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死に損ないの異世界転移

ねこまたぁ

第4話 死に損ない

 カーテンの隙間から射してきた朝日が、心地よい睡眠を僕から奪っていった。いつもより三十分早い起床だ。もう少し寝ててもいいが、気持ち良く起きれたのでそれはやめておく。
 起きたのが三十分早いだけで、ほかはなんらいつもと変わらない朝だ。
 少し余裕を持ちつつ、いつも通り朝ごはんを食べて学校に向かう。家を出て、次の角を曲がった先の信号には、かず君が…居ない。昨日の放課後に、彼は同じクラスの名取さんと共に姿を消してしまったからだ。
 しばらく一人で歩いていると、後ろから声をかけられた。
「おっす!唐沢!って何をそんなにしょげてるんだ?」
 彼は大川君、彼もまた僕達と同じクラスだ。昨日は風邪で休んでいたけれど、どうやら今日から復活したらしい。
「お、おはよう大川くん。今日はかずくん…いやなんでもない」
 彼はきょとんとしたままこちらを見ていたが、僕は昨日の事をなかなか言いだす気にはなれなかった。
 怖いのだ。自分でも薄々感じてはいるが、本当に彼らの存在がこの世界から抹消されてしまっているのではないか?その恐怖が、僕の口を封じていた。

 学校に着いてから、二人で自販機に向かった。
「最近自販機のバリエーションに飽きてきたなぁ」
 と、ぼやきながらも、大川くんはいつも飲んでる怪しい色の炭酸飲料のボタンに手を伸ばしていた。
 一方僕は、昨日買ってもらったのと同じあたたかいココアを買う事にした。昨日まで彼らは実際に存在していた。間違っているのはこの世界全体だ。そう信じながら、僕はプルタブに手をかけた。

 教室に入ると、謎の違和感を感じた。
「何かいつもと違う感じがするんだけど、気のせいかな?」
 僕は大川君に向かってそう言った。すると彼は、
「ここ二、三日休んでたが、休む前となんも変わんねーぞ?」
 と答え、教室に入ってすぐの自分の席に座った。その瞬間、僕は違和感の正体に気づいた。
「席が二つ足りない…」
「何言ってんだ?もともとこのクラスはこの人数だぞ?」 
 嘘だ、そんなはずは無い…
「かず君と名取さんの席はっ!」
 なかば叫ぶようにそう聞いた。が、しかし大川君から帰って来た答えは、ある意味予想通りであったが、最悪の答えだった。
「あ?誰だそれ?お前今日変だぞ?」
 周りから見れば相当頭のおかしい人物に見られているのだろう。だけどもう止められなかった。
「忘れちゃったの?!田村和幸くんと名取澪さんだよ!このクラスの学級委員とこの学校の生徒会長だよ!」
「さっきから何言ってんだおめぇ!そんな名前のやつうちのクラスどころか学年にもいねぇ!それにこのクラスの学級委員は他でもないお前だろう!生徒会長もめっちゃおっぱいの大きい二年生の子になったって昨日お前がメールを送ってきただろうが!」
 もはや大声でおっぱいと叫んだ大川くんよりも、彼らにとって得体の知れない人物の名前を連呼している僕の方が、より異端の目で見られていた。その視線に耐えきれなかった僕は、
「ごめん、今日はもう帰る…」
 そう言って足早に学校を後にしていた。



 
「って、あれっ?生きてる?!」
 そんなはずはない。俺は胸もとを矛で貫かれ、そして死んだはずだ…
 なぜ死んだ事が確信できるのか?それは横に転がる真っ二つに折れた矛と、今自分が着ている穴の空いたYシャツ、そしてあたり一面に広がる血の海。これらの要素が十分なほど現状をものがたっている。
 そして目の前には、まるで死人が生き返ったところを見てしまったような、いや実際に見てしまったと言った方が正確だろう。そんな名取がなかば半泣きでこちらを覗いていた。
「どういう…こと…」
 どうやら名取は俺が生き返った事に戸惑っているようだった。当たり前だ。
「それはこっちも聞きたい」
 そう言いながら俺は何事もなかったかのように身体を起こした。普通に喋れるし普通に動ける。痛みもなければ、貫かれたはずの胸元には、傷一つついていなかった。
 そばにいたミーニャと騎士さんもこの状況にあっけにとられている。特に猫娘は口を半開きにしてこちらを見つめていて、まるでフレーメン反応を起こしているかのような表情だ。
「たしかに一度、脈が止まったはず…」
 早くも名取は状況を受け入れて、冷静に思考を巡らせ始めていた。
「やっぱり死んだよな?」
「ええ、間違いないわ」
「じゃあなんで俺は今生きてるんだ?」
「わからない。何かの拍子で心臓が再び動きだしたと仮定しても、その胸のキズが癒えているのはどうにも証明できないわ」
 ということは…
「ってことは俺、この世界に来たことで、ガチな意味での無敵チートを手に入れたってことか?」
「無敵というか、一度は死ぬけれどね」
「ちょいとベクトルの方向が違うが、無敵チートなのには変わりねーぜ!見たかミーニャ!」
 そう言って俺は、今まで散々コケにしてきたミーニャの方を向いたが、ミーニャは依然としてポカンとしたままだった。




 そういえば先ほどまで居た敵が見当たらない。
「敵はどこに行ったんだ?」
「暗黒騎士なら全員ミーニャ隊長が倒したぞ」
「そうだったんですか…えーと…お名前は…というか、傷はもう大丈夫なんですか?」
 ずっと守って貰っておきながら、俺はまだこの騎士さんの名前を知らなかった。
「そういえばまだ名乗ってなかったな。俺はフランクリン。獣人族のオオカミの血を引く者だ。改めてよろしくカズユキ君。あ、あと傷は隊長が魔法で少し治してくれたから大丈夫だ。ほんの少しだけだがな」
「よ、よろしくお願いします」
 見た目も中身もとても男前な人だった。フランクリンは魔法は使えないらしく、フランクリンが追撃する前にミーニャが炎の遠距離魔法で敵を全滅させたのだと言う。
 フランクリンと話をしていると、突如馬車の方から、とある人物の喜びの声が上がった。
「あったにゃー!」
「どうしたんだミーニャ」
「これを見るにゃ」
 見てみると、ミーニャは少し青みがかかった石を持っていた。その大きさを例えるならば、パソコンのマウスほどといえばわかってもらえるだろう。
「なんじゃこりゃ?」
「ふっふっふ〜これは連絡魔石だにゃ!これを使えば、王都に居るルーニャと連絡が取れるにゃ!」
 ミーニャいわく、この石には魔力が付与してあって、特定の相手と連絡が取れるのだと言う。言わば携帯電話と同じだ。
「それで救援を求めると?」
「そうだにゃ!さっそくやるにゃ!」
 しばらくすると、石が光り始め、声が聞こえた。
『どうしたの姉さん』
「あぁ〜愛しの妹よ〜魔王軍の襲撃のせいで身動きが取れなくなった私たちをどうか助けまえ〜」
『まったく…姉さんはいつもそんな調子なんですから…わかりました。召喚した二人は無事なのですか?』
「大丈夫だったにゃ!でも、その代わりに部下をほとんど失ったにゃ…」
『そんな…』
 しばらく沈黙が走った。
『了解です。今日はもう暗くて無理なので、明日出来るだけ早くそちらに到着するように手配します。ですから今日のうちは頑張ってしのいで下さい』
「ありがとにゃ!」
『では切りますよ』
「にゃにゃにゃ〜」
 ぷつっという音と共に、先ほどまで輝いていた石から光が消えた。というか…
「なんでお前の妹は標準語なんだ!?その語尾の“にゃ”って獣人族のネコはみんな共通して使うんじゃないのか!?」
「そんなことないにゃ。ミーニャは好きで語尾につけてるんだにゃ〜」
「そ、そうだったのか…」

 何とも言えない新事実が判明したところで、俺達は夜を明かすべく、野営の準備を始めた。
 するとミーニャはよしと言って手持ちの袋の中からふだのようなものを取り出した。
「いったいこれは何だ?」
 俺の問に対して解説してくれたのはフランクリンだった。
「これは魔結界の札と言って。全部で八枚の札で形成されてて、それぞれ八方位に貼ると、その中を結界で守ってくれるんだ」
「なるほどなぁ…これで夜もしのげるというわけか…」
「その通りだ」
 つまり、これを使えば安全地帯を作れるという便利な代物だ。

 魔結界の札を取り出したところで、俺らはそれぞれ役割分担をすることにした。フランクリンと名取は二人で結界の作成と今晩の食べ物の収集。ミーニャは例の結界を維持するための準備。そして俺は…
「はい、これと同じ実と、あとは焚火を絶やさないための枝とかを集めてきてほしいにゃ」
「了解だが、なんだこの赤茶色の実は?」
「この実は、マガチの実だにゃ。この実には沢山の魔力成分が含まれてて、食べると魔力を回復したり、魔力の回復速度を上げたりできるにゃ」
「なるほどねぇ」
 つまりRPGなどに出てくるポーションみたいな類のものだ。
「どれくらい集めればいい?」
 するとミーニャの背後から寸胴サイズのかごが出てきた。
「はいこれ」
「まてまて、用意周到すぎやしないか?」
「これは君たちを迎えに行く時に使ったんだにゃ。もしも君たちがエルフ族に保護されていた時に、獣人族領内でしか取れない貴重な鉱石をお礼兼口止め料として差し出すことにしたにゃ。それで、その鉱石を入れといたのがこのかごだにゃ」
「そしたら案の定俺たちがエルフ達に保護されていて、その中に入っていた鉱石を使ったと」
「その通りだにゃ!」
 いったいどんな鉱石が入ってたかは知らないが、とにかく俺はこのなかなかのサイズのかごの中に、ドングリサイズの身をめいいっぱい集めて来なくてはならなくなった。
「そんじゃまぁ行ってくるわ」
「よろしくだにゃ!」




「まずはここっと」
 フランクリンはそう言うと、目の前の木に例の札を貼った。
「食料の方はどうしますか?」
「実は逃げてくる途中で湖を見つけたんだが、そこで魚を釣るのはどだ?」
「異論はありません」
「なら…」
 そう言うとフランクリンは、頑丈そうな枝を拾い、手持ちの袋から糸を取り出すと、瞬く間に釣り竿を作り上げてしまった。
「そういえば虫は平気か?」
「ええ」
「そんじゃ」
 すると、フランクリンは地面を掘り返し始めた。掘り返した中からは、生物事典には載っていない、得体の知れない幼虫がうじゃうじゃと出てきた。
「やっぱりな!」
 そう言いながらさっきとは違う袋にその幼虫達を入れると、行くぞ!と言ってフランクリンは湖の方へと歩き始めた。
 しばらく歩くと、フランクリンが、
「この道をまっすぐ行けば湖だ。俺は結界の札を貼ってくるから、先に釣り始めててくれ」
「わかりました。気をつけて下さい」
「ミオさんも気をつけろよ!それじゃ」

 フランクリンと別れ、歩き始めるとすぐに湖に到着した。
「なかなか大物が釣れそうね」
 そんな独り言を言いながら、私は竿の先端にエサを取り付け、湖の中心めがけて竿を振りかざした。




「結果報告!」
 ミーニャがそう言うと、各々本日の戦勝品を取り出した。
「まさかミオさんがあんな大物を釣り上げるとはね…」
 そう言いながら出してきたのは、二、三メートル以上はある巨大な魚だった。
「四人で食べてもあまりそうだな」
 俺がそう言うと、首を縦に振らぬ者は居なかった。
「じゃあ次は俺」
 しかし持ち出したかごには、半分程度しか実が入っていない。
「たったこれだけしか集められなかったのにゃ?」
「面目無い。実は…」
 実は一度はめいいっぱいに実を集めたのだか、帰り道に熊に襲われ、この世界に来て二度目の死を経験したのである。
 ちなみにこの世界は俺らの世界と季節は同期してる。つまりこの世界でも今の季節は秋。この季節の熊と言えばもう説明は不要だろう。
「そう言うことだ」
「災難だったわね」
 まさか名取から労いの言葉を聞くけるとは予想外だった。ある種の感動をしていると、アイツが横槍をさしてきた。
「カズユキ!その熊野目は何色だったにゃ?!」
「おお、どうした急に」
「いいから早く言うにゃ!」
「確か赤くて少し光ってるような…」
「まずいにゃ…ちょっと待っとくにゃ!フランクリンは万が一に備えるにゃ!」
「はっ!」
 するとミーニャは結界の中心地である馬車の残骸の元に行くと、何か呪文を唱え始めた。

つづく




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