楽しむ異世界生活

フーミン

50話 俺の記憶

……ここは一体どこだ?
 気がつくと、俺は真っ暗な空間にいた。
 あるのは自分の意識のみ。それ以外の体も、息をする口も。ましてや、何を見ているのかさえ分からない。ただ、俺はいま真っ暗な空間にいる。
 俺が覚えているのは、家でベッドに横になって眠っただけだ。


「俺……死んだのか?」


そう声に出せたのか分からないが、喋る。
 しかし、そんな声に返事をする人も何もいない。
 俺はただ真っ暗な無の空間を、ずっと漂い続けた。


 あれからどれだけの時間が経過しただろうか。突然、闇の中に白い何かが見えた気がした。
 しかし、それもすぐに闇の中へと消えていった。


「なんなんだよ……俺は一体何をしたら良いんだよっ!
 おいっ!! 誰か!! 誰かいないのか!?」


誰も返事をするはずもないのに、俺は延々と叫びつづけた。
 ふと、体が何かに吸い寄せられる感覚がやってきた。


「なっ、なんだ?」


俺には理解できるはずもなく。だんだん意識が遠のいてきた。


ーーー


「…………」


目を覚ますと、どこか懐かしい雰囲気の、全く知らない天井があった。


「レムッッ!! お前! やっと目覚ましやがった!
 ……心配かけやがって……」


横を見ると、知らない男性が泣いていた。
 なんだここは……それにこの男の人は剣を持っている。


「……だえ……」


!? 声が出ない!?


「無理するな……お前は10年間眠ってたんだ。
 ゆっくり休むといい……」


10年も眠っただけで、こんな知らない場所にいるはずがないだろう。


『レム様……私のこと分かりますか?』


うわぁっ!?
 突然脳内に声が響く。


『そう驚くのも無理はないです。
 私はレイン。レム様にレインと名付けられました』


レム様? 違う、俺の名前は……あれ?思い出せない。


『ここは、異世界です。
 レム様は25年前に、この世界に転生してきました』


それから、レインという謎の声に、これまでの出来事を長々と聞かされた。
 俺の体は、動かそうと思っても動けない。
 10年眠っていた影響だろうか。


『つまり俺は…………レムという体に新しく入ってきたのか?』


前まで存在していたレムとは、俺とは違う人物。
 そこに突然、俺が入ったのだろうか。


『いえ。レム様が転生して、それまでに過ごしてた記憶が。10年間眠った影響で無くなっているだけです。
 貴方は、紛れもないレム様です』


俺が……レム。
 自然とそう呼ばれることに違和感はない。
 本当に、前から俺は異世界で生活していたのか。


俺は、記憶を失っているのか。


『その記憶を、戻す方法はあるのか?』
『これまでの人生の視界を、見ることで戻ります。
 《時空旅行》というスキルを使用しながら見せますが。どうします?』
『頼む……レイン』


俺は、もう一度深い眠りに入った。


ーーー


「レム姉が起きたって本当!?」
「ああっ! 目を開けて声を出そうとしていた!
 だが、また眠ってしまった……」
「レム姉……」


私は、ケルミア。
 小さい頃、レム姉と一緒に過ごして、本当の家族のような存在だった。そんなレム姉が、宿屋で長い眠りについて10年。
 私は、冒険者の仕事をしながら、レム姉が目を覚ますのを、ずっと待っていた。
 そんなレム姉が目を覚ました? それを聞いたら、レム姉に会わなきゃいけないじゃない。でも、レム姉はまた眠っていた。
 レム姉は大天使化したまま眠っている。少しずつ回復していってるのだと思う。


「レム姉……私、ずっと待ってるから!」


レム姉の手を握って、声をかける。
 ほんの少し、笑った気がする。


ーーー


俺は、15年分の映像を見せられた。
 あまりにも長い映像だった。しかし、それでも楽しめた。
 これは俺が経験した人生の15年。ほとんどの記憶が戻り、俺は目を覚ました。


 横を見ると、アキヒトとケルミアが眠っていた。
 窓の外を見ると夜だ。


『レイン。《時空旅行》で二人が起きる時間まで進めてくれ』
『分かりました』


あっという間に日が登り。アキヒトとケルミアが、俺が起きている事に気がつく。


「レム姉っ!!」
「大きくなったね……ケルミア……」


聞こえるか聞こえないかの声で、ケルミアに声をかける。
 俺は今、25歳。人生の10年間を無駄にした。


「レム……。お前……心配かけやがって……」
「悪かったな……」
「はっ……。変わらねぇなぁ……お前は」


アキヒトとケルミアは、泣きながら俺の手を握る。


「温かい……」


久しぶりに人の温もりを感じた。



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