楽しむ異世界生活

フーミン

12話 学園へと

 明日の昼までに時間はある。
現在日が沈み始めてきた頃、俺はレインに教えてもらったトレーニング方法。
 《幻想空間》という、夢の中に意識を移して剣術や魔法の訓練ができるスキルを獲得した。
 家ではベッドで寝ているように見えるが、夢の中で金髪でメイド服を着たレインと、執事服を着ている人型のネロと戦闘訓練をしている。


 ルールは簡単、2人が戦って1人は休憩。
 剣や魔法どちらかが体に当たれば休憩している人と交代。
 勿論、夢の中なので痛みは感じない。
 得られるのは知識と技術。レインは思考補助スキルなだけあって剣術は俺とネロより圧倒的に強かった。
 そして魔法は魔族猫であるネロが強かった。
 最強の剣士と最強の魔法使いから、受ける訓練は、一般的な訓練より圧倒的に成長効率が良い。
 夢の中でスキルを獲得することはできないが、持っているスキルを使用することはできる。
 なんだかんだで、次の日の朝までトレーニングは続いた。


 現実世界では、ずっと寝ていたことになるので万全の状態。
 疲れずにトレーニングができるなんて、最高じゃないか。
 新しいスキルを獲得したら、そこで用途を考えることも出来る。


『昼までまだ時間があります。準備をした後はどうします?』
「ん〜……。髪が長くなったし切りたいよね」


 学校に行く覚悟を決めるためにも、長く伸びた髪をバッサリと切ろう。
 なんて鏡に写る自分の髪を眺めていると、部屋に母が入ってきた。


「……何それ……」
「何って制服よ? 
レムが行くのは 『ウォーデンスブル学園』っていう場所でね。そこでは授業を受ける時、制服を着てないとダメなのよ。授業以外は自由よ」


といっても、黒がベースに白い線の入ったブレザーに、白がベースの黒い線が入ったスカートって。
 スカートなんて人生初だぞ?


「レムなら似合うわよ」
「あっ、うん……」
「下着と普段着いくつか置いておくから、ちゃんと準備済ませてね」


そういって母は部屋から出ていった。
 いますぐ着替えろということだろう。


『着替える前に髪を切った方が良いですよ』


だな。
 俺は切りやすいように、一度ゴムで後ろに結んで、愛用の白い剣で切る。
 後ろにまとめたので、前髪が長く、後ろ髪が短いショートカットになった。


「ん〜……変じゃないかな〜……?」


鏡を見ながら、頬にかかる髪をくるくるといじる。


「レムだから似合ってるよ」


猫の姿のネロが頭の上にピョンと乗ってイケメン発言。


「ネロが言うなら良いか」
『わ、私も! レム様似合ってますよ!』


ネロの方が気がきくな。
 切った髪はゴムでまとめられていて散らかることはない。
 そして、渋々制服を着る。


「ボタンの止める場所違うよ」
「あっ」


そんなこんなで、自分より大きめの制服を着た。
 と思ったら、最後のボタンを止めた瞬間、体の魔力が制服に行き渡り、俺にピッタリのサイズになった。


『ほぉ! 使用者にサイズを合わせてくれる魔道具が埋め込まれてますね。多分ボタンでしょう。
 ついでに防御効果もあるようです』


確かに、鎧の代わりにはなりそうだ。
 俺はネロを頭に乗せたまま、両親に姿を見せるため1階に降りた。
 二人ともソワソワしてたのか、部屋をウロチョロしてたが、俺の姿を見ると目を見開いて駆け寄ってきた。


「似合ってるじゃないかっ!! それに髪も切ったのか!? 切った髪はどこだ!? 家で保管する!」
「可愛い!! あぁっ……! この可愛い娘をどうにかして形に残せないかしらっ!」


 前世では写真というのがあったが、この世界には無いので思い出を残すということはできない。
 それに父が、俺の髪を保管したいとか言ってたな。
 不思議なフェチなもんだ。


 俺は2人に抱きしめられて、「あはは…」と苦笑する。
 

「もうすぐ学校に行っちゃうのね……」
「寂しくなるな……」
「大丈夫だよ。余裕が出来てきた頃に、転移して顔を見せに来るから」
「友達を作ってから来なさい」


頭を撫でられながらそう言われる。


「じゃあ、準備してくるから。あ、父さん。切った髪持ってきた方が良い?」
「ははっ……あれは冗談だぞ?」
「まあまあ。持ってくるよ」


俺は部屋に戻って、白剣を腰に装着し。父にもらったローブを制服の上から着る。
 母が服を置いていく時に、大きなリュックも置いてあったので、それに服を詰め込み、パンパンになったリュックを背負う。
 ズンッと背中が重くなったが、身体強化で楽に持てるようになった。
 切った髪を片手に、1階へと降りる。


「おっ、持ってきたな」


父は髪を見るとニヤッと笑って近づいてきた。
 前世だったら捕まっていただろう。


「それじゃ。レムの13歳最後の昼食を食べましょう」


俺13歳だったのか。
 今更そんな事を思いつつ、リュックを床に置いてテーブルにあるシチューとパンを食べる。


 残さずしっかりと食べ終える。
後は学校に行くだけだな。


「あっ、そうそう忘れてた。学校についたら門番さんがいるから、このカードを見せるんだ。学生証明証だからな」


そういって、魔力の感じるカードをブレザーの胸ポケットに入れられる。
 これで準備は完璧だろう。


俺はリュックを背負って、玄関から外に出る。


「レム。最後に……」


母が俺の身長に合わせて両手を広げている。
 母と抱き合い。「頑張ってね」と声をかけられた。


「俺にも……」


父とも抱き合った。父は何も言わずに頭を撫でてくれた。


「それじゃあ。お父さんもお母さんも元気で」
「レムこそ、もし何かトラブルに巻き込まれたらすぐに転移して帰ってきなさい」
「頑張れよ」


そして俺は両親に手を振って、ウォーデンスブル学園へと転移した。


「行ってきます」

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