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死に損ないの異世界転移

ねこまたぁ

第3話 目的

 実は獣人族という異世界の種族だった黒猫ミーニャと妹の白猫ルーニャによって異世界に召喚された俺、田村 和幸かずゆきと、名取 みおは、お世話になったエルフの村を後にして、今は獣人族の王都ケンプに向かっている。所要時間は、馬車に乗って二時間ほどかかるらしい。

 獣人族は王政だ。現在は王位継承したばかりの、獅子王ギークが獣人族を治めているという。
「そういえば、誰かさんが泣きわめいたせいで聞きそびれていたけど、あなた達の目的は一体なんなの?」
 ごめんなさい。やめて下さい。恥ずかしいです。
「そ〜いえば忘れてたにゃぁ」
 ニヤニヤしながらこっち見ている美少女猫娘は、俺らを召喚したミーニャだ。
「君を…君たち二人をこちら側に召喚した理由は主に二つ…」
 わざとらしく“君”を“君たち”と言い直したミーニャは、今までで一番の笑顔で言い切った。
「クーデターと、魔族および魔王の討伐だにゃぁぁぁ!」
「「はい?」」
予想外の返答に、珍しく俺と名取の声がハモった。
「何をびっくりしてるんだにゃ?私たちが君たちに依頼するのは魔族と魔王の討伐だにゃ」
「違うそっちじゃない」
「クーデターの方かにゃ?」
「そう、そっちだ。意味がわからない。そうだよな?名取」
 名取の方を向くと、彼女はためらいもなく真顔で答えた。が、
「クーデターとは、現政権に対して武力をもちいた…」
「違います名取さん、そういう意味で言ったんじゃないです」
「あら?じゃあどういう意味?」
「俺の伝えたかった意味を微塵も読み取ってないのか?」
 名取は無表情のままうなずいた。この表情は間違いなく素で理解してないとしか思えない表情だった。
「なら説明する。そして同時に、ミーニャお前に聞くが、なんで俺と名取がクーデターを起こさなきゃいけないんだ?」
「そういう意味だったのね。たしかにそれには私も同感だわ」
 やはりこの人は素で理解してなかったようだ。意外と天然で可愛らしい一面もあるようだ。
「じゃあ説明するけど、その前に現在の大首長は誰か知ってるかにゃ?」
「誰なんだ?」
「今の大首長は我らが獣人族の王ギーク様だにゃ」
「最終的にはそいつを倒せと言うんだろ?」
「まぁまぁそうにゃんだけど…今の王ギークは大首長の投票で選ばてないにゃ」
 どういう意味か分からなかった。投票によって選ばれる大首長制度。しかし現大首長のギークは投票によって選ばれてないと言う。
「どういう事だ?」
「ほんとは一年前に先王ガリフが大首長に選ばれてたにゃ」
「それで?」
「先王ガリフは今年になってから急死したにゃ…表向きには病死って発表してるけど、実際には現王のギークに暗殺されたにゃ」
 ふむふむ、これは予想以上にギスギスしたことに巻き込まれているぞ。
「その際に現王ギークは偽装した遺書によって、次期王と大首長に就任したにゃ…」
 なるほど、昔読んだ三国志と同じようなな展開だ。
「それでギークが悪人なのはなんとなく理解したけど、それによって悪影響があるのか?」
 まぁ無ければ呼ばないと思うが。
「大アリだにゃ!」
 やっぱりか。
「斥候からの情報だと、もうすぐ魔王軍が攻めてくるにゃ!それなのにギークは毎日毎日宴会ばかりで、ろくに向き合おうとしないにゃ!都市の治安も悪くなる一方だし、貿易とかもボロボロで…」
 そこまで三国志を見習わなくてもいいと思うぞギーク…
「ほう…死亡フラグビンビンじゃないか」
「しぼうふらぐ?」
「要するに…クーデターは成功するだろうって事だ」
「おお!いい予言だにゃ」
「予言と言うかまぁ…」
 あまり期待されても困る。
「それでギークを倒すとして、新しい君主はどうするんだ?」
「ギーク王の弟ハーブ様に王位についてもらうにゃ」
 さて、ここまで中国史的な展開が立て続けに続いてきた訳だが、この流れがまだ続くとなった場合、このハーブ王(仮)はおそらく幼年で、どっかから宰相役が出てくるはずだ。
「そのハーブという人は何歳なの?
 俺より早く名取が聴いた。どうやら彼女もこの話の流れのオチに感づいたようだ。
「5歳だにゃ!」
「やっぱりか…」
「もしかしてわかってたのかにゃ?」
「なんとなく流れで読めた」
「にゃにゃにゃ!意外とやるんだにゃぁ…」
 なめているのかこの猫は。
「それで実質的な政治をするのは誰なんだ?」
「シェンカー大公殿下だにゃ!」
「しっかりいるんだなそういう方が…」
 しかし、ここまで来て言うのは忍びないが、俺たち(おもに名取)がクーデターに協力する義理は、はっきり言ってまったくない。その点は名取はどう思っているのだろうか?
「はぁ、それでどうします?名取さん」
「そうね…私はやりたくないわ」
 名取も同意見か。
「俺も名取と同感だ」
「言っとくけど、カズユキには頼んでないにゃ!」
「なんだと!ここまで来てまだ言うのか?三味線にすんぞ!」
「冗談でもそんな事言うんじゃにゃい!」
 まったく、いちいちかんに触る猫だ。
「でもまぁそういう事だから、さっさと俺らを元の世界に返してくれ。召喚したのだから返せない道理はないだろう?」
 俺がそう言うと、ミーニャは不敵な笑みを浮かべて返した。
「そんな事もあろうかと、帰還用の術式展開地を魔族領に調整しといたにゃ」
「どういう事だ?」
「こちら側に来る時に空間の歪みを感じたはずだにゃ。あれは本来なら無い仕様だにゃ」
「つまり?」
「普通に召喚すれば、特に何事もなくいきなりこちら側に召喚されるにゃ」
「じゃああの歪みはなんだ。あと少しで吐きそうだったぞ」
「召喚の術式の中に空間ずらしの術式を混ぜといたにゃ」
「それで?」
「簡単に言えば、普通だったらさっき召喚された場所から学校に戻れたところを、あえて空間をずらして、魔族領のとある場所からじゃないと戻れなくしたにゃ。そうすれば君たちはミーニャ達の依頼を断れないにゃ。ちなみに加えて説明すると、今すぐ元の世界に戻す方法もあるけど、安全な場所に出る保証はないにゃ」
 馬車の中にしばしの沈黙が流れた。直後。
「名取」
「ええ」
 俺と名取はお互いにコンタクトを取ると、直後、ミーニャのこめかみに二人の拳を片手づつ当て、そのままぐりぐりと回転させた。
「ニャァァァ!痛いニャァァァ!」
「俺らの世界ではこれは梅干しと呼ばれている!」
「イタタタタ!やめてくれニャァァァ!」




 そんなこんなで、馬車に揺られて早くも一時間ほど経過した。もはや魔王を討伐しなければ帰るための活路を見出せず、その魔王を倒すためにはクーデターを起こし、しかる後に対魔王軍の戦力を集めなければならない。
 そんな状況に置かれた俺らは、目の前に座っている猫にこの世界イロハをエルフの長老よりも、より詳しく聞いた。
 これといって目新しい情報は手に入らなかったが、有益な情報がなかった訳でもない。隣では名取が窓の外をじっと見つめていたが、時より話に参加してくるというのを繰り返していた。
 もはやどうでもいい事なのだが、彼等と出会った時にエルフの村の役所を使わなかったのは、今回の彼らの訪問が秘密裏だったためらしい。エルフの役所とは言え、足がつく可能性があるからだ。

 しばらくミーニャの双子の妹のルーニャの話を聞いていると、馬車の小窓が開いた。外からは行者であるミーニャの部下の男が、ミーニャに向かって何か言っている。
「どうしたんだ?」
 そう聞くとミーニャは、けわしい顔で答えた。
「まずい事になったにゃ」
「まずい事?」
「魔族の部隊から追跡され始めたにゃ」
「なんだって?!」
「しかもゴブリンの斥候どころじゃないにゃ。馬に乗った人型の魔族。暗黒騎士の一隊だにゃ。」
 強そうな名前だ…我ながら小学生並みの感想だな…
「暗黒騎士というのは強いのか?」
「ずば抜けて強い訳ではないけど、決して弱くもないにゃ。でも、敵の数を聞く限り、今の戦力じゃ到底かなわないのは確実だにゃ」
 現在こちらの戦力は、今俺ら三人の乗っている馬車の周りに、ミーニャの部下の騎兵が五名いて、いずれも精兵だと言う。しかし…
「ゔわぁっ!」
「まさか!」
 窓の外を覗くと、悲鳴をあげたであろう人物が落馬し、その影も少しづつ見えなくなっていった。かすかに助けを求める声と血しぶきが、目と耳を通して脳内に伝えられる。
「そんにゃ…」
「落ち込んでる場合じゃねーだろ!なんか対処法考えろよ!」
「うるさいにゃ!何も出来ないくせに!」
「うっ…」
 つい先走ってしまった。俺の悪い癖だ。確かに俺は何も出来ない。ミーニャの言う通りだ。
 しばしの沈黙を挟んだ後、馬車が激しく揺れた。
「今度はなんだ!」
「何があったの?」
 今まで冷静だった名取もさすがに取り乱している。
「にゃにがあったんだにゃバルザ!」
 バルザとは部下の行者の名前だろう。しかし返事がない。ミーニャが小窓を開けると、そこから赤い液体が流れてきた。
「血だっ!」
 すると突然馬車が制御を失った。そして暴走を始めた馬車から、全員が急いで飛び出した。

「うっ!」
 外に出て、バルサの安否を確認すると、思わず吐き気をもよおしてしまった。
 バルザは手綱を握ったままぐったりとしていた。喉を矢で射抜かれて絶命していたのだ。まだ手足などがピクピクと痙攣けいれんしている。
 一方名取はその光景を直視はせずに、周りに気をやっていた。
 すると後方から二つの影がこちらに向かって来た。敵ではなく、残りの仲間の騎馬隊の者たちだった。残り二名という事はつまり、襲撃されてから既に半数以上の三名、行者を含めて四名がその命を落としたことになる。
「隊長…」
「すみません」
 二人とも手負いだった。特に後から来た騎士は馬にまたがるのがやっとの様子だった。
「ミーニャ、お前確か二等魔道士官とか言ってたよな?って事は、魔法が使えるって事だよな?怪我とか治せないのか?」
「治癒魔法は出来ないにゃ。治癒魔法が得意なのはどちらかといえばルーニャの方だにゃ」
「じゃあお前はなんの魔法が使えるんだ?」
「火…火の魔法が使えるにゃ」
「火か、ちなみにだが魔法というのは俺とか名取も使えるのか?」
「まだ適性を調べてないからわからないにゃ。でもどちらにせよ今はまだ使おうとしちゃダメにゃ。暴走の可能性があるにゃ」
「くそっ…」
 じゃあ俺はどうすればいいんだ?名取は空手をやっていてある程度の戦闘ができるが、俺には何も無い。武器があっても到底とうていあつかえない。
 導き出された答えは単純なものだった。そう、俺はその場でたたずむ事しか出来ないのだ。

「ヴァァァ!」
「もう来たのかにゃ」
 振り向くと、もうすぐそこまで暗黒騎士が迫っていた。
「数は四体…かくなる上は…」
 二人の騎士のうち、手負いで重症だった騎士はそう言うと、その痛々しい体を持ち上げて馬にまたがり、そのまま敵に向かって突撃していった。
「待てっ!」
 反射的に彼を止めようとしたが、遅かった。その騎士は俺の制止が聞こえてたのか聞こえてなかったのか、そのまま敵に突っ込んでいった。
「くそっ…」
 結果は相打ちだった。一人の尊い犠牲により、残り三体になった暗黒騎士達であったがそのままこちらに突っ込んで来た。
 暗黒騎士達は俺とミーニャには眼もくれず、三体とも名取を目掛けて突撃してきた。
 さすがの名取も避けるのにせいいっ…
「がはっ!」
 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!む、胸がぁぁぁ!なんて事だ!見ると暗黒騎士の矛が、右の鎖骨の下あたりに刺さっている。あのやろう名取を攻撃すると見せかけてこっちに矛をぶん投げてきやがった!
「田村くん!」
「カズユキ!」
「な、名取ぃ…ミーニャァ…」
 まずい…意識が…遠のいていく…よく見ると一面血の海だ…もはや痛みもあまり感じなく、むしろ寒い…こんなところで…死にたく…ない…
「しっかりして!」
「しっかりするにゃ!」
「隊長、彼ははわたしに任せて下さい隊長は魔法で迎撃をお願いします」
「わかったにゃ、カズユキは任せたにゃ」
 三人のやりとりが聞こえてくる…どうやら聴覚はまだ機能しているようだ…でも…少しづつ、だんだん聴こえなくなってきた…
「田村くん…しっ…かり…」
 ダメだ…俺はもうここで死ぬ運命なんだ…

つづく

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