魔王LIFE

フーミン

62話 魔王LIFE

「またどこかに行っちゃったりしないよね……? 家にいるよね? お兄ちゃん……」
「……大丈夫。絶対にいなくならないよ」


そう言い切れる保証は無い。それでも、そう言わないと駄目な気がした。
もし俺がどこか遠くに言ったとしても、この世界にいる限り一瞬で帰ってこれる。心配する事は何も無いのに、帰ってこれなくなるような気がしてならない。


「お父さんに電話するね……あの人、一番ハルトの事心配してたから」


俺の父さんは普通の会社員。厳しくて優しい父さんは、家族に弱いところを見せたがらない。
それを一番分かってる母さんは、ニコニコと嬉しそうに電話していた。


「ねぇお兄ちゃん」
「何?」
「事故の後……どこに行ってたの?」
「……多分、言っても信じられないと思う」


事故で死んだ後、異世界で生を受けた。実質俺の前世は本当に死んでいる。
今の俺は、ただハルトの姿をした別人に過ぎない。


「お兄ちゃん……昔から自分の事を話そうとしないよね」
「……そうだな」
「でも、帰ってきてくれて良かった……それで、私気づいたの」
「気づいた……?」
「私……お兄ちゃんの事が好き。お兄ちゃんと離れたくない。ずっと一緒に居たい……」


俺の事が……好き……。


「家族なんだから……一緒に居られるだろ」
「……約束だよ?」
「ああ、約束」


もう1度妹を抱きしめた。これ以上家族に心配かけられない。


「良い匂い……お兄ちゃんじゃないみたい」


そうだな、今の俺はハルトじゃなくてルト。ハルトの生まれ変わりだ。
でも、そんな事を言えるはずもなく。ただ抱きしめる事しかできなかった。


「ハルト。お父さんが代われって」
「分かった」


久しぶりに父さんと話すな。


『おうハルト。元気にしてたか』
「父さん……」


優しい父の声。電話越しに伝わる父の温かさに、また泣きそうになった。


「心配かけてごめん……」
『謝んな。お前にも帰ってこれなかった事情があるんだろ? 父さんからお前に言う言葉は、"帰ってきてくれてありがとう" だ』
「……ただいま」
『おかえり。ハルト』


温かい。家族といると、悩みだとか心配だとかがスーッと消えていく。魔法みたいに心が安らぐ。


父との電話も終えて、久しぶりに自分の部屋に来た。


「お兄ちゃんがいつでも帰ってこれるように、何も触ってないんだよ」
「ははっ……埃だらけじゃねぇか」


それでも、俺の生活の後がハッキリと残っている。
寝床。テーブル。漫画。財布。人形。恥ずかしいくらいに、自分の性格が現れていた。


「片付け、手伝おうか?」
「いや……自分で片付けるよ」
「じゃあ私はお母さんと一緒に居るね」


妹が部屋から出ていくと、俺は埃だらけの部屋で掃除を始めた。
こんな部屋も、魔法を使えば一瞬で綺麗になる。それでも今は魔法を使いたくない。俺はハルト。魔法も何も出来ないダメな男だ。自分の手で綺麗にしないとな。


ーーーーー


「あ、お兄ちゃん埃だらけ〜」
「お風呂湧いてるわよ」


掃除が終わってリビングに行くと、母と妹が夕食を作っていた。


「ハルカ、手伝いできるようになったのか」
「わ、私だって前からやろうと思えば出来たし!」
「早くお風呂入ってきなさい」
「はい」


そんな懐かしい、いつもの生活が俺は凄く嬉しかった。


ーーーーー


「父さんおかえり」
「ハルト、おかえり。ただいま」
「もう夕食食べてるわよ」


夕食を食べている時に父が帰ってきた。


「ハルト。これお前の為に買ってきた」


そういってテーブルの上に置かれたのは、袋に入ったケーキだった。


「この前誕生日だっただろ」
「あぁ……そっか」
「お兄ちゃん自分の誕生日も忘れたの!?」
「忘れてた」


日付なんて気にしてもいなかったな。


その日、いつもの夕食の後に俺の小さな誕生日パーティーが開かれた。
苺ケーキにロウソクを刺して火をつける。電気を消して俺が火を吹き消す。
俺1人じゃ食べきれないから、妹と一緒に食べた。


その後、家族4人で仲良く話した。普段話すような家族じゃないけど、この日は特別な日だ。


いつもの俺の部屋に戻る。今日はここで寝るんだ。
電気を消してベッドに横になる。ポケットに入れてるスマホを開いて、チュイッターを見る。
そこには、『魔法』『異世界』『勇者』 なんていうワードが溢れかえっていて、俺は非現実的だな。と笑った。


どんなに自分が望む人生を送りたいと思っても、結局は何気ない家族との生活が一番の幸せだと気づけた。
異世界で魔王をしていても、幸せな生活を送れる俺は本当の意味で、世界一幸せな男。だろう。


これが俺の魔王LIFE……か。

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