魔王LIFE

フーミン

37話 絶対に解けない問題

イベントが明日開催される為、俺はイベント会場の見学に来ている。
ㅤ城下町大広場、そこに大きなステージと観客席がある。サハルが魔法で作ったのだろう。
ㅤ既に広場周辺には国民達がワイワイと集まって会話していた。他の女性参加者も気合を入れて見学に来ている。


「なんとしても優勝しないとな」


危険な優勝景品が無くなった今、俺はリアンに教えてもらった技術を最大限に引き出して優勝する必要がある。
ㅤ《世界の神》とかいうチート技能は使わない。俺は自分の力でどうにかしたいんだ。……いや、その技能も俺の力なんだけれども。


「あの……もしかしてルト様ですか?」
「んっ?」


背後から声をかけられ振り向くと、そこには懐かしい人物がいた。


「も、もしかしてミソラさん!?」
「やっぱり! 覚えてくれてたんですね!」


ミソラさん。ミシェルの友人のイシールさんの嫁だ。
ㅤこの世界に来て初めて出会った元日本人だ。忘れるはずがない。


「元気にしてた!?」
「はい! 最初この国に来た時は辛かったですが……段々と充実した生活に変わって、夫のイシールの支えもあり……子供が」


左手で触れるお腹は、ぽっこりと膨らんでいた。
ㅤミソラさんも子供産むんだな……ってことはやっぱり、そういう行為はしたって事か。


「おめでとうございます!」
「ありがとうございます! 今日ルト様は会場の下見ですか?」
「まあそんな感じ。事前に雰囲気を知ってないと本番で緊張しちゃうからね」
「本番は全国民が来るかもですから、もっと緊張しそうですね!」
「あはは……ま、なんとかなると思うよ」


ミソラさんは子供が出来てるから参加はしないのか。イシールさんと一緒に見るんだろうな。
ㅤしっかし……女性で子供が出来るとこんなにも変わるもんなんだな。大人の色気というか……気品というか……雰囲気がかなり変わっている。


「あ、そういえば、ルト様が魔王だって聞いた時はビックリしましたよ!」
「でも魔王らしくないでしょ?」
「ふふっ……まるでただの女友達みたいです」
「何言ってるんだよ〜もう友達でしょ〜?」


同じ日本人だからこそ、笑いあって話せるのかもな。
ㅤ周りに集まっている人達は俺に近づこうとしない。敵意を持っている人はほとんどいないけど、やっぱり偉い人と話すのには勇気がいるのだろう。
ㅤその点、ミソラさんは良い友人になれそうだ。


「子供が産まれたら報告しますね!」
「楽しみに待ってるよ。名前はもう決めてるの?」
「夫と考えているのですが、なかなか良い名前が思い浮かばないんですよ。一応女の子というのは分かっているのですが、異世界の名前って難しいじゃないですか」


あぁ〜それ凄い分かる。俺もハルトからハを取ってルトにしたしな。俺の場合適当で良かったけど、子供となると難しいよなぁ……。


「おぉ〜い! ミソラ〜!!」
「あ、来ましたよ」


遠くから、懐かしい赤髪のイシールが走ってきた。


「あれ? ルト様? どうしてここに?」
「久しぶりです。明日のイベントに参加するので、下見に来ました」
「あぁっ、そんな敬語なんて使わないでください……王女様でしょ?」
「えぇ? 私とイシールさんは友人でしょ? お互いに気楽に話しましょう。あ、貴族相手なので私は敬語で」
「お、良いのか? じゃ、久しぶりだなルトちゃん!」


案外切り替え早いな。自分で言っといてなんだがビックリしたぞ。


「それにしても、イシールさんも随分と変わりましたね」
「子供の話は聞いたか? 女の子が産まれるんだぜ」
「ふふ、さっき私が話したわよ」
「やっぱり子供が出来て嬉しいですか?」
「当たり前よ! 俺とミソラの間に産まれた子供……きっと美人さんになるに違いねぇ!」


俺はそういう経験無いからなぁ……というか子供嫌いだし。
ㅤサハルは中身が大人だから大丈夫だけど、小さな子供って面倒くさそうなんだよな。
ㅤやっぱり自分の子供が出来ると違うって本当なのかな。


「しかしルトちゃんも可愛くなったな〜」
「そんな事言ってるとミソラさんに怒られますよ」
「大丈夫ですよ。私から見てもルト様、可愛くなったと思います」
「ほ、本当?」


自分では全く分からないんだけどな。ただ筋肉量と身長、髪の長さは変わったかな。


「二人とも明日のイベント、ルト様を応援してるので頑張ってください」
「絶対に優勝してみせますよ!」
「はい! では、私達はこれから買い物に行くので、明日を楽しみにしてます」
「またな!」


2人は俺に手を振って商店街の方へと歩いていった。


ㅤ二人とも幸せそうだったな。俺とサハルは、ああいう幸せを守れる国を作らないといけないんだ。なんだかあの二人を見て元気が出た気がする。


「よしっ……絶対に優勝してみせる!」


改めて気合を入れ直し、会場の見学の続きを始めた。


ーーーーー


ある程度見て回った後、自分の部屋に戻って最終確認をする。
ㅤ立ち鏡の前で、色気のあるポーズや雰囲気の出し方。リアンに教わった事を思い出すように行った。


ㅤ本番当日に、サハルがどんな水着を用意するかが心配だが、それ以外は準備完了だ。俺が心配するような事はない。
ㅤ俺が自分のウエストを見てニマニマしていると、部屋の扉がノックされた。


「失礼します」


リアンの声だ。


「リベルトが聞きたいことがある、とのことです」
「リベルト?」


リアンの方を見ると、その後ろに灰色のリベルトが居た。リアンだけかと思ったな。


「聞きたいことって?」
「明日のイベント当日の件だが、俺は警備をしてた方が良いか?」
「警備……は必要ないかな。基本的にサハルと私とミシェルでなんとか出来るし、リベルトは楽にイベントを見てるだけでいいよ」


俺の右腕となっているリベルトに仕事を与えないのも悪いかと思うが、必要の無い事はさせなくていいからな。


「そうか。じゃあ明日はガルムとベントーに会いに行ってもいいか?」
「ん? また犬の真似するの?」
「いや、2人に対する態度は変えないが、ルト様の右腕になったと自慢するつもりだ。バカルムのリアクションが面白いからな」


うっわ、サディスト。人が悔しがるのを見て楽しむタイプか。


「虐めないようにね」
「大丈夫だ。俺からは以上だが、ルト様から何かないか?」
「私から……特にないかな。後は明日のイベントまでダラダラするだけだし、自由にしてて」
「流石王女様。一般参加者の女性達とは違って余裕がありますね」


確かに、さっき下見に来た時に他の女性達を見たけどかなり殺気立ってたな。まるでこれから戦争が始まるような闘志だ。見習いたい。


「では、失礼する」
「失礼しました」
「あ、リアンだけ残って。ちょっと確かめたい事がある」
「……? なんでしょうか」


俺の恋愛対象に女性が追加されたのか。それを今確認しなければならない。


「ちょっと可愛い仕草してみてくれる?」
「かっ……こ、こうでしょうか……?」


少し腰を後ろに引いて、右手をその腰に当て、左手の小指で唇に触れる。


「か……」
「か……?」
「可愛いね……」


リアンがとてつもなく可愛く見える。それは恋愛感情であり、それだけで全て分かった。俺は女性も好きになれるようになったということ。
ㅤつまり、バイセクシャルだ。男女両方が恋愛対象に入っている事。


「て、照れてしまいます……」


そういってモジモジするリアンが、更に可愛く見える。


「リ、リアン。ちょっとごめん」
「ひゃっ!?」


リアンに抱きついてみる。


「心臓の音、聞こえる?」
「は、はい……ドッ…ドッ…ドッ……という音が聞こえます」
「私、もしかしたらリアンの事。恋愛的な意味で好きになったかもしれない」
「へっ?」


それを聞いたリアンは、マヌケな声を上げて俺と目を合わせた。


「そ、それってつまり……えっと…………本当ですか!?」


やっと理解したリアンが驚いた表情を見せて、尻尾をブンッと横に振った。


「う、うん」
「えっ!? じゃ、じゃあ! 私とルト様は両想いです!」
「両想い?」


両想いって……それってつまり……。


「私もずっとルト様が好きだったんですっ!」
「えぇぇぇっっ!?」


今度は俺が驚いてしまった。
ㅤお、落ち着け俺。俺はリアンが好きで……リアンは……リアンも俺が好き。で、お互いに両想いってことは……カップル成立?
ㅤいや、俺としては嬉しいよ。俺の心のどこかにある男部分がまだ残ってるって信じる根拠にもなるし、ホモじゃないって言い訳できる。
ㅤでも俺は……男のミシェルも好きだ。だから俺は……男を選ぶか、女を選ぶか。究極の選択をしなくてはいけない。


「ちょ、ちょっと待って……」
「はいっ!」


目の前のリアンは嬉しそうに尻尾を振っている。しかし俺の中では新たな問題が現れたのだ。
ㅤそれをどう解決するべきなのか。いっそのこと二人とも一緒に付き合う? いや、それじゃ駄目だ。ハッキリしないと……あぁっっ! 大事なイベント前日だってのに、なんでこんな問題を自分で作っちゃうかなぁ……。


「どうしました?」
「ど、どうもしてない……って訳じゃないけど……。リアンは……さ、私と付き合いたいって思う?」
「それは勿論! 前に出来なかったデートもしたいですし、一緒にデザートを食べ歩いたり……他にも色んなことをルト様としたいです」


ぐっ…………重い。今の俺には重たすぎる。


「それって……付き合わなくてもできる……よね?」
「えっ…………? それって……私とは付き合えないってて事ですか?」
「ち、違う! 私はリアンが大好きだ! 付き合いたいとも思ってる!」


途端に悲しい表情をするもんだから、俺は咄嗟にそういった。


「じゃ、じゃあどうして……?」
「実は……今好きな人が二人いるんだ。それも簡単な恋愛で終わらせられるような問題じゃないような……」
「二人……その相手は……女性?」
「いや……男」


人間を好きになったとは言えそうにない。
ㅤリアンにとって、魔王は人間達を支配する事を理想としている。人間と魔王の差は天と地の差、そんな人間を魔王が好きになった、なんて言うとリアンはガッカリするだろう。
ㅤリアンはあまり人間を好まない。そこも一つの壁になっている。


「その相手は……私と同じくらいに好きなんですね……」
「同じくらい…………かな」


俺は、女を好きになった。それだけでミシェルを捨てて良いのか迷った。
ㅤ好きという気持ちで言えばミシェルが大きい。それでも俺の男心が女を選べと抵抗をする。


「その答えは出せそうですか?」


リアンが聞いてくる。


「……今の私には出せそうにないかな」


それが俺の答えだった。
ㅤどれだけチートな能力を持っていたとしても、無理なことはある。それは理屈では解決出来ない、恋愛。
ㅤ俺はミシェルとリアン。どっちかを選ぶなんて事は出来ない。


「でも、リアンの事を大好きなの間違いない。付き合う事はできなくても、いままで以上にリアンに甘えたりすると思う」
「じゃ、じゃあ両想いって事で……お互いに愛し合っても良いのですか?」
「そうしてほしい。本気で愛し合って、いつか答えが出たら選ぶよ」
「……楽しみにしてます!」


リアンの顔に笑顔が戻った。
ㅤまあ俺が言った事は実質付き合ってる、って事になる。だからそれはただの俺の我が儘だ。
ㅤこの問題の答えは、どれだけ転生しても見つけることは出来ないだろう。それだけ恋愛は難しいのだ。


「じゃあ、今度デートに誘ってくださいね!」


リアンが上機嫌で部屋から出ていった。
ㅤいや、顔は笑顔だったけど尻尾は喜んでいなかった。俺の答えに納得できていないのだろう。


「……ごめん」


リアンに聞こえない声で、小さく謝った。

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