楽しむ異世界生活

フーミン

30話 生きる幸せ

「ありがとうございます! ありがとうございます!」


職員達は、涙ながらに男に感謝していた。


「いえ……もう少し早く来ていれば、助かった命もあったのに……」
「でも! 勇者様がこなかったらもっと多くの命が奪われていましたっ!
 助けて下さりありがとうございます……!」


その男は勇者様と呼ばれている。
 職員達は亡くなった生徒達が横になって寝ているのを見て、涙を流している。


「それにしても……なぜこの女の子だけ無傷だったんでしょう……」


勇者が不思議に思ったのはそこだった。
 黒い髪のショートヘアの女の子。獣人族の女の子を庇いながら気を失っていた。
 勇者が駆けつけた時、ガーゴイルはこの女の子にだけ攻撃をしていなかった。


「魔物に襲われない少女……。不思議だと思いませんか?」
「この子は……レムちゃんですね。
特に変わった様子もない、真面目で優しい生徒です」


勇者は、レムという女子生徒に興味を示した。


ーーー


レムは、気づくと白い空間の中にいた。
 この世界に転生してきた時と同じ感覚。精神世界だ。


「なんで……またここに? 俺は死んだのか? ケルミアは……?」


俺はケルミアを守れなかった、という後悔に酷く心が痛くなった。
 精神世界に体はないというのに、痛みを感じる。涙がでない辛さが、苦しみが込み上げてくる。
 すると、懐かしい声が聞こえてきた。


「貴方も、ケルミアちゃんも生きてますよ」


生きてる。その言葉に俺の心は、ゆっくりと落ち着きを取り戻した。


「じゃ、じゃあなんで俺はここに?」
「転生者というのは、普通その世界を平和にする為に生まれるのです。
 しかし、貴方の少ない努力と能力だと世界を救う前に死んでしまう、力不足です。
 そこで更に能力を与える為にも、命を救いました」


いままで俺は沢山努力した。しかし、それでも少ない努力というとは何様なのだろうか。
 確かに、俺は周りの平均に合わせて魔法を覚えたり制御したりしてきた。俺は平和に楽しく行きたい。


「なぁ……俺は世界を救わないといけないのか?
 皆と同じように生きることは…できないのか?」
「できますよ。強い力を持ったとしても、貴方が願うとおりに皆と同じ生活はできます」
「本当にか? ……じゃあ俺はこれからどうしたら良い」
「常に本気で生きなさい。
力の制御なんてのは、必要ありません。本気で生きて本気で笑っていれば、良いのです」


あぁそうか……。俺は今気づいたよ。
 1人孤独に生きて、本気で笑うこともしなかった俺は。自然と前世と同じように生きていたんだな。


「なぁ、アンタは一体誰なんだ?」
「そうですね。『神』でしょうか」
「神様か……。さっき俺に力不足って言ったよな。
 俺にまた何か能力をくれるのか?」
「ええ、それも残念な貴方の為に最高の能力をプレゼントします。
 もったいぶらずにどんどん使っていきましょう」


神様と話してると、自然と笑顔になるな。
 我慢するなってか。分かったよ、俺は次こそ本気で生きていく。


「またいつか会えると良いねーーねーーねーー……」


エコーと共に、俺の意識は元の世界へと帰っていく。


ーーー


「ーー……ム…姉ちゃ…は無事なの?」
「ああ、無事だ。いつ目を覚ますかは分からないが、安心しろ」


聞きなれたケルミアとアキヒトの声が聞こえる。


「……ん……ケルミアいる?」
「!! レムお姉ちゃんっ!!」


ケルミアの名前を呼ぶと、凄い勢いで抱きついてきた。
 ははは……生きてるって幸せだな。

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