魔王LIFE

フーミン

12話 魔王サハル

「魔王様、ドワーフに頼んでいた服が完成したようです」
「おっ!」


ついに私服が完成したようだ。


「どれどれ……」


リアンが持ってきた服を広げて、デザインを確認する。
ㅤ黒と赤で色付けされたコート。利便性を重視した設計で、ポケットの数がかなり多い。
ㅤ下はというと……キュロット。スカートのような見た目だが、ズボン。かなり短く太ももがバッチリ見えてしまう。


「そして私の私服はこれです」


リアンが取り出したのは、ただのワンピースだった。
ㅤ似合わない事はないが……幼く見えるぞ。


「なぁ、ズボンはこのままでいいか?」
「ダメです! デートですよ? いくらルト様であろうとも、デートをする時は正装をするべきです」
「これが正装と言えるのか……コートにキュロットってアンバランス過ぎて恥ずかしいんだが」


デザインは良いものの、オシャレのバランスに関してはヴァンパイアは向いてないようだ。


「仕方ない……着ていくか……」
「早速デートです! 幻影魔法も使えるようになりました!」
「リアンは人間のいる国に行くのは初めてか?」
「そりゃ初めてですよ! それをルト様と行けるなんて…一生の思い出です!」


大袈裟な……まあいいか。
ㅤコートの前を締めて、アンバランスなファッションを見せないようなコーディネートにして、国の近くの森へ転移した。


「人間らしく振る舞うんだぞ」
「はい! ルト様!」
「あとルト様って呼ぶのはここでは禁止。ルトと呼べ」


人前で『ルト様〜!』なんて走ってこられたら目立つ。


「嫌です」
「は?」
「ルト様はルト様。ルト様の名前を気安く呼ぶなど、私には出来ません」
「は、はぁ……そう」


いくら言っても聞きそうにないリアン。仕方なく妥協して、門の方へ向かった。
ㅤリアンは既に耳を人間の物にしていて、尻尾も消えている。


「小さい門ですね」
「城に比べたらな」


今日は人が少ないようで、並ばなくて大丈夫なようだ。


「嬢さん達、何も持たないでどこから来たんだ?」


今日の門番さんはいつもの人とは違うのか。


「魔の森にある城からです」
「っ!? ってことは……貴女があの城の主様で?」
「? そうだよ」
「これは失礼しました。どうぞお入りください」


どうやら既に国の人々には知られているようだ。
ㅤリアンに 流石ルト様です なんて言われながら城下町へと入った。


「ん〜? 今日人いないなぁ……」


思ったより人がいない。普段は道を埋め尽くすほど人がいるのだが、今日は皆が消えたかのように何もいない。


「ルト様、この街は何かあったのでしょうか」
「分からないな。人がいるか探してみるか」


この国に来てから、未だに門番にしか会っていない。何かイベントがあっているのだろうか。


ーーー


「いねぇな……」


いくら探しても人の気配を感じない。


「誰もいないのなら、あの大きな城にいってみませんか?」
「ん〜……まあ誰もいないし、大丈夫かな……?」


俺とリアンが貴族街に足を踏み入れた時、とてつもない魔力を持つ者の気配を感じた。


「誰だ!」
「え、え?」


リアンはそれに気付いておらず、困惑しているようだ。


「流石もう1人の魔王。俺に気づいたか」


目の前の空間が歪み、そこから1人の男が現れた。


「……日本人?」
「ルト様、ニホンジンとは?」
「……!?」


人目で分かった。この男から『日本』っていう雰囲気がプンプンする。年齢は……16歳くらいだろうか。


「……ま、まさか……お前も日本人なのか!?」
「前世はね」
「あ、あのルト様……ニホンジンとは……。そしてこの方は友人ですか?」


俺が日本人だと分かると、男から出ていた殺気が無くなった。


「うおぉ〜! マジで日本人か! 最初は奴隷にしようかと思ったけどよ、やっぱ辞めだわ。名前は?」
「私はルトで、こっちはリアン」
「ルト……か。じゃあ俺はサハルだ」


サハル……マサハル? まあいいか。


「サハルも魔王なのか?」
「まあな。今はこの国の人間達を俺の奴隷にしてたところだ」
「ということは、これはサハルの仕業か」
「同じ魔王同士、仲良くしようぜ」


それは出来そうにないな。
ㅤ残念だが、サハルのせいで俺の計画が崩れそうだ。


「勝手な事をしてくれたね……」
「あ?」
「君のせいで、私の計画は全て台無しになったよ。すぐに街の人々を戻してもらおうか」
「……はっ、それはできないね。俺も俺なりの計画があるんだ。残念だが、君は遅かった。それだけだ」
「……」


いままで努力して、目標を達成してきた。
ㅤこの国と同盟を築き、城の近くに国を作る。その為には人が、国の王が必要だった。
ㅤそれを全部、コイツに奪われた。つまり俺の努力が無駄になったということだ。


「お前が俺以上の力を示せるのなら、考えてやってもいい」
「そうか」


俺はコイツを殺す勢いで、一気に距離を詰めて顔目掛けて拳を突き出した。


「っ!?」
「残念だけど。君と俺とじゃレベルの差が大きいようだ」


全力のパンチを、片手で受け止められた。


「君は、弱いんだな」
「がっっ!?」


溝落ちにサハルの蹴りをまともにくらい、息が止まる。


「っ……っっ……」
「最初に手を出したのは君だ。君がどれだけ努力してきたのか知らないが、計画が崩れただけで怒るなんて、幼稚だね」


動けない俺の頭をグリグリと踏みにじられた。


「っ! ルト様になんて事をっっ!!!」
「ほぉ、お前人間じゃなかったのか」
「リア……ン…………にげ、ろ……」


今の俺達には、こいつに勝てない。


「今助けますっ! このっっ!!」
「遅い」
「きゃっ!」


リアンの速い動きを見切り、片手で首を捕まえた。


「かっ……っっ……」
「こいつも俺の奴隷にしておこう」
「やめ……ろっっ!」


俺が、最初に手を出さなければこんな事にはならなかった。いままで努力してきたのが、台無しになっただけで怒った俺が馬鹿だった。
ㅤ心の中で後悔した。相手の力を見誤った自分を攻めた。


「最後に、同じ日本人としてアドバイスをくれてやろう。この世界にもレベルというのはある。俺はここに来て初日、ドラゴンを50対殺した。
ㅤお前は1度も戦っていない。その差、俺の努力がお前の努力に勝ったということだ。
ㅤこんな事言うのも恥ずかしいが。怠惰だな、お前」
「ぐっっ……」


最後に、顔を蹴られて意識を失った。




ーーーーー




「ーートさん! ルトさん!!」
「か……がはっ!」


誰か俺を呼ぶ声に、意識を取り戻した。
ㅤゆっくり目を開けると、誰かが俺を起こしているようだ。人が、まだこの街にいたのか。


「ルトさん! 私ですっ! 起きてくださいっっ!」
「っっ!? ミ、シェル……?」


俺を起こしていたのはミシェルだった。涙を流しながら、俺を抱き抱えていた。


「良かったっ! 良かったっっ……息をしてなかったから…死んだのかとっ……」
「ミシェル……げほっけほっっ……」
「む、無理しないで……」


良かった……ミシェルは助かったのか。
ㅤ自然と、涙が出てきた。


「ミシェル……サハルって人が……」
「サハル……魔王にやられたのか!?」
「ミシェルは…助かったの……?」
「勇者だからね…なんとか互角、だったかな」


サハルと互角……ミシェルは俺よりも強いのか。


「皆、魔王につれていかれたよ。国王様も、皆。ルトが助かってて良かった……」
「私……何も出来なかった……リアンが……」
「リアンさんも来ていたのか?」
「リアンが……連れてかれた」
「くそっっ…魔王め…………」


ミシェルは怒りの感情を表に出していた。ここまで感情を出すミシェルは、初めて見た。


「ルトは私が守る。だから、しっかり休んでていいよ」
「ミシェル……」


ミシェルの言葉に安心し、そのまま眠りについた。

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