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死に損ないの異世界転移

ねこまたぁ

第1話 森の中で 〜プロローグ〜

  目を覚ますと、そこには見慣れない光景が広がっていた。
「こ、ここはどこだ?」
 見渡す限り木々が生い茂っている。どうやら森の中に居るらしい。しかしそれ以上に不可解なのは、隣に同じ学校の制服を着た美少女が倒れているという事だ。
 何故こんな美少女と二人きりでこのようなところに居るのか?記憶が曖昧だ。
 とりあえず深呼吸でもして考えてみることにした。少し頭が痛い。

 一分くらいは経っただろうか?少しづつ思い出してきた。
 まだ記憶の全体にもやがかかったような感じはあるが、とりあえず一つだけは思い出した。
 ついさっき、つまり意識がなくなる寸前まで自分が何をしていたのかを…




 高校に入学してからはやくも半年、夏休みが明けてから突貫工事で行われた文化祭も無事に成功し、極寒を極めた体育の水泳も、つい昨日今年の営業を終了した。
 まだ十月になったばかりだと言うのにここ最近の気温は十二月上旬並みに寒く、やっと今日から制服の移行期間になったという事で、ほぼ全ての生徒が冬服で登校していた。

 中には厚手のコートを着て登校して来る生徒もいたが、移行期間の事を母親にしっかり伝えていなかった俺は、冬服をクリーニングに出されてしまっていて、なぜかたった一人だけ夏服、しかも半袖という状況だ。
 よって俺は今、季節的には早すぎる極寒の中を凍えながらの登校している。その格好はまるで、小学校の時に一学年に必ず一人はいるであろう一年中半袖短パン小僧の様である。一つ違うとすれば、彼らわんぱく少年達は寒さ知らずで、俺みたいに凍えたりはしないというところだろう。

 他にも誰か夏服の奴は居ないのかと、キョロキョロしながら信号待ちをしていると、後ろから聞き慣れた声が聞こえた。
 声の主は暖かそうなコートを着込んだ同じクラスの唐沢だ。
「おはよう、かず君。ってあれ?かず君今日も夏服なの?元気だね。寒くないの?」
 かず君とは俺のあだ名のことであって、フルネームは田村和幸かずゆきである。
 しかし唐沢よ、やめてくれ、そんな上目遣いでこっちをみるな、めちゃくちゃかわいいじゃないか。惚れてしまい…おっと、言っておくが、断じて俺にそう言った趣味はない。どう言った趣味か?言い忘れていたが、唐沢は男だ。正真正銘の男だ。そういうコトだ。

 そんな彼なのだが、その見た目からか、一部の女子からは『唐沢さん』なんて呼ばれ方もしてたりする。
 彼とは同じ中学校出身で、更に言えば中学三年間同じクラスである。学力もそこまで変わらなかった俺らは、地元市内にあるこの東南高校に進学したのだが、まさか今年も同じクラスになるとは思いもよらなかった。
 おかげさまで唐沢とは四年連続同じクラスという事になる訳だが、彼は何故か歳を重ねるごとに可愛さを増していくという謎属性の持ち主であった。本人はその事に気づいておらず、このままいくと、成人式の時には、袴やスーツではなく、振袖を着て来かねない気がする。個人的には割とありだが…

 唐沢に今朝俺の身に起きた悲劇を一通り説明し終わったタイミングで、ちょうど学校に着いた。
 校門の前では、年中ジャージ姿の体育科の先生が、竹刀を床に突き刺して大声で「おはよう」と叫んでいる。毎日毎日ご苦労なこった。

「さ、災難だったね」
 下駄箱のところで俺を気遣ってくれた彼の声は震えていた。心の優しい彼は、寒くて凍えている俺に、コートをかけてくれたのである。おかげで身も心も暖かい。いい友人も持ったものだ。
「災難だ、と言いたいことろだが、悪いのは制服に関する手紙を母親に渡さなかった俺だ、全くもって自業自得としか言いようがない。はいコート、マジで助かった。ありがとう、後で暖かい飲み物奢るから」
「本当に!?ありがとう田村君!」
 一瞬だけ俺の顔の温度が上がったのは気のせいだ。そうに決まってる。
「たかが百円の嘘はつかん!ほら行くぞ!」
 これ以上は色々とヤバそうなので、俺はせかすように教室に向かった。

 校舎の三階、一番奥にある一年七組が俺と唐沢のクラスだ。気休め程度に腕をさすりながら教室に入ったが、そこまで早い時間帯でもないのに人口密度はあまり高くなかった。
 これはうちのクラスだけの話ではなく、学校全体がこの様な状況なのだ。理由は単純で、急な寒暖差で体調を崩した者がかなりの人数出たという事だ。
 しかしこんな状況だというのに暖房をつけようとしない先生たちは、一体何を考えているのだ。規則なのはわかるが、このままではインフルエンザでもないのに学級閉鎖になってしまうのではないか?というレベルまで来ている。

 確かおとといぐらいに、クラスのやんちゃ君が、「集中管理を解いちまえ」と声高々に叫んでいたのだが、叫びすぎて喉がやられたのか、それとも寒暖差のせいかは知らないが、彼も昨日から来ていない。
 いつもなら俺は、他人の欠席など気にしないのだが、今日は訳が違う。
「教室の熱気がなさすぎる」
「なんで?入学してすぐの頃は、うるさいのあんまり好きじゃないって言ってたじゃない」
「そういう意味じゃなくて、教室内の気温の話だ。少しでも人が居た方が暖かいに決まってる」
「相変わらず自分勝手な言い草だね〜」
「なんとでも言え!」
 そんな他愛のない話をしていると、チャイムが鳴った。それと同時に入って来た担任の町田先生は、俺のことを見つけると、メガネの奥でニヤニヤしながら起立を命じた。
「チッ…起立!気をつけ!礼!」
「「「おはようございます」」」
 先生に聞こえないように舌打ちをしながら、俺は学級委員として号令をかけた。
 そもそも学級委員をやるような器ではないのだが、委員会決めで誰も手を挙げず、その日の夕方から始まるアニメの再放送を見る予定だった俺は、ついに学級委員に立候補してしまったのだ。

 ホームルームが終わって授業が始まったが、その日の午前中はあまり記憶に無い。実は昨日撮り溜めていたアニメを消化していたところ、気づいたら日が昇ってしまっていたのである。数時間分の仮眠はとったのだが、どうやら身体は更なる睡眠を望んでいたらしい。
 気がついたら昼だった。あくびをしながら弁当を食べて、唐沢と今期のアニメの話をしていた。普段はお互いオタクであるという事は、周りには出来るだけ隠しているが、今日は教室に居る人数が少ない。
 クラスの位置が校舎の一番奥にあるということもあって、昼時は普段からあまり人は集まらない方なのではあるが、今日は余計に少ない。というか三人しか居ない。
 俺ら以外に唯一教室に居るのは、クラスメイトの名取。確か、下の名前はみおだ。
 彼女は今まで俺が見てきた女性の中で、群を抜いての美人だ。高校生と言うよりかは、『大人の女性』という方が雰囲気は伝わるだろう。
「やっぱ。名取さんって可愛いよねー」
 唐沢お前が言うな。
「でも可愛いというよりは美しいだよね」
「確かに同意見だ…お前の方がかわいい…」
「ん?最後の方なんて言ったの?」
「い、いや、お前と同意見だとしか言ってない!」
「そう?何か最後に言ったように聞こえたけど…気のせいか」
 危ないところだった、ほぼ反射的にというか、気づいたら口走っていた。しかしそんな彼も、名取のことを女性として見ているという事にどこか安心感の様なものを感じてしまう俺であった。

 さて、そんな名取は文武両道、知勇兼備、容姿端麗、才色兼備…この世の中には様々な四字熟語があるが、おそらくこのような意味合いの言葉を書き連ねても足りないくらいだ。
 一学期の成績はオール5で、テストで百点以外の点数は見たことが無い。更に、一年生ながら我が校の生徒会の会長になった人物だ。家は空手の道場らしく、彼女自身も黒帯で、先日街で引ったくりを捕まえて警察と校長に表彰されていたりもした。あとローカルテレビにもちょっと出てた。
 おそらくここまで完璧な人間は、他にはなかなか居ないだろう。少なくとも俺は見たことがない。
 何故そのような完璧な人間がこの様な平凡高である東南高校に来たのか?これは伝え聞いた話なのだが、理由はいたって単純で、家から近いからという、県内一位の偏差値を誇る清明しんみょう高校にも余裕で行けたらしいのだが、遠いからめんどくさいと言って辞めたらしい。

 昼休みの終わりを知らせる予鈴が鳴り、次の時間の数学の準備をしていると、後ろから唐沢が声をかけてきた。
「何やってるの?今日は午後の授業は無くて、生徒会選挙だよ?」
「そうだったのか?」
「そうだよ、朝、町田先生が言ってたじゃない。あっもしかして寝てた?」
「言われた記憶が無いという事は…そういうことだ」
「まったく…ほら!早く体育館に行くよ!」
「お、おう…」

 クラスをまとめ、列を整理するのも学級委員である俺の仕事だ。しかし休みの人数があまりにも多すぎて、誰が居て誰が居ないのかまったくわからない。もう一人の学級委員である鮫島さんも今日は休みだ。
「おい安斎、今日の出席人数は何人だ?」
 先頭に居る出席番号一番の安斎にそう聞くと、安斎は
「ちょうど半分」
と無愛想に答えた。
 ちょうど半分という事はいつもと仕事量は変わらない。しかし、何度人数を数えても一人足りない。名取だ、という事はおそらく後期の生徒会選挙にも立候補したのだろう。

 仕事を終えて、しばらくすると、生徒会長に立候補した人達による所信表明演説が始まった。俺の予想していた通り、一番最初に出て来たのは名取だった。
 こう言ってしまうとあまり良い印象には聞こえないのだが、その姿を見ていると、まるでかの第三帝国総統アドルフ・ヒトラーの演説映像を見ている様な感覚に陥った。
 彼女の演説が終わった頃には、先生達は圧倒され言葉を失い、生徒達は熱狂して一部は指笛や奇声を発していて、彼女の横にいる司会進行の議長団は戸惑いを隠しきれない様子だった。これでは次の会長候補の二人が可哀想である。

 全ての演説が終わり、投票に移る。教室への帰り道では、そこらじゅうから名取と言う声が聞こえていた。
 もはや結果の見えてる投票を終えて、ショートホームルームの時間になった。先生の話を右から左へと流していると、外の花壇の中に黒猫が一匹いる事に気付いた。
 あの位置は学校の裏側で、ほとんど人は来ないため、おそらくあと数十分はあの場所に居るだろう。よし後で唐沢を連れて見に行こう。
 何故唐沢を連れて行くのかと言うと、俺も唐沢も猫が好きで、しかも彼を連れて行くと、どんな動物でも大抵は懐いて来てくれるからだ。

 ホームルームも終わり、学校での一日が終わった。約束通り唐沢に暖かいココアを二本買い、帰りもコートを借りる事にした。
 下駄箱で校舎裏の花壇に黒猫が居るから見に行こうと、唐沢を誘うと、唐沢は快く承諾してくれた。待ってろ黒猫!今行くからな!

 花壇に到着すると、花壇の中から黒猫がひょっこりと顔を出していた。どうやら元々人懐っこい性格の様だ。
 無類の猫好きである俺と唐沢にとって、人懐っこい猫というのは非常に嬉しい。
 スクールバッグから何故か常備している猫用のおやつを出して、黒猫の好感度を上げようとしたが、何故かそっぽを向いて食べようとしない。
 今まで無敗を誇っていた猫用のおやつスティックが、今この場で初めて敗北してしまったのだ。
 どんな猫も飛びつくというおやつが、敗北したという驚き状況に、俺と唐沢は絶句してしまった。

 一時間程度黒猫とじゃれていると、なんの前触れも無く、突然猫が校舎に向かって歩き出した。どこに行くのか気になったので、二人でついていく事にした。
 黒猫はなんの躊躇ちゅうちょもなく校舎に入り、まるで学校の構造を知り尽くしてるとしか思えない様な動きで次々と廊下と階段を進んでいった。放課後なので部活動の生徒を除いて、他の生徒はほとんど居ない。
 しばらく歩いていくと、黒猫は軽やかに階段を昇り始めた。屋上手前の踊り場を曲がると屋上の入り口に、腰まである長い髪をなびかせながら、こちらに向かって振り向く人物がいた。
「名取?!」
「名取さん?!」
「あら?確か同じクラスの田村くんと唐沢くんじゃないの。こんなところでどうしたの?」
「どうしたって、この黒猫を…っていない?!さっきまで居たんだが?」
「あら奇遇ね、私も教室で読書をしていたのだけれども、白猫が突然やって来て、その子についていったら、ここに着いたのだけれども、気がついたらその子もどっか行っちゃったのよね」
 何か妙な違和感を感じる。あり得ない話だが、俺らが遭遇した二匹の猫はまるで人間の様な猫だ。
 その時だった…
「うっ!なんだこれは!空間がゆがんでる?!」
「なんなのこれはっ!」
ど、どうやら名取も同じような感覚になっているらしい。
「どうしたの二人とも!えっ…ええっと…とりあえず僕保健室の先生読んでくるよ!」




 それが最後の記憶。そう、屋上の入り口と階段の踊り場で、名取と俺は謎の歪みに飲み込まれたような…いや実際に飲み込まれたのだろう。そのような感覚に陥ったのだ。しかし、何故かその場に一緒に居たはずの唐沢は今この場に居ない。推測だが、最後に聞いた言葉から推測するに、“歪み”には飲み込まれてないと思われる。

「おい!起きろ!」
少し強めに揺さぶると、名取は目を覚ました。
「ここは…どこ?」
「俺に聞かれてもわからない」
「確か私たちは…学校の階段のところで…」
やはりそうだ、彼女がそう言うのであれば俺の記憶は間違いではないと言う事だ。
 さて、名取が目を覚ましたところで、いったいここはどこだろうか?地元市内にもいくつか山はあるのだが、なんというか雰囲気が違う。
「この木はいったいなんの木なの?見たことない」
 彼女はそう軽くいったが、深掘りすると恐ろしい事に気付く。オール百点を取るような彼女から知らないと言う意味合いの言葉が出てきたという事が何を意味するのか…つばを飲み込み聞いてみる。
「な、名取さんでも知らないようなことってあるんだね」
「“さん”はつけなくていいわ」
「あ、ああ」
 唐沢とかと話すときは“さん”なんてつけてないのだが、言われてみるとドキッとする。
「ねぇ田村くん」
「ん?」
「一応これでも私は学校にある大体の辞典は読み漁ったわ、その中には植物辞典ももちろんあった」
 嫌な予感だ。
「それなのに、この木はまったく見たことない。辞典で見たどの木にも似てないの」
「じゃあここはどこだ?外国?」
「一番可能性があるのはそれね」
 しかしそれらの推測を全てくつがえす答えが、森の中からこちらを覗いていた。

つづく

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