魔王LIFE

フーミン

7話 作戦会議

次の日、ドワーフ達に箸やスプーンの量産。独自の通貨の作成を頼み、人のいる街に向かった。
ㅤいつも人がいる門の前には、門番以外誰もいなかった。


「ん? あ、嬢ちゃんじゃないか!」


聞きなれた声をした門番さん。この人はいつも仕事しているのだろうか。


「ルトです。久しぶりです」
「おぉ名前聞くのは初めてだな。俺はロバルツだ。
ㅤしかしルトちゃん、大丈夫だったか?」
「と言いますと?」
「お前さんが出ていった日によ、魔の森にでっけぇ城が現れたんだ。ルトちゃんは魔の森から来たって言ってたよな? 何か心当たりはあるか?」


心当たりも何も、俺の仕業なんだけどな。


「ないですね」
「そうか。今日国王達がこの国に集まって、その事について会議が開かれるらしい。噂によると、魔王が復活したとかなんとか」
「魔王ですか……」
「まっ、ルトちゃんが無事で良かった」
「ありがとうございます」


俺は開かれた門を潜り、久しぶりの城下町にやってきた。
ㅤ相変わらず人が沢山いるな。


「……あれ? ルトさん?」
「ん……っ!?」
「あぁっ!! やっぱりルトさんじゃないですか! 会えて良かった!」


ミシェルだ。
ㅤミシェルの顔を見た瞬間、俺は激しく動揺した。転生する時に貰った技能 《冷静な心》 の効果は全くない。


「お久しぶりですね!」
「は、はい。お久しぶりです……」
「いやぁ〜今日ルトさんに会えたいって思ってたんだよね〜!」
「お…私に……?」


俺に会いたい……? その言葉に、俺は無性に嬉しくなった。


「私も会いたかったです」


無意識にそんな言葉を口にしてしまい、慌てて口を抑える。


「あっはっはっ、やっぱりルトさん可愛いですね」
「あ、あのっ……どうして私に会いたい…と?」


どうしてもその理由が気になった。


「実は、今日あのお城で開かれる会議に僕も参加することになったんだ。何やら大きな戦争が始まるらしくてね」
「それって……魔王と関係が?」
「あ、知ってたんだね。そう、魔王が復活したらしいんだ。あまり詳しい事は言えないけど、魔の森に突然現れた城に偵察にね」


魔王……戦争……。ミシェルは俺の作った城に攻めてくるのだろうか。戦わないといけないのだろうか。
ㅤいや、そんな事俺が許さない。


「辞めた方がいいですよ!」
「私も嫌なんだけどね……こう見えても、勇者なんだ」
「ゆう……しゃ?」
「それに王様から呼ばれてるし、断る訳にもいかないんだよね……はは」


ミシェルが無理矢理作った笑顔は、どこか悲しそうな表情だった。


「大丈夫……なんですか?」
「まだ分からない、でも必ず生きて帰ってみせるよ。今日ルトさんに会えたんだ」
「……」


まだ大丈夫。ミシェルと俺達が戦うと決まった訳じゃない。戦わずに有効的に接すれば、きっと大丈夫だろう。


「偵察、なんですよね」
「そう聞かされてるけど、今日の会議でどうなるかは分からない」
「頑張ってください」
「ははは……ルトさんに言われると限界を超えれそうだ」


下手な事を喋ると怪しまれそうだし、頑張れとしか言えない。


「多分、数日間会えなくなると思うけど心配しないでね」
「分かりました」
「それじゃ、お城に向かわないといけないからまたね!」
「……」


去っていくミシェルに手を振って、今からの事を考える。
ㅤ偵察に来る日にちは分からない。早めに仲間達に伝えて有効的に接するように言うか……?
ㅤでも見た目は魔物だったり魔族。偵察に来た場合城の中に入ってくるだろう……そうか。


ㅤ俺は人気の無い場所で城に転移し、リアンに仲間達をホールに集めるよう伝えた。


ーーー


「全員集まりました」
「分かった」


広いホールには、この城に生活する全ての魔物と魔族が集まっている。


「皆の者、よく聞け。
ㅤ今から数日後に人間達から偵察部隊が送られてくる」
「偵察っ!?」
「人間っ…」


魔物達が殺る気に満ちた目を見せた。


「だが、私は人間達とは有効的になりたいと思う」
「ルト様、それはどういう事ですか?」


リアンが困惑した様子で訪ねてきた。


「人間達と戦っても、互いに傷つけ合うだけで何のメリットもない。友好的になれば、文化の共有や国の発展。かなりメリットが得られる」
「……つまり表向きには友好的に接し、少しずつ支配地域を広めるという事ですね」
「おぉっ!! 流石魔王様!」
「なんて頭の良い考え……俺達には思いつかなかったな」


いや……違うんだけども。まあいいか。


「これより偵察部隊が来た時の為の作戦を発表する」
「「……」」


皆がその作戦に耳を傾けた。
ㅤ俺の考えが正しいのか分からないが、これしか考えられない。


「まずヴァンパイアーーー」


ーーーーーーーーーー


コウモリに化けたヴァンパイア達が、魔の森に潜んで偵察部隊の接近を伝える。
ㅤ魔物や魔族達は地下に隠れ、地下の入り口を俺の魔法(幻影魔法)で隠す。
ㅤ俺は技能《透明化》で透明になり、城の中を進む偵察部隊を監視。城の中には人間と友好的に接するように伝えたエルフを配置。エルフの耳を魔法で人間の物に見せる。
ㅤこうすることで、城の中にはただの人間が住んでいると思わせることが出来る。


ーーーーーーーーーー


「そしてここからが問題だ」
「何故城が突然現れたのか。ですね」
「そこだ。私も上手い言い訳が思いつかなくてな……」


私達が城を作りました。とでも言えば脅威となる。一晩で巨大な建物を作り上げる程の魔力。
ㅤ友好的に接するのは難しくなるだろう。


「魔王様、私に考えがあります」


1人のヴァンパイアが手を挙げた。


「なんだ」
「大精霊が作ってくれた。といえば良いのです」
「どういうことだ」
「大地には幾つものダンジョンと呼ばれる建造物があります。地下に埋まってある物、空に浮かぶ物。それらを作るのは大精霊とされています。
ㅤ弱って死にかけていた大精霊を助けて、お礼に城を建ててもらった。
ㅤといえば、城ができた言い訳、更に生き物を助ける優しい心を持っているというイメージを与えることができます。
ㅤ魔の森には滅多に人が来ないので、大精霊がいるという事も疑わないでしょう」


そうか……大精霊。確かに良い作戦だが、本当に相手はそう思ってくれるだろうか。


「我々ヴァンパイアも幻影魔法を使うことができます。人間に化けることも、更には大精霊に化けることだって出来ます」
「ほぉ……大精霊に……」


大精霊がどんな見た目なのか、俺には分からないが化けれるとなれば信憑性は増すな。
ㅤ良い作戦だ。


「良い作戦だ。名前を聞いてもいいか?」
「ヴァンパイア上級貴族、キルシュでございます」
「キルシュ、作成が成功したら褒美を与えよう」
「っ! ……ありがとうございますっ!!」
「作戦が失敗したら……分かっているな?」
「大丈夫でございます!」


何もするつもりはないが、脅してみた。しかしキルシュはかなりの自信を持っているようだ。頼れるな。


「ルト様に褒美を貰いたいものは、キルシュのように頭を働かせることだ!」
「「うおぉぉぉおお!!!」」


リアンが大声でそう叫ぶと、仲間達も気合の入った雄叫びを上げた。
ㅤ作戦を失敗しない事を祈ろう。

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