…ところがコイツらの腕を見てみるにゃ」
 促されて確認すると、彼らの内で紫色どころか、何かの腕章を付けている者すら居なかった。
 その瞬間だった。
「チッ…総員抜刀せよ!ここに居る反逆者四名の首を取れ!」
 まずい!また死ぬ!そう思い身を守ろうとしたその時。
「はぁ結界を二重に強化しといて正解だったにゃ」
 そう聞こえて見てみると、彼らの持っていた剣は全て折れ、地面に散らばっていた。結界と衝突した剣は、結界の力によって真ん中からポキリと折れてしまったのだ。
「ここから先は見ない方がいいにゃ。行くぞカズユキ」
「け、結界は大丈夫なのか?」
「ここまできてミーニャの事が信用できないにゃ?」
「い、いや別にそんな訳じゃ!」
 そこまで豪語するならばきっと大丈夫なのだろう。そう考え振り向くと後後ろからは、待てだのなんだの聞こえてきたが、気にしない事にした。
 なぜならミーニャが言った「見ない方がいい」という言葉の意味を俺の中で理解したからだ。そして最初に起動させていた外側の結界の装置から、起動している事を示す光が消えていた事が、俺の中の推測をより確信へと近づけた。
 ミーニャ達は全て予測していたのだ。俺らを召喚し、王都に連れて行く途中で襲撃される事も、足どめをくらった後に中央から刺客が派遣される事も。そしてその予防線を俺達には分からないように張っていたのだ。

 彼らとの出来事から十分程度だった頃だろうか。それまで結界の外側で一生懸命に結界の破壊をしようとしていた彼らの、俺らに対する怒りの声が、恐怖に怯える悲鳴に変わったのは。
「助けてくれ!命だけは!命だけは!うわぁぁ!」
「腕がぁー!俺の腕がぁー!」
「おい!戻ってこい!こんな所で死ぬな!おい!」
「痛いよ…母さん…俺は…俺は…」
 彼らを襲ったのは他でもない。俺を食ったクマの魔獣とゴブリンや暗黒騎士をはじめとする魔物の混成集団である。実は俺がミーニャに頼まれて集めたマガチの実は、結界の強化以外のための用途があったのだ。それはこの罠に使うためのものだった。
 罠の原理はこうだ。まず、俺らが居る結界の中を、マガチの実を砕く事によって魔力を飽和状態にさせる。そして敵兵士が入ってきたタイミングでその結界を解除する。そうする事によって、溢れ出た魔力に反応した魔獣と魔物を呼び寄せ、敵の兵士を殺させたのだ。

 実は魔物や魔獣は魔力を鋭く検知する事が出来る。俺が魔獣に食われたのも背中にマガチの実を担いでいたのが主な原因だ。

 そのため結界の方も外側の名取達が貼った方は対魔物用の簡易的な結界であり、今俺の事を敵の刃から守ってくれた結界は、人ですら通さない強力な結界だったのである。

 彼らの断末魔は、いくら耳を塞いでも伝わって来た。
「はぁはぁ…うっ…」
「大丈夫かにゃ?カズユキ?」
「だ、大丈夫だ…でも俺には分かるんだ。暗黒騎士の矛に貫かれる痛みも、魔獣化したクマに臓物を食い荒らされる痛みも…」
「でも仕方の無い事だにゃ。やらなければやられる。しかも多勢に無勢。この方法しか勝ち目はなかったにゃ」
「だからって…だからって!俺を利用しないでくれ!」
 それはある意味心からの叫びだった。
「なんで彼らがお前らのために死ななければならない!彼らは自分達の任務を遂行しようとしただけじゃないか!彼らにとって間違っているのは反逆者のお前らじゃないのか!?それともお前らが絶対の正義だとでも言うのか?!」
「そうだにゃ、ミーニャ達が正義だにゃ!ミーニャ達が立ち上がらなければ、全六種族の民は全滅するにゃ!それに、その言い分だとカズユキはミーニャ達があいつらに殺されろって言うのかにゃ!」
「そんな事は言わない!お互い命がかかっているんだ!誰だって自分がかわいいに決まってる!だからと言って正義を盾に人殺しを正当化するのは間違っているって言っているんだ!」
「うっ…」
「せめて…せめて説明して欲しかった…みんなで野営の準備をする時の役割分担…俺はお前が必要だからと言って、あの実を集めたんだ。それでその結果がこれだ。まさか人を殺すために実を集めていたなんて…俺は知るよしもなかった。俺は無自覚のまま人殺しに加担させられたんだ…」
「それは…」
「こうなる事を言ってくれていたら、少しは心構えが出来た。いや、わからない。もしかしたらこの作戦に反対していたかも知れない…」
「これからしようとしている事の壮大さと責任の重さは分かってくれたかにゃ?」
「ああ分かったさ…彼らは…俺が殺したんだ。彼らの死を無駄にしないようにしないとな…」
 その後興奮状態からさめた俺は、すぐに寝てしまった。

「起きろ〜」
「んん〜」
 ゆっくりと目を覚ますと、目の前には猫耳の女の子が顔を覗いていた。ミーニャだ。
「うわぁ!近いな!あれっ…」
 突然、ミーニャがあるものと重なった気がした。それは、もう死んでしまったが、小さい頃猫を飼ってた事あった。その猫だった。
 今の俺の猫好きの由来はその事が大きい。当時飼ってた猫もミーニャと同じ黒猫だった。俺はその黒猫を溺愛し、猫も俺が外から帰って来たりするといつも嬉しそうに懐いて来てた。
 いつも朝目覚ましが鳴ると俺よりもその猫の方が先に起きて、俺の顔を舐めまわすのだ。そして俺が起きると、一度だけ「にゃー」と鳴き、その後俺が完全に起きるまで側でじっと待っているのだ。
 その猫とミーニャが今一瞬重なった。
「な、なんで急に泣くんだにゃ!」
「えっ…な、なんでだろう。まだ会って一日しかミーニャと過ごしてないのに、すごく懐かしく感じて…気づいたら…」
「…キモっ!」
「そ、そんな事いうなよ!」
 そうだ、帰ったら最近行けてなかった猫の墓参りでもしよう。

つづく






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