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死に損ないの異世界転移

ねこまたぁ

第2話 異世界

 僕は今焦っている。校舎裏にいた黒猫についていった僕とかず君は、気づけば校舎の屋上につながる階段の踊り場に連れてこられた。
 そこには同じクラスで、後期生徒会会長候補の名取さんも居た。
 状況を確認していると、急に二人が頭を抱えながら苦しみ始めて、僕はどうしていいか分からず、とりあえず保健室の先生を呼ぶことにした!
「早く保健室に行かなきゃ!」
 いつもより広く感じる校舎を駆け抜け、ようやく保健室に着いた。
「せ、先生!」
「あらどうしたの?唐沢ちゃん」
 自分の息があがってるのがよくわかる。
「か、からかってる場合じゃないんです!田村くんと名取さんが!」
「ご、ごめんなさい。とりあえず落ち着いて唐沢くん」
「落ち着いてる時間なんてないんです!早く来て下さい!同じクラスの田村君と名取さんが!よくわからないけど、なんかこう…辛そうなんです!」
「もう!さっきから何を言ってるの?!田村くんと名取さんって誰?そんな名前の生徒、私知らないわ!」
「えっ…」
 そんなはずはない。かずくんとは何度か保健室を利用したことがあるし、名前も覚えてもらっていたはずだ。名取さんに関しては生徒会長だ、わからないはずがない。
「その二人が誰だか知らないけど、とりあえず見に行くわどこに居るの?」
「あっ…えっと…その…」
 僕は頭から血の気が引いていくのを鮮明に感じながら崩れ落ちた。






 生い茂る木々の一角からこちらを見つめる大きな目が三つい、小学校低学年ほどの身長であるのはわかるが、他の事は木の影に隠れてよく見えない。
 だがしかし、こちらに対してあまり好意的ではない事は直感的に感じた。そして次の瞬間。
「キィィィィ!」
「う、うおおおー!な、なんだこいつら!」
 大きな目と鼻、全身が緑色で、原始人のような布を巻いている。そしてその手には短剣と思わしき刃物を持っていた。
 よくアニメやゲームなどに出てくるゴブリンのような生物が、こちらに向かって襲いかかってきたのだ。しかし、
「はっ!」
「ウギィィ」
「はい!田村くん!とりあえずこれで自分を守りなさい!」
「うわぁぁっとっと…わ、分かった!やってみるぜ!」
 一瞬にして、飛びかかってきたゴブリンを撃墜し、ゴブリンの使っていた武器を俺に向かって投げてきたのは、文武両道我らが生徒会長の名取 みお、そして武器を受け取り、へっぴり腰でゴブリンと闘おうとしている俺は田村和幸かずゆき、二人とも今さっきここで目が覚めたばかりの高校一年生である。

しばらくすると、メインで戦ってくれていた名取が頭を抑え出した。
「うっ…」
「どうした!名取!」
「まだ頭が痛くて集中できない…」
 たしかに一匹のゴブリンを無力化したものの、病み上がりの名取では黒帯の実力を十分にその力を発揮できず、押されているのは圧倒的にこちら側だった。
「このままじゃまずい…」
 その時だった。
「打て!」
 どこからともなく聞こえた号令とともに数本の矢が三匹のゴブリンを貫いた。
「た、助かった…のか?…」
 極度の緊張から解放された俺は、再び気を失ってしまった。




『俺らの事、絶対に忘れないでくれ!そうしないとっ!』


「はっ!」
 目を覚ますと保健室のベッドの上だった。確か…そうだ!
「かず君と名取さんはどうなったんだ!」
 体を起こそうとすると誰かに呼び止められた。
「ちょっと!どこに行くつもり?」
「えっと…」
 養護教諭の鳥居先生だ。
「気を失ったのだから、もう少し安静にしてなさい」
「わ、わかりました」
 ふと時計を見ると、既に六時半を過ぎていた。
「あらもうこんな時間、い〜い?唐沢ちゃん、公務員はね残業代なんてほとんど出ないのよ?その事をちゃんと覚えておきなさい?」
「は、はいすみません」
 軽く叱られてしまった。
 しばらくして、僕は保健室を出た。
「帰る前にもう一度踊り場に行ってみよう」
 保健室に走り込んだ時よりも短く感じる道のりをゆっくりと進んで行く。そして最後の階段を上ろうとした時、どこからか猫の鳴き声が聞こえた気がした。
 そして彼らの居た階段の踊り場には、貸していたはずの僕のコートが、およそ人力でやったとは思えないねじれ方をして、無雑作に落ちていた。




「う、うーん…」
「あっ!起きた!起きたよ長老!」
 横にいた誰かが勢いよく出て行った。
 ここは…確かゴブリンに襲われて、そうだ、また気絶してたんだ。名取も横で寝ている。どうやら名取も二度目の気絶をしていたらしい。
 声しか聞こえなかったがさっきの人が看病してくれていたと思われる。おそらくゴブリンの襲撃から助けてくれた人達となんらかの関係がある人なのであろう。

 しかし、俺らのいるわらのような家はとても風通しがよく心地よい。扉というよりは仕切りの役割を果たしている布からも、独特の風情を感じ、なんだかおだやかな気持ちになる。
 心地よく伸びをしていると、布の向こう側から老人と二人の若い男が入ってきた。さっきうっすら聞こえていた事から推測するに、真ん中のこの老人が長老と言ったところだろうか。
「大丈夫かの?」
「ええ、お陰様で、すっかり良くなりました」
 ここで一つ異様な点に気付く。耳がとがっているのだ。緑の服を着ている彼らの耳の上半分が異様に伸びてとがっている。つまり…
「エルフ…なのか?…」
 聞こえない声で言ったつもりだったが、どうやらそのとがった耳には届いていたらしく。
「いかにも、我々はエルフじゃ。一応聞いておくが、そなたらはニンゲンかの?」
 正直信じられなかった。今俺の目の前にいる人物は、自身がエルフだという事をはっきりと言ってのけたのである。
「え、えぇ…その通りです。私は人間です」
 おどおどしながら答えると、長老は少し嬉しそうに会話を続けた。
「そうかニンゲンか、わしももう数千年生きておるが、この村でニンゲンを見るのは本当に少ない。そうじゃのう百年に二、三人ほどかのう」

 とりあえず、今までの状況を整理する。にわかには信じ難いがおそらくこれは異世界召喚というやつだ。ゴブリンに殺されかけて、それをエルフに助けられる。ここまできてしまうと、異世界召喚か、コスプレ集団にだまされているのか、それとも単純に夢オチか、考えられる可能性はその程度だ。
 しかし、ゴブリンの短剣によってつけられた腕の傷は、その痛みを今もはっきりと感じているし、コスプレなんて、俺の現実逃避の言い訳でしかない。そしてなぜか言語に関してはいたって支障がない。
 つまり消去法でいくと、これは現実であって、俺は今異世界にいる事になる。
 異世界ということは…この後の流れ的には、俺と名取は元の世界に戻るために奮闘し、その過程で俺はあんな能力やこんな能力を身につけて、もしくはもうすでに持っていて、異世界で無双するとか、そういう事になるはずだ。そうに違いない。
 長老の前では平然を装って、俺は妄想の中を少しだけ楽しんだ。

 ゴホン、話を戻そう。長老は数千年も生きているという。それだけの長い間生きているのにあまり人間を見かけないという事は、この世界には人間があまりいないという可能性がある。そのあたりをちゃんと聞いておこう。
「という事は長老、この世界には人間があまりいないのでしょうか?」
「そんな事は無いぞ。エルフ領から東に数十キロほど行けばニンゲンの都市国家がある、それにわしらエルフ領の都心とか、同盟領の中央にもニンゲンはおるぞい。わしらがあまりニンゲンを見た事がないのは、ここがエルフ領の辺境だからと言うところじゃ」
「な、なるほど、そうなのですね」
 なんだかよくわからない用語が出てきたので、俺はとりあえず空返事をしといた。

 その後も長老とやりとりを続け、俺がおそらく異世界人であるということも詳しく伝えた。
 長老からは。この世界がどのようなものであるかを教えてもらった。
 まず、この世界は六つの種族と魔王に操られ、邪悪な心に染まっている魔族がいるらしい。
 六つの種族は、俺らのような『人間族』
 長寿で耳長の『エルフ族』
 ケモノと人間の中間のような外見で、運動能力が優れている『獣人族』
 見た目(耳)はエルフとさほど変わらないが、武力に優れ、最強の軍事力をほこる『竜人族』
 魔王による干渉を受けない善良な心を持つ魔族、通称『魔人族』
 そして物作りに長けた『ドワーフ族』がいるらしい。
 それぞれの種族はその種族ごとに都市国家を作り、対魔族の同盟である六都市同盟を宣言した。しかし、都市国家と言っても、一種族に一都市という訳ではなく、一種族の集まりを一つの単位として都市国家と名称しているだけである。
 それぞれの領地の辺境には大体こような村が点在しており、この村の中心にも役所のような施設があるらしい。
 他にも、大都市を二つ以上持つ都市国家や、そもそも大都市を持たずに、中小規模の街や村だけの都市国家も存在するという。

 六つの都市国家の中心地にはどこの都市国家にも属さず、交易とそれぞれの種族の首長が会議をするための『交易同盟都市』が築かれ、日々活気立っているという。さっき長老が言っていた同盟領の中央とは交易同盟都市を指すらしい。
 政治体制は各都市国家ごとで、人間とエルフは民主主義。ドラゴン族とドワーフ族も民主主義の体をしているが、その実は一党独裁体制など、それぞれ違いがあって、それぞれの都市国家の政治体制に対する他の都市国家の干渉は厳禁とされている。

 六都市同盟は、俺らの世界で言う国連に似たようなものだ。しかしこの世界では、とあるシステムがある。それは、全ての都市国家の方向性を定める役割を、それぞれの首長の中から決める『大首長制』という制度がある事だ。
 大首長とは、四年に一度各国の長が自分以外の首長に投票し、投票の結果で選ばれた者が大首長という役職に着く。大首長は対魔族の六都市連合軍の軍備の拡張や縮小および軍の最高司令官を務めたり、交易などの、六都市同盟全体の方針を決めることができるのだ。

「都市国家間で戦争とかはなかったのですか?」
 そう聞いたのは名取だった。というかいつのまに起きてたのやら…
「争いが全く無かったと言えば嘘になる…じゃが、大きな戦争は無かったと言えるじゃろう。そもそも魔族の脅威を放っておいて六種族同士で争いあっても、何もないからのう」
 なるほど、六種族の民は魔族という共通の敵に対して一致団結しているようだ。
 俺らを襲撃したゴブリンも魔王に操られた魔族らしい。つまり魔族の脅威はすぐそこまで迫っているという事だ。もちろん善良で先ほど述べた魔人族に属しているゴブリンも居る。

 この世界の仕組みを長老から教えてもらっていると、急報が入った。
「長老!獣人族の者が長老に面会したいとやってきました!」
「なんじゃと?カズユキ殿とミオ殿、すまないが少しばかりここで待っとってくれ」
「わ、わかりました…」
 ひと段落したところで、名取が口を開いた。
「ねぇ田村くん?」
「なんだ?」
「この世界には魔法とかあると思う?」
 いきなり何を言い出すのかと思えば、魔法だと?アニメとかあんまり見なさそうな名取にも、意外と厨二的な発想があった事に驚いた。てか順応早いな!
「さぁな、で、あったらどうするんだ?」
「最近家の事で少し悩んでるの、なんていうか、こう、そういうのがあれば思いっきりぶっ放したい気分なの」
 そんな野蛮な事を、そんな真顔で言わないでください。怖いです…
「さっき私たちが目覚めた森を、一瞬で焼き払うくらいの魔法やつは無いのかしら?」
「そうかいそうかい、個人的にはこの世界に魔法が無い事を願いたいところだ」
 名取のなんとも言えない暗黒面を聞いてしまったところで、再び入り口の布の仕切りが揺れる。
「ちょっと来てくれないか?」

 エルフの好青年に案内され、到着したのは長老の家だった。他種族の者が来ているので、てっきり役所に行くのかと思っていたのだが、ある事情で今回は使えないらしい。
「失礼します」
 長老の家の中に入ると、中には長老と、黒髪で猫耳の美少女が向かい合って座っていた…ってネコ耳だと!獣人族と言っていだが、こういうことだったのか!
「あー!よかった!やっぱり成功だったにゃ!」
 猫耳美少女はそう言うと、ぴょんぴょんと飛び跳ねて喜んでいた。
「あ、あの〜」
「いや〜ホントによかったにゃ〜召喚予定地に居なかった時はチョーあせったにゃ〜」
「その様子だと、もしかして私と田村くんをこちら側に召喚したのはあなたかしら?」
「そうだにゃ!君たちを召喚したのは間違いなくこの私、獣人族二等魔道士官のミーニャと、今は獣人族の王都にいる妹のルーニャだにゃ!」
 この黒髪の子が召喚…黒髪…黒…あっ!
「お前!まさかあの時花壇に居た猫!」
「気づいたかにゃ?実はそうなんだにゃ!」
 そりゃ人懐っこくて、おまけに猫用のエサも食べないはずだ。
「なるほど!そ、それで君たちは何で俺らを召喚したんだ?」
 俺は少し興奮気味にミーニャに聞いた。
「ん?あぁそれは君には関係ない話だにゃ」
「えっ…」
 急に冷めた話し方をするミーニャに俺は戸惑いを隠せなかった。
「だから、君は別に関係ない話だにゃ、本命はこっちのミオちゃんの方だにゃ!」
「ははっ、冗談はよしてくれよ、俺だって何か意味があって召喚したんだろ?!」
「しつこいやつだにゃぁ!いいかい?私たちが召喚したかったのは、ここにいるナトリ ミオちゃんだにゃ!君はたまたま一緒に召喚されただけ!いわば付属品だにゃ!」
 “付属品” その言葉が俺の思い上がっていた心をズタズタに引き裂いた。
 無意味な異世界召喚…ミーニャたちの本命はあくまでも名取。その事実はオタクであり、異世界召喚に憧れていた俺にとってあまりにも残酷すぎた。
「そ、そうだよな、特にひいでた特技とかもない平凡なこの俺が、わざわざ異世界に召喚されるはずが無いもんな…」
 いったい俺は今どんな顔をしているのだろうか?気がつくと視界はぼやけ、いくつか水滴がこぼれ落ち、床を濡らしていた。
「ご、ごめんだにゃ…言い過ぎたにゃ…君を巻き込んでしまったのは、こちら側の問題でもあるにゃ。ごめんなさいだにゃ」
「い、いいよ。謝らないでくれ」
 逆に謝られても、今は情けない気持ちの方が上回って、今の俺は素直に受け入れられなかった。
「で、でもひとつだけ君を呼んだ重要な理由があるにゃ」
「な、なんだよ今さら」
「君というか、君ともう一人、一緒に居た子がいたでしょ?」
「唐沢のことか?」
 タイミングで唐沢?いったいどういうことだ?
「そうだにゃ。君たちが元の世界に帰るには、その子とカズユキの信頼関係が無ければ戻れないにゃ」
 何か重要そうなその言葉に、俺の目から流れていた涙は、気付けば止まっていた。
「それはどういうことだ?」
「今、君たちの世界では、二人の存在はほぼ抹消されているにゃ。でも、唯一君たちの事を覚えている人物がいるにゃ」
「それが唐沢だと?」
「そうだにゃ。誰であれ、そちら側の人をこちら側に連れてきてしまうと、そちら側の世界ではその人物に対する記憶…いや、存在していたことが全て無かったことになってしまうんだにゃ」
「それで、なんで唐沢が出てくるんだ?」
「ある程度信頼関係がある人は、少しだけ記憶を残せるんだにゃ。申し訳ないけどミオちゃん、君にはそれに値する人物が居なかったんだにゃ。だから変わりにカズユキ達の信頼関係を頼りに、元の世界に戻る“くさび”にしたんだにゃ」
「という事は、名取一人では元の世界に戻れないから、俺と唐沢を利用したということか?」
「そういう事だにゃ」
 なんだか少しだけ元気が出てきた気がした。お前なんか要らないと言われてしまった手前、自分にもそれなりの存在価値があるという事が、ここまで来るとちょっと嬉しく思えてきたからだ。
「でもひとつだけ問題があるにゃ…」
 一転して、嫌な予感がする。
「何がだ?」
「向こうに取り残されているあの子が、もしも君達のを忘れてしまった時、君達は二度と向こうの世界には戻れないにゃ。しかも、タイムリミットは向こうでは十日、こちらでは百日だにゃ。その期間を過ぎると、強制的に記憶が消されてしまうにゃ。つまり、向こう基準で言えば、長くてもでも十日しか記憶が持たなくて、早ければ今すぐにでも記憶が無くなってしまうかもしれないにゃ」
「そんなバカな話があるか!」
「でもそれは仕方ないにゃ…どうしてもそこはどうにもならないにゃ」
「くそっ」 
 今はただ唐沢を信じるしかないのか…
「頼む唐沢!『俺らの事、絶対に忘れないでくれ!そうしないと』元の世界に戻れないんだ!」
 気付けば俺は、聞こえるはずもないのに、そう叫んでいた…

つづく

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