魔王LIFE

フーミン

41話 準々決勝

「あ、勝負が着いたわ」
「早いな」


魔眼で見ていたチヒロは、姿勢を正した。


「カグラの負けね」
「ん……?」


砂埃が無くなっていき、その場に立っているのはポーラ。カグラはその場に倒れている。


「何が起きたの?」
「……自分で考えなさい」
「ちょっと! ルト様に失礼ですよ!」


リアンも話に入ってきた。
ㅤどうやら俺と同じく何が起きたのか分かっていないようだ。


「はぁ……簡単に言うとポーラは隠し技を持っているって事」
「そ、そうなんだ」


それだけじゃよく分からないな。


『勝者! ポーラ!!』


観客達も、試合の内容が分からずに無言で拍手をしていた。
ㅤカグラは戦闘不能、気を失っている。それだけ凄い技を持っているという事だろう。


「次の試合が始まるわよ」


ーーーーー


それから、どんどんトーナメントが進んでいった。
ㅤリアンも何とか勝ち続いている。チヒロが戦う試合はシンプルでつまらなかった。
ㅤただ攻撃して避けて武器を奪う。まあ手の内を知られない為だろう。


ㅤ俺も順調に勝ち進んでいき、3人とも無事だ。


「このまま決勝に行けるといいね」
「そうですね……段々強い人と当たる事も多くなってきましたし。次の試合までが早いので休む暇が……」


リアンはかなり疲れているようで、肩で息をしている。


『次の試合で、準決勝に上がれる人が決まります。しばらくの休憩時間を取りましょう。鐘の音が鳴ったら集まってください』
「やっと休めるぅ……」


リアンが俺の膝に頭を乗せて休み始めた。
ㅤ俺も少しだけ眠くなってきたな。ここでリアンと一緒に寝るか。
ㅤ座ったまま目を閉じた。無警戒かもしれないが、攻撃されても大丈夫なように敵意を感じたら起きるようにした。


ーーーーー


「ほら、鐘の音が鳴ったわよ」
「……」
「……」
「起きなさい!」
「んっ……あ、おはよう」


チヒロに体を揺すられて目を覚ました。既に客席には人が集まっている。


「もう鐘の音にも気付かないなんて……」
「鳴ったんだ……リアン起きろ〜」
「あと少し〜……」


はぁ……そういやトーナメントバトルしてたんだったな。
ㅤ意外に座ったままでも寝心地が良くて疲れが吹っ飛んだな。


ㅤグッ、と背伸びをすると、後ろに何か落ちる音がした。振り返って確認すると、白い布。


「これ……チヒロが?」
「そうよ。感謝しなさい」
「あ、ありがとう」


優しい一面もあるんだな、と感心した。


『いよいよ準々決勝! この試合では、ここまで勝ち残ってきた選手全員が場に出て戦って頂きます!』
「「おおぉっ!」」


全員で戦うのか。


『最後まで生き残った4人で、準決勝。そして2人になった時点で一度休憩を取ります』


なるほど。


『では、生き残った16人の皆さん前に出てください!』
「行くわよ」
「リアン、行くよ」
「ふぇ……?」


リアンが起きそうにない。仕方なく肩に担いで場に飛び降りると、衝撃で 「グエッ」 って変な声を上げてバタバタと暴れた。


「お、起きますからぁ〜」
「なら最初から起きて」


その場に立たせて、場に集まった人達を見渡す。
ㅤ皆、俺とリアンの方を見ている。最初にこちらを狙ってくるのだろう。チヒロは少し離れたところで集まった選手達を眺めている。


「最初は余計な体力は使わずに、人数が減るのを待とう」
「そうですね。ルト様の能力なら攻撃も受けませんし」


それはチート技能の事を言っているのだろう。


「あれはズルいから使わないよ」
「そうなんですか?」
「まあ、見てなって」


本当はリアンも敵として戦わなければならないのだが、目の前の女達は全員協力して俺を狙ってくる。
ㅤ決勝ではチヒロかリアンと戦うつもりだし、先に脱落されては困るからな。


『準々決勝……始め!』


一斉に俺とリアンの方へ走ってくる女性達。観客の歓声がうるさい中、俺はリアンに聞こえるように耳元で喋る。


「ずっと私に触れてて」
「分かりました」


リアンが俺の手を握る。
ㅤ俺がある技能を使うと、目の前の女性達の動きが止まった。
ㅤそして周囲をキョロキョロと見渡している。


「な、なんですかこれ」
「透明化だよ」


最初の方に貰った技能。《透明化》。
ㅤ本当は覗き目的に手に入れた技能だけど、女になった俺にはこの使い方しかない。
ㅤ姿が見えないとなると、探す方法は音しかない。しかし観客達の声で全ての音が打ち消される。ほぼ見つける手段はない。


「うわっっ! っと……あっぶねぇ〜……」


目の前の女性の1人が、俺がいるであろう場所を予測して氷の刃物を大量に飛ばしてきた。
ㅤなんとかリアンを抱えて、上へと逃げたがかなり危なかった。


「わぁ……高い」


とりあえずは、上空で眺めてた方が安全だろう。
ㅤ白い翼を生やして、しばらく滞空する事にした。
ㅤこの技を使うのもこの世界に来た時以来だな。


ㅤ下ではチヒロが女達から次々と武器を奪っている。


「すぐに終わりそうだね」
「ですね」


ㅤしかし、脱落者が次々と出ている状況に危機感を覚えたのか、数名は本気を出し始めた。
ㅤそのせいでチヒロも若干押されつつある。


ㅤ女の集団ほど怖いものはないな……。

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