楽しむ異世界生活

フーミン

6話 泥棒

 その後、父と冒険者達は雑談を始めた。
 俺は暇なので、酒場の隅っこの方に座って、レインと会話していた。


『暇ですねぇ……』
』そうだな。魔法が使えるなら色んな暇潰しができるかと思ってたが、することないな』
『眠ります?』
『そうするか……。何かあったら起こしてくれよ』
『任せてください!』


ローブを深く被り、俺は眠りについた。


ーーー


ーー様! レム様!起きてください!!』
「ん……んん?」


レインに起こされて、眠い目を擦って起き上がる。
 酒場の中には、さっきまでワイワイしていた冒険者達。それに対峙するように立っている二人の青年と、青年に剣を突きつけられている1人の男の子。
 青年の方は街で見た泥棒だろう。


「持っている金全部出さねぇとコイツを殺す!」


おやおや、とんでもない事になっているようだ。
 俺はしばらく、その光景を見ていることにした。


「おい。そんな事はやめないか? しっかり働けば金は手に入るぞ?」
「うるせぇ! 良いから金をよこせ! さもないと……」


青年の1人が、男の子の頬に剣を当てて押し付ける。
 タラーッと血が流れて、男の子は涙を流して喚いているが、もう一人の青年に口を抑えられている。


「不自然な行動をしたら、コイツの首を切る。すぐに金を出せ」
「……くっ……」


さてどうなるのだろうか。


『レム様、このままだと男の子は殺されてしまいます。もし金を差し出しても男の子を殺すでしょう。どうにかして助けましょう』


そう言われてもな。俺に今出来ることといったら、魔法を飛ばして青年を殺すか。俺が変わりに人質になって、隙を見つけて殺すかだな。
 剣さえ持っていれば、選択肢はあっただろうが。
 不自然な動きをしたら駄目だ。
 選択肢を作らねば……。


『地面から魔力を伝わせて、青年の持っている剣を操ることができますが、どうします?』
『それができるなら最初から言ってくれ。しかしどうやるんだ?』
『そこは私にお任せ下さい』


《遠隔操作スキルを獲得しました》
《レインによる自動行動が発動しました》


突然、体が勝手に動き始めて、魔力を地面に通す。
 レインがやっているのだろう。
 青年が持っている剣を見ていると、だんだん男の子から離れていっている。


「なっ、なんだ!? 剣が勝手に……!」


だんだんと青年の首の方へと剣先が向かっている。


「くっ、くそっ!なんだよこれ!! ひっ、ひぃっ!!」


後ろに倒れながも、剣は首元へと向かっている。
 周りの冒険者も、もう1人の青年も、何が起きているのか分からずに青年をただ見ていた。


「たっ、助けてくれぇっ!!」


傍からみると、剣を自分の首に突き立てているようにしか見えないだろう。


『レイン。そこまでで良いぞ』


そう念じると、剣は地面へ落ちて、青年は顔からも股からも液体を流している。


『殺さなくて良かったのですか?』
『そこまでする必要はないだろう』


 倒れている青年は、恐怖に戦意喪失したのかガクガクと震えている。
 あとはもう片方の青年がどう動くかだな。


「おい相棒! 何してんだ!」
「あ……俺ぁ…もう嫌だ……逃げ、逃げるぞ!」
「なっ! おいちょっ待てよ!! …………」


青年が1人になった事で、冒険者達が有利になった。
 剣は地面に落ちている。


「さてと……。何があったか知らねぇが。これまで犯した罪を償ってもらおうか」


父ルーデルがそういうと、冒険者達が青年を捕まえて酒場の外へと連れ出した。
 男の子は無事のようだ。


『一件落着ですね。しかし、冒険者の中に私達の動きを見ていた物が1人いました』
『? ほとんど動いてなかったと思うが?』
『多分魔眼持ちでしょう。魔力の流れを見ることができるのです』
『へぇ。そりゃ便利だな。んで、その冒険者ってのはどいつだ?』
『あそこにいるローブを着た小さい子です』


 子供? それにあまり凄そうには見えないな。
 話しかけてみるか。



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