楽しむ異世界生活

フーミン

47話 魔物討伐

ケルミアが死んだ魚のように横になっている。
 レインによる鬼畜な訓練で、死の恐怖やら見えない何かに襲われる恐怖を叩き込まれて、今現在それから開放されたばかり。
 ただボーッとしていられる事の幸せを身に染みて感じているようだ。
 俺とケルミアは、しばらく部屋でボーッとしていた。


「……レム姉……」
「ん?」
「明日もこの訓練するの……?」
「ケルミアが良いならするけど」
「嫌だ!! もっと楽しい訓練が良い!!」


この世の終わりが迫っているというような顔で俺に訴えかけるケルミアの顔は、訓練前とは全く違った雰囲気だった。


「楽しい訓練ねぇ〜。それで強くなれるんなら良いけど……」
『魔物を討伐すると、対魔レベルというが上がります。
 対魔レベルが上がると、魔物に対する恐怖耐性や身体能力。魔力量が上がります。
 まずは魔物に対する恐怖を克服して、対魔レベルというのを上げた方が良いでしょう』


対魔レベルって、RPGみたいだな。


『それって、どういう原理なの?』
『野生の魔物を討伐すると、討伐者の体に魔物の魂が入ります。
 魂といっても、魔素と似たような物です。
 それが体に入ることによって、討伐者の生命力が上がります。
 それか対魔レベルです』


なるほどね……対魔レベルが上がると魔物に対する恐怖にも耐性がついて、ついでに魔力も増えると。


『他には何かないの?』
『自分より対魔レベルの低い魔物が、怯えるようになります』
『え? 魔物にも対魔レベルってあるの?』
『魔物同士争うことだってありますよ。弱肉強食です』


そうなのか。
 じゃあ無理矢理魔物に対する恐怖を克服するよりも、野生の弱い魔物を少しずつ倒して対魔レベルを上げた方が早いのか。


『……なんでそれを最初に言わなかった』
『なんでもかんでも私が言ってしまえば、レム様は私に操られてることになります。
 スキルはそういうところも考えて、必要な時に必要な事を言うものです』


はぁ〜……そうそう、レインはスキルだもんな……。
 とりあえずこの事をケルミアに伝えたら、少しは元気になるだろう。


「ケルミア、魔物討伐の依頼受けに行こっか」
「えっ!? 大丈夫なの?」
「大丈夫大丈夫。やっぱり実戦が大事だよ」
「えぇ〜……」


いまだに立ち直れないケルミアを、引きずりながら宿屋を出てギルドへ向かう。
 とりあえず対魔レベルが低そうなホーンラビットの駆除でも良いか。他の魔物より恐怖は感じないだろうし。
 ギルドの掲示板から、ホーンラビットの駆除を探し出して依頼を受ける。
 報酬は10銅貨。あまり危険じゃないからこの安いのだろう。
 目的地は街を出て真っ直ぐ向かった森。名前も場所も知らないから、仕方なく歩いていくことにした。


「街の外ってこうなってるんだね」
「ね。いままで転移ばっかりしてたから初めて見るよ」


街の外はただの広い草原だ。岩が突き出てたりする場所があったり、動物達が走ってたりする。
 下に、草が無くなって出来た道がある。この道を辿っていけば森につくのだろう。


「ケルミア。一気に走っていくからおんぶするよ」
「は〜い」


ケルミアを背中に乗せて、道の上を走る。
 身体強化した状態で走ると、全速力の自転車程早く走れる。
 体力は、レインが勝手に魔法で回復してくれる。魔力を持ったスキルは便利だな。


 しばらく走っていると、暗い森に辿りついた。予想以上の暗さに、ビクビクしながら森の中へと入っていく。
 俺、実は怖いところ苦手なんだよね。


「あっ! あれホーンラビットじゃない?」


ケルミアがさっそく何かを見つけたようで、遠くを指さしている。
 よく見えないが、集中すると何か小さな動物が見えてきた。
 名前の通り、ウサギに角が生えた生き物だ。


「あれ……なんかこっちに凄い勢いで走ってきてるんだけど……気のせいかな」
「気のせいじゃないみたい……」


どうやらホーンラビットは怒っている様子。
 少しだけ恐怖心はあるが、ゴキブリよりはマシな感じだ。
 走ってくるホーンラビット目掛けて、魔法で生成した氷の矢を飛ばす。
 あっさりと貫通して倒すことができた。


『対魔レベルが少し上がりましたね。
この調子で倒していけば、ゴブリンなんかにも恐怖心を感じなくなりますよ』
『そうなるためには、ホーンラビット何匹倒したら良いの?』
『あの29匹くらいですね』


つまりゴブリンはホーンラビット30匹分の対魔レベルということか。
 いや、それぞれの個体によって対魔レベルは違うかもしれないし、余分に倒しといても大丈夫だろう。ケルミアも対魔レベルを上げないといけないしな。
 それから俺とケルミアは、見つけたホーンラビットを片っ端から倒していった。
 時には剣で。時には魔法で倒していく。


「ふぅ……軽く100匹は倒したかな?」
『レム様が63匹で、ケルミアちゃんが48匹ですね』
「ケルミア、魔法使えるようになってきたね」
「う、うん……あの特訓のお陰で……」


レインがケルミアの体に入って、無理矢理魔法のイメージ方法や魔力操作を脳内にねじ込んだんだっけ。
 すまなかった、ケルミア。


『依頼内容はホーンラビットを20匹駆除だったので、そんなに倒しても報酬は1銅貨ですよ』


そうだな。何回かに分けて依頼を受ければ良かったな。まあ10銅貨くらいすぐに集まるだろう。


「それじゃあ、ギルドに報告した後はゴブリン討伐の依頼を受けようか」
「今の私なら行けそうな気がする!」


ホーンラビットの森から、ギルドへ転移して依頼を報告。しっかりと10銅貨を貰った。
 魔物の討伐数は冒険者カードが勝手にカウントしてくれてるようだ。
 次にゴブリン討伐の依頼を受けて、ホーンラビットの森へと転移する。


「確かゴブリンは森の奥の方に行ったら会えるみたいだね」


俺とケルミアは、ゆっくりと歩きながらホーンラビットを倒しつつ森の奥へ進んでいった。
 ほとんどのホーンラビットは逃げるようになったが、逃げる前に魔法に貫かれている。
 しばらく森を進んでいると、なにやら明るい場所へとついた。


『木が少なくなっていますね。
ゴブリン達がこの周辺に拠点を作っている可能性があります。警戒して進んでください』
「ケルミア、この近くにゴブリンがいるかもしれないから近くによって」
「はい」


木が切り倒されていて、日の光が差し込んでいる。臭い獣の臭いも漂ってきた。
 ケルミアの鼻には辛いのだろう、鼻をつまんでいる。


『前方100m先にゴブリンの拠点を感知しましたん』
『流石レイン。ありがとう』


100m先にゴブリン達がいるらしいので、慎重に気配を殺して進む。
 しばらく進んでいくと、木や枝。獣の革で出来た家が並んでいる場所へついた。周りにはゴブリン達が大勢いた。
 俺とケルミアは草影に隠れて、様子を伺っていたのだが……


「グギーーッ!!」


後ろにゴブリンがいたようで、さっそく発見された。
 声を出したゴブリンをすぐに殺したのだが、周りのゴブリンにも気づかれてしまったので仕方なく堂々と戦うことにした。


「ケルミア、ちゃんと僕の傍で戦うんだよ」
「分かった!」


2人は剣を構えて、ゴブリンが襲ってくるのを待つ。
 しかしいくら経っても襲ってくる気配がない。


『対魔レベルがレム様達の方が高いので、襲ってこないのだと思われます』


ホーンラビットの殺しすぎか……。
 仕方ない。依頼内容のゴブリン10体だけを倒して帰るか。


「ケルミア、どうやら僕達の方が強くなっているみたいだから10体だけ倒して帰ろうか」
「えぇ〜! ここまで歩いてきたのに10体だけ?」
「襲ってこない魔物を殺すのは心が痛いよ……」
「分かった……」


一先ず、強そうなゴブリンを10程氷の矢で倒して、ケルミアと共にギルドに転移した。
 次からは俺達にあった魔物を倒さないとな……。
 報酬の50銅貨を受け取って、掲示板の前で悩み続ける俺達であった。

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